環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第5節 地方公共団体の取組

第5節 地方公共団体の取組

気候変動影響の内容や規模は、地域の気候条件、地理的条件、社会経済条件等の地域特性によって大きく異なり、早急に対応を要する分野等も地域により異なります。また、地域にとっては、気候変動適応を契機として、地域それぞれの特徴を活かし、第五次環境基本計画において示した「地域循環共生圏」の創造による強靱で持続可能な地域社会の実現につなげていく視点も重要です。したがって、地域において気候変動適応を進めるに当たっては、地域特性を熟知した地方公共団体が主体となって、地域の実情に応じた施策を展開することが重要であり、気候変動適応計画でも、地方公共団体における気候変動影響評価の実施や適応計画の策定及び実施を促進する「地域での適応の推進」が基本戦略の一つに掲げられています。

1 地方公共団体で進む適応の取組

(1)地域気候変動適応計画

気候変動適応計画において、地方公共団体は、同計画を勘案し、地域気候変動適応計画を策定し、実施することなどにより、地域の自然的経済的社会的状況に応じた気候変動適応に関する施策を推進するとされています。

これまでも、多くの地方公共団体で気候変動適応に関する施策が実施されてきておりますが、これらの計画の多くは、気候変動適応の推進に向けた方向性を示しているものの、地域レベルで気候変動影響に関する科学的知見を収集し、評価を行い、自らの施策に適応を組み込んで施策を実施している地方公共団体はまだ多くはありません。

このため、国立環境研究所及び気候変動適応情報プラットフォームを中心とした気候変動等に関する情報の収集、整理分析及び提供を行う体制を確保するほか、環境省では、地方公共団体の適応計画の策定を支援するべく、計画策定マニュアルの作成や、地域での説明会により、地方公共団体による地域気候変動適応計画の策定及び実施の支援を行っています。2019年4月1日時点で、都道府県及び政令市のうち13府県、5政令市が気候変動適応法に基づく地域気候変動適応計画として、計画を策定しています。

事例:地方公共団体における適応の先行事例(埼玉県)

埼玉県では、2009年2月に策定した地球温暖化対策実行計画(区域施策編)「ストップ温暖化・埼玉ナビゲーション2050」に適応策を位置づけるとともに、同年3月に策定した埼玉県地球温暖化対策推進条例において、気候変動影響への適応に対する姿勢を打ち出しました。同条例では、温室効果ガス削減による緩和策のほかに気候変動影響に対する適応策があることを定義し、県が適応策を実施することを明記しました。このように、埼玉県は、地方公共団体の中でも最も早い時期から適応の検討・実施に取り組んできました。

2012年2月には、適応策の推進に当たって、庁内組織として、温暖化対策課長を部会長に関係部局の課長が参画する地球温暖化対策推進委員会適応策専門部会を設けました。この専門部会では、各課の事業の中にある潜在的な適応策を掘り起こす作業に取り掛かるとともに、各課で業務を進める中で適応策を認識してもらうことを目的に、外部の有識者を招いた庁内の講演会の開催等を実施しました。そしてこの過程で、行政内部における適応策への理解が不十分であること、将来の影響予測は不確実性が高くその対応が難しいこと、適応策の主体が明確でないことといった課題が明らかになりました。

これらの課題に対しては、まず、適応策の理解を深めるために、定期的な会議やメーリングリストの活用による情報共有の促進に努めることとしました。また、将来の影響予測の不確実性が高いことについては、最新の研究を取り入れ、複数の対策メニューを用意し、その時々で適切な対応を図ることができるよう「適応策の順応的な推進」に努めています。さらに、県の内部でどのような事業を行っているのか、適応策の観点から整理することで主体の明確化を図りました。

このように適応の推進体制を整備して取組を重ね、2018年12月には、同月の気候変動適応法の施行に合わせて、埼玉県環境科学国際センターに全国で第1号となる地域気候変動適応センターを設置しました。同センターでは、これまでも埼玉県の温室効果ガス排出量の算定や気候変動に関する情報の収集、整理、分析を行ってきましたが、これらの取組に加え、県内市町村の適応に関する取組支援やウェブサイトを活用した幅広い情報発信を行っていくこととしており、埼玉県における一層の取組の強化につながることが期待されています。

埼玉県加須市にある埼玉県環境科学国際センター
(2)地域気候変動適応センター

気候変動適応法において、地方公共団体は、その区域における気候変動適応を推進するため、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供並びに技術的助言を行う拠点として、地域気候変動適応センターを確保するよう努めるものとされています。

地域気候変動適応センターは、国立環境研究所との間で収集した情報並びにこれを整理及び分析した結果の共有を図るとともに、地域における気候変動適応に関する施策に活用に資するため、地域における科学的知見の集積を図り、地方公共団体に対して気候変動の影響及び適応に関する情報の提供並びに技術的助言を行うこととされています。地域気候変動適応センターには、地域の国公立大学や研究所等が指定されており、2019年4月1日時点で、10県でセンターが設置されています。

2 地域の関係者を巻き込んだ適応の取組

気候変動への適応の取組は、地域の生活基盤を守ることや地域振興にもつながることから、地方公共団体のみならず、地域における事業者、住民等の多様な関係者の理解を醸成し、各主体が連携してその地域に合った取組を進めていくことが重要です。

(1)気候変動適応広域協議会

気候変動適応法においては、地方環境事務所その他国の地方行政機関、地方公共団体、地域気候変動適応センター等その他気候変動適応に関係を有する者は広域的な連携による気候変動適応に関し必要な協議を行うため、気候変動適応広域協議会を組織することができるとされています。

気候変動適応広域協議会は、前述の地域適応コンソーシアム事業の下で行ってきた地域協議会を発展させる形で開始され、全国を7ブロック(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州・沖縄)に分け、気候変動適応法施行後の2019年1月から2月にかけてその第1回会合が開催されました。協議会では、気候変動の影響や適応に関する最新の科学的知見の共有や、地域における適応の優良事例など、気候変動適応に関する意見交換が行われています。

事例:高温対策でウミガメふ化率を上げる「ウミガメ保護発祥の地」の試み(徳島県)

徳島県美波町の大浜海岸は、国の天然記念物の砂浜で、世界に先駆けて1950年からウミガメの保護に関する活動が始められた「ウミガメ保護発祥の地」です。1967年には「大浜海岸のウミガメおよびその産卵地」が国の天然記念物に指定されました。

大浜海岸には、毎年5月下旬から8月中旬にかけてアカウミガメが産卵にきており、1個体が一度の産卵で120個前後の卵を産み、産卵後は一度海に帰って2週間後に再上陸するといった周期を1シーズンに3回~5回繰り返します。

近年、大浜海岸では、卵のふ化率が低い年が目立つようになり、猛暑や雨不足時に全滅する巣穴も増えてきました。

ウミガメの卵は通常、砂で2か月温められてふ化します。この時の砂の適正温度は24℃~32℃で、この温度幅から外れた温度に長時間さらされると死んでしまいます。さらに、ウミガメの性別はふ化中の温度で決まり、29.5℃を境に、高いとメス、低いとオスとして生まれてくるため、砂の温度はウミガメの保護と自然界のバランスの維持に非常に重要です。ところが、例えば2010年や2013年の大浜海岸の7月、8月の砂の温度は、33℃を超える期間が多く続き、猛暑が原因でふ化率の大幅な低下や性比のバランスを崩していることが見えてきました。

そこで大浜海岸では、以前から保護活動の一環として行ってきた、産卵巣を高波から守るためにふ化場や海岸高地へと移植するという活動と同時に、ふ化場での定期的な水まきと、海岸の巣穴の表面を遮光ネットで覆う活動を行いました。このような取組の結果、2017年には、猛暑が続いたにもかかわらず、ふ化率は70%になり、これまでの平均の54%を大きく上回りました。

しかし、大浜海岸のウミガメは、高温によるふ化率の低下の問題だけでなく、徳島県の産卵可能な海岸の減少や夜間の光の影響等の要因により、上陸産卵数の激減という根本的な問題も抱えています。そのため、保護活動を通じて、ウミガメに影響の少ない波長のLED電灯を地元企業と開発するなど、海岸の減光及び光源の低影響化等の取組も進めています。

同町の日和佐地区では40年ほど前から「ウミガメと共存する町」を目指して、ウミガメを見せながらも守るというスタンスでエコツーリズムに取り組んできました。現在、ウミガメが減少することで観光客が減り、観光資源としての価値が下がり、更に保全も進まなくなるといった負の循環の危機に瀕(ひん)しており、その全ての原点で解決策である海岸環境の重要さを見直しつつあります。

ウミガメの行動域は広く、世界的、全国的な連携が重要ですが、同様の取組を行っている他の地域とも連携しながら、ウミガメの帰ってこられる美しく自然度の高い砂浜の保全管理を最大限に進め、息の長い活動を続けていこうとしています。

巣穴の表面を覆う遮光ネット、日和佐・大浜海岸

事例:石畳風保水性アスファルト舗装(京都市)

京都市は、市街地中央部を南北に走る小川通において、2012年度から2017年度まで、景観の保全・再生と都市防災機能の向上を目的に、通りから電柱を取り除いて電線類を地中に埋設する無電柱化事業を行っており、その事業の一環として通りの路面に「石畳風保水性アスファルト舗装」を導入しました。

石畳風アスファルト舗装は、空隙の多いアスファルト舗装にセメントミルクを流し込み、表面を削った上でカッターで化粧目地を施し、石畳風に仕上げるものです。この舗装材料に水分を含みやすく蒸発しやすい鉱物質系材料を加え、保水性を付加した舗装が「石畳風保水性アスファルト舗装」であり、舗装内に蓄えた雨や打ち水等の水分が晴天時に蒸発し、気化熱作用により路面温度の上昇を抑えることができます。

この事業では、沿道の住民等からも理解・協力を得ながら、電柱の照明灯に代わってLEDによる景観照明灯を設置したり、地域の憩いの場として活用できるようにベンチと遊歩道を設置した広場を整備したり、通りの改修を一体的に実施することで、景観の保全・再生のみならず、通りを歩く人々の快適さの向上にも役立っています。

小川通りの風景