環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第7節 環境影響評価

第7節 環境影響評価

1 環境影響評価の総合的な取組の展開

(1)環境影響評価制度の運用・改善

太陽光発電については、再生可能エネルギーとして地球温暖化対策の観点から導入が促進されているところ、近年、森林伐採を伴う大規模な太陽光発電事業が増加するなど自然環境や生活環境への支障が懸念される場合も生じています。これを受け、2019年4月に中央環境審議会において「太陽光発電事業に係る環境影響評価の在り方について(答申)」が取りまとめられました。本答申においては、既に法で対象となっている事業と同程度以上に環境影響が著しいと考えられる大規模な太陽光発電事業については環境影響評価法(平成9年法律第81号)の対象事業とすべきとされたことから、2020年4月から新たに法の対象事業とする旨の環境影響評価法施行令(平成9年政令第346号)の改正を行いました。

さらに答申においては、環境影響評価法の対象とならない規模の事業についても、各地方公共団体の実情に応じ、各地方公共団体の判断で、環境影響評価条例の対象とすることが考えられること、また環境影響評価条例の対象ともならないような小規模の事業であっても、環境に配慮し地域との共生を図ることが重要である場合があることから、必要に応じてガイドライン等による自主的で簡易な取組を促すべきとされました。

これを受けて、環境省は、法や環境影響評価条例の対象にならない規模の太陽光発電事業について、適切に環境配慮が講じられ、環境と調和した形で事業の実施が確保されることを目的としたガイドラインを作成し、2020年3月に公表しました。

環境保全と両立した形で風力発電事業の導入促進を図るため、個別事業に係る環境影響評価に先立つものとして、関係者間で協議しながら、環境保全、事業性、社会的調整に係る情報の重ね合わせを行い、総合的に評価した上で環境保全を優先することが考えられるエリア、風力発電の導入を促進し得るエリア等の区域を設定し活用する取組として風力発電に係るゾーニング実証事業を7地域で実施しました。また、2016年度から3か年で実施した風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業のレビューを行い、「風力発電に係る地方公共団体によるゾーニングマニュアル」を改訂しました。

環境影響評価法に基づき事業者が縦覧・公表する環境影響評価図書については、縦覧・公表期間が定められていますが、多くの場合、当該期間を過ぎると図書の閲覧ができなくなっています。情報アクセスの利便性を向上させて国民と事業者の情報交流の拡充を図るとともに、事業者における環境影響予測・評価技術の向上を図るため、環境影響評価法に規定する縦覧・公表期間が終了した後についても図書の閲覧ができるよう、事業者の任意の協力を得て、環境省ホームページにおいて環境影響評価図書を掲載する取組を進めました。

環境影響評価に係る実務担当者向けの研修を4地域で開催しました。また、都道府県等の環境影響評価に係る審査会のより効果的かつ効率的な実施を目的として4地域で審査関係者との意見交換会を開催しました。

(2)環境影響評価に係る国際展開

アジア地域においては、環境影響評価制度の導入が進んでいるものの運用面にはなお課題があるため、2017年に「アジア環境アセスメントネットワーク」の活動を始め、メーリングリスト等を用いてアジア各国の環境影響評価の担当者間で情報交換を行うなど、環境影響評価制度の強化に向けた知見を共有しました。2018年8月には、環境影響評価に関する協力も含む日本とミャンマーの包括的な環境協力覚書を締結し、覚書に基づき、2019年10月に、ミャンマーの行政官を対象とした環境影響評価に関する研修を実施しました。

2 質が高く効率的な環境影響評価制度の実施

(1)環境影響評価法の対象事業に係る環境影響審査の実施

環境影響評価法は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立て・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けていますが、同法に基づき、2020年3月末までに計600件の事業について手続が実施されました。そのうち、2019年度においては、新たに54件の手続が開始され、また、25件の評価書手続が完了し、環境配慮の徹底が図られました(表6-7-1)。

表6-7-1 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

近年、特に審査件数の多い風力発電事業については、騒音・風車の影といった生活環境への影響や、鳥類や植物・生態系など自然環境への影響等の観点から環境大臣意見を述べました。また、風力発電等の早期導入に向けて、3~4年程度かかるとされる環境影響評価の実施期間を半減させることを目標として、地方公共団体の協力を得て審査期間の短縮を図りました。

火力発電事業の設置の事業については、2016年2月に環境大臣及び経済産業大臣が合意した電気事業分野における地球温暖化対策等を踏まえ、最新鋭の高効率技術の採用や国の目標・計画との整合性等の観点から審査しました。環境大臣意見においては、パリ協定の目標の達成に向け、地球温暖化対策計画やパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略等を踏まえつつ、我が国全体で2030年度のエネルギーミックス及び温室効果ガス削減目標を計画的かつ着実に達成し、それ以降の長期大幅削減を図るため、削減の道筋を明確化し、政府はもとより、各主体が進捗を管理していく必要があることを指摘するとともに、地球温暖化対策に係る今後の国内外の動向を踏まえ、所要の検討を行い、事業者として適切な範囲で必要な措置を講ずることなどを求めました。

(2)環境影響評価に係る情報基盤の整備

質の高い環境影響評価を効率的に進めるために、環境影響評価に活用できる地域の環境基礎情報を収録した「環境アセスメントデータベース“EADAS(イーダス)”」において、情報の拡充や更新を行い公開しました。また、今後導入の拡大が見込まれる洋上風力発電事業の環境影響評価に必要となる海洋の環境情報の収集に取り組みました。