環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第4節 地域循環共生圏と地球環境の課題との関わり

第4節 地域循環共生圏と地球環境の課題との関わり

これまで見てきたとおり、地域循環共生圏は、相互に連関・複雑化して地域社会にも大きな影響を与えている環境・経済・社会の課題について、複数の課題解決を図りながら、環境・経済・社会の統合的向上を目指す考え方であり、第1章では、環境政策を通じて経済・社会の課題解決を図り、地域を活性化している事例を紹介してきました。一方で、地域循環共生圏の構築は、地域の課題解決のみならず、地球環境の諸課題の解決にも資するものです。

第2章第3章では気候変動影響への適応、プラスチック資源循環についてそれぞれ取り上げますが、この節では、日本国内の地域の課題だけでなく、国際的な地球環境の課題と地域循環共生圏がどのように関わっているのかを概説します。

1 生物多様性の保全

私たちの暮らしは、呼吸に必要な酸素はもとより、食べ物、木材、繊維、医薬品など、生物多様性がもたらす恵みの上に成り立っています。また、地域固有の生物多様性とも深く関連した様々な知識や技術、豊かな感性や美意識が培われるなど、生物多様性は豊かな文化の根源でもあります。しかし生息地の変化、過剰利用、汚染と栄養の蓄積等により世界の生物多様性は危機に瀕しており、その保全と回復を図ることが必要です。

(1)生物多様性の保全をめぐる国際潮流

生息地の変化、過剰利用、汚染と栄養の蓄積等により生物多様性は影響を受けており、その結果として地域社会が不安定化するなどの問題も起きていることから、地球規模の生物多様性の保全と回復のためには、環境・経済・社会の課題を同時に考慮することが必要です。こうした考え方は、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)の評価報告書においても指摘されています。また、農業や林業等の人間の営みを通じて形成・維持されてきた日本の里地里山のような二次的な自然環境にも多様な生物が適応・依存しているため、生物多様性を保全するためには、原生的な自然環境の保護だけではなく、二次的な自然環境の保全も重要であることが理解されつつあります。しかし、特に二次的な自然環境は、開発途上国では都市化、産業化、地域人口の急激な増加等により、日本を含む先進国等では一次産業の衰退や過疎化により危機に瀕しており、その保全のためには、人間と自然の健全な関係の維持・再構築を進めていくことが必要です。

(2)複数の課題解決に資するSATOYAMAイニシアティブの取組

我が国は、自然との共生をテーマとする生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、SATOYAMAイニシアティブを国連大学と共同で提唱しました。これは、我が国の自然観や社会システムに根づく自然共生の智慧(ちえ)と伝統を活かしつつ、現代の科学や技術を統合することにより二次的な自然環境を保全し、生物多様性の保全とその持続可能な利用を実現する自然共生社会を目指すという考え方です。この考え方には世界各地の政府機関、NGO、コミュニティ団体、学術研究機関、国際機関など51団体が賛同し、具体の取組を推進するため、SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)を、COP10の機会に創設しました。以来、IPSIは、二次的自然環境での自然資源の持続可能な利用とその保全に向けて、知見の集約や発信、参加団体同士の協力活動の促進等を進めてきました。

具体の取組はIPSIの参加団体がそれぞれ行っていますが、参加団体同士の協力活動も増加しています。例えば、SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)は、国連開発計画(UNDP)を実施機関として、我が国、生物多様性条約事務局、国連大学との連携により、2011年から2018年にかけて実施された国際プロジェクトで、世界20か国において二次的な自然環境の維持・再構築のための地域コミュニティによる現地活動を支援し、それに基づく知見を集積し発信しました。このような取組からは、地域の自然資源を持続的に利用することが、生物多様性の保全だけでなく地域の人々の生活の向上につながること、付加価値の高い農産物の販売やエコツーリズム等による都市や他地域とのつながりが地域の発展に貢献することが示唆されており、地域循環共生圏の考え方と一致しています。

写真1-4-1 プロジェクトで生物多様性の記録方法を学んでいる様子(台湾)

事例:非木材林産物の持続可能な利用による生計の向上(インド)

インドのマディヤ・プラデーシュ州マンドラ地区では、多くの先住民が自給的農業や放牧中心の畜産と合わせて森林資源を利用して生計を立てていましたが、需要の高まりに応じて農林産物の生産・採取が増えすぎることで森林が荒廃し、森林資源の持続可能な利用が困難になるとともに、生物多様性にも悪影響を与えていました。そこで、非木材林産物や農産物を持続的に生産・採取し、それらの商品化を推進することで生計の向上を目指すプロジェクトを、コミュニティを中心に実施しました。

プロジェクトでは、商業的に重要な非木材林産物や農産物の生産・採取状況を評価するとともに、バリューチェーンの分析を行い、企業として農林産物を販売するようにしました。また、放牧地の周期的な利用やウキクサを利用した飼料の生産等を推進しました。その結果、森林にある野生の果実等を持続的に採取し付加価値を付けて市場で販売したり、森林での過放牧を防いだりすることができるようになり、森林が適切に維持されるようになりました。このように、自然資源を持続可能な形で利用することが、生物多様性の保全にもつながります。

非木材林産物の資源状況を議論している様子

2 気候変動影響への適応

近年、気温の上昇、大雨の頻度の増加や、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動及びその影響が全国各地で現れており、さらに今後、長期にわたり拡大するおそれがあります。地球温暖化その他の気候変動に対処し、国民の生命・財産を長期にわたって守り、経済・社会の持続可能な発展を図るためには、緩和策(温室効果ガスの排出削減等対策)に全力で取り組むことはもちろんのこと、現在生じており、また将来予測される被害の回避・軽減を図る適応策にも取り組む必要があります。

(1)適応に取り組む際に持つべき視点

生活、社会、経済及び自然環境において気候変動により影響を受ける領域、関係者は極めて多岐にわたります。このため、気候変動適応に関する施策の推進に当たっては、防災に関する施策、農林水産業の振興に関する施策、生物の多様性の保全に関する施策その他の関連する施策との連携を図ること、すなわち、あらゆる関連施策に気候変動適応を組み込むという考え方が重要です。

また、安全・安心で持続可能な社会を構築するため、被害の防止・軽減に主眼を置くのは当然のことながら、これに加えて、将来の気候変動予測を踏まえて、例えば新たな農林水産物のブランド化や自然災害に強靭(じん)なコミュニティづくりを行うなど、適応の取組を契機として地域社会・経済の健全な発展につなげていく視点も重要です。

第五次環境基本計画では、環境・経済・社会の統合的向上に向けた取組を具体化していくこととしていますが、こうした考え方は、IPCC第5次評価報告書においても指摘されています。同報告書では、適応の戦略には、他の目標にも資する相乗効果(コベネフィット)を伴う行動が含まれており、利用可能な戦略や行動は、人間の健康、生計、社会的・経済的福祉及び環境の質を向上することを支援しつつ、起こり得る様々な将来の気候に対する強靭(じん)性を増すことができるとされています。

(2)複数の課題解決に資する適応

我が国においても、適応と相乗効果(コベネフィット)をもたらす施策、すなわち、適応を含む複数の政策目的を有する施策を推進することが重要です。

グリーンインフラや生態系を基盤とするアプローチ(EbA及びEco-DRR)は、防災・減災といった気候変動への適応に加え、炭素貯蔵を通じた気候変動の緩和、地域社会における多様な社会・経済・文化の互恵関係の創出、生物多様性の保全と持続可能な利用への貢献など様々な効果が期待できます。例えば、自然環境が有する機能を活用した社会資本整備や土地利用は、持続可能な社会や自然共生社会の実現や国土の適切な管理に貢献し得るものであり、質の高いインフラ投資にも寄与すると期待できます。また、サンゴ礁の保全や海岸防災林の整備は、野生生物の生息場所の提供、海岸のレクリエーション機能の向上、台風や高潮等の被害の低減等に同時に貢献し得ます。更には、都市におけるまとまった樹木の配置は、蒸散や日射の遮蔽(へい)を通じてヒートアイランド対策に貢献するとともに、炭素貯蔵の効果を発揮することも期待できます。

また、農業分野においては、例えば、高温に耐性のある品種の開発等は食料の安定供給にも資するものであり、将来の気候に適した新たな農産品の開発・普及は地域経済の活性化にもつながります。エネルギー分野においては、例えば、再生可能エネルギーをはじめとする自立分散型エネルギーの導入は緩和策であり、また、地域経済の活性化にもつながると同時に、災害時のエネルギー確保という観点において適応にも資するものです。化石燃料を使用する場合には、多くの場合地域の外から購入することになりますが、再生可能エネルギーの導入により、化石燃料の購入量が削減され、地域外に流出する資金が減り、その分を地域内の様々な施策に充てることができます。

気候変動の影響は地域により大きく異なり、地域が有する資源もそれぞれ異なることから、様々な手法を適切に組み合わせ、総合的に適応を進めていく必要があります。すなわち、地域特性を踏まえ、地域資源を活用して複数の課題解決に資するという地域循環共生圏の考え方を用いることで、複数の課題解決に資する適応の取組を進めることが可能となると言えます。

事例:高温にも強いブラッドオレンジ「タロッコ」の導入(愛媛県)

愛媛県宇和島市では、宇和海のリアス式海岸沿いにかんきつ産地が形成されており、温州みかんやポンカン類の生産が盛んでしたが、消費者の嗜好(しこう)の変化や生産者の高齢化等から、販売金額が不安定でした。また、地球温暖化の影響が、隔年結果(春の高温や夏秋期の干ばつにより結実の多い年と極めて少ない年を1年ごとに交互に繰り返す現象)を助長するとともに、秋期の高温と多雨がみかんの浮皮を発生させるなど、品質低下を招くようになりました。

一方で、地球温暖化の影響による平均気温の上昇や、秋が長くなり春が早まるとともに冬季の寒害が少なくなったことから、今まで高品質果実の生産が困難であったイタリア原産のブラッドオレンジの完熟生産が可能になりました。さらに、消費者の健康志向の高まり、イタリア料理のブームによる需要により、一部でしか導入されていなかったブラッドオレンジが大きく注目され、農家や関係機関の間で増産の機運が高まっていました。ブラッドオレンジは、味や香りが優れていることから、生果だけでなく、ジュース、スイーツなど利用価値の高い果物であり、今後栽培を広める種としては有力な候補と考えられました。

そこで、2009年から、ブラッドオレンジの産地化の確立に向けて、地方公共団体やJA、生産者、食品会社、試験研究機関といった関係者が連携して、栽培・貯蔵・加工技術の確立と商品化、消費者・市場へのPR活動に取り組みました。その結果、2008年には宇和島市での栽培面積が7.9ha、生産量が2.1トン、生産額が168万円であったところ、2016年にはそれぞれ約32ha、330トン、1.1億円にまで拡大しました。関係者が一丸となって産地化に取り組むことができた結果、販路の拡大に成功し、ブラッドオレンジは全国的に広く認知されるようになり、農業経営の柱として定着しています。また、生産のみならず、加工・販売も含めた6次産業化が推進され、様々な人・企業が集い、地域の活性化につながっています。

ブラッドオレンジ「タロッコ」、ブラッドオレンジコンソーシアムでのPR・販売促進

3 プラスチック資源循環

プラスチックは、その機能の高度化を通じて食品ロスの削減やエネルギー効率の改善等に寄与し、例えば、我が国の産業界もその技術開発等に率先して取り組むなど、こうした社会的課題の解決に貢献してきました。一方で、金属等の他素材と比べて有効利用される割合は、我が国では一定の水準に達しているものの、世界全体では未だ低く、また、不適正な処理のため世界全体で年間数百万トンを超える陸上から海洋へのプラスチックごみの流出があると推計され、地球規模での環境汚染が懸念されています。

(1)資源循環を巡る国際潮流

2015年9月に国連総会で採択されたSDGsでは、ゴール12に「持続可能な消費・生産パターンの確保」が、ゴール14に「海洋・海洋資源の保全」が掲げられています。また、G7やG20、国連環境計画(UNEP)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)等において海洋ごみに関して議論されており、国際連携・協力の必要性の認識が高まっています。

欧州では、2015年12月に欧州委員会がサーキュラー・エコノミー・パッケージを発表し、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化することで、持続可能な低炭素かつ資源効率的で競争力のある経済への転換を図るべく、アクションプランを掲げました。また、2018年10月には、環境省とフィンランド・イノベーション基金との共同で世界循環経済フォーラムが横浜市で開催され、循環経済に関する世界中の好事例の紹介や、SDGs達成に向けた循環経済の役割等について議論が行われました。このように、従来の直線型の経済から循環型の経済にシフトしようという動きが国際的に活発化しています。

我が国においても、これまでプラスチックの適正処理や3R(リデュース、リユース、リサイクル)を率先して進めてきたところですが、プラスチック資源循環体制の構築のため、これまでの取組をベースにプラスチックの3Rを一層推進することが不可欠です。

(2)複数の課題解決に資するプラスチック資源循環の取組

第3節2で見たように、人口減少・少子高齢化の影響が諸地域において顕在化・深刻化しつつある我が国で、資源生産性の高い循環型社会を構築していくためには、各地域の特性に応じて、プラスチックを含めた循環資源について、技術的・経済的に可能な範囲で環境負荷の低減を最大限考慮することで、狭い地域で循環させることが適切なものはなるべく狭い地域で循環させ、広域で循環させることが適切なものについては循環の環を広域化させるなど、各地域・各資源に応じた最適な規模で循環させることがより重要です。また、地域の再生可能資源を継続的に地域で活用していくことも重要です。

プラスチックの3Rを推進するとともに、再生材や再生可能資源に適切に切り替えていくことは、プラスチック資源循環体制を構築するという観点だけでなく、プラスチックの原材料である化石燃料の使用削減にもつながります。これは、プラスチックによる環境汚染への対応のみならず、資源・廃棄物制約、海洋ごみ対策、地球温暖化対策等といった幅広い課題の解決に貢献します。

また、これは環境の側面からだけでなく、経済・社会との統合的向上に資するものであると考えられます。つまり、国内でプラスチックをめぐる資源・環境両面の課題を解決するとともに、日本モデルとして我が国の技術・イノベーション、環境インフラを世界全体に広げ、地球規模の資源・廃棄物制約と海洋プラスチック問題の解決に貢献し、資源循環関連産業の発展を通じた経済成長・雇用創出など、新たな成長の源泉ともなり得るものでもあります。

このように、プラスチックの資源循環や再生材・再生可能資源の活用に向けたイノベーション等の取組を通じて、地域の自然、物質、人材、資金を地域で循環させ、地域のオーナーシップと魅力を高め、地域の活性化につなげることも可能であると考えられます。つまり、プラスチック問題の取組にも、適応と同様に、地域循環共生圏の考え方を活用することが有効であると言えます。

事例:ごみを財源にエコなまちづくりを推進(和歌山県有田川町)

和歌山県有田川町では、住民と協力した有田川エコプロジェクトを実施しています。同町ではかつて、家庭ごみを道路に出して回収する方法を取っており、道路に出されたごみが交通の妨げになっていました。そこで、1998年から、燃えるごみ、燃えないごみ、プラスチック、ペットボトル、空き缶など計8種類に分別することとし、町内の行政区ごとにごみステーションを約300箇所設置しました。当初は、住民から不満の声も上がりましたが、町の職員が継続的に啓発に努めることにより、住民に分別意識が浸透していきました。その結果、2008年までは年に約3,200万円を支払ってごみの処理をしていたところ、住民の分別意識が浸透したことで質の良い資源ごみとして評価されるようになり、引取りの際に逆に事業者が町に費用を支払う資源ごみのマイナス入札化を実現しました。これにより、現在では資源ごみは年間約200万円の町の収入になっています。得られた収入は、水力発電所の建設をはじめ、太陽光発電設備や太陽熱を利用した温水給湯器の補助制度、コンポスト容器の無償貸与など、地域の低炭素化に有効活用されています。町の試算では、補助制度により今までに約1,600トン以上のCO2排出を削減できました。

プラスチック等の資源ごみを住民自らが価値あるものにするとともに、町がその経済効果を活用して低炭素化も図りながら、町ぐるみで住みよい地域づくりが進められています。

まちに設置されたごみステーション、設置された水力発電所