環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 人の命と環境を守る

第3節 人の命と環境を守る

公害に係る規制から自然・環境保全を扱う機関として誕生した環境省にとって、人の命と環境を守る基盤的な取組は、原点であり使命です。その原点は変わらず、時代や社会の変化と人々のライフスタイルに応じた政策に取り組んでいます。

1 熱中症対策

気候変動の進行を踏まえ、社会全体で熱中症予防に取り組むことが重要です。「地域における熱中症対策ガイドライン(仮称)」の策定やモデル自治体事業の支援を行い、地域での総合的な熱中症予防対策を促進するとともに、社会が一体となって熱中症対策に取り組むことを目指します。

熱中症による全国の死亡者数は高い水準で推移しており、2021年夏の東京都23区のデータによると、約8割が65歳以上の高齢者であり、屋内で亡くなった方のうち約9割がエアコンを使用していませんでした。

エアコンについては、エアコン未設置の高齢者世帯等における熱中症予防対策として、エアコンの普及促進は喫緊の課題であり、初期費用なしのサブスクリプション(定額利用サービス)を活用したモデル事業を実施します。

さらに、「熱中症対策行動計画」(2022年4月改定)に基づき、「熱中症予防強化キャンペーン」(4月~9月)や「熱中症警戒アラート」を通じて、関係府省庁が一体となって熱中症対策を推進します。

「熱中症警戒アラート」は、2021年4月より全国で運用を開始しました。2021年は、全国53地域に計75日間発表し、全国の発表回数は延べ613回でした。2021年度の「熱中症警戒アラート」の認知度は全国で約8割であり、一定の認知度が確認されました。一方、例えば「熱中症警戒アラート」発表時に熱中症予防行動として「外出・屋外活動自粛」を実施している割合は4割未満と、全体としてまだ十分に高くはないため、熱中症予防行動のより一層の定着を目指します。

事例:道路灯のLED化による脱炭素の取組と絡めた熱中症対策(栃木県那須塩原市)

那須塩原市では、環境省の補助事業を活用し、市内412台の道路灯を、クラウド上での一元管理が可能なスマートLED道路灯に更新しました。本事業では、地域の脱炭素化の促進を目的に、LED化と遠隔調光による更なる省エネを行うとともに、道路灯の一部には日射量計や環境センサーを設置して気象データを収集し、太陽光発電量予測精度の向上を図ります。那須塩原市では、環境センサーで得られる情報を熱中症予防情報の精度向上にも活用し、2022年度より更にきめ細かな情報を市民へ発信します。

スマートライティングについて(イメージ)

2 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

胎児期から小児期にかけての化学物質へのばく露が、子供の健康に与える影響を解明するために、2010年度から、全国で約10万組の親子を対象とした「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を実施しています。協力者から提供された臍(さい)帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取保存・分析するとともに、質問票によって健康状態や生活習慣等のフォローアップを行っています。また、約10万人の中から抽出された約5,000人の子供を対象として、医師による診察や身体測定、居住空間の化学物質の採取等の詳細調査を実施しています。この調査は、国立研究開発法人国立環境研究所、国立研究開発法人国立成育医療研究センター、全国15地域のユニットセンター等を主体として実施しています。エコチル調査の開始から10年が経過し、今までに約450万検体の生体試料が収集され、順次、化学分析等を実施し、質問票による子供の健康状態等に関する情報も蓄積しています。

これらの貴重なデータを基に発表された論文は、235本に上っています(2021年12月末時点)。例えば、妊婦の化学物質等のばく露と生まれた子供の体格やアレルギー疾患等との関連などについて明らかになっています(図3-3-1)。

図3-3-1 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)これまでの論文数について

また、2021年7月から「健康と環境に関する疫学調査検討会」を開催し、これまでのエコチル調査について総括を行い、2022年3月、エコチル調査の今後の展開等について報告書を取りまとめました。これからもエコチル調査を着実に実施し、現在及び未来の子供たちが健康に過ごせるようなより良い環境づくりを進めていきます。

3 化学物質対策

特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号。以下「化学物質排出把握管理促進法」という。)の対象となる化学物質の見直しを行い、2021年10月に化学物質排出把握管理促進法施行令が改正されました。この改正施行令は2023年4月から施行され、化学物質排出移動量届出制度(PRTR制度)や安全データシート(SDS)制度の対象物質は今までの562物質から649物質となり、新たに対象となった物質には、国民生活にも身近な農薬や香料、界面活性剤に含まれる物質もあります。また、事業者からの届出は2024年度から実施されることとなります。新たな科学的知見等に基づいて追加された対象物質について、環境中への排出量等が把握されることにより、より適切な環境リスク評価ができるようになります。事業者による届出等が適切になされるよう、周知・広報等の準備を進めていきます。