環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第7節 国際的取組

第7節 国際的取組

1 生物多様性に関する世界目標への貢献

愛知目標の達成を含め、生物多様性条約に基づく取組を地球規模で推進していくためには、途上国への資金供与や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されています。このため、我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において本基金により、愛知目標の達成に向けて生物多様性国家戦略の実施を支援する事業等が進められました。また、条約関連の各種会合において、愛知目標の達成や、COP15において採択される予定である、2021年以降の新たな生物多様性の世界目標策定に向けた議論等に積極的に参加しました。

また、2020年9月に、生物多様性に係る行動を進める緊急性を強調し、ポスト2020生物多様性枠組の決定及び実施を後押しする目的で、国連生物多様性サミットが開催されました。我が国からは小泉進次郎環境大臣が参加し、ポスト2020生物多様性枠組に求められる重要な要素として社会経済システムのリデザインと分散型社会への移行が必要であり、社会経済システムのリデザインに向けては、持続可能なサプライチェーンの構築とその可視化を図る測定可能な目標の設定が重要な一歩になること、地域の自然により活力ある地域コミュニティが形成されるような分散型社会への移行は、新型コロナウイルス感染症による危機の克服にも資することなどを強調しました。

2 生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策のインターフェースの強化

2019年2月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の「侵略的外来種に関するテーマ別評価技術支援機関(TSU-IAS)」の作業を支援しました。また、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を2020年10月と2021年3月に、シンポジウム「生物多様性とライフスタイル~いのちの恵み・新しい日常に向けてわたしたちができること~」を2021年3月に開催しました。このほか、IPBESによる評価作業への知見提供等により国際的な科学と政策の結び付き強化に貢献することを目的として、環境研究総合推進費による研究「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」を実施しています。

3 二次的自然環境における生物多様性の保全と持続可能な利用・管理の促進

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を目標とした「SATOYAMAイニシアティブ」を推進するため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援するとともに、その運営に参加しました。IPSI事務局(国連大学サステイナビリティ高等研究所)は、「社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープの複合的恩恵を通じた社会変革」をテーマにした、SATOYAMAイニシアティブ主題別レビュー第6巻を発刊しました。なお、IPSIの会員は、9団体が2020年度に新たに加入し、2021年3月時点で21か国の22政府機関を含む73か国・地域の271団体となりました。

SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロダクツ2019」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2020年11月時点で54地方自治体を含む117団体となりました。

4 アジア保護地域パートナーシップの推進

2013年11月に仙台市で開催した第1回アジア国立公園会議を契機に日本が主導して設立された「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」の取組の一環として、2019年10月にマレーシアのコタキナバルにおいて開催された「持続可能なツーリズム」に関するワークショップに参画し、アジア各国の保護区の管理水準の向上に向けた情報共有等を進めています。同パートナーシップの参加国は2020年12月時点で、17か国となりました。

5 森林の保全と持続可能な経営の推進

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。植林等による増加分を差し引いた森林減少の面積は、2010年から2020年の間に世界全体で年平均470万ha減少しています。1990年から2000年の間の森林が純減する速度は年平均780万haであり、森林が純減する速度は低下傾向にありますが、減速ペースは鈍化してきています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。

国連森林フォーラム(UNFF)において採択された国連森林戦略計画2017-2030は、2017年4月に国連総会において決議され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第56回理事会が2020年11月にオンラインにより開催され、熱帯林の持続可能な経営の促進と熱帯木材貿易の発展に向け、ITTOにおける活動資金の多角化を図るための新たな資金調達の具体化等が決定されました。また、加盟国等から総額413万ドルのプロジェクト等に対する拠出が表明され、我が国からは、ミャンマーにおける合法木材流通体制の構築等計307万ドルの拠出を表明しました。

6 砂漠化対策の推進

1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は、砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされており、我が国は先進締約国として、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しています。2019年9月にインドのニューデリーでUNCCD第14回締約国会議及び同科学技術委員会等に参画し、議論に貢献しました。

7 南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境影響の増大が懸念されています。南極の環境保護に関しては、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進のため南極条約(1961年発効)及び南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)による国際的な取組が進められています。

我が国は、南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)に基づき、南極地域における観測、観光、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、拠出金により南極条約活動を支援しているほか、2019年5月にチェコのプラハで開催された第42回南極条約協議国会議において、南極特別管理地区及び南極特別保護地区の管理計画の改訂など、南極における環境の保護の方策について議論を行いました。

8 サンゴ礁の保全

地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析を進めました。また、2021年2月にオンラインで開催されたICRI第35回総会等を通じて、情報収集を行いました。さらに、2020年7月にモーリシャス共和国沿岸で座礁した、ばら積み貨物船「WAKASHIO」による油流出事故に対し、同国政府の要請を受けて環境分野の専門家を含む国際緊急援助隊専門家チームを派遣し、サンゴ礁等の生態系の保全や長期的なモニタリングの実施について同国政府に専門的な助言等の支援を行いました。

9 生物多様性関連諸条約の実施

(1)生物多様性条約

愛知目標の達成に向け、我が国では国家戦略を策定し必要な取組を行っています。例えば、2020年12月には、自然環境保全法に基づき、小笠原方面の沖合域に沖合海底自然環境保全地域を4地域指定しました。これにより、日本の海洋保護区の割合は8.3%から13.3%となり、「2020年までに海域の10%を海洋保護区等として保全する」とした愛知目標が達成されました。このような、愛知目標の達成に向けた取組を関係省庁と連携して進めています。

戦略計画及び愛知目標の中間評価(2014年のCOP12で実施)の結果等も踏まえつつ、引き続き関係省庁間で緊密な連携を図り、愛知目標や「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けて取り組みました。

(2)名古屋議定書

COP10において採択された名古屋議定書について我が国は2017年8月に締約国となり、国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を施行し、名古屋議定書の適切な実施に努めています。

我が国はCOP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用し、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動を行う13件のプロジェクトが承認されました。2020年12月時点でブータン、コロンビア、コスタリカ等の6件は既に完了しています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的とした遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第18号。以下「改正カルタヘナ法」という。)が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。また、補足議定書については、2017年5月にその締結について国会で承認され、同年12月に受諾書を国際連合事務総長に寄託し、我が国は補足議定書の締約国となりました。同補足議定書は発効要件が満たされたことから、2018年3月に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。

(4)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。2020年11月には国内希少野生動植物種7種について、我が国として初めてワシントン条約附属書IIIへの掲載要請を行い、2021年2月に掲載されました。加えて、関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底に向けて、国内法執行や周知強化等の取組を進めました。

(5)ラムサール条約

ラムサール条約に関しては、2018年10月に二つの湿地を登録し、これにより国内のラムサール条約湿地は現在52か所となっています。また、ラムサール条約湿地における普及啓発活動をラムサール条約登録湿地関係市町村会議等の関係者と共に進めたほか、ベトナムに対してラムサール条約湿地を始めとした湿地の重要性についての普及啓発及びモニタリング能力向上に向けた協力を行いました。

(6)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

東アジア・オーストラリア地域の渡り性水鳥及びその生息地の保全を目的とする国際的連携・協力のための枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)」の下に設置されている渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地におけるモニタリングの促進と活用について検討しました。

(7)二国間渡り鳥条約・協定

2020年1月に開催された小型シギ・チドリ類に関する米国及びロシアとの保護協力ワークショップでの検討結果を受けて、同年11月、東アジアにおける小型シギ・チドリ類、特にハマシギの保全施策及びモニタリングの実施状況等に関する情報交換を行う国際シンポジウムをオンラインで開催しました。