環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 脱炭素型の持続可能な地域づくり~地域循環共生圏の創造~

第2節 脱炭素型の持続可能な地域づくり~地域循環共生圏の創造~

第1節では、気候変動をはじめとした地球環境の危機等に対応していくため、気候変動対策、海洋プラスチック、生物多様性に係る政府の取組や気候変動等に係る各主体の取組を概観してきました。このような各主体の取組に加え、私たちが日常的生活を送り、経済活動を営んでいる地域の経済社会の在り方の変革も求められます。脱炭素社会を構築していくためには、地域の経済社会の構造や仕組みを、脱炭素・省資源型で自然との共生が図ることのできるもの等にしていく必要があります。同時に地域内での資金循環を促し、地域で雇用を作り、地域の人々の安全で豊かな暮らしを実現できるようにすることが必要です。そのためには、地域にある資源を地域の中でなるべく活用すること、同時に、資源の性質に応じてより効率的な範囲内で循環利用すること等を通じて、地域に雇用を作りながら、モノやサービスの利用に伴うライフサイクルにわたる省エネ・省資源化を図る自立・分散型の地域社会づくりが重要になってきます。以下では、我が国発の脱炭素化・SDGs構想である「地域循環共生圏」に焦点を当てて、地球環境の危機に立ち向かっていくための地域づくりについて論じます。

1 持続可能な未来のための地域循環共生圏

(1)地域のSDGsのビジョン「地域循環共生圏」について

第1章で示した地球環境の危機的状況等を踏まえ、私たちが住む地域社会も脱炭素型の持続可能な地域づくりへ転換していく必要があります。

2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画では、経済成長を続けつつ、環境への負荷を最小限にとどめ、健全な物質・生命の「循環」を実現するとともに、健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との「共生」や地域間の「共生」を図り、これらの取組を含め「脱炭素」をも実現する循環共生型の社会(環境・生命文明社会)を私たちが目指すべき持続可能な社会の姿としています。

このような持続可能な社会を構築するためには、各々の地域が持続可能である必要があり、第五次環境基本計画では、地域レベルで、環境・経済・社会の統合的向上、地域資源を活用したビジネスの創出や生活の質を高める「新しい成長」を実現するための新しい概念として「地域循環共生圏」を提唱しています。これは、各地域が、水、再生可能エネルギー、木材といった再生可能資源や交通、建物といった人工的ストック等の地域固有の多様な資源を活かしながら、それぞれの地域特性に応じて異なる資源を持続的に循環させる自立・分散型の地域づくりを実現する考え方です。

その際に、自然と人との共生に加え、地域資源の供給者と需要者といった人と人との共生の確保も目指しています。我が国の多くの地域では、高齢化や人口減少が進み、地域・家庭・職場という人々の生活における支え合いの基盤が弱まるとともに、耕作放棄地や空き家の増大、商店街の衰退等による地域経済の衰退など様々な課題が顕在化してきています。このような地域における社会福祉や経済活動に関する課題解決を図りながら、同時に環境保全を進めることが必要です。

地域循環共生圏は、このような地域の課題を解決するために、地域資源の持続可能な利用を行うことで、温室効果ガスの排出削減等の環境保全を図りながら地域の経済循環を促す、環境・経済・社会の課題を統合的に解決するSDGsを地域で実践するためのビジョンです。この「地域循環共生圏」の創造に当たっては、IoTやAIといった最新の情報技術を駆使することも期待されます。

また、広域にわたって経済社会活動が行われている現代においては、各地域で完全に閉じた経済社会活動を行うことは困難であり、「地域循環共生圏」においても、それぞれの地域が自立を目指しながら、互いに連携、協力し合うことが重要です。例えば、都市に暮らす人々が、農山漁村から提供される産品を購入することやエコツーリズム、ワーケーション等を通じ自然の恵みに対価を支払うことにより、自らの暮らしのニーズを満たすと同時に、農山漁村の持続可能な地域づくりを支えることができます。すなわち、「地域循環共生圏」は、農山漁村、都市双方の人々の暮らしを豊かにしながら、我が国の地域の活力を最大限に発揮する考え方であると言えます(図2-2-1)。

図2-2-1 地域循環共生圏の概念図

地域循環共生圏は、地域の課題を解決するために、地域の多様な資源を活用し、市民やNPO、企業、行政、金融機関など多様な関係者のパートナーシップにより、経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出し、社会変革をしていくことで実現する持続可能な循環共生型の社会です(図2-2-2)。そして、同時にあらゆる人たちが環境に負荷が少なく、心身ともに豊かな質の高い暮らしを実現できる基盤ともなります。

図2-2-2 社会変革をしていくことで実現する持続可能な循環共生型の社会のイメージ
(2)始まりつつある地域循環共生圏づくり

環境省では、各地域における地域循環共生圏の創造に向け、自治体、事業者、NPOや市民、金融機関など地域の関係者が連携、協働して地域循環共生圏のビジョンづくりを行い、そのビジョンを踏まえて、地域の課題解決等を促すソーシャルビジネス等の事業化の支援を始めています。また、再生可能エネルギーや地域の廃棄物等の循環資源を活用しながら脱炭素型の地域づくりを進めるため、地域協議会の立ち上げや事業可能性調査を通じて地域循環共生圏のビジョンづくりと実現のための事業化に向けた支援も始めています。

以下では、各地で広がりつつある地域循環共生圏の動きを紹介します。

ア 地域の再生可能エネルギーを活用した社会課題の解決

環境省の「再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等事業」調査によれば、我が国において、太陽光、風力、中小水力等の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルは、合計25,811億kWhであり、これは電力需要11,705kWh(資源エネルギー庁「電力調査統計2019」)に対して、約2.2倍になります。再生可能エネルギー資源等を活かした地域循環共生圏の取組は各地域で始まりつつあります。地域で再生可能エネルギーの電気や熱を供給する事業に加え、地域の再生可能エネルギーによる電気を地域内で販売する地域新電力の取組が各地で広がってきています。

地域新電力は、再生可能エネルギーによる電気の販売に加え、地域の事業者に対する省エネルギー支援を行うなど省エネルギーの推進、電気自動車やLRT等への供給など交通手段の脱炭素化につなげる又は自営線の設置により災害時でも自立的にエネルギーを供給するなど多様な役割も担うようになってきています。また、売電収益を地域の社会課題の解決のために還元する取組も始まっています。

また、地域の再生可能エネルギーの中には、地方公共団体が有するごみ発電や公営水力発電等もあります。これまでは、大手電力会社に売電していましたが、地域新電力に売電し、エネルギーと地産地消する取組が始まっています。2019年度には、都道府県が公営で運営している水力発電所の売電先の公募が北海道、岩手県、山形県、新潟県、群馬県、長野県、京都府などで行われました。例えば、山形県の企業局水力発電所の2020年度、2021年度の売電先の一つとして、再生可能エネルギーの地産地消に取り組み、地域に根ざした新電力として広く県民に還元・貢献していく提案をした地域新電力のやまがた新電力が選定されています。

事例:石狩市における再エネ地産地消による域内循環創出・地域づくりイノベーション事業(北海道石狩市)

北海道石狩市では、エネルギーの循環と地域経済の循環により、脱炭素・産業振興・公共サービスの拡充を通じ、「石狩版地域循環共生圏」の実現を目指しています。

北海道を代表する産業空間の「石狩湾新港地域」において、地域の再生可能エネルギー電力を地域で活用出来る「再エネエリア」を創出し、企業誘致の実現や新たな雇用の創出による地域の発展に加え、災害時の電力等のライフラインの確保、公共交通空白地帯への新交通サービスの展開など、地域課題の解決を図る事業についても検討・調査をしています。

2019年4月には、石狩湾新港地域において、京セラコミュニケーションシステムが、「再生可能エネルギー100%で運営するゼロエミッション・データセンターの開業に向けた取り組みを開始する」と公表しました。本データセンターは、太陽光、風力及びバイオマスで発電した電力を自営線で結び、発電所から直接供給するもので、再生可能エネルギー100%で稼動するデータセンターは日本初となります。この事業は石狩市の取り組みを具現化する初めての事業であるため、実現が大きく期待されています。

今後は、石狩市が目指す地域循環共生圏の実現に向け、新たに設立することを検討している事業体(プラットフォーム)を核とし、再エネの導入拡大を通じた地域活力の創造を目指しています。

目指す地域循環共生圏の姿(目標年度:2040)、需給一体型ビジネスモデルの実現(目標年度:2040)

事例:清掃工場を核にした 地域総合エネルギー事業(スマートエナジー熊本)

スマートエナジー熊本では、清掃工場の余剰電力を中心とした再生可能エネルギーによる電力の供給、電力の需給の最適化や防災力の強化に資する設備の設置や運用、熊本市の全庁的な省エネルギー事業の支援に取り組んでいます。

熊本県熊本市は2016年4月に熊本地震を経験し、エネルギーを含むライフラインの確保が課題となっていました。また、行政として一層のCO2削減に向けた技術的な実施能力の不足が課題となっていました。一方、JFEエンジニアリングは、従来の環境プラント建設事業に加えて、そのプラントを核とした運営型の事業へのシフトを推進し、その一環として、2016年から熊本市の西部環境工場の長期運営を実施していました。この工場を軸とした地域エネルギー事業を実施することがJFEエンジニアリングと熊本市で合意されたことで、2018年11月にJFEエンジニアリングが95%、熊本市が5%という資本比率でスマートエナジー熊本は設立されました。

2019年5月より、JFEエンジニアリングが運営する西部環境工場と熊本市が公設公営で所有・運営をしている東部環境工場の二つの清掃工場の余剰電力約1万キロワット以上をスマートエナジー熊本で取りまとめ、熊本市の公共施設約220か所に供給して、電力の地産地消を実現しています。熊本市の電力支出は年間で約1.6億円削減され、熊本市は半分の8,000万円を省エネルギー基金としてプールし、ZEH、EV、5スターの省エネ家電などの購入補助財源として市民へ還元しています。

また2019年度には、災害時にインフラを支える重要拠点となる庁舎(上下水道局庁舎)や災害時に最前線の拠点となる重要度の高い施設(南区役所)で大型蓄電池の導入を進め、また西部環境工場近傍の市営公園へ自営線の敷設と急速充電器を設置することにより、清掃工場の余剰電力を有効に活用するとともに、さらに防災力を強化する取組も進めています。

事業スキーム
イ 地域の循環資源を活用する取組

家畜ふん尿、食品廃棄物、下水汚泥、プラスチック、金属等の循環資源や廃棄物処理施設等のインフラも「地域循環共生圏」の創造に活用し得る地域資源です。

循環資源は、狭い地域地域で循環させることが適切なものはなるべく狭い地域で循環させ、広域で循環させることが適切なものについては循環の環を広域化させるなど、各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させる必要があります。

地域の循環資源である廃棄物を活用して、多様な人々の交流を生み出し、地域福祉の課題解決にも資する取組も始まっています。

事例:資源回収拠点が地域の多様な人々の居場所づくりに“こみすて”(奈良県生駒市)

奈良県生駒市は、市内一円で自治会が組織され、市民の自治会加入率は約80%です。市民が運営する介護予防の体操教室やサロンが約100か所で行われるなど、高齢者同士が自発的に支え合うボランティアの活動も盛んです。一方、生駒市ではごみの削減、中でも大きな割合を占める生ごみの削減が課題となっています。そこで、日常の資源ごみの回収拠点を整備し、ごみ出しを通じて市民が集まる機会を創り、高齢者の買物支援、健康づくり、介護予防など様々なコミュニティ事業につなげる「資源循環・コミュニティステーション(略称:こみすて)」を実証するモデル事業をアミタに委託して行いました。

本事業では、地域の自治会館の横に有人の資源回収場を設置し、週6日の開設時間中、好きなときにごみ出しができることとしました。こみすてには、自治会員や事業者のスタッフが常駐し、ごみの分別について常にサポートできる体制を取ることで、住民にとってリデュース、リユース、リサイクルが身近な取組となり、実証期間中、生ごみにおける異物混入率はほとんどゼロとなるなど、適正な分別が促進されました。また、スマートフォンアプリを活用してごみ出しやまちづくりへの貢献に対してポイントがたまる仕組みを構築し、ポイントは自治会館に常設されているリユース市での使用、その他自治会運営への寄付等や環境・社会・地域に役立つサービス等に使用できるようにしたほか、資源持参状況を把握できるようにし、CO2削減にどれだけ貢献したかが見えるようにすることで、住民の継続的な参加を促しました。

こみすては、単なる環境保全活動にとどまらず、老若男女を問わず多様な地域住民が集まるコミュニティの場所になりました。子供たちが放課後やってきて宿題をしたり、ごみ出しにきた大人の分別のお手伝いをしたり、住民が自主的に分別のための分かりやすい表示や看板を作ったり、薪ストーブの設置、コーヒーの提供を行うなど、こみすてを魅力的な場所にするための工夫もなされました。

また、市内で特にニーズの高い買物支援について、自治会館で行われる高齢者向けの体操教室等に合わせて、地元の農家が朝採れ野菜を売りにきたり、スーパーの移動販売車がやってきたりと様々な取組が進みました。また、子供食堂や親子で参加できるパンづくりなど子育て支援のイベントも行われるようになりました。

特筆すべきは、高齢者や障害者、子供たちを、単に「支えてあげるべき存在」として扱わず、これらの住民もできる範囲で地域に貢献するよう促していることです。自宅から余っている食器や書籍、食べきれない缶詰やお菓子、生ごみや資源物を持ち寄ることで、生ごみの堆肥化やフードドライブ、食器や衣類のリユース市などの資源循環の取組が促進されるほか、資源の売却収益など自治会の収益にもつながります。

ごみ出しという全ての人にとっての日常的行為を切り口に、これまで地域コミュニティとの接点がなかった人の参加を呼び込み、交流を促すなど、資源循環が地域住民の意識変革と具体的なアクションを促す貴重な契機となっています。

こみすてで目指す姿
ウ 地域の自然資源を活用した取組

私たちの暮らしを支える豊かな水、きれいな空気、食料や木材、自然の上に成り立つ特色ある文化やリクリエーションなど、森・里・川・海やその連環が形成する豊かな自然の恵み(生態系サービス)等を活用した地域循環共生圏の取組も始まっています。特に地域の自然とのつながりが深い農林水産業や観光業においては、自然の恵みを地域資源として、地域産業や地域そのものをブランド化し、活用できる可能性を秘めています。

事例:岡山県での真庭市における地域循環共生圏のビジョン検討

岡山県真庭市では、行政や地域団体や民間企業等の様々な関係者とともに、「エネルギーと食による里地里山里海保全のモデル」を目指し、地域循環共生圏の取組を推進しています。

「森林・ジビエといった自然資源、ESD・地域活動といった人の営み」、「海のないまちで牡蠣殻の活用、脱プラといった地球規模の物質の流れ」などにより、源流域から海域までの「森里川海」のつながりを意識して、重層的な循環の環を様々な関係者、様々な地域同士をつなぐパートナーシップで作り上げています。

エネルギーの地産地消、地域資源を活用した付加価値の高い商品開発などによって、資源を無駄にせず「モノ・カネ」の循環を促進し環境との調和を図ることにより、地域循環共生圏を具現化し、自立した地域づくりを行っていく予定です。

真庭市のビジョン

事例:梅の栽培をとおした自然との共生「みなべ・田辺の梅システム」(みなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会)

和歌山県のみなべ・田辺地域は、養分の乏しい礫質の斜面が多く、従来の農業や林業に利用できなかったため、梅林の周辺や尾根付近に薪炭林(備長炭の原料がある天然林・雑木林)を残しながら開墾し、高品質な梅を生産、また、薪炭林のウバメガシやカシ類を原木として堅くて良質な「紀州備長炭」を生産してきました。

梅が果実を実らせるためには、薪炭林に生息するニホンミツバチが花粉を運ぶ役割を果たしてくれています。ミツバチにとっても、梅は、花の少ない2月頃から蜜や花粉を提供してくれる貴重な存在であり、両者の間で見事な共生関係が築かれています。さらに、薪炭林は水源涵(かん)養や崩落防止等の役割も果たしています。また、地域に住む就労者の7割は梅の産業に関わっており、梅は地域の基幹産業として人々の暮らしを支えています。このような人と自然との見事な共生を実現している「みなべ・田辺の梅システム」は2015年12月に世界農業遺産の認定を受けています。

環境省の「環境で地方を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」の実証地域として選定され、2019年度からは地域内で既に取り組まれている梅加工の際に発生する調味残液などの未利用資源の循環利用やエコツーリズムの推進等をヒントに、農業システムを持続的に発展させるための検討と体制づくりが始められています。取組の一つとして、多くの人々に地域循環共生圏に対する理解を深めてもらうため、2019年11月29日、先進的な研究を行っている東京大学と和歌山県、みなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会の共催により、「東京大学×世界農業遺産」シンポジウムが開催されました。

みなべ・田辺地域の風景(2月)、「みなべ・田辺の梅システム」ロゴマーク
エ 地域間のつながりを活用する取組

地域循環共生圏の創造に当たっては、それぞれの地域が地域の資源を活用して自立・分散型の社会づくりを進めると同時に、各地域の様々な主体同士が連携し、その地域の人材、資金、資源循環等を有効活用しあって相乗効果を得ることで地域の活性化を図っていくことも重要です。都市圏には、地方圏に比して人材と資金が集まりやすい一方で、食料、水、木材といった物質やエネルギーの多くを地方圏を含む地域外から得ています。都市圏の人々が地方圏からの農林産品や自然の恵み等によって自らが支えられているということに気づき、人材や資金を地方圏に向けるよう発想することが必要です。このような地方圏と都市圏がつながってお互いに支え合いながら地域循環共生圏づくりを促す取組が始まっています。

事例:北岩手循環共生圏による食・エネルギー・人の域内・広域の連携と循環の実現(岩手県北地域9市町村)

岩手県北地域の9市町村(久慈市、二戸市、葛巻町、普代村、軽米町、野田村、九戸村、洋野町、一戸町)では、北岩手が有する森里川海の豊富な地域資源を活用するために9市町村が連携を図るともに、2019年2月に「再生可能エネルギーの活用を通じた連携協定」を締結した横浜市へ、再生可能エネルギーや個性あふれる食材等の北岩手が持つ地域資源を供給することで、大都市の横浜市と地方の北岩手との間でヒト・モノ・コト・カネが循環する「北岩手循環共生圏」を構築すべく、取組を進めていきます。

特に、バイオマス、風力、太陽光、水力等の多様で大きな導入ポテンシャルを持つ圏域内の再生可能エネルギーについては、北岩手9自治体連携連絡会のもとに再生可能エネルギー専門部会を設置し、活用についての検討を進めています。

こうした中、2020年2月には「北岩手循環共生圏結成式」が執り行われ、「ZERO CARBON KITAIWATE」の宣言や北岩手内の地域電力会社と横浜市の企業等との「再エネ電力需給式」等を行い、都市と農山漁村の連携モデルを着実に構築しています。

北岩手循環共生圏のイメージ図
(3)地域循環共生圏づくりプラットフォームの運用

各地域における地域循環共生圏の創造に向け、自治体、事業者、NPOや市民、金融機関など地域の関係者が連携、協働して地域循環共生圏のビジョンづくりを行い、そのビジョンを踏まえて、再生可能エネルギーや自然、廃棄物等の地域資源を活用しながら、地域の課題解決を促すソーシャルビジネスの事業化等の支援を行うことが重要です。

2019年度に環境省で実施した「環境で地方を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」は、地域循環共生圏の創造を強力に推進するため、「地域の総合的な取組となる経済合理性と持続可能性を有する構想策定及びその構想を踏まえた事業計画の策定」、「地域の核となるステークホルダーの組織化」等の環境整備に一緒に取り組む35地域を選定し、地域循環共生圏のビジョンづくりを行いました。また、岩手県北地域の9市町村(久慈市、二戸市、葛巻町、普代村、軽米町、野田村、九戸村、洋野町、一戸町)や岡山県真庭市などの4地域では、専門家等で構成された支援チームを派遣し、地域資源を利用した事業化に関する助言を行うなど、地域循環共生圏づくりプラットフォームを活用した取組が進められました。これらの取組を踏まえ、全国各地で作られた地域循環共生圏のビジョンを実現するため、地域循環共生圏の概念の周知やイベント紹介を行う「しる」、地域循環共生圏づくりの手引きの作成や環境ローカルビジネスの型作りを行い他地域へ展開していく「まなぶ」、実践地域登録制度やメールマガジンの発信等を行う「つながる」、企業と関係省庁、地域のマッチングの場を提供する「であう」、新たな仕組み・ルールづくりのための「しかける」という5つの機能を持った地域循環共生圏づくりプラットフォームの運用を開始しています。

2 地域循環共生圏に関連する施策との連携

地域循環共生圏の創造に当たっては、コンパクトシティやスマートシティ、SDGs未来都市、地方創生に関する施策等の各種のまちづくりや地域づくり施策との有機的な連携が重要です。

2019年12月20日に策定された第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」においては、地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくりの主要な柱として、地域循環共生圏の創造が位置付けられています。また、同年12月のSDGs推進本部で決定された「SDGsアクションプラン2020」においても、SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境にやさしい魅力的なまちづくりとして、「地域循環共生圏」が位置付けられています。

内閣府では、より一層の地方創生に向けて、地方自治体及び地域経済に新たな付加価値を生み出す企業、専門性を持ったNGO・NPO、大学・研究機関等の広範なステークホルダーとのパートナーシップの深化、官民連携の推進を図るため、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を発足しています。このような自治体におけるSDGsの達成に向けた取組とも連携をしながら、地域循環共生圏の具体化を図っていくことが重要です。

以下では、地域循環共生圏と関係の深い政府の施策等を紹介します。

(1)コンパクトなまちづくりとスマートシティの取組

人口減少・高齢者の増加や、社会資本の老朽化が進展する我が国においては、高齢者でも出歩きやすく健康・快適な生活を確保すること、子育て世代などの若年層にも魅力的なまちにすること、財政面・経済面で持続可能な都市経営を可能とすること、低炭素型の都市構造を実現すること、さらには災害に強いまちづくりの推進等が求められています。このためには、都市全体の構造を見直し、コンパクトなまちづくりとこれと連携した公共交通のネットワークを形成すること(コンパクト・プラス・ネットワーク)が重要です。また、都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ全体最適化が図られる持続可能な都市や地区を構築するスマートシティづくりも非常に重要です。

地域循環共生圏づくりを進めるに当たっては、これらの取組の連携を一層進めることにより、都市の活性化と脱炭素化等の持続可能な地域づくりを一体的に展開し、地域レベルでのSDGsを実現していくことが重要です。

事例:コンパクト&ネットワークによる地域循環共生圏づくりの取組(栃木県宇都宮市)

宇都宮市では人口減少社会においても、市内外の多くの人や企業から選ばれ、持続的に発展できるよう「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成に取り組んでいます。

宇都宮市では市街地の拡大とともに人口の低密度化が進み、自動車依存が高まっていることなどを踏まえ、全国に先駆け2007年度に策定された第5次宇都宮市総合計画に「ネットワーク型コンパクトシティ」を目指すことを初めて位置付け、交通未来都市づくりという観点から、中心市街地の「都市拠点」、市民の日常生活に必要な機能を備える「地域拠点」、産業や観光の拠点となる「産業拠点」、「観光拠点」を形成し、その拠点間を鉄道、LRT(ライトレールトランジット)、バス、地域内交通・自転車などの階層性のある総合的な交通ネットワークで結ぶための取組を進めています。

これは、子供から高齢者、障害者など誰もが安全で快適に移動ができ、外出によって健康が増進され、地域の活性化を図りながら、環境負荷の少ないまちづくりを進めるものです。

さらに、2017年に都市拠点や駅周辺などの地域拠点に都市機能誘導区域、2019年にLRTや幹線バス路線の沿線などに居住誘導区域を設定し、都市機能や居住誘導を図るなど、立地適正化計画制度に基づくコンパクトシティづくりを更に強化しています。

今後は、引き続き、宇都宮駅を中心とする都市拠点を出発点に東西方向の基幹公共交通としてLRTを整備し、地域拠点、産業拠点等と結び、地域内を循環するバス路線や地域内交通などに乗り換えることのできるトランジットセンターを必要な箇所に設けます。また、都市拠点エリアを中心にオフィスの立地を誘導するため、オフィスの賃借料や入居に際して要する改修費などを補助しているほか、産業拠点に工場等の立地を誘導するため、土地や建物等の取得を支援する補助金を設けています。

さらに、宇都宮市の「脱炭素化のシンボル」として立ち上げが検討されている地域新電力会社は、LRTの導入を契機とした未来のまちづくりを下支えする役割を担うことを想定しています。具体的には、LRTの電力の供給のほか、トランジットセンター及び周辺地域に再生可能エネルギーを導入するなど、市域の低炭素化を一層推進するとともに、市のレジリエンス強化など、地域課題の解決に資する取組について、検討されています。

2019年には、ICT等の先進技術を利活用し、社会課題の解決や新たな事業の創出を官民協働で取り組むため、Uスマート推進協議会が産官学連携で立ち上げられました。Uスマート推進協議会の取組の一環として、観光拠点として様々な取組を行っている大谷地域で、自家用車による混雑を防ぐため、2019年のゴールデンウィークとお盆の時期に、観光客が自家用車を臨時駐車場に駐車して地域内を訪れるパークアンドバスライドの実施、地域内における自家用車のうろつき抑制や来訪者の回遊性を促すためのグリーンスローモビリティの自動運転も含めた運行などを組み合わせた観光交通社会実験を行いました。その結果、例年と比較して大きな混雑が発生せず、周遊促進効果があったほか、半数以上の利用者が、楽しさ、快適さ、運行頻度等で満足するなど一定の効果がありました。

また、このような取組から得られるバス等の運行情報や交通、人流、電流、土地利用等の多種多様なデータを収集し、更なるまちづくりに活かしていくための検討も始められています。

宇都宮市における地域新電力を通じた脱炭素のまちづくり
ネットワーク型コンパクトシティのイメージ図、大谷地域における観光交通社会実験
(2)農山漁村地域における地域循環共生圏の取組

農山漁村地域では、再生可能エネルギーやバイオマス、在来作物など様々な資源が存在するとともに、農林漁業者の中には、気候変動の緩和や生物多様性の保全等の取組を日々の活動に組み込み、長年実践している人もいます。これらの恩恵は、都市住民を含め国民全体が受け取っています。農林水産省では、営農型太陽光発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギーの導入、在来作物の保全等の生物多様性、企業・大学・研究機関等における新しいバイオマス素材の開発等農山漁村におけるSDGsへ貢献する取組を推進しています。また、農林水産省は2020年3月に、農林水産業・食品産業の成長が環境も経済も向上させる、SDGs時代にふさわしい環境政策を推進するため、「農林水産省環境政策の基本方針」を策定しました。

農山漁村におけるSDGsの取組は生命を支える「食」と安心して暮らせる「環境」を継承する今後の農山漁村の基盤的な取組です。この取組を広げていくためには、生産者だけでなく、消費者や加工、飲食店、宿泊施設等の他分野の事業者や金融機関等との連携により地域レベルでのプラットフォームや広域連携により、持続可能な事業として発展させていくことが重要です。

このため環境のための農山漁村におけるSDGsビジネスモデルの構築に向け、農山漁村における環境と経済の好循環を生む取組を収集し、「環境のための農山漁村×SDGsビジネスモデルヒント集」を作成しました。

「売れれば売れるほどエコモデル」など5つのビジネスモデルに分け、他地域への普及を進めていきます。

一方、人口減少や高齢化が進行し、地域の交通事業者が撤退したり、商店が閉店したりするなど、生活サービスが衰退する状況になっており、こうした中、国の地方創生政策の中で「小さな拠点」づくりが進められています。「小さな拠点」づくりは、中山間地域等で必要な生活サービスを受け続けられる環境を維持していくために、地域住民が、自治体や事業者、各種団体と協力・役割分担しながら、各種生活支援機能を集約・確保したり、地域の資源を活用し、仕事・収入を確保する取組です(図2-2-3)。「小さな拠点」では、以下の事例のように複数の集落が集まる基礎的な生活圏の中で、分散している様々な生活サービスや地域活動の場等を「合わせ技」でつなぐとともに、集落単位のみならず、市町村レベルや広域の拠点が複合的・重層的なネットワークを形成することで、人やモノ、サービスの循環を構築し、人々の生活を支えています。このような地域の資源の循環を促す「合わせ技」と複合的・重層的なネットワークは地域循環共生圏を構築する上で鍵となってくると考えられます。

図2-2-3 「小さな拠点」のイメージ

このような農山漁村におけるSDGsへの取組や「小さな拠点」や地域運営組織の形成に向けた取組と一体となって、地域の関係者が地域循環共生圏のビジョンを構想し、地域の課題解決のための持続可能な事業を生み出していくことにより、農山漁村の持続可能な地域づくりを更に発展させていくことが重要です。

事例:小さな拠点から始まる地域循環共生圏(島根県邑南町(おおなんちょう))

島根県のほぼ中央部に位置する邑南町は、面積419.3km2の広大な面積で人口1万1,101人(2015年国勢調査)、高齢化率43.4%の中山間地域の町です。邑南町では、公民館単位に12の地区が形成されており、従来から公民館活動が盛んで、住民が連携して協働する取組を実施する文化が根付いている地域でした。

3町村が合併した2004年から公民館単位の地区(以下「地区」という。)に対する自主自立の地域づくりのための「夢づくりプラン」の策定支援やその後の事業化支援により、地域づくりの組織化と活動が始まりました。さらに、2015年からは、邑南町版まち・ひと・しごと創生総合戦略に基づき地区別戦略策定の支援を行いました。2016年度以降は、一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所と一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所が連携して、地区ごとの人口の将来推計と人口安定化のシナリオ分析及び町全体の介護費用の分析と地区ごとの認定者率の比較等を毎年行っています。この分析は、地区ごとの今後の方向性の検討材料として、また住民の活動の動機付けとして大きな役割を果たしました。

12の地区の一つである口羽地区は、人口約700人、世帯数350戸、高齢化率50%の集落です。農協支所撤退の噂等が動機付けとなりワークショップ等が開催され、2010年に「口羽をてごぉする会」が立ち上げられました。「口羽をてごぉする会」は、自治会長、公民館長、町の支所長等によって構成される口羽地区振興協議会の事務局を担いながら、自治会とは独立して地域課題を解決する事業を展開しています。住民の日常生活を支援するため、高齢世帯の多くが必要としている草刈り、墓掃除、除雪などの高齢世帯の困り事に対応する代行派遣制度を導入しています。地区唯一の仕出し業が廃業することになり、地区の女性たちが、地域内の食材等を用いた仕出し・食品加工・食用鯉の養殖販売業を展開しています。さらに、農家で余った野菜の無人販売も行うなど地域の食の地産地消の取組を行っています。

タクシー事業者の廃業に伴い、高齢者等の住民の足確保のため公共交通空白地有償運送事業のデマンド交通を運用しています。顔の見える形で運用するため、運転手を各自治会から4人計32人を登録し、ローテーションを組んで、自家用車を活用した有償のデマンド交通を提供しています。これらの多様な事業展開及び町からの補助金等により、2018年度は専従の地域マネージャー1人、専従の職員2人、時間給で必要な時に作業を行うメンバーを6~8人雇用できる体制を確立するため、自主財源として約510万円生み出しています。

2015年に地方創生の地区別戦略を策定し、水・食・エネルギー自給システムによる生業創出と里山景観の維持・保全を目標に、バイオマスエネルギーの導入研究、耕作放棄地を活用した共同菜園運営、充実した里山暮らしの実現を目標に、カーシェアリングによる日常交通の実験や「終の棲家」的なシェアハウス研究など、地域資源を活用しながら脱炭素につながる人々の日々の暮らしを促し、会のソーシャルビジネスとして更に自立性を高める取組が計画されています。

このように邑南町では、小さな拠点や地域運営組織を出発点とした地域循環共生圏に資する取組が進められています。

「口羽をてごぉする会」のデマンド交通
(3)あらゆる人々の豊かで環境に優しい暮らしを支える地域循環共生圏と地域共生社会

高齢化や人口減少が進み、地域・家庭・職場という人々の生活領域における支え合いの基盤が弱まっています。また、耕作放棄地、空き家、商店街の空き店舗など様々な課題が顕在化してきています。このような中、暮らしにおける人と人とのつながりを再構築するとともに、社会保障や産業などの領域を超えてつながっていくことが必要不可欠になっています。

2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現していくことが提示されています。この地域共生社会とは、制度・分野の枠や、「支える側」「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会とがつながり、一人一人が生きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らしていくことのできる、包摂的なコミュニティ、地域や社会を目指す考え方のことです(図2-2-4)。

図2-2-4 地域共生社会のイメージ

地域共生社会を目指すに当たり、地域福祉の分野では、社会福祉法を根拠とした予算事業を軸として、住民に身近な圏域で、複合課題や世帯を包括的に受け止める場づくり及び市町村域や広域での支援体制づくりが進められています。また、少子高齢化や人口減少が進む中にあって、地域社会を持続させていくことも重要な課題となっています。地域福祉だけでなく、教育、環境、農林水産、観光等の分野における取組とも協働し、集いの場、サロン等を見つけて人々がつながっていくことや、課題を有する人たちの働く場や参加する場づくりを行うことなど、福祉等の個々の領域を超えた地域づくりの取組が進められています。このような包括的な支援体制の整備や地域づくりを全国の市町村において一層推進するため、第201回国会に、属性を問わず、全住民を対象とする重層的な支援体制の構築を進めるための新たな法定事業の創設を旨とする社会福祉法の改正案を提出しています。

地域循環共生圏の実現に当たっては、環境保全を図っていくと同時に、子供、高齢者、障害者等全ての人たちが役割と生きがいを持って活き活きと暮らすことができる地域共生社会づくりも同時に進めていくことで、それぞれの取組の可能性が大きく広がっていくと考えられます。

事例:引きこもる力を持つ「働きもん」の社会復帰と環境保全のまちづくり(滋賀県東近江市)

滋賀県の東近江市では、2014年に「協働のまちづくり条例」が施行され、この条例に基づき、ヒト、モノ、カネが地域で回る仕組みをつくり、地域資源を活かした地域完結型のまちづくりが始まっています。そのうちの取組の一つとして、里山整備を起点に生活困窮者の就労の場と薪生産・関連製造業が生まれました。東近江市では、ナラ枯れの拡大や里山管理をする人手不足等により、枯れた木々が放置され、獣害被害が深刻化していました。そこで里山再生のためのNPO法人に所属していた大工が中心となって薪を作り販売する会社である「薪遊庭」が立ち上げられましたが、採算を合わせることが難しい状況でした。

そこで、薪割り作業を担ってくれる協力者を探したところ、東近江市を通じて、近江八幡市にある障害者等の就労を支援している東近江圏域働き・暮らし応援センター「Tekito-」の紹介を受けました。「Tekito-」は、障害者だけでなく、ひきこもりの状態にある人など「働くことに工夫や少しの応援が必要な」全ての「働きもん」を対象とした支援を行っています。「Tekito-」は、担い手のいない地域の困り事を、支援対象者の就労前の「働く場」として活用し、就労支援と結び付けています。

薪は1年間外で乾燥させなければならないことから、すぐ売る必要がなく、最終的に燃やすものであり、大きさを厳密に整えることまで要求されるものではありません。このような薪を作る仕事は、「失敗」がないという特徴があります。支援対象者の中には、一般企業に就職したものの、仕事の失敗などの挫折から長い間仕事に就けなかった人も多い状況です。失敗の少ない薪割りは、自分が働けることを知ることで自信につながり、ひきこもりの状態にある人たちにとってうってつけの作業だったとのことです。また、通常の工場であれば作業工程の一つのプロセスだけを任されることになりますが、ここでは木の伐採、薪割り、販売といった一連のプロセスを現場で実感できます。自分の「作業」が地域経済の中にある「仕事」であることを理解することができ、働く人たちのモチベーションや成果物を意識した労働の姿勢などとても良い影響を与えているとのことです。その後「薪遊庭」の事業は、薪ストーブの開発や薪販売、木くずを使った着火材の製造へと活動が発展し、薪製造を通じた里山管理につながっています。さらにこれまで30人ぐらいの人々がここで中間就労の場として就労し、その後一般就労の場に就職しています。これは、様々な人たちの社会参加を促しながら、人々の脱炭素な暮らしを支える薪事業を展開する環境、福祉、地域経済を統合的に向上していく取組と言えます。

環境と福祉を同時に実現する薪遊庭の取組イメージ
薪割り作業の様子

上記の事例や、先に触れた生駒市のこみすての事例から、地域共生社会実現に向けた取組をする中で、地域の環境保全との接点を持つことにより、持続的でより豊かな取組に発展する可能性があること、また地域の環境保全活動を継続していく際に、多様な人々が参加することにより、より充実した環境保全活動が持続的に行われる可能性があることが分かります。

すなわち、薪や循環資源などの地域の資源が人と人、人と社会との「つなぎて」となることで、多様な人たちの協働を促し、地域の環境保全を図りながら、幸せに暮らしていくことのできる地域共生社会と地域循環共生圏を同時に実現できることが分かります。地域循環共生圏づくりを各地で進めていくためには、このような人々の日常生活を豊かにする地域共生社会を同時実現できる実践の試行と普及も重要です。

3 地域循環共生圏の創造に向けたESG金融の推進

地域循環共生圏を構築するためには、これまでに紹介したような具体的な取組が収益性のある自立的な事業として立ち上げられていくことが重要であり、公的資金だけでなく、民間資金も導入し、地域循環共生圏の創造に向けた取組を広めていくことが必要不可欠です。

近年、脱炭素社会への移行や持続可能な経済社会づくりに向けたESG金融(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった要素を考慮する投融資)の拡大・普及が、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)などを背景として、世界的には、欧米を中心に進んでいます。このようなESG要素に配慮した資金の流れは我が国においても、ESG投資残高が2016年から2019年の直近3年で約6倍に増加するなど急速に拡大しています(世界全体のESG投資残高に占める我が国の割合は、2016年時点では約2%にとどまっていましたが、2018年には世界全体の約7%まで拡大しています。)。

2018年7月より、環境大臣のイニシアティブで開催された「ESG金融懇談会」において、「ESG金融大国を目指して」と題する提言が取りまとめられました。同提言を踏まえ、金融・投資分野の各業界トップと国が連携して、ESG金融に関する意識と取組を高めていくための議論を行い、行動する場として2019年2月より「ESG金融ハイレベル・パネル」を開催しています。

加えて、同提言では、SDGsが目指す脱炭素社会、持続可能な社会に向けた戦略的なシフトこそ、我が国の競争力と「新たな成長」の源泉であるとの認識の下、直接金融において先行して加速しつつあるESG投資を更に社会的インパクトの大きいものへと育むとともに、間接金融においてもESG融資を推進していくことが必要であるとされました。

とりわけ、地域金融機関において地域の特性に応じたESG要素に考慮した知見の提供やファイナンス等の実施を促すため、環境省においては、地域金融機関で既に取り組まれているESG要素を考慮した融資の先行事例を調査し、2019年3月に「事例から学ぶESG地域金融のあり方」を取りまとめました。これを活用して、金融機関を対象としたESG地域金融に関する導入セミナーを全国6か所で開催しました。さらに、公募により合計9金融機関に対して、ESG要素を考慮した事業性評価のプロセス構築支援等を行いました。この支援事例を踏まえ、地域に根ざした地域金融機関を応援するため、2020年4月には、「ESG地域金融実践ガイド」を取りまとめました。このような中、例えば静岡県では、2019年8月、静岡県内全ての地域金融機関と複数の自治体、経済団体等が連携し、SDGsに絡めたESG金融等を通じて地域の環境・経済・社会の課題解決に向けた議論を行う「静岡県SDGs×ESG金融連絡協議会」が発足しました。

また、財務省では、地域の中小企業やスタートアップ企業等が様々な主体と多面的に連携することが、オープンイノベーションの創出や課題解決につながるとの認識の下、全国財務局・財務事務所がそのネットワークを活用し、企業と、地域金融機関、地方自治体、支援機関等との「つなぎ役」を果たす地域経済エコシステム形成に向けた取組を行っています。環境省も財務省との連携により、財務局・財務事務所と地方環境事務所等の協働連携を通じた地域経済エコシステム形成に取り組んでいます。

地域循環共生圏の実現に当たっては、地域の多様な事業者等とネットワークを有する地域金融機関の関与も重要になります。地域金融機関が、地域循環共生圏のビジョンや事業化の検討段階から参画し、地域の関係者のつなぎ手となるとともに、事業化に向けた助言、さらには投融資を行うことで、地域の環境・社会事業を発掘することができます。

事例:九州4銀行と環境省における中・南九州の地域循環共生圏に関する連携協定

2020年1月18日、環境省九州地方環境事務所は、肥後銀行、大分銀行、宮崎銀行、鹿児島銀行と「中・南九州の地域循環共生圏に関する連携協定」を締結しました。この協定は、緊密に連携を図りながら持続的な地方創生への対応力を強化し、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の4県における地域循環共生圏の構築を目指すものです。

地域循環共生圏の構築のためには、地域資源を持続可能な形で活用すること、持続可能なビジネスにすることが大変重要なテーマであり、事業支援力や人的つながり等を有している金融機関との連携は必要不可欠です。

それぞれの地域の多様性を生かしつつ、互いにつながる地域循環共生圏の構築と環の広がりに向けて、今後、本事例のような連携促進が期待されます。

中・南九州地域における地域循環共生圏のイメージ

事例:水質浄化技術を活用したフグの陸上養殖(滋賀銀行)

滋賀銀行では、海洋汚染の問題や水産資源の保護を背景に陸上養殖へのニーズが拡大すると認識し、滋賀中央信用金庫、長浜信用金庫、湖東信用金庫、滋賀県信用組合、しがぎんリース・キャピタル、農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)と共同で設立した「しが6次産業化ファンド」を通じて、水質浄化技術を活用したフグの陸上養殖を新規事業として実施する事業者(ウィルステージ、アクアステージ)に対して、出資を行いました。この事業では、フグを養殖する水槽において、独自のノウハウで浄化バクテリアの活動を活性化させることによって良好な水質を保ち、排水せず水槽から蒸発した水の補足分のみの水を使用する完全閉鎖型陸上養殖を行っています。

排水を行わないことによる周辺環境への負荷の軽減という環境配慮の効果や滋賀県の新たな特産品の創出という経済・社会への効果の発揮など、地域金融機関としての支援、事業価値向上や地域活性化を図っています。

陸上養殖のフグ
完全閉鎖型陸上養殖水槽

環境省では、先進的なESG金融に関する取組の実施主体や環境要素を企業経営に取り入れている企業の開示取組を評価、表彰し、広く社会で共有することで、ESG金融の普及・拡大につなげることを目的として、2019年度から「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」を創設しました(図2-2-5)。投資家部門、融資部門、金融サービス部門、ボンド部門、環境サステナブル企業部門の5部門に分けて表彰を行い、2020年2月に開催された表彰式では、環境大臣賞受賞者によるスピーチや選定委員によるパネルディスカッションが行われました。

図2-2-5 ESGファイナンスアワードのロゴマーク

4 東京オリンピック・パラリンピック競技大会を通じて次世代につなぐ持続可能な地域づくり

オリンピック・パラリンピック競技大会は、世界最大規模のスポーツイベントであり、その開催はスポーツ分野だけでなく、国内外の経済社会に大きな影響を及ぼすため、近年のオリンピックでは、環境配慮等の持続可能性が主要なテーマに掲げられています。

2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)は、大会の持続可能性コンセプトとして「Be better, together/より良い未来へ、ともに進もう。」を掲げています(図2-2-6)。なお、2020年3月30日に、東京オリンピックは2021年7月23日から8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定されました。その中で、環境面を含む持続可能な大会にすること、大会の開催を通じたレガシーとして東京及び我が国の持続可能性を高める社会変革を図っていくことが大きな柱となっています。

図2-2-6 東京2020大会の持続可能性コンセプト

東京2020大会の持続可能性の主要テーマは、「気候変動」、「資源管理」、「大気・水・緑・生物多様性等」、「人権・労働、公正な事業慣行等」、「参加・協働、情報発信(エンゲージメント)」です。環境的視点のみならず、社会全体で多様な主体が参加するダイバーシティ&インクルージョンとエンゲージメントを含めています。また、ロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会を契機に策定されたイベントの持続可能性をサポートするためのマネジメントシステムであるISO20121の認証を取得して開催される大会でもあります。以下、東京2020大会に向けての日本各地の地域資源を活用した参加型の特徴的な取組に触れながら、東京2020大会に向けた持続可能な地域づくりについて紹介します。

(1)Towards Zero Carbon、Zero Wastingの大会運営に向けた検討

東京2020大会では、気候変動対策の大目標として「Towards Zero Carbon」を掲げています。まず、大会の準備段階である会場の建設から、大会運営、観客の大会参加に伴うカーボンフットプリントについて、対策を講じなかった場合の数値をベースとし、二酸化炭素排出を回避する方策、省エネルギーや再生可能エネルギー利用等の削減方策を検討し、それでも削減できない量を他の場所での吸収や削減と相殺するカーボンオフセットにより脱炭素化を目指す取組が検討されています。

例えば、大会運営時の電力は全て再生可能エネルギーによる電気で賄うことを目指し、一部東日本大震災の被災地からの調達も行う方向で検討されています。大会関係者の移動に際して使用される車両としてCO2を排出しないFCVを導入することや、選手村で自動運転の電気自動車を活用することを検討しています。また、選手村において水素から電気を作り出して、利用する予定です。

Zero Wastingに向けた取組としては、ワンウェイプラスチック容器包装・製品等の使用を極力削減する取組を検討しています。調達する物品については最小限とし、大会後不要となるものについては、可能な限りレンタル・リースを優先する予定です。物品選択時には、リユースやリサイクルの容易性、長く使用したくなるデザインや機能性が高いものを考慮することを検討しています。

選手村での食事の提供に当たって、食品ロスを削減するため、ポーションコントロールやICT技術を活用した飲食提供数の予測などに取り組むとともに、リユース食器は衛生面からの配慮等で一部活用を計画しており、紙製の容器を中心に使用します。これまでは食べ残しがついた紙皿はリサイクルが困難でしたが、食品残さと分別してリサイクルできる仕組みを構築し、リサイクルすることを検討しています。

また、大会で発生する廃棄物を効果的、効率的に分別収集し、再資源化することを目指しています。環境省では、大規模イベント等におけるごみ分別が徹底されるよう、イベント等開催者(自治体、民間事業者)を対象としたごみ分別区分の考え方、分かりやすいごみ分別ラベルを作成する際の留意事項を「大規模イベントにおけるごみ分別ラベル作成ガイダンス」として策定しています。このガイダンスを踏まえ、ごみ分別のためのピクトグラムに、英語での種別名を添えることで外国人にも分かりやすい分別ラベルが活用される予定です。

(2)国民の協働により実現したみんなのメダルプロジェクト

東京2020大会の持続可能性の特徴として、大会準備段階からの国内の幅広い国民の参加により、大会後にも引き継げる新しい取組を行っていることが挙げられます。

「メダル」はオリンピック・パラリンピックに出場するアスリートにとって非常に重要な象徴的なものです。そのメダルを日本全国の国民の参加と協力により日本にある資源で作るプロジェクトが「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。

2017年4月から2019年3月までの2年間にわたり、東京2020組織委員会、NTTドコモ、日本環境衛生センター、環境省及び東京都が事業主体となって、使用済み携帯電話等の小型家電から抽出したリサイクル金属から、オリンピック、パラリンピック合わせて約5,000個のメダルを製作するものです。参加事業者、大会パートナー、各省庁、全国自治体、郵便局、商工会等の1万8,000か所以上の場所で小型家電が回収されました。日本各地の自治体や事業者等の一丸となった協力と国民一人一人の参加により、各家庭に眠っていた「都市鉱山」を掘り起こし、実施期間内にメダル製作に必要な金属量を確保することができました。

環境省では、本プロジェクトのレガシーとして2019年4月から自治体、小型家電リサイクル認定事業者等と連携し、「アフターメダルプロジェクト」として小型家電を回収する自治体の支援や普及・回収促進イベントの開催などにより、東京2020大会を契機とした都市鉱山のリサイクルを継続しています。

(3)東京2020大会を通じた我が国における持続可能な農畜水産業、森林管理への貢献

東京2020大会では、「東京2020大会における飲食提供における基本戦略」に基づき、食品衛生、栄養、持続可能性等への各種配慮事項を網羅した飲食提供に努めることとされており、持続可能性については、「持続可能性に配慮した調達コード」に合致した食材を調達することになっています。農産物については、調達基準を満たすものとして、ASIAGAPやGLOBALG.A.P.の認証等を受けて生産された農産物を認めています。また、推奨されるものとして、有機農業により生産された農産物や障害者が主体的に携わって生産された農産物等を挙げています。さらに、輸送距離の短縮による温室効果ガス排出の抑制等の観点から国産農産物を優先的に選択することも推奨されています。

木材については、調達基準を満たすものとして、国際的な森林認証制度であるFSC、PEFC、SGECの認証を受けた木材を認めています。また、国内の森林の多面的機能の発揮等への貢献の観点から国産材を優先的に選択することが推奨されています。

このような東京2020大会の取り組みを通じて、国内におけるGAPや持続可能な森林管理の普及につながることが期待されます。

また、メインスタジアムとなる国立競技場の軒庇(のきびさし)は、上記の認証を受けた46都道府県のスギと沖縄県のリュウキュウマツが使われ、木のぬくもりにあふれた施設になっています。また、全国63自治体から借り受けた国産木材を使用して選手村ビレッジプラザを建築し、大会後は当該木材を各自治体の公共施設などでレガシーとして活用する「日本の木材活用リレー~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」が行われています。

(4)熱中症対策

東京2020大会では、政府、東京都を始めとした開催自治体、東京2020組織委員会が一体となって熱中症対策に取り組むことが求められています。

環境省は、熱中症予防の重要な指標である「暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)」を競技会場周辺で測定・提供する他、訪日外国人等に対する普及啓発の強化、障害者等の熱中症への配慮が必要な方々への対応等を含む夏季のイベントにおける熱中症対策の知見を「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」に取りまとめ関係各所に提供する等の取組を行う予定です。

気候変動への適応の一部であり今後ますます重要になる熱中症対策を、東京2020大会を契機に一層推進できるよう、環境省と気象庁が連携して熱中症予防に関する新たな情報発信を検討しています。

(5)東京2020大会を契機とした持続可能な地域づくり

選手に授与されるメダルが市民のリサイクルの取組から生まれたこと等、東京2020大会において先駆的に取り組まれた持続可能性に係る取組を、オリンピック・パラリンピック競技がもたらす感動とともに、東京2020大会の場においてアピールすることで、世界に広く発信されることが期待されます。

東京2020大会の持続可能性を高める取組は、東京及び日本の各地域の市民や事業者との連携、協働の下、金等の金属、プラスチックといった資源の循環利用、ゼロカーボンや適応の取組、地域における持続可能な食の生産や森林づくり等を促すものであり、まさに、地域循環共生圏の構築に資する取組になっています。このように東京2020大会に向けて広がった小型家電等の循環利用の取組や持続可能な食の生産や森林づくりがレガシーとして日本各地で、そして世界にも広がっていくことが期待されます。

5 気候変動への対応に向けた更なる展開

気候変動等による経済・社会システムへの影響が深刻化する中、脱炭素社会等持続可能な経済社会づくりに係る政府、企業、地方自治体等の取組及び環境、経済、社会の課題を一体的に解決する地域循環共生圏の取組等社会変革に向けた取組が待ったなしの状況になっています。

第1節では、「気候変動×防災」という観点から、気候変動の緩和と適応対策を講じていくことの必要性等について述べました。今後、第2節で紹介した、地域循環共生圏の取組を各地で広げていくに当たっては、「気候変動×防災」という観点からグリーンインフラやEco-DRRを通じた生態系を活用した防災・減災や防災拠点における分散型エネルギーシステムや適応ビジネスの導入など、災害に強い「まちづくり」に積極的に取り組んでいくことが重要です。

また、第1節で紹介した気候変動等に対応する各主体の取組、第2節で紹介した地域循環共生圏の地域づくりに係る取組は、それぞれ独立したものではなく、相互に関連し、相乗効果をもたらし得るものです。例えば、ゼロカーボンを宣言した自治体において、地域の再生可能エネルギーによる電気の供給や小売り販売する地域新電力等の地域循環共生圏構築に向けた取組が進められることにより、RE100等脱炭素化に向けて取り組む企業の再生可能エネルギー電力の調達が容易になり、またこのような需要家の存在が、地域における再生可能エネルギーの供給事業の発展を支えることになります。

このような地球環境の危機への対応の取組は、本章で述べたとおり、環境省だけでなく、関係省庁との協働により、各省庁が展開するそれぞれの施策と有機的に連携を図りつつ、日本各地で展開していくことで地域の経済社会の変革を図っていくことが求められます。我々の生存基盤である地球環境の保全をベースとして、経済社会の発展や住みやすい都市・農山漁村づくり、社会福祉の向上に資するよう進めることで地域循環共生圏を実現することが可能です。

2020年は、政府をはじめとした気候変動への対応を一層加速化するとともに日本発の地域のSDGs・脱炭素化構想である地域循環共生圏の創造を各地で進めることで「社会変革」を始める出発の年と言えるでしょう。