環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

1 多様な主体の参画

(1)国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)による取組

2011年から2020年までの10年間は、国連の定めた「国連生物多様性の10年」です。愛知目標の達成に貢献するため、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組む10年とされています。

我が国においては、あらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため、2011年9月に「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」を設立しました。UNDB-Jは、生物多様性に関する理解や普及啓発に資する取組として、国民一人一人が自分の生活の中で生物多様性との関わりを捉えることができる5つのアクション「MY行動宣言」の呼び掛け、全国各地で行われている5つのアクションに取り組む団体・個人を表彰する「生物多様性アクション大賞」、子供向け推薦図書(「生物多様性の本箱」~みんなが生きものとつながる100冊~)の全国の図書館での展示の呼び掛け等の取組を行いました。また、国際自然保護連合日本委員会が行う「にじゅうまるプロジェクト」への登録を呼び掛けるとともに、優良事例についてはUNDB-Jが推奨する連携事業として認定し(2020年4月時点で累計173件)、広く紹介しています。「国連生物多様性の10年」の最終年となる2020年は、国内の生物多様性に関する10年間の取組成果を広く共有・発信していく「未来へつなぐ『国連生物多様性の10年』せいかリレー」というキャンペーンを実施し、2021年以降の取組へつなげていくこととしています。2020年6月には第10回UNDB-Jに小泉進次郎環境大臣が参加し、コロナ後の新たな社会を見据えた経済社会変革の重要性等について呼び掛けました(写真2-2-1)。

写真2-2-1 第10回UNDB-Jにおける小泉進次郎環境大臣と中西宏明日本経済団体連合会会長(当時)

これらの活動状況を発表するオフィシャルウェブサイトやFacebook等のSNS、ポータルサイト「生物多様性.com」の開設を通じて、普及啓発を促進しています。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2021年3月末時点で47都道府県、112市町村等で策定されています。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2021年4月時点で185自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国で68の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づき、2021年4月時点で15地域が地域連携保全活動計画を作成済みであり、17自治体が同法に基づく地域連携保全活動支援センターを設置しています(図2-2-1、表2-2-1)。また、同法の更なる活用を図るため、地域連携保全活動支援センターへの各種情報提供、同センターの設置促進等を行いました。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制支援措置等を実施しました。また、非課税措置に係る申請時の留意事項等を追記した改訂版のナショナル・トラストの手引きの配布等、普及啓発を行いました。

利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得等、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とした地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年法律第85号。以下「地域自然資産法」という。)の運用を進めました。2020年12月時点で、地域自然資産法に基づく地域計画が沖縄県竹富町と新潟県妙高市で作成されており、両地域において同計画に基づく入域料の収受等の取組が進められています。

(3)生物多様性に関する広報の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2020年のテーマは「Our solutions are in nature」でした。国際生物多様性の日を迎えるに当たり、生物多様性条約事務局のホームページ等を通じて、小泉進次郎環境大臣からビデオメッセージを発信しました。そのほか、生物多様性の重要性を一般の方々に知ってもらうとともに、生物多様性に配慮した事業活動や消費活動を促進するため、前項で紹介したUNDB-Jの各種取組のほか、「エコライフ・フェア」、「GTFグリーンチャレンジデー」、「東京湾大感謝祭」など、様々なイベントの開催・出展や様々な活動とのタイアップによる広報活動等を通じ、普及啓発を進めています。

2 生物多様性に配慮した企業活動の推進

(1)生物多様性に配慮した事業者の取組の推進

愛知目標4「ビジネス界を含めたあらゆる関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」を受け、生物多様性の保全及び持続可能な利用など、生物多様性条約の実施に関する民間事業者の参画を促進するため、「生物多様性民間参画ガイドライン」等の普及広報など様々な取組を行っています。

近年の事業者を取り巻く生物多様性に関する動向を踏まえ、2009年に策定した「生物多様性民間参画ガイドライン」を、2017年12月に改訂し、普及啓発を進めています。また、日本企業の優良な取組を海外に発信するために、英語版を作成し、生物多様性条約第14回締約国会議(COP14。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章におけるCOPは、生物多様性条約締約国会議を指す。)及びG20関連会議等で紹介しました。また2020年5月には、「生物多様性民間参画事例集」及び「企業情報開示のグッドプラクティス集」を公表し、生物多様性に関する活動への事業者の更なる参画を促しています。

経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画パートナーシップ」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」との連携・協力を継続しました。さらに、2020年11月には経団連と環境省で「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」を立ち上げ、日本企業の先進的な取組を戦略的に発信していく取組を開始しました。

(2)生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みの一例として、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、木材・木材製品については、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)(平成12年法律第100号)により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすために、証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等については、国が定める「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠することとしています。加えて、合法伐採木材等の利用を促進することを目的として、木材等を取り扱う事業者に合法性の確認を求める合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)(平成28年法律第48号)が2017年5月に施行されました。これらの取組を通じ、合法証明の信頼性・透明性の向上や合法証明された製品の消費者への普及を図っています。

また、生物多様性等環境に配慮した生産・消費を後押しするため、2020年6月に立ち上げた官民協働のプラットフォームである「あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」を立ち上げ持続可能な消費を促進するためのサステナウィーク等を実施しました。

3 自然とのふれあいの推進

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトがスタートしました。本プロジェクトでは、日本の国立公園のブランド力を高め、国内外の誘客を促進することにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の保護と利用の好循環の実現に向けて、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を中心に、先行的、集中的な取組を進めています。本プロジェクトについては、2020年8月に開催した有識者会議において、2021年以降も継続することや34全ての国立公園で事業を展開することなどの今後の展開の方向性を決定しました。2020年度は阿寒摩周国立公園や十和田八幡平国立公園等での廃屋撤去等の利用拠点の上質化に向けた取組が進められるとともに、グランピングやナイトタイム等の新たなコンテンツ造成等の取組が開始されました。また、2021年3月までに新たに33社と国立公園オフィシャルパートナーシップを締結し、既締結の継続企業と合わせてパートナー数は105社となりました。そして、2019年度に引き続き、ビジターセンターや歩道等の整備、多言語解説やツアー・プログラムの充実、その質の確保・向上に向けた検討、ガイド人材等の育成支援、利用者負担による公園管理の仕組みの調査検討、国内外へのプロモーション等を行いました。

さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、国立・国定公園及び国民保養温泉地で観光事業者等に甚大な影響が生じていることを踏まえ、地域関係者が行う国立・国定公園での滞在型ツアーの企画・実施やツアー等に使うエリアの環境整備、ワーケーション(観光地といった通常の職場以外でテレワーク等により働きながら休暇も楽しむもの)の企画・実施やWi-Fiの設置等の取組を支援し、関係事業者の雇用の維持・確保、旅行者数の増加、地域経済の活性化等に貢献するとともに、国立公園等で「遊び、働く」という健康でサステイナブルなライフスタイルを推進しました。

2010年の自然公園法改正後の同法の施行状況や国立公園満喫プロジェクトの取組状況と課題等も踏まえ、2020年7月に環境大臣から中央環境審議会に対して、「自然公園法の施行状況等を踏まえた自然公園制度の今後の在り方について」を諮問しました。自然環境部会の自然公園等小委員会において審議が進められ、2021年1月に答申を受けました。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動や、サンゴ礁や干潟の生き物観察など、子供たちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員及びパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

2020年8月25日から11月29日の間、環境省、国立科学博物館、文化庁、日本芸術文化振興会の主催で、日本博事業の一環として、国立公園の多様な自然の姿を様々な切り口で紹介する企画展「国立公園 -その自然には、物語がある-」を開催しました。また、国立公園の巡回利用の促進を目的とした、アプリを用いた「日本の国立公園めぐりスタンプラリー」の開始や、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成を行いました。

さらに、指定から70周年を迎えた磐梯朝日国立公園と秩父多摩甲斐国立公園において、記念式典の開催やパンフレットの作成等を行いました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を国直轄事業とし、安全で快適な公園利用を図るため、ビジターセンター、園地、歩道、駐車場、情報拠点施設、公衆トイレ等の利用施設や自然生態系を維持回復・再生させるための施設の整備を進めるとともに、国立公園事業施設の長寿命化対策、多言語化対応の推進等に取り組みました。2020年度には、十和田八幡平国立公園の網張ビジターセンター(2020年12月リニューアルオープン)を改修整備しました。また、国立・国定公園及び長距離自然歩道等については、46都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。長距離自然歩道の計画総延長は約2万8,000kmに及んでおり、2018年には約7,758万人が長距離自然歩道を利用しました。

旧皇室苑地として広く親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、施設の改修、芝生・樹木の手入れ等を行いました。また、庭園としての質や施設の利便性を高めるため、新宿御苑において早朝開園を開始するなど、更なる取組を進めました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。国有林野においては、森林教室等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施するとともに、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」等の設定・活用を図り、国民参加の森林(もり)づくりを推進しました。また、「レクリエーションの森」の中でも特に優れた景観を有するなど、地域の観光資源として潜在能力の高い93か所を2017年に「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」として選定し、重点的に観光資源の魅力の向上、外国人も含む旅行者に向けた情報発信等に取り組み、更なる活用を推進しました。

(4)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2019年度には、温泉掘削許可180件、増掘許可14件、動力装置許可132件、採取許可55件、濃度確認128件、浴用又は飲用許可1,862件が行われました。

環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については、2020年10月に南小国温泉郷(熊本県南小国町)を新たに指定し、2021年3月末時点で77か所を指定しています。

2018年5月から現代のライフスタイルに合った温泉地の楽しみ方として「新・湯治」を推進するためのネットワークである「チーム新・湯治」を立ち上げ、2020年度は4回のセミナーを実施しました。2021年3月末時点で339団体が参加しています。また、2018年度及び2019年度の2か年における温泉地で過ごすことのリフレッシュ効果等を把握する調査結果を公表しました。

(5)都市と農山漁村の交流

農泊の推進による農山漁村の所得向上を実現するため、農泊をビジネスとして実施するための体制整備や、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げるための専門家派遣等の取組、農家民宿や古民家等を活用した滞在施設等の整備の一体的な支援を行うとともに、日本政府観光局(JNTO)等と連携して国内外へのプロモーションを行いました。

また、農山漁村が有する教育的効果に着目し、農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村宿泊体験等を推進するとともに、農山漁村を都市部の住民との交流の場等として活用する取組を支援しました。