環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 気候変動問題

第2節 気候変動問題

1 近年の気象災害等の動向

個々の気象災害と地球温暖化との関係を明らかにすることは容易ではありませんが、地球温暖化の進行に伴い、今後、豪雨災害や猛暑のリスクが更に高まることが予想されています。本節では、近年の主な気象災害等の状況について振り返ります。

(1)近年我が国で起こった気象災害
ア 平成30年7月豪雨

2018年6月下旬から7月上旬にかけて、前線や台風7号の影響により、日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。6月28日から7月8日にかけての総雨量は、四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となったところもあったほか、24、48、72時間降水量が中国地方、近畿地方など多くの地点で観測史上1位となりました。気象庁によるとこの広域で持続的な大雨をもたらした要因は、梅雨前線が、非常に発達したオホーツク海高気圧と日本の南東に張り出した太平洋高気圧との間に停滞したことですが、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあったとされています。

この豪雨により、岡山県、広島県、愛媛県を中心に237人が犠牲になり(2019年1月9日時点)、約7,000件の家屋が全壊するなど、多くの被害が発生しました(写真1-2-1)。

写真1-2-1 平成30年7月豪雨の被害の様子

平成30年7月豪雨の水害被害額(建物被害額等の直接的な物的被害額等)は1兆1,580億円(暫定値)とされています。単一の豪雨としては、我が国の統計開始以来最大の被害額となりました。

イ 令和元年房総半島台風(台風第15号)

令和元年房総半島台風は、2019年9月9日に強い勢力で千葉県千葉市付近に上陸し、伊豆諸島や関東地方南部を中心に猛烈な風、猛烈な雨をもたらし、特に、千葉市で最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートルを観測するなど、多くの地点で観測史上1位の最大風速や最大瞬間風速を観測する記録的な暴風となりました。また、この台風によってもたらされた暴風等によって、電柱の破損、倒壊等があり、千葉県内では全面復旧までに2週間以上を要する大規模停電も発生しました。

この台風により、1人が犠牲となり(2019年12月5日時点)、約340件の家屋が全壊するなど、多くの被害が発生しました(写真1-2-2)。

写真1-2-2 令和元年房総半島台風の被害の様子

また、長期間にわたる大規模停電により多くの熱中症が発生する事態になりました。

ウ 令和元年東日本台風(台風第19号)等

令和元年東日本台風は10月12日に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸し、10日から13日までの総雨量は神奈川県箱根町で1,000ミリに達し、東日本を中心に17地点で500ミリを超え、静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方の1都12県に大雨特別警報が発表されるなど広い範囲で記録的な大雨をもたらす台風となりました。また、東京都江戸川臨海で観測史上1位の値を超える最大瞬間風速43.8メートルを観測するなど、関東地方の7か所で最大瞬間風速40メートルを超える暴風となりました。

この台風により、長野県長野市などを流れる千曲川をはじめ東日本を中心に約140か所の堤防が決壊するなど、各地で甚大な浸水被害が発生しました(写真1-2-3)。

写真1-2-3 令和元年東日本台風による被害の様子

10月24日から26日にかけて低気圧が西日本、東日本、北日本の太平洋側沿岸に沿って進みました。この低気圧に向けて南から暖かく湿った空気が流れ込むとともに、日本の東海上を北上した台風第21号周辺の湿った空気が流れ込んで、大気の状態が非常に不安定となり、関東地方から東北地方の太平洋側を中心に広い範囲で総降水量が100ミリを超え、特に千葉県や福島県を中心に総降水量が200ミリを超える記録的な大雨となりました。

この台風等によって、99人が犠牲となり(2020年1月10日時点)、約3,200件の家屋が全壊するなど、多くの被害が発生しました。

エ 2018年における猛暑

2018年、夏(6~8月)の東・西日本は記録的な高温となり、夏の平均気温は、平年に比べて東日本で+1.7℃と気象庁における統計開始以降で最も高くなりました。特に梅雨が明けた7月中旬から下旬にかけて全国的に気温が高くなり、埼玉県熊谷市で日最高気温が歴代全国1位となる41.1℃など、各地で40℃を超える気温が観測されました。気象庁によると7月中旬以降の記録的な高温は、太平洋高気圧と上層のチベット高気圧がともに日本付近に張り出し続けたことが要因ですが、地球温暖化を反映した気温の長期的な上昇傾向も記録的な高温に影響したとされています。

猛暑の影響により2018年5月から9月までの間の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は95,137人(消防庁報告データによる)と統計開始以来最多、死亡者数も1,581人(厚生労働省人口動態統計による)と過去2番目の多さに達しました(図1-2-1)。

図1-2-1 救急搬送人員の年別推移

コラム:2018年7月の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響について

2018年7月は全国的に記録的な猛暑になりました。中でも7月23日は埼玉県熊谷市で日最高気温が歴代全国1位となる41.1℃など各地で40℃を超える気温が観測されました。気象庁気象研究所、東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所の研究チームは2018年7月の記録的な猛暑に対する地球温暖化の影響と猛暑の発生回数の将来見通しを評価しています。

従来、異常気象については、過去に数回しか経験したことがないため観測記録が少なく、また大気が本来持っている「揺らぎ」が偶然重なった結果発生するため、一つ一つの事例について温暖化の影響のみを分離することが難しく、温暖化の影響を科学的に証明することは困難とされていました。

しかしながら、近年の計算機能力の飛躍的な発展により、発生する可能性のある偶然の揺らぎを、大量の気候シミュレーションによって定量的に評価する「イベント・アトリビューション」という手法が発展してきています。上記研究チームはこの手法を用いて2018年7月の記録的な猛暑に対する地球温暖化の影響と猛暑の発生回数の将来見通しを計算し、評価した結果、工業化以降の人為起源による温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化を考慮しなければ、2018年のような猛暑は起こりえなかったことが明らかになりました。また、工業化以降の世界の気温上昇が2℃に抑えられたとしても、国内での猛暑日の発生回数は現在の1.8倍となると推定されています。

2018年7月の地上における月平均気温平年差
(2)近年の国外で起こった気象災害等

世界気象機関(WMO)によれば、2019年の世界の平均気温は観測史上、2016年に次いで2番目に高い年となり、欧州では記録的な熱波を経験しました。フランスでは6月下旬と7月下旬の二度にわたり熱波が襲い、死亡率は例年より9.1%上昇し、関連の死亡者は1,435人に上ったとされています。6月28日にはフランス南部で観測史上最高となる46.0℃を記録するとともに、7月25日にはパリで最高気温が72年ぶりに42.6℃と塗り替えられました。なお、フランスでは2003年にも記録的な熱波を経験しており、15,000人以上が死亡するという事態が発生しています。

図1-2-2 2019年の世界各地の異常気象

WMOによれば、2019年を通じてシベリア、アラスカなどの北極圏で火災が発生し、夏期森林火災によるCO2排出量はここ17年間で最高を記録しました。オーストラリアでも、2019年9月から、長期的かつ広範囲にわたる山火事が発生し、2020年初めで、死者数33人、住宅焼失2,000軒以上、延焼面積700万haを記録しました(写真1-2-4)。

写真1-2-4 豪州の森林火災

2019年3月のサイクロンにより、東アフリカ南部で関連の死者数900人以上を記録しました。同年のハリケーン「ドリアン」は、強い風と豪雨で米国のバージン諸島とプエルトリコに影響を与え、その後勢力を強め、9月1日バハマに上陸し、バハマにおける記録上最も影響を与えたハリケーンになりました(写真1-2-5)。11月にはベネチアで高潮で水位が1.85m上昇しました。

写真1-2-5 ハリケーン「ドリアン」による被害

さらにWMOによれば、2020年2月には地球温暖化の影響が懸念される南極で過去最高となる気温18.4℃が観測されたと発表しています。

2 気候変動問題の概要と科学的知見

(1)気候変動問題の概要
ア 気候変動のメカニズム

地球の長い歴史で見ると、気候は必ずしも定常的なものではなく、様々な変動をしています。地球規模の気候変動をもたらす要因としては、地球の公転軌道の変動や太陽活動の変化などの気候システム外部からの影響によるものや熱帯太平洋の海面水温が数年規模で変動するエルニーニョ/ラニーニャ現象など気候システム内部の影響によるものがあります(図1-2-3)。

図1-2-3 地球規模の気候変動をもたらす主な要因

気候システム外部である太陽から放射するエネルギーを受けると、地球は暖められます。宇宙空間へエネルギーが放出されると冷えますが、宇宙空間へのエネルギー放出が妨げられると地表の温度は上昇します(図1-2-4)。このように宇宙へのエネルギー放出を妨げる効果をもつガスを温室効果ガスと言います。自然に存在する温室効果ガスとして水蒸気、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素、オゾン等があり、このおかげで世界の平均地表面の温度は約14℃に保たれています。人為的に発生する温室効果ガスには、CO2、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等があります。メタン、一酸化二窒素、HFC等の一定量当たりの温室効果は、CO2に比べてはるかに高いと言われています。例えば、HFCは、CO2の数十から一万倍超の温室効果を持つと言われています。ただし、量で見るとCO2の量が極めて多く、地球温暖化に最も寄与している温室効果ガスはCO2になります。大気中のCO2濃度は、産業革命以降急激に増えており、現在の平均濃度は400ppmを超えています(図1-2-5)。温室効果ガスは自然にも存在するものですが、過度に温室効果ガスが増えると、それに伴い気温も上昇し、私たちの生活にも影響を与えることになります。

図1-2-4 気候変動の主な要因
図1-2-5 大気中のCO2の平均濃度の推移
イ 気候変動の影響

○真夏日・猛暑日の増加

温暖化により生じる影響としては、まず気温の上昇そのものによる影響が挙げられます。機器を用いた観測が広く開始された19世紀後半以降、世界の年平均気温は変動を繰り返しながら上昇しています。我が国でも同様に変動を繰り返しながら上昇を続けており、日本の年平均気温は、100年当たり1.21℃の割合で上昇しています。今後もこうした傾向が続くと言われており、真夏日・猛暑日や熱帯夜の増加が予測されています(図1-2-6)。私たちの健康との関係では、熱中症の増加が懸念されます。先にも述べた2018年7月の記録的な猛暑は記憶に新しいところですが、こうした猛暑が繰り返し到来する可能性があります。

図1-2-6 我が国における平均気温偏差、猛暑日の日数

○降水と乾燥の極端化

温暖化によって世界的に雨の降り方が変化すると予測されています。一般に、温暖化すると海水面の温度が上昇し、大気に供給される水蒸気の量が増えるため、降水量の増加につながります。このため、湿潤な地域の多くでは降水量が増加し、しかも極端な大雨が増加すると予測されています。一方で、世界の各地域の気候は大気の流れや地形によってさまざまであり、もともと雨の少ない、乾燥した地域の多くでは降水量が減少し、さらに乾燥化が進むとも予測されています。個々の地域の気候はこの他にも様々な要因を受けて決定されるので一概には言えませんが、このように地球温暖化が進むと全体的な傾向として気象が激しくなることが予測されています。

我が国では、年降水量については有意な傾向は見られませんが、大雨による降水量、発生頻度ともに全国的に増加の傾向にあり、平成30年7月豪雨のような水害や土砂災害の発生回数の増加が今後も懸念されます。また、無降水日も全国的に増加の傾向にあり、将来的にも増加の傾向が予想されています(図1-2-7)。

図1-2-7 我が国における大雨の強さ、頻度の傾向と降水日数の傾向

2019年12月から2020年2月までの日本の天候は、東・西日本で記録的な暖冬となりました。冬の降雪量は全国的にかなり少なく、北・東日本日本海側で記録的な少雪となりました。21世紀末には、冬季における積雪・降雪については、特に本州日本海側で大きな減少が予測されています。他方で、本州や北海道の内陸部では、10年に一度しか発生しない豪雪が現在より高頻度で現れるとの報告もあります。雪が降らなくなる地域では、スキーなど雪が降ることを前提としていた産業等に深刻な影響を与えます。また豪雪の頻発化は運輸・交通を始め幅広いセクターに影響を与えます。

○海水温・海面水位の上昇

温暖化は、海水温の上昇や海面水位の上昇等ももたらすと言われています。気候システムに蓄積されたエネルギーの増加量のうち、海洋に蓄積されたエネルギーが占める割合は極めて大きく、約90%以上が海洋への蓄積です。地球温暖化により、海水が温められ、熱膨張により海面の水位が上昇します。また、グリーンランドや南極の氷床の減少等によっても海面が上昇します。島嶼(しょ)国では海面水位の上昇により国土の喪失が懸念されています。

○生物への影響

気候変動により、生物への影響もあります。人の健康に直接影響し得るものとして、温暖化によりこれまで寒冷であった地域が温暖になることで感染症を媒介する昆虫の生息域が変化する可能性があります。我が国では、デング熱等を媒介するヒトスジシマカの生息域が変化し、デング熱等のリスクを増加させる可能性が指摘されています。生息域の拡大が直ちに国内感染のリスクに結びつくものではないものの、こうした感染症との関係も考える必要があります。

また、農林水産業においても、地域や品目によって様々ですが、作物の品質の低下や栽培適地の変化等が懸念されます。一方で新たな作物の生産が可能となる地域もあります。例えば、私たちの主食の一つであるコメについては、既に気温上昇による品質の低下が確認されており、一部の地域や極端に高温の年には収量の減少も見られています。また、海水温の変化や海洋がより多くのCO2を吸収することによる海洋酸性化の進行に伴う海洋生物の分布域の変化が世界中で報告されています。我が国でも一部の魚種について、高水温が要因とされる分布・回遊域の変化が日本海を中心に報告され、漁獲量が減少している地域もあります。

さらに、野生動植物への影響も懸念されます。我が国では、21世紀末には東北地方の全ての高山帯、中部山岳域のほとんどの高山帯に相当する環境を持つ地域が消失すると予測されています。例えば、日本アルプスに生息するライチョウについて個体数の減少などの影響があると言われています。また、気候モデルを用いて全国及び各地域を対象にブナ林の将来の適域の予測を行った研究によれば、将来の気候下では、世界自然遺産である白神山地のブナ林の適域が大幅に減少する可能性も指摘されています。

○経済・社会システムへの影響

地球はその誕生以降、温暖な時期と寒冷な時期を繰り返してきたことが知られています。図1-2-8に示すとおり、直近の6万年だけでも温暖な時期と寒冷な時期を繰り返してきました。ここで注目されるのは、ここ1万1600年ほどは極めて安定的に温暖な気候が保たれてきたことです。

図1-2-8 グリーンランドの氷に含まれる酸素同位体比から復元された、過去6万年の気候変動

現代の私たちの食料は、狩猟・採取ではなく、専ら農耕や牧畜等によって支えられています。そして土地を開発してインフラを整備し、その基盤に立脚して工業製品等を製造・流通させ、物質的に豊かな生活を享受しています。こうした経済・社会のシステムは、1年のうちに温暖な時期や寒冷な時期があるにしても、「基本的には来年も概ね同じ気候である」という前提の上で営まれてきたものです。今後、今以上に急激な気候の変化はこうした前提を覆しかねないものと言えます。

(2)IPCCによる科学的知見の集約
ア IPCCについて

こうした気候変動問題を議論する際には、科学的知見の集約が必要不可欠であることから、気候変動に関連する科学的、技術的及び社会・経済的情報の評価を行い、得られた知見を政策決定者を始め広く一般に利用するため、WMO及び国連環境計画(UNEP)により1988年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立されています。IPCCは195の国・地域が参加する政府間組織であり、5~7年ごとに評価報告書、不定期に特別報告書などを作成・公表しています。IPCCの報告書は、数多くの既存の文献を基に議論され、最終的に多くの科学者、政府がレビューすることにより取りまとめられます。例えば、後述する第5次評価報告書は世界中で発表された9,200以上の科学論文が参照され、800人を超える執筆者により、4年の歳月をかけて作成されています。

イ 第5次評価報告書

直近の評価報告書としては、2013年9月から2014年11月にかけて、第5次評価報告書がIPCC総会において承認・受諾されています。第5次評価報告書では、第4次評価報告書に引き続き気候システムの温暖化は疑う余地がないことがないことが改めて示されました。また、人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと(95%以上)も示されました。これまでのIPCC評価報告書における人間活動が及ぼす温暖化への影響についての評価は、表1-2-1に示すとおりです。20世紀以降の温暖化の要因は人為的なものであることの可能性は報告書を重ねるたびに高まっていることが分かります。

表1-2-1 IPCC評価報告書における人間活動が及ぼす温暖化への影響についての評価

また、同報告書では、気候変動は全ての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えており、温室効果ガスの継続的な排出により、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まることなどが示されています。

さらに、気候変動を抑制する場合には、温室効果ガスの排出を大幅かつ持続的に削減する必要があることが示されると同時に、将来、温室効果ガスの排出量がどのようなシナリオをとったとしても、世界の平均気温は上昇し、21世紀末に向けて気候変動の影響のリスクが高くなると予測されています(図1-2-9)。すなわち、いずれのシナリオをたどったとしても、一定の温暖化が避けられないことが示唆されています。なお、図1-2-9に示すRCP2.6~8.5とは、2100年時点での放射強制力に対応した温室効果ガスの濃度を仮定した濃度シナリオを意味します。放射強制力とは、気候に与える影響力を定量的に評価し比較するための物差しとなるもので、地球のエネルギー収支のバランスを変化させる様々な人為起源及び自然起源の要因の影響力を意味します。正の放射強制力は地表面を加熱し、負の放射強制力は冷却します。RCP8.5は温室効果ガスの排出抑制に向けた追加的な努力を行わない場合のシナリオであり、RCP2.6は21世紀末に温室効果ガスの排出量をほぼゼロにした場合のシナリオです。RCP4.5と6.0はその中間シナリオです。

図1-2-9 世界平均地上気温の変化

同報告書では、以上に加えて2100年までの範囲では、人為起源の発生源のCO2累積排出量と予測されている世界平均気温の変化量の間に、ほぼ比例の関係があることも明らかにしています。このことは、気候変動の影響を一定以下に収めようとすると吸収量を踏まえた人為的な累積排出量に一定の上限があること、すなわちカーボンバジェット(炭素予算)の存在を示唆しています。

ウ 2℃目標と1.5℃努力目標について

第5次評価報告書の公表された翌年、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議において、2020年以降の温室効果ガスの排出削減等に向けた取組を進めるための枠組みとして、パリ協定が採択されました。パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することなどが設定されました。

他方で同会議では1.5℃に関する科学的知見の不足も指摘され、気候変動枠組条約はIPCCに対し、1.5℃の気温上昇に着目して、2℃の気温上昇との影響の違いや、気温上昇を1.5℃に抑える排出経路等について取りまとめた特別報告書を準備するよう招請しました。これを踏まえ、2016年4月のIPCC第43回総会において特別報告書の作成が決定され、2018年10月に開催されたIPCC第48回総会においては、1.5℃特別報告書(正式名称「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書」)が承認・受諾されました。

同報告書では、世界の平均気温が2017年時点で工業化以前と比較して約1℃上昇し、現在の度合いで増加し続けると2030年から2052年までの間に気温上昇が1.5℃に達する可能性が高いこと、現在と1.5℃上昇との間、及び1.5℃と2℃上昇との間には、生じる影響に有意な違いがあることが示されました。

約1℃というとささいな上昇のように思えますが、気温が約1℃上昇している中、近年の激甚な気象災害に温暖化が寄与した例が指摘されるなど、具体的な影響が現れ始めています。

1.5℃報告書では、さらに将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後には世界のCO2排出量が正味ゼロとなっていること、これを達成するには、エネルギー、土地、都市、インフラ(交通と建物を含む。)及び産業システムにおける、急速かつ広範囲に及ぶ移行(transitions)が必要であることなどが示されています(図1-2-10、表1-2-2、図1-2-11)。

図1-2-10 1850~1900年を基準とした気温上昇の変化
表1-2-2 1.5℃と2℃の地球温暖化に関する主な予測の比較
図1-2-11 気温上昇を1.5℃に抑える排出経路における、人為起源CO2排出量
エ 土地利用対策等の重要性

気候変動によって生じる大雨や干ばつ等により、私たちがこれまで大地から受けてきた恩恵、とりわけ食料生産がこれまでどおりにはいかなくなる可能性があります。2019年8月に開催されたIPCC第50回総会において承認・受諾された土地関係特別報告書(正式名称「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書」)では、気候変動と土地の関係性について詳しく論じられています。IPCCによる気候変動と土地に関する科学的知見の評価は、これまでの報告書でも行われたことはありましたが、この報告書では、食料安全保障などにも深くかかわる天然資源管理を直接的・間接的に促す様々な要因に注目しながら、従来よりも土地(陸域)の現状や関連する問題についてより深く分析がされています。

同報告書では、気候変動は、土地に対して追加的なストレスを生み、人間や生態系に影響を与えるとし、気候変動は食料システムに対する既存のリスクを悪化させ、2100年に気温上昇が収まるシナリオでは、2050年に穀物価格が7.6%増加することが示されています(中央値。前提とする排出経路によって1~23%の幅がある。)。

また、土地は単に気候変動の影響を受ける主体であるだけでなく、人間の土地利用の在り方が気候変動に大きな影響を与えていることが述べられています。具体的には、同報告書では、農業、林業及びその他土地利用は、人為起源温室効果ガス総排出量の約23%を占めるとともに、食料生産に伴う加工、流通等を含めた世界の食料システムの排出量は21~37%を占めるとしています。

なお、我が国では農業分野からの温室効果ガス排出量の割合は産業部門(工場等)や運輸部門に比べて小さい状況です。もっとも我が国は食料自給率が低く、食料や飼料の多くを輸入に頼っていることからサプライチェーン全体で考えると食料等を生産した国の農地で発生する温室効果ガスも我が国とも無関係ではありません。

また、食品ロス・廃棄対策が、気候変動対策にとっても有効であることが示されたことも注目されます。同報告書においては、2010年から2016年に食品ロス・廃棄からの排出は人為起源温室効果ガス排出量の8~10%を占めるとし、食品ロス・廃棄を削減し、食生活における選択に影響を与える政策を含む、食料システム全体にわたる政策は、より持続可能な土地利用管理、食料安全保障強化及び低排出シナリオを可能とすることが指摘されています。

さらに、森林施業、適切な輪作、有機農業、花粉を運ぶ昆虫等の保全などの持続可能な土地管理は、土地劣化を防止及び低減し、土地生産性を維持し、場合によっては気候変動が土地劣化に及ぼす悪い影響を覆し得ることが示されました。

図1-2-12 世界の土地生産性のトレンド
オ 気候変動の大きな影響を受ける海洋・雪氷圏

気候変動の影響は、陸上だけではありません。地球の表面の多くの部分は海洋に覆われており、膨大な量の熱とCO2を吸収しているなど海洋は地球の気候システムにおいて重要な役割を果たしています。また、氷河や極地といった寒冷な地域は地球温暖化の影響に非常に敏感な地域です。このように気候変動問題を考えるに当たっては、海洋や雪氷圏の関係性を考えることは重要です。2019年9月に開催されたIPCC第51回総会では、海洋・雪氷圏特別報告書(正式名称「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」)が承認・受諾されています。過去の報告書でも海洋や雪氷圏に関する科学的な評価は含まれていますが、近年、気候変動に関する海洋等に対する国際的な関心が高まっていることなどを踏まえ、IPCCとして初めて海洋や雪氷圏を主要なテーマとして取り上げたのがこの報告書です。

同報告書では、観測された変化及び影響として、雪氷圏が広範に縮退し氷床及び氷河の質量が消失するとともに、積雪被覆並びに北極域の海氷の面積及び厚さの減少、永久凍土の温度上昇が見られるとしています。さらに、世界平均海面水位の上昇が20世紀の約2.5倍の速度で進んでおり、これに氷床と氷河の融解が大きく寄与していると指摘しています。また、今後、極端な水位上昇の頻度が増加し、沿岸の都市や小島嶼(しょ)では、100年に1回レベルの水位上昇が今世紀半ばまでに毎年のように起こる可能性も指摘されています。

20世紀以降の海洋の温暖化は、海洋生態系にも影響を与え、潜在的な最大漁獲量の全体的な低下に寄与するとともに、人間活動、海面上昇、温暖化、極端な気候イベントの複合影響により、沿岸湿地のほぼ50%が過去100年間で失われたとしています。今後、今世紀末までにRCP8.5シナリオの場合には食物網全体にわたる海洋生態系のバイオマスは約15%減少し、潜在的な最大漁獲量は約20~25%減少すると言われています(RCP2.6の3~4倍)。また、2100年までに世界の沿岸湿地の20~90%が消失するともしています。

図1-2-13 海洋に関連する、気候変動影響(サイクロン、大雨、干ばつ、海洋熱波等)の発生箇所

コラム:ティッピング・ポイント

「ティッピング・ポイント(tipping point)」とは、少しずつの変化が急激な変化に変わってしまう転換点を意味します。気候変動についても、人為起源の変化があるレベルを超えると、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があることが指摘されています。地球環境の激変をもたらすこのような事象は、「ティッピング・エレメント」と呼ばれています。現在指摘されているティッピング・エレメントの例として、グリーンランドや南極の氷床の不安定化などが指摘されています。

海洋・雪氷圏特別報告書においては、グリーンランド氷床の衰退について突然の可能性ではないものの、起きてしまうと何千年も元に戻すことができないと評価しています。また、氷山による船の航行への影響や海面上昇に大きな影響があるとしています。

西南極の一部の氷床の崩壊については、RCP8.5シナリオの場合には21世紀後半に突然起こるとしており、起きてしまうと何千年も元に戻すことができないとしています。これは、海面上昇と海塩濃度の局所的低下に大きな影響を与えるとしています。

ティッピング・ポイントのイメージ、グリーンランドの氷床
(3)我が国の科学者からの警鐘

IPCCの累次の報告書からは気候変動問題に対する科学から繰り返し警鐘が鳴らされていることが分かります。我が国でも2019年9月に開催された国連気候行動サミットに先立ち、地球温暖化への取組に関する緊急メッセージが日本学術会議会長談話として発表されています。この緊急メッセージでは、[1]人類生存の危機をもたらし得る地球温暖化は確実に進行していること、[2]地球温暖化抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばならないこと、[3]地球温暖化抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食料の統合的管理が必要であること、[4]陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は地球温暖化抑制にも重要な役割を果たしていること、[5]将来世代のための新しい経済・社会システムへの変革が早急に必要であるとしています。

3 国際的な議論の潮流

(1)気候変動問題は世界の主要課題に

気候変動に対する危機感は世界中に広がっています。2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、その中核をなすものとして持続可能な開発目標(SDGs)を提示しています。SDGsは環境、経済、社会の向上にかかる17のゴール及び169のターゲットから構成される、途上国と先進国共通の持続可能な社会づくりを実現するための目標です。17のゴール、169のターゲットが相互に関係していて、複数の課題を統合的に解決することを求めています。この中にもゴール13(気候変動)の目標のほか、ゴール7(エネルギーアクセス)やゴール12(持続可能な生産・消費)など気候変動とも関連のある目標が設定されています。

また、世界経済フォーラムは、ビジネス界、政界、学会、社会におけるリーダーが参加し、世界・地域・産業のアジェンダを形成する国際機関ですが、同フォーラムが2020年1月に公表したグローバルリスク報告書2020年版では、今後10年以内に予想されるリスク(グローバルリスク)について、発生の可能性が高く、影響の大きいリスクに気候変動や自然災害といった環境関連のカテゴリーが挙がっています。時系列でその変遷を見ると、一部のリスクは見直しが行われ、各年のグローバルリスクは厳密には比較できないものの、主要なグローバルリスクは年々、経済関連のリスクよりも環境関連のリスクが上位になっている傾向が見てとれます。2020年版では、初めて発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5番目までが全て気候変動問題を中心とした環境関連のリスクとなりました(図1-2-14)。このように気候変動問題は世界の主要な課題となっています。

図1-2-14 2020年のグローバルリスクの展望、グローバルリスクの展望の変遷(2007-2020)

気候変動の影響を受けやすいのは、一般的にインフラ整備等が途上である新興国や途上国と言われていますが、先進諸国も無関係ではありません。ドイツの環境シンクタンクであるジャーマンウォッチが2019年12月に発表したレポートによれば、1999年から2018年の間で気候変動の影響を最も受けた国として、プエルトリコ、ミャンマー、ハイチを挙げていますが、2018年では、日本、フィリピン、ドイツの順になっています。我が国が最も影響を受けたとされたのは、平成30年7月豪雨や猛暑等によるものです。気候変動問題は、我が国を含めた先進国にとっても対処しなければならない大きな課題と言えます。

(2)気候変動は経済・金融のリスクに

気象災害は一たび起これば巨額の損害が発生する可能性があることから、気候変動問題は経済・金融のリスクと認識されるようになっています。国連国際防災戦略事務局(UNISDR)が2018年10月10日に発表した報告書(Economic Losses, Poverty & DISASTERS 1998-2017)では、1998年から2017年の直近20年間の気候関連の災害による被害額は2兆2,450億ドル(全体の被害額2兆9,080億ドルの77%)と報告されていますが、これは、1978年から1997年の20年間に生じた気候関連の災害による被害額8,950億ドル(全体被害額1兆3,130億ドルの68%)に比べて約2.5倍です。

また、スイス・リー・インスティテュートによれば、1970年から2018年にかけての保険損害額の推移を見ると気象に関連する大災害による保険損害額の増大が確認できます(図1-2-15)。我が国でも一般社団法人日本損害保険協会の調べによれば、風水災等による過去の支払保険金を金額順に並べた場合、平成後半に起こった災害が上位となっていることが確認できます(表1-2-3)。

図1-2-15 1970~2018年の大災害による保険損害額の推移
表1-2-3 風水災等による保険金の支払い

さらに2020年1月には、国際決済銀行とフランス銀行が、気候変動がシステミックな金融危機を引き起こす可能性等について論文として公表しています。

また、昨今では座礁資産からの引き揚げ(ダイベストメント)や、企業への積極的なエンゲージメントの動きが進み、欧州を中心に金融市場では気候変動リスク等を投融資判断に加えることがスタンダードとなりつつあります。

(3)気候非常事態宣言の広がり

海外の都市を中心に気候非常事態を宣言する動きも広がっています。2016年12月に宣言をしたオーストラリアのメルボルンにあるデアビン市を皮切りに、世界各地で国、自治体、大学等が気候変動への危機感を示し、緊急行動を呼びかける「気候非常事態宣言」を行う取組が広がっています。世界各地での気候非常事態宣言の取りまとめを行っているClimate Emergency Declaration and Mobilisation in Actionによれば、2020年4月2日時点で28か国の1,482の自治体等(8億2,000万人の人口規模に相当)が宣言しています。なお、このうち、我が国の自治体は、2020年3月18時点で長崎県壱岐市など15自治体となっています。

(4)「気候変動」から「気候危機」へ

気候変動問題は、私たち一人一人、この星に生きる全ての生き物にとって避けることのできない、緊喫の課題です。先に述べたように世界の平均気温は既に約1℃上昇したとされています。近年の気象災害の激甚化は地球温暖化が一因とされています。今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって、今後、豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化などが予測されており、将来世代にわたる影響が強く懸念されます。こうした状況は、もはや単なる「気候変動」ではなく、私たち人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。

コラム:気候変動問題に関する若者の動き

世界経済フォーラムの世界の18歳から35歳を対象とした調査によると、世界で影響している最も深刻な問題は何かの設問に対して、最も多い回答が、「気候変動や自然破壊」で、約49%が回答しています。また、気候変動は人間によるものということが科学者により立証されているということについて約91%が同意しているなど、最も深刻な世界的問題である気候変動への関心が高いという結果が出ています。

2019年9月にニューヨークで行われた国連気候行動サミットや同年12月にマドリードで行われた気候変動枠組条約第25回締約国会議では、スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんによる気候変動に対する若者の危機感を切実に訴えるスピーチが世界から大きな注目を集めました。グレタさんは、当時15歳であった2018年8月にたった一人でスウェーデンの国会議事堂前で気候変動対策を求める学校ストライキを始め、この取組はSNSを通じて全世界に広まり、Fridays For Future(未来のための金曜日)と呼ばれる取組になっています。

こうした若者を中心にした気候変動問題への関心の高まりは、我が国でも動きが見られます。特色のあるものとして、例えば、長野県白馬村では、気候変動問題に関心のある白馬高等学校からの提案が契機となり、2019年12月に気候非常事態宣言が行われました。また、同村は冬季にスキーをする観光客で賑わいますが、2020年は暖冬による雪不足で短期間しか開放できないゲレンデがある状況となりました。こうした状況を受け、2月には白馬高等学校の生徒により、雪上でのグローバル気候マーチがスキー場で行われています。また、この取組が行われた前後では、このスキー場では、稼働するゴンドラ、リフト、降雪機などの全電力を再生可能エネルギーで賄いました。また、浜松開誠館中学校・高等学校では、気候変動問題やグレタさんの取組を学んだ生徒が、浜松市内で数百人規模の気候マーチを実施していますが、再生可能エネルギーへの転換等の対策を訴える政策提言を作成して、静岡県知事、浜松市長、同市市議会議長に手交するとともに、新聞にも気候危機を訴える一面広告を掲載しています。さらに、同校教員も生徒の取組を支持し、中学校・高等学校として初めてRE Actionへ参加するなど具体的なアクションを起こしています。

こうした中で、環境省では気候行動サミット期間中や気候変動枠組条約第25回締約国会議直前などに小泉進次郎環境大臣と気候変動対策に取り組む環境関係学生団体や環境NGO等との意見交換を行いました。今後も政府として、気候変動による影響を最も受ける若者たちの声を真摯に受け止め、気候変動対策を推進していきます。

グレタ・トゥーンベリさんがCOP25で演説をする写真、スノーリゾートから気候変動を考える3日間、川勝静岡県知事との対話の様子

4 気候変動に関する国際的な施策の動向

2015年12月にパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21。以下、この節において、気候変動枠組条約締約国会議を「COP」という。)では、全ての国が参加する新たな国際枠組みとしてパリ協定が採択されました。本節では、気候変動に関する国際的な施策の動向として、まず、世界のCO2排出量等について述べた上で、パリ協定の概要を改めて紹介するとともに、2019年12月にマドリードで行われたCOP25の結果概要について紹介します。最後に、2019年6月に開催された「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」の結果概要についても、紹介します。

(1)世界及び日本の温室効果ガスの排出量の状況

国連環境計画(UNEP)によると、2018年の世界の人為起源の温室効果ガスの総排出量は、全体でおよそ553億トンとされています。また、世界の温室効果ガス排出量は、毎年1.5%程度の割合で増加しており、今後も増え続けることが予想されています(図1-2-16)。

図1-2-16 世界の温室効果ガス排出量の推移

一方、我が国の2018年度の温室効果ガス排出量(確報値)は、12億4,000万トン(CO2換算)であり、2014年度以降、5年連続で減少しています(図1-2-17)。また、我が国から排出される温室効果ガスの約9割以上をCO2が占めており、世界の割合(約7割)と比べて、CO2排出量の占める割合が高いという特徴があります。さらに、2014年以降は、GDPが成長しながら温室効果ガス排出量が削減する、いわゆるデカップリングを実現しています(図1-2-18)。

図1-2-17 日本の温室効果ガス排出量
図1-2-18 我が国の実質GDPと温室効果ガス排出量の推移
(2)2020年から本格的に運用されるパリ協定

2015年、フランス・パリにおいて、COP21及び京都議定書第11回締約国会合(CMP。以下、京都議定書締約国会合を「CMP」という。)が行われ、全ての国が参加する温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。これは2020年以降の温室効果ガスの排出削減等に向けた取組を進めるための枠組みです。

パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することなどが設定されました。そのためには、今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収のバランスを達成できるよう、世界全体の温室効果ガスの排出量のピークをできるだけ早期に迎え、利用可能な最良の科学に従って急激に削減することが目標とされています。この2℃の目標及び1.5℃の努力目標は、IPCCをはじめとした科学的知見を踏まえつつ、2009年のコペンハーゲン合意や翌2010年のカンクン合意などこれまでの長い間の国際的な議論の結果、各国で合意された長期目標です。

また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務付けられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、2023年以降5年ごとに協定の世界全体としての実施状況の検討(グローバルストックテイク)を行うこと、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。

そのほか、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応に関する世界全体の目標設定及び各国の適応計画作成過程と行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

2016年4月にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。そして10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定が発効しました。我が国は11月8日に締結しています。また、2020年3月現在の締約国数は、189か国です。

パリ協定における長期目標に向けた各国の削減目標については、2013年のCOP19におけるワルシャワ決定により、全ての国に対して、自国が決定する貢献案(INDC)をCOP21に十分先立ち作成することが招請され、各国が作成したINDCはそれぞれの国のパリ協定締結後は、NDCとなることとされていました。我が国も2015年7月に決定したINDCがパリ協定締結後はNDCとして登録されています。この各国が提出しているNDCについては、2018年にIPCCが公表した1.5℃特別報告書において、各国の削減目標を反映した排出経路は、2100年までに約3℃の地球温暖化をもたらし、その後も昇温が続く排出経路と整合していると指摘され、更なる対策の強化がなければパリ協定の2℃目標及び1.5℃努力目標の達成が困難であることが示唆されています。COP21決定では、COP26の9~12か月前までに各国がNDCの提出・更新を行うことが義務付けられており、各国の野心強化に対する要請が高まっています。

これに基づき、我が国は、2020年3月30日に日本のNDC(国が決定する貢献)を地球温暖化対策推進本部で決定し、同月31日に国連気候変動枠組条約事務局に提出しました。

(3)COP25における我が国の貢献

パリ協定の実施については、2016年11月のモロッコのマラケシュでのCOP22、CMP12及びパリ協定第1回締約国会合第1部(CMA1-1。以下、パリ協定締約国会合を「CMA」という。)以降、パリ協定の詳細なルールを定める実施指針等の交渉が行われてきました。2018年12月のポーランドのカトヴィツェで開催されたCOP24・CMP14・CMA1-3では、全ての国に共通に適用される実施指針が採択され、緩和(2020年以降の削減目標の情報や達成評価の算定方法)、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標の進捗・達成状況等の報告制度)、資金支援の見通しや実績に関する報告等について規定されましたが、市場メカニズム(JCM等の取扱い等)については、根幹部分は透明性枠組みに盛り込まれたものの、詳細なルールは、検討を継続することとされました。

2019年12月にマドリードで開催されたCOP25・CMP15・CMA2では、主に市場メカニズムの実施指針の交渉が一つの焦点となりました。我が国は、160件超のプロジェクト実績があるJCMの経験も活かし、排出削減の二重計上防止と環境十全性の確保を訴え、市場メカニズムの実施ルールに関する交渉を主導しました。小泉進次郎環境大臣は各国大臣や国連事務総長、条約事務局長等と36回を超えるハイレベルのバイ会談を行うなど精力的に交渉を行いました。

COP25では、市場メカニズムの実施指針の合意にまでは至らず、来年のCOP26に向けて交渉を継続することとなりましたが、我が国の主張である市場メカニズムの適切なカウント方法を含む実施指針の案が作成されるなど実施指針の合意に向けて前進しました。

また、COPでは、政府代表ステートメント(写真1-2-6)、記者会見、各種のサイドイベント、各国大臣とのバイ会談やステークホルダーとの面会(写真1-2-7)など、あらゆる機会を最大限活用し、我が国の実績や取組を発信しました。具体的には、温室効果ガス排出量を5年連続で削減したこと、ノン・ステート・アクターの動きが気候変動対策において重要となる中で我が国は2050年までにネットゼロを宣言した地方公共団体が28、人口で4,500万人となり、カリフォルニア州を上回りCOP25開催国スペインに迫ること、日本のTCFDの賛同企業・機関は世界一であり、SBT設定企業やRE100加盟企業の数も世界トップレベルであること、日本経済団体連合会が「チャレンジ・ゼロ」を表明したことなどを発信しています。

写真1-2-6 小泉進次郎環境大臣の政府代表ステートメントの様子
写真1-2-7 ブラジル・サレス環境大臣とのバイ会談

さらに我が国のリーダーシップによるイニシアティブとして、フルオロカーボンのライフサイクル全体にわたる排出抑制対策を国際的に展開していく「フルオロカーボンのライフサイクル管理に関するイニシアティブ」(以下「フルオロカーボン・イニシアティブ」という。)を立ち上げるとともに、海洋プラスチックごみ問題に関して、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をG20以外の国とも共有しました(写真1-2-8)。

写真1-2-8 フルオロカーボン・イニシアティブ設立セレモニー
(4)G20における我が国の貢献

2019年6月に、環境省と経済産業省の共催により、G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合を開催しました。

我が国が「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に盛り込んだ「環境と成長の好循環」というコンセプトと、それを支える[1]イノベーション、[2]民間資金の誘導、[3]ビジネス環境整備という3本柱の重要性にG20全体で合意しました。また、本コンセプトを実現していくための具体的なアクションを明記したG20軽井沢イノベーションアクションプランに合意しました。

気候変動に関して、G20全体でこれまでより一層踏み込んだメッセージをG20一体となって発出しました。具体的には、気候変動を含む地球規模の取組の緊急性、長期戦略の重要性、具体的なアクションの取組にG20全体で初めて合意しました。

G20各国の主要な研究開発機関の国際連携を促進するための国際会議として「RD20(Research and Development 20 for clean energy technologies)」を設立することに賛同を得ました。

また、民間資金の誘導のための産業界と金融界のグローバルな対話の促進、革新的な技術の普及等のためのビジネス環境の改善の重要性にも合意しました。