環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 地域循環共生圏の創造>第1節 我が国の現状・課題と社会の変容

第1章 地域循環共生圏の創造

我が国では、本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎えています。地方から都市への人口流出が継続し、地方の活力の低下によって、里地里山など豊かな自然環境が失われつつあります。

我が国が抱える環境・経済・社会の課題は相互に連関・複雑化し、地域社会にも大きな影響を与えています。こうした状況下においては、2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画で示すとおり、各地域がその特性を活かした強みを発揮し、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と地域資源を補完し支え合う「地域循環共生圏」を創造していくことが求められます。その考え方を踏まえれば、地域循環共生圏の創造は、国際動向も踏まえた課題解決にも資する取組と言えます。

この章では、第五次環境基本計画が目指す社会の姿を概観しつつ、既に各地で始まりつつある「地域循環共生圏」の具体化に向けた取組を紹介します。

第1節 我が国の現状・課題と社会の変容

1 連関・複雑化する地域の課題

我が国では、少子高齢化・人口減少、そして人口の地域的な偏在の加速化等が進んでいます。これらは、地域コミュニティの弱体化を招き、また、地方公共団体の行政機能の発揮の支障となり、地域の様々な行政分野と同様に、環境保全の取組にも深刻な影響を与えています。例えば、農林業の担い手の減少により、耕作放棄地や手入れの行き届かない森林が増加するとともに、狩猟者の減少等により、野生鳥獣被害が深刻化しています。こうした地域では、自然災害に対する脆(ぜい)弱性が高まるとともに、里地里山など豊かな自然が失われ、生物多様性の低下や生態系サービスの劣化につながっています。このように、環境・経済・社会の課題は相互に連関しており、複雑化してきています。

2 社会の変容

高度な情報化の進展や、持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定の採択等を受け、経済や社会の在り方も変わりつつあります。近年の情報通信技術(ICT)の進化に伴うネットワーク化やサイバー空間利用の飛躍的発展は、知識や価値の創出プロセスを大きく変貌させ、経済や社会の在り方、産業構造が急速に変化する大変革時代の到来をもたらしています。ICTの更なる発展は、幅広い産業構造の変革、人々の働き方やライフスタイルの変革、国民にとって豊かで質の高い生活の実現の原動力になることが想定されます。我が国の抱える様々な課題に対応するためには、ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」(Society 5.0)の実現を目指す必要があります。

また、世界的には、欧米を中心に、脱炭素社会※1への移行やSDGsを具現化した持続可能な経済社会づくりに向けた転換・移行の動きとして、ESG投資(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった要素を考慮する投資)の拡大・普及が進んでいます。我が国の金融機関においても、地域の社会・経済の課題解決を図りながらSDGsを実現することで持続可能な地域づくりを進めることは、地域で持続可能なビジネスモデルを構築する上で重要であるという認識が浸透しつつあり、ESG金融の取組が広がりつつあります。

こうした動きは、我が国における諸課題の解決を考える上で重要なポイントであると考えられます。


※1:今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡(世界全体でのカーボンニュートラル)を達成すること。