環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第7節 環境影響評価

第7節 環境影響評価

1 環境影響評価の総合的な取組の展開

事業の位置・規模等の検討を行う段階より上位の計画や政策の策定時に適切に環境配慮を組み込むための戦略的環境アセスメントについて、国内外での取組状況について調査を行いました。風力発電については、個別事業に係る環境アセスメントに先立つものとして、地方公共団体が関係者と調整しつつ、環境保全を優先するエリア、風力発電等の導入を促進するエリア等の設定を行うゾーニング手法の確立と普及を目的として、10の地方公共団体でモデル事業を実施しました。その結果等を踏まえ、風力発電に係るゾーニング手法に係るマニュアルを2018年3月に作成し、公表しました。

また、環境影響評価は、環境影響評価法(平成9年法律第81号)、地方公共団体の環境影響評価条例、事業者の自主的な取組を組み合わせて、総合的に展開させていくべきものであり、法の対象外である事業についても環境配慮を促進することが重要です。このため、特に、法の対象外であるが大幅な導入が進められている太陽光発電所の設置に伴う環境配慮の実施について実態を調査し、環境配慮の方策について検討しました。

2 質が高く効率的な環境影響評価の実施

(1)環境影響評価法に基づく環境影響審査の実施

環境影響評価法は、道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所、埋立て・干拓、土地区画整理事業等の開発事業のうち、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価の手続の実施を義務付けています。同法に基づき、2018年3月末までに計497件の事業について手続が実施されました。そのうち、2017年度においては、新たに50件の手続を開始、また、14件が手続完了し、環境配慮の徹底が図られました(表6-7-1)。

表6-7-1 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況

近年、特に審査件数の多い風力発電所の設置等の事業(以下「風力発電事業」という。)については、自然環境や生活環境の保全と両立した導入を図るため、騒音・風車の影といった生活環境への影響や鳥類や植物・生態系など自然環境への影響等の観点から審査しました。一方、3〜4年程度かかるとされる環境影響評価の実施期間を半減させることを目標としており、地方公共団体の協力を得て審査期間の短縮を図るとともに、風力発電等の適地・不適地について事業者の立地検討段階における検討や、環境調査の効率化に資するため地域の環境基礎情報(自然環境や社会環境に関する情報等)等の収集・整理を行い、これらの情報を「環境アセスメントデータベース"EADAS(イーダス)"」を通じて公開しました。また、環境調査の前倒し実施による期間短縮の方法論を確立するための検討を行いました。こうした取組により、対象となった案件についておおむね目標のとおりに実施期間の短縮を実現しました。

火力発電事業の設置等の事業については、2016年2月に環境大臣及び経済産業大臣が合意した電気事業分野における地球温暖化対策等を踏まえ、最新鋭の高効率技術の採用や国の目標・計画との整合性等の観点から審査しました。特にCO2排出量の多い石炭火力発電所については、パリ協定が発効し中長期的に世界全体の累積的な温室効果ガス排出量を削減することが求められています。このため、事業者には、石炭火力発電に係る環境保全面からの事業リスクが極めて高いことを改めて自覚し、2030年度及びそれ以降に向けたCO2排出削減の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含めあらゆる選択肢を勘案して検討することが重要であることや、国内外の状況を踏まえた上でなお事業を実施する場合には、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制など2030年以降も含めて更なるCO2削減を実現する見通しをもって計画的に実施することなどを環境大臣意見の中で求めました。

(2)環境影響評価に係る情報基盤の整備

環境影響評価に必要な環境基礎情報の整備のため、2017年7月、前述の「環境アセスメントデータベース"EADAS(イーダス)"」のリニューアルを行いました。また、2017年4月、開発事業における代償措置の一つである「生物多様性オフセット」に関連する参考事例を取りまとめ、公表しました。

風力発電事業に関しては、今後導入の拡大が見込まれる洋上風力発電について、環境影響評価の技術手法等の検討を行いました。また、地方公共団体が主導して関係者と合意形成を図りながら適地を抽出する手法を検討し、2017年7月に「風力発電に係る地域主導による適地抽出手法に関するガイド」を取りまとめ、周知しました。

環境影響評価における地域住民や関係団体等とのコミュニケーションの円滑化に向けて、2017年7月に「環境アセスメントのためのよりよいコミュニケーション優良事例集」を作成・周知するとともに、環境影響評価図書の継続的な公開についても対応を検討し、2018年3月に「環境影響評価図書の公開について」を取りまとめ、公表しました。

(3)環境影響評価に係る国際展開

アジア地域においては、環境影響評価制度の導入が進んでいるものの運用面にはなお課題があるため、2017年に「アジア環境アセスメントネットワーク」の活動を始め、メーリングリスト等を用いてアジア各国の環境影響評価の担当者間で情報交換を行うなど、環境影響評価制度の強化に向けた知見を共有しました。また、特にミャンマーの環境影響評価制度の向上を目的に、2018年1月のジャパン環境ウィークにおける政策対話等を通じて意見交換を行い、今後の二国間協力の在り方について検討しました。