環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第4章>第6節 海洋環境の保全

第6節 海洋環境の保全

1 海洋ごみ対策

海洋ごみ(漂流・漂着・海底ごみ)は、生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、景観への悪影響、船舶航行の障害、漁業や観光への影響等、様々な問題を引き起こしています。また、近年、マイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチックごみ)による海洋生態系への影響が懸念されており、世界的な課題となっています。これらの問題に対し、2018年6月に改正された美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(平成21年法律第82号)の改正を受け、基本方針の変更を閣議決定しました。また、特に海洋プラスチックごみについて、海洋プラスチックごみ対策アクションプランを関係閣僚会議で策定しました。これらに基づき、以下の海洋ごみ対策を実施しています。

海洋ごみの回収・処理や発生抑制対策の推進のため、海岸漂着物等地域対策推進事業により地方公共団体への財政支援を行いました。さらに、異常に堆積した海岸漂着ごみや流木等が海岸保全施設の機能を阻害することとなる場合には、その処理をするため、災害関連緊急大規模漂着流木等処理対策事業による支援も行っています。

漂流ごみについては、船舶航行の安全を確保し、海域環境の保全を図るため、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海及び有明海・八代海等の閉鎖性海域において、海域に漂流する流木等のごみの回収等を行いました。また、令和元年8月の前線に伴う大雨の影響により瀬戸内海等で大量に漂流木等が発生し、船舶航行等に支障が及ぶおそれがあったため、海洋環境整備船の広域的なネットワークや関係民間団体等との連携により、現場海域での回収作業を実施しました。

また、2018年10月より「プラスチック・スマート」キャンペーンを立ち上げ、展開することで、企業、団体、個人の方々による不必要なワンウェイプラスチックの排出抑制や分別回収の徹底など、“プラスチックとの賢い付き合い方”を全国的に推進しています。

海岸や沿岸、沖合海域において、マイクロプラスチックを含む海洋ごみの組成や分布密度、マイクロプラスチックに吸着しているポリ塩化ビフェニル(PCB)等の有害化学物質の量等を定量的に把握するための調査を実施しました。なお、化粧品製造業界団体においては、自主的な取組として会員企業に対して洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロビーズの使用中止を促すなどの取組が行われています。

G7富山環境大臣会合(2016年5月)で合意された海洋ごみに関する5つの優先的施策の一つであるマイクロプラスチックのモニタリング手法の標準化及び調和に向けた調査等を実施しました。

船舶起源の海洋プラスチックごみの削減に向けて、海事関係者を対象とする講習会等を通じ、プラスチックごみを含む船上廃棄物に関する規制等について指導を実施しました。

2 海洋汚染の防止等

海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号。以下「海洋汚染等防止法」という。)では、ロンドン条約1996年議定書を国内担保するため、海洋投入処分及びCO2の海底下廃棄に係る許可制度を導入し、その適切な運用を図っています。

船舶から排出されるバラスト水を適切に管理し、バラスト水を介した有害水生生物及び病原体の移動を防止することを目的として、2004年2月に国際海事機関(IMO)において採択された船舶バラスト水規制管理条約が2017年9月に発効し、同条約を国内担保する改正海洋汚染等防止法が2017年9月に施行されました。同法に基づき、有害水バラスト処理設備の確認等を着実に実施しました。

中国、韓国、ロシアと我が国の4か国による北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)に基づき、当該海域の状況を把握するため、人工衛星を利用したリモートセンシング技術による海洋環境モニタリング手法に係る研究等の取組等を実施しています。

船舶によりばら積み輸送される有害液体物質等に関し、海洋汚染防止条約(MARPOL条約)附属書IIに基づき、環境大臣は有害性の査定がなされていない液体物質(未査定液体物質)について、海洋環境保全の見地から査定を行っています。

1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約及び2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書に基づき、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を策定しており、環境保全の観点から油等汚染事件に的確に対応するため、「排出油等防除計画」の見直しを実施したほか、緊急措置の手引書の備付けの義務付け並びに沿岸海域環境保全情報の整備、脆(ぜい)弱沿岸海域図の公表、関係地方公共団体等に対する傷病鳥獣の救護及び事件発生時対応の在り方に対する研修・訓練を実施しました。

3 生物多様性の確保等

第2章第4節を参照。

4 沿岸域の総合的管理

第2章第4節を参照。閉鎖性海域に係る取組は第4章第2節3を参照。

5 気候変動・海洋酸性化への対応

海水温上昇や海洋酸性化等の海洋環境や海洋生態系に対する影響を的確に把握するため、海洋における観測・監視を継続的に実施しました。

6 海洋の開発・利用と環境の保全との調和

CO2の海底下廃棄に関しては、2016年3月に、苫小牧沖海底下CCS実証試験事業(経済産業省事業)について環境大臣の許可処分を行いました。同事業の適正な実施のため、2011年度から、実証試験海域における海洋生態系及び海水の化学的性状について調査し、その結果を当該許可に当たっての審査に活用しました。

7 海洋環境に関するモニタリング・調査研究の推進

日本周辺の海洋環境の経年的変化を捉え、総合的な評価を行うため、水質、底質等の海洋環境モニタリング調査を実施しています。2018年度は、陸域起源の汚染を対象とした調査を東京湾から沖合の海域で実施した結果、一部の項目で過年度調査結果より高い値が検出されましたが、全体としては、過年度調査結果とおおむね同程度又は低い値でした。今後も引き続き定期的な監視を行い、汚染の状況に大きな変化がないか把握していくこととします。

最近5か年(2015年~2019年)の日本周辺海域における海洋汚染(油、廃棄物等)の発生確認件数の推移は図4-6-1のとおりです。2019年は432件と2018年に比べ18件増加しました。これを汚染物質別に見ると、油による汚染が275件で前年に比べ8件減少、廃棄物による汚染が144件で前年に比べ31件増加、有害液体物質による汚染が3件で前年に比べ2件減少、その他(工場排水等)による汚染が10件で前年に比べ3件減少しました。

図4-6-1 海洋汚染の発生確認件数の推移

東京湾・伊勢湾・大阪湾における海域環境の観測システムを強化するため、各湾でモニタリングポスト(自動連続観測装置)により、水質の連続観測を行いました。

8 監視取締りの現状

海上環境事犯の一掃を図るため、沿岸調査や情報収集の強化、巡視船艇・航空機の効果的な運用等により、日本周辺海域及び沿岸の監視取締りを行っています。また、潜在化している廃棄物・廃船の不法投棄事犯や船舶からの油不法排出事犯など、悪質な海上環境事犯の徹底的な取締りを実施しました。最近5か年の海上環境関係法令違反送致件数は図4-6-2のとおりで、2019年は749件を送致しています。

図4-6-2 海上環境関係法令違反送致件数の推移