環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第2節 持続可能な消費行動への転換

第2節 持続可能な消費行動への転換

1 社会的課題の解決に貢献する倫理的消費(エシカル消費)

(1)倫理的消費(エシカル消費)とは

持続可能な開発目標(SDGs)のゴール12「持続可能な生産・消費」は、生産と消費のライフサイクル全体を通して、天然資源や有害物質の利用及び廃棄物や汚染物質の排出を最小限に抑えることを目指しています。「持続可能な消費」には多様な概念が含まれますが、その一つとして、「倫理的消費(エシカル消費)」が注目されています。

倫理的消費は、消費者基本計画(2015年3月閣議決定)において、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」とされています。現代は世界中から様々な商品・サービスが選択できるようになっており、モノのライフサイクルを通じた社会や環境に対する負担や影響が、消費者から見えにくくなっています。倫理的消費とは、このライフサイクルを可視化し、社会や環境に配慮した商品・サービスを積極的に選択することで、消費者それぞれが社会的課題や環境問題の解決を考慮した消費活動を行うことと言えます。

消費者一人一人の関心はそれぞれ異なっており、倫理的消費の範囲も多岐にわたります。例えば、エコマーク商品、リサイクル製品、持続可能な森林経営や漁業の認証商品といった「環境への配慮」、フェアトレード商品、寄付付きの商品といった「社会への配慮」、障害者支援につながる商品といった「人への配慮」に加え、地産地消や被災地産品の応援消費等も、倫理的消費に含まれると考えられています。

(2)倫理的消費(エシカル消費)の意義

我が国のCO2排出量の約15%が家庭部門から排出されており、また、食品ロスの半分近くが家庭から排出されています。これらの対策には、消費者の意識の転換と家庭における取組が重要となっています。

前述したとおり、消費者の意識は「モノ消費」から「コト消費」に、「より安く」から「より良い」に少しずつ変化しつつありますが、一方で、消費者にたどり着くまでの生産過程や消費後の廃棄過程が消費者から見えにくくなっており、消費者はこれらを意識しないままに、価格の安さなどの情報だけで商品やサービスを選択してしまいがちです。

消費者が商品・サービスを選択する際に、安全・安心、品質、価格といった既存の尺度だけではなく、倫理的消費という第四の尺度を持つことで、「安さ」や「便利さ」に隠された社会的費用を意識することにつながります。

(3)倫理的消費(エシカル消費)に対する消費者の意識

消費者庁の調査によれば、エシカルな商品・サービスの提供が企業イメージの向上につながると考える人の割合は約7割で、エシカルな商品・サービスの購入意向がある人の割合は約6割となっています。また、既に購入経験がある人の割合は約3割で、商品別に見ると、食料品、その他生活用品、衣料品、家電・贅沢品の順に高くなっています。エシカルな商品・サービスに対して、通常の商品・サービスより割高でも許容できると回答した人の割合は約6割で、割高は10%までとする人が全体の約9割となっています(図3-2-1)。

図3-2-1 倫理的消費(エシカル消費)に対する消費者の意識

事例:持続可能な農林水産物を消費者に届ける(イオン株式会社)

イオン株式会社は1993年に人の健康や環境に配慮したプライベートブランド「グリーンアイ」をいち早く発売し、2002年に主に欧州において普及している国際的な農業生産工程管理(GAP)認証である「Eurep GAP(現GLOBALG.A.P.)」に基づいたイオングループ独自の品質管理基準を導入するなど、持続可能な農産物の生産・提供に取り組んでいます。現在、全国21か所の直営の全ての「イオン農場」において2018年夏までの「GLOBALG.A.P.」認証の取得を目指しており、さらに、国内のGAP認証導入を拡大するため、農業生産工程管理の実践方法を伝える講師の派遣など、GAP認証の取得を目指す一般の生産者の支援も行っています。

GLOBALG.A.P.取得農場で生産された国産トマト

また、水産物については、2006年に「海のエコラベル」として知られ、持続可能で社会的に責任ある方法で漁獲された天然水産物であることを示す国際認証「MSC認証」を取得した商品の販売を開始し、2014年には、環境や社会に配慮した養殖場で生産された水産物であることを示す「養殖版海のエコラベル」の「ASC認証」を取得した商品をアジアの小売業で初めて販売するなど、限りある資源の保全につながる取組を継続しています。

MSC認証を取得したししゃも

さらに、2017年4月には、農産物、畜産物、水産物、紙・パルプ・木材、パーム油について「イオン持続可能な調達方針」及び「2020年の調達目標」を策定し、2020年までの持続可能な認証製品の取扱い目標等を設定しています。

同社は持続可能な調達を推進することにより、環境や社会に配慮した安全・安心な商品を消費者に提供するとともに、事業活動を通じてSDGsの達成等の社会課題の解決に向けて取り組んでいます。

コラム:ウナギが食べられなくなる前に

ニホンウナギは、日本の伝統的な食文化として、日本人になじみの深い魚の一つです。その生態は、まだ明らかにされていない部分が多く残っていますが、外洋のマリアナ諸島西方海域に産卵場を持ち、東アジアの沿岸域で成長する降河回遊魚で、日本、中国、台湾、韓国等に広く分布しています。

日本では沿岸域から河川の上流域や湖沼まで幅広く分布していますが、その個体数は大きく減少しています。日本における成魚の漁獲量は、1960年代には3,000トン程度あったものが、2015年には70トンまで激減しており、国際自然保護連合(IUCN)や環境省のレッドリストで、近い将来に野生での絶滅の危険性が高いとされる絶滅危惧IB類に選定されています。

ニホンウナギの漁獲量

ニホンウナギは商業レベルでの完全養殖技術が確立されておらず、食用の養殖ウナギの全ては、稚魚(シラスウナギ)を河口等で捕獲し、養殖されたものになります。2015年から2016年にかけての国内のシラスウナギの漁獲量は13.6トンとされており、一個体当たりの体重を0.2gとすると、6,800万個体ものシラスウナギが漁獲されたことになります。

個体数の減少には、海洋環境の変化、過剰な漁獲、河川や沿岸域等の成育場の環境変化など、複数の要因が関わっていると考えられており、水産庁が中心となり、中国、韓国、台湾と連携・協力して、シラスウナギや親ウナギの漁獲抑制等の資源管理の取組が進められています。また、2017年3月に環境省が「ニホンウナギの生息地保全の考え方」を取りまとめ、河川管理者など関係者が連携・協力して生息環境の保全に向けた取組を進めています。

ニホンウナギの生息環境の例

海洋で生まれ、河川で育つニホンウナギは、かつては水田や水路も広く利用していたと考えられています。ニホンウナギが健全に成育できる水域は、森・里・川・海のつながりが良好に維持されていると言えます。土用丑の日にウナギが食べられなくなる前に、私たちの身近な環境の状況や持続可能な消費の在り方について考える必要があるのではないでしょうか。

2 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における持続可能性に配慮した調達

(1)オリンピックと持続可能性

「持続可能な生産・消費」は、スポーツの世界にも広がっています。中でも、オリンピック・パラリンピック競技大会は、世界最大規模のスポーツイベントであり、その開催はスポーツの分野だけでなく、社会経済活動や私たちのライフスタイルまで大きな影響を及ぼします。

オリンピックにおいては、1990年に国際オリンピック委員会(IOC)が「スポーツ」や「文化」に加え、「環境」を第三の柱とすることを打ち出し、1994年にオリンピック憲章に初めて「環境」についての項目が加えられました。このような流れを受け、同年のリレハンメル大会では「環境にやさしいオリンピック」がスローガンとして掲げられるなど、その後の大会の開催に当たって環境配慮の取組が進められてきました。

中でも、2012年に開催されたロンドン大会は、オリンピック史上最も持続可能な大会を目指し、「One Planet Living(地球1個分の暮らし)」をテーマとして掲げ、大会に関する工事等の準備から運営に至るまで「持続可能性」を柱の一つとして、温室効果ガスの排出削減、廃棄物の直接埋立ゼロ、持続可能性に配慮した調達等に取り組み、その後の大会に大きな影響を与えました。

さらに、2014年にIOCが採択した「オリンピック・アジェンダ2020」では、持続可能性に関するIOCの取組が明記され、オリンピックにおける持続可能性の重視をより明確化しました。

このような流れを受け、近年のオリンピック・パラリンピック大会では、「持続可能性」が主要なテーマに掲げられており、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「2020年東京大会」という。)における取組も大きな関心を集めています。

(2)2020年東京大会における「持続可能性」の取組

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)は、2017年1月に、2020年東京大会を持続可能性に配慮した大会とするため、「持続可能性に配慮した運営計画(第1版)」を策定しました。同計画では、目指すべき方向として、「環境」、「社会」、「経済」の幅広い側面を含む持続可能性に関する取組を推進し、「おもてなし」や「もったいない」といった日本的価値観や美意識の重視、江戸前、里山・里海など地域に根付いた自然観の世界への発信、最先端テクノロジー(より高度な省エネルギーや再生可能エネルギー、リサイクル等の環境対策技術等)を活用した社会システムへの組込みなど、東京や日本の独自性についても重視しています。

また、SDGsを含む世界的な議論の潮流等を踏まえ、持続可能性に関する主要テーマとして、「気候変動(カーボンマネジメント)」、「資源管理」、「大気・水・緑・生物多様性等」、「人権・労働・公正な事業慣行等への配慮」、「参加・協働、情報発信(エンゲージメント)」の5つを掲げ、温室効果ガス排出削減、廃棄物の発生抑制等の取組の具体化を進めており、今後策定する運営計画第2版では、主要テーマごとに具体的な目標等を定めることとしています。

(3)2020年東京大会における持続可能性に配慮した調達

組織委員会は、2017年3月に、大会の準備・運営に必要な物品・サービスに関して、持続可能性に配慮した調達を行うため、配慮すべき項目やその確認方法等をまとめた「持続可能性に配慮した調達コード(第1版)」を策定しました。このコードでは、木材、農産物、畜産物、水産物について個別の調達基準を設けており(図3-2-2)、今後、紙及びパーム油についても調達基準を策定する予定です。

図3-2-2 2020年東京大会における持続可能性に配慮した農産物の調達基準

木材、農産物、畜産物、水産物の調達においては、生産段階における持続可能性を重視する観点から、食材の安全、環境や生態系への配慮、快適性に配慮した家畜の飼養管理、水産資源の科学的・計画的な管理、労働安全等を確保することが調達基準の要件となっています。この要件を満たす生産物であることを、木材ではFSC、PEFC、SGEC、農産物ではJGAP、JGAP Advance(現ASIAGAP)、GLOBALG.A.P.、畜産物ではJGAP、GLOBALG.A.P.、水産物ではMEL、MSC、AEL、ASCなど、第三者の認証等により担保されていることが求められています。

また、調達基準では、この要件を満たした上で、有機農業・有機畜産により生産された農畜産物、障害者が主体的に携わって生産された農畜産物、世界農業遺産など伝統的な農業を営む地域で生産された農畜産物等が推奨されているほか、森林や農村、漁村の多面的機能の発揮や輸送距離の短縮による温室効果ガスの排出抑制等への貢献を考慮し、国産品を優先的に選択すべきとされています。

(4)「持続可能な生産・消費」を2020年東京大会のレガシーに

欧米を中心に持続可能性に関する第三者認証を取得した農林水産物の普及が拡大してきており、2012年のロンドン大会以降、会場で使用する木材や食材等については認証を取得したものが基本となっています。こうした動きを踏まえ、2020年東京大会においても、我が国の様々な事業者による国際水準の認証の取得の拡大を図るとともに、そうした事業者を支えるために、消費者の認証品に対する意識の向上が重要となっています。

今後、国際的に持続可能性への対応が求められていく中で、2020年東京大会において持続可能性に配慮した調達に取り組むことは、事業者の競争力を高め、将来的な事業の維持・発展に資するメリットもあると考えられます。2020年東京大会のレガシーとして、「持続可能な生産・消費」が社会全体に広がっていくことが期待されます。

事例:有機農業による持続可能な地域づくり(埼玉県小川町)

埼玉県小川町では、全国に先駆けて、1971年から農薬や化学肥料を使用しない有機農業が取り組まれており、日本有数の有機農業の里として知られています。

同町は、2017年3月に、世界的な有機農産物(オーガニック)の需要の高まりや、2020年東京大会を契機とした新たな国内需要の拡大を見据えて、「小川町元気な農業(おがわ型農業)応援計画」を作成しました。この計画では、「町の資源を活用し、豊かな土づくりを大切にする」理念の下、地域資源を活用した有機農業やNo.1だと誇れる取組等を宣言した農家を同町が認証し、宣言に合わせて生産された有機農産物等に、それぞれの統一のロゴマークを付けることでブランド化を図っています。こうした取組を進め、2017年12月時点で、有機栽培に取り組む販売農家数の割合が全国でもトップレベルの11%となっています。

小川町の有機農業

同町の農地は、大規模農業に適した平坦で広い田畑が少なく、区画が狭く、傾斜がある農地が多くなっています。こうした特徴を逆手にとって、里山の落ち葉や麦わら、稲わら、雑草等の地域の資源を有効活用し、環境にやさしい有機農業に地域を挙げて取り組むことで、美しい里山風景のある、住みよいまちづくりを目指しています。

同町の有機農業の取組は、地域住民や民間企業等からも支援の輪が広がっています。2009年からは、地域のNPOが仲介し、さいたま市内の企業が下里地区で生産された有機栽培米を再生産可能価格で全量買い取り、希望する社員の給料の一部となっています。販路が確保されたことで、集落ぐるみで有機農業に取り組むようになるとともに、米作り体験が企業の新人社員研修となり、集落の里山の整備に企業の社員が家族連れで参加するなど、自然体験の場となっています。

また、2014年からは、有機農業を核とした地域活性化の成功モデルを広めるべく「Ogawa Organic Fes(小川町オーガニックフェス)」をボランティアが中心となって立ち上げ、毎年開催しています。2016年からは、環境省「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトと共催となり、2017年には6,000人を超える参加者が集まりました。

小川町オーガニックフェス2017

事例:自然と共生する里づくり(千葉県いすみ市)

イセエビ、アワビ、タコ、お米など、豊かな里海と里山の産物に恵まれている千葉県いすみ市は、地域資源の活用や地域産業の競争力強化を図るためには、自然資本の維持・増大が不可欠であると考え、2015年2月に「いすみ生物多様性戦略」を策定し、社会経済活動と自然が調和する地域づくりを進めています。

その取組の中心となっているのが、コウノトリをシンボルとした人と生きものに優しい環境保全型農業の推進です。市内の環境団体や農業団体等が参加して「自然と共生する里づくり連絡協議会」を設立し、有機稲作の普及・拡大や農産物のブランド化、食農教育や環境教育、都市住民を対象とした交流・体験活動等の取組を活発に進めています。

同協議会は、2013年から農薬や化学肥料を全く使用しない有機米の生産をゼロから始め、その後、年々栽培面積を拡大させてきました。2017年には、有機米生産に取り組む農家が23人、栽培面積14ha、生産量50トンまで拡大し、全国で初めて、市内の全小中学校の学校給食(2,800食/日)に使用するお米の全てを市内で生産された有機米に切り替えています。また、総合的な学習の時間を活用して、子どもたちに有機米給食と関連した栽培体験や生物多様性学習を行っています。

有機米生産による自然資本の増加を、子どもたちの環境教育の振興、交流人口の拡大、農業所得の増加につなげており、環境と経済が両立する好例と言えます。

全量有機米による市内の学校給食

事例:都市住民も農家も元気にする「農業体験農園」(NPO法人全国農業体験農園協会)

都市住民の価値観やライフスタイルが変化してきており、農作業体験を希望する都市住民が増加しています。全国の市民農園の開設数は年々増加傾向にある一方で、都市農地は宅地等への転用や担い手の高齢化等により減少傾向にあります。

こうした中、NPO法人全国農業体験農園協会は、2010年から「農業体験農園」の普及や管理・運営に対する支援を行っています。「農業体験農園」とは、利用者が料金を支払って、農園主である農家の指導の下、農作業を体験する体験型の農園です。農作業に必要な農具や種苗は農園が用意し、農家の指導を受けながら、初心者でも手軽に新鮮で安全・安心な野菜づくりを体験することができます。同協会に加盟する農園の数は年々増加しており、2018年3月末時点で、首都圏を中心に10都府県において139農園(7,536区画)に及んでいます。

都市住民にとっては農作業体験を通じて農業や食への理解を深めることにつながり、農家にとっては「体験」という付加価値をつけることで農業の収益性の向上にもつながっています。

都心住宅街の農園(東京都練馬区)