環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 モノは所有から共有へ(シェアリング・エコノミー)

第3節 モノは所有から共有へ(シェアリング・エコノミー)

1 シェアリング・エコノミーとは

資源生産性向上のためには、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の中でも、とりわけ2R(リデュース・リユース)の取組が重要となります。2Rを推進するビジネスモデルとしては、店舗を構え、消費者等からのリユース品の買取りと販売を行う店舗型のリユースビジネス等が従来から存在していましたが、情報通信技術(ICT)の発達等に伴い、様々な新しいビジネスモデルが普及しつつあります。

欧州では、消費された資源を回収し、再利用し続けるという「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の取組が進んでいます。2015年12月に発行された欧州連合(EU)の報告書「EU新循環経済政策パッケージ(Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy)」では、一旦使い終わった製品を素材に戻してしまうリサイクルではなく、製品に残された価値を可能な限りそのまま活用するビジネスモデルが提唱されました。

近年、スマートフォンの普及等により、個人がいつどこにいてもインターネットにアクセスできる環境が整うとともに、AI等の発達によりGPSによる位置情報や個人等の所有物や能力に関する情報等の大量の情報を瞬時に解析することが可能となりました。これにより、個人等の所有物(自宅の空き部屋や車等)や能力(スキル、知識等)に関する情報を、インターネットを通じて、随時、不特定多数の個人の間で共有することが可能になりました。こうしたイノベーションを受けて、我が国においても2Rを、これまでとは異なる仕組みで、これまで以上に進めることにつながる可能性のある活動の一つである「シェアリング・エコノミー」の普及が進んでいます。

シェアリング・エコノミーとは、「個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」であるとされており、サーキュラーエコノミーの類型の一つでもあります。具体的な取引の流れとしては、提供したい(貸したい、売りたい)人、利用したい(借りたい、買いたい)人がマッチングプラットフォームに登録し、不特定多数の提供者の中から、利用者がニーズに応じて選択し、お互いが合意すれば、提供者はモノ・サービスを提供し、利用者がそれを利用できるサービスです。

シェアリング・エコノミーの市場規模は2016年度に500億円を突破し、2020年度には1,000億円近くに達すると予測されています(図3-3-1)。

図3-3-1 シェアリング・エコノミーの国内市場規模

2 シェアリング・エコノミーによる環境保全効果

シェアリング・エコノミーは消費者にとって経済活動の新たな選択肢となり、消費生活を更に豊かにします。また、それと同時にモノや空間等の資源の効率的な活用による天然資源投入量や廃棄物発生量の削減、移動手段や空間の共有等によるCO2排出量の削減といった環境面の効果も期待できます。我が国に偏在する遊休資産等の有効活用を促進し、社会経済全体の生産価値を高めることが期待されるとともに、過剰消費と使い捨て文化に替わる新たなライフスタイルをもたらす可能性があります。さらに、公共の遊休資産やシャッター商店街等の有効活用による住民サービスの充実やにぎわいの創出、新たな行政収入の確保、観光資源の開発など、地域の様々な資源の活用による新たな地域振興の進展が期待されます。

こうした効果を持つシェアリング・エコノミーは、主に、移動、モノ、空間、スキル、お金の5つに分類されます。

(1)移動手段のシェア

移動手段のシェアには、例えば、自分が所有する車や駐車場を有効活用したい提供者側と、所有することなく(維持費をかけずに)車を使用したい利用者側とがシェア(車の貸し借り)をする「カーシェア」や自転車のシェア(サイクルシェア)等があります。

事例:自治体とも連携した自転車シェアリング(株式会社ドコモ・バイクシェア)

株式会社ドコモ・バイクシェアは、自転車とモバイルを融合させた環境に配慮した自転車シェアリングシステムを提供し、主に自治体との共同事業として全国で自転車シェアリングサービス(コミュニティサイクルサービス)を展開しています。また、現在、同社と東京都内9区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区)が共同して、9区全ての自転車ポートにおいて自由に貸出・返却できる「広域相互利用実験」を実施しています。スマートフォン等で手軽に貸出手続ができることや、複数のポートでいつでも・どこでも自転車が利用できることから、観光、仕事、日常生活など様々なシーンでの利用が進んでいます。

ドコモ・バイクシェアの自転車と自転車ポート

「自転車シェアリング」は、環境負荷の低い自転車を「共有」することで温室効果ガスの排出削減や資源の有効利用につながるだけでなく、地域の活性化や健康の増進等にも貢献します。今後は、自転車のシェアのみならず、利用分析データの活用を通じた新たな付加価値サービスの創出等も期待されます。

環境省は同社と連携し、「COOL CHOICE」連携施策としてシェアリング用自転車の車両の一部に「COOL CHOICE」のロゴマークを配したステッカーを掲出しています。今後とも自転車シェアリングの利用者をターゲットとした「COOL CHOICE」の認知拡大を図るとともに、環境省としても各種「自転車シェアリング」の利用が拡大するよう、普及啓発を図っていきます。

事例:相乗りマッチングサービス(北海道天塩町)

北海道天塩町では、国内最大級の中長距離相乗りマッチングサービス「notteco(ノッテコ)」を運営する株式会社nottecoと連携し、町民の生活圏(総合病院や商業施設を利用)である約70km離れた北海道稚内市と同町の間で、空席があるマイカー利用者と車を持っていない又は運転できない高齢者等の「相乗り交通」を実施しています。

実際の運行に要した燃料代、高速道路代及び駐車場代をドライバーと利用者で分担して負担する「コストシェア型」で、利用区間を天塩町・稚内市間に限定し、タクシー等の既存事業者と競合・圧迫をしない運用形態としています。また、経済産業省のグレーゾーン解消制度を活用し法令に抵触しないことを公式に確認しています。

2017年3月から運用を開始し、主に通院の目的で相乗り交通が利用されました。同町と稚内市は直行する公共交通機関が無く、バスと鉄道を乗り継ぎ移動すると片道約3時間掛かり日帰り往復ができないことから、相乗り交通は高齢者等にとって有用な移動手段となっています。また、同年4月〜8月のドライブ登録数は月当たり約30件で、ほぼ毎日利用できる車が存在し、利用可能性も高いと言えます。同町の試算によれば、追加的にバス及び列車で輸送を行った場合と比較して年間約2,500万円の費用削減効果があるとしています。1月まで約11か月間に延べ138名が同乗利用し、うち約80%が65歳以上の高齢者となっています。定期的に通院のために利用している高齢者からは「この仕組みが無くなってしまうと町に住み続けることができなくなる」という声も聞かれるようになりました。

一方、少数のドライバーに過度に依存することや事故時のドライバーの責任が心理的な負担となること、利用者側の理解不足等があり、今後更に拡大していくためにはこうした課題を解決することが必要です。

天塩町における相乗り交通の仕組み
相乗り交通の様子
(2)モノのシェア

モノのシェアには、例えば、不要なモノを捨てるにはもったいないと感じる提供者側と、欲しいモノを安価に手に入れたい利用者側とが、スマートフォンのアプリ等を用いてやり取りをする「フリマアプリ」が挙げられます。フリーマーケットは、これまでは対面での取引が基本でしたが、スマートフォンのアプリ等を活用することによって、場所を問わず不特定多数の個人間で取引ができるようになりました。提供者側は資源の再利用をしつつ、収入も得ることができ、利用者側は、通常より安価にモノを手に入れたり、一般では流通されていないモノを手に入れたりできるなどのメリットが考えられます。

(3)空間のシェア

空間のシェアには、自宅の空き部屋の有効活用等をしたい提供者側と、ホテルよりも安価な宿泊場所を求めるなどの意欲を持つ利用者側とがシェアをする、「ホームシェア」(民泊を含む。)があります。また、営業時間外のオフィス・店舗の有効活用等をしたい提供者側と、日頃借りられないスペースを借りたいなどの意欲を持つ利用者側とがスペースのシェアをする「遊休施設のシェア」等も挙げられます。

事例:涼をシェアする「クールシェア」

夏の節電が一番必要な時間帯である平日の14時頃、最も多く電気を消費しているのがエアコンで、約半分を占めています。そのため、夏の節電において最も重要なことは、エアコンを上手に使うことです。家庭では、複数のエアコン使用をやめ、なるべく1部屋に集まる工夫をしたり、公園や図書館等の公共施設を利用することで涼をシェアするなど、一人当たりのエアコン使用を見直すことが大切です。

夏の14時頃の消費電力

環境省では、一人一台のエアコンをやめ、涼しい場所をみんなでシェアするという考え方を「クールシェア」として呼びかけ、家族や地域で楽しみながら節電に取り組むことを推奨しています。その一環として、「クールシェア」に賛同する企業・団体、個人が地域で気軽に集まって涼むことのできる場所を「クールシェアスポット」として表示し、一般の方が登録できるオンライン上のマップ(シェアマップ)で公開しています。

クールシェアマーク

また、石川県では、2013年度から、7月から9月にかけて「いしかわクールシェア」の取組を県民に呼びかけています。この取組では、県立の施設や市町立の図書館、民間の飲食店やデパート等に協力を頂きながら、500を超えるスポットで、スタンプラリーやお得なサービスを提供し、スタンプ5つを集めた方には、県内温泉宿泊券や特産品等を抽選でプレゼントしています。さらに、同じ時期に「省エネ・節電アクションプラン」も県民に呼びかけ、取り組んだ家庭をエコファミリーに認定し、「エコチケット」をプレゼントするキャンペーンも実施しています。

家族で一つの部屋で過ごしたり、図書館や商業施設で涼む、あるいは自然が多い涼しいところに行くといった「クールシェア」の取組で、夏を快適に乗り切るだけでなく、家族や地域の絆も深めることができます。

いしかわクールシェアマーク