環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 地域循環共生圏の創出に向けた地域の低炭素化

第2節 地域循環共生圏の創出に向けた地域の低炭素化

1 再生可能エネルギーの導入による地域の活性化

(1)脱炭素化に向けた世界規模での再生可能エネルギーの導入拡大

気候変動を引き起こす温室効果ガスの9割をCO2が占めており、そのほとんどが化石燃料の燃焼に伴うエネルギー起源となっています。このため、パリ協定が求める脱炭素社会の実現に向けては、再生可能エネルギーの導入がますます重要となってきています。

再生可能エネルギーの導入は、かつては欧州や米国を始めとした先進国が中心となっていましたが、近年は、中国、インド、アフリカ、中南米諸国など世界規模で拡大しています。中でも、太陽光及び風力発電の導入が拡大しており、太陽光は2000年の1.3GWから2017年には400GW近くまで、風力は2000年の17GWから2017年には540GWまで拡大しています。

こうした動きを加速しているのが、再生可能エネルギーの発電コストの低下です。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、太陽光の発電コストは2010年からの7年間で7割以上低下し、2020年までに世界平均で全ての再生可能エネルギーが化石燃料より安価になると予測しています(図2-2-1)。

図2-2-1 再生可能エネルギーのコストの低下
(2)再生可能エネルギーは新しい経済成長の後押しに

IRENAによれば、エネルギー産業の脱炭素化に必要な投資は2050年までに約29兆ドル以上に上り、こうした投資が新しい経済成長を促し、2050年に世界全体の国内総生産(GDP)を0.8%押し上げると試算しています(図2-2-2)。また、世界全体の再生可能エネルギー産業における雇用は2016年時点で1,000万人近くに達し、日本でも30万人以上が雇用されています。

図2-2-2 2050年までに必要なグリーンエネルギー投資

世界のビジネスはこの流れを後押ししています。既に数多くのグローバル企業や地域が、供給面のリスクや価格変動の大きい化石燃料から、中長期に安定調達ができる再生可能エネルギーを主要エネルギー源とする方向に舵を切っています。グーグル、アップル、ウォルマート、マイクロソフト、アマゾン、GM、バドワイザー等のグローバル企業が、自らの消費電力を再生可能エネルギー100%で賄うことを目指すとともに、バリューチェーンで消費されるエネルギーを再生可能エネルギーに転換するための取組を始めています。

(3)地域が主体となった再生可能エネルギーの利活用の促進

太陽光、風力、水力、木質バイオマス・家畜ふん尿、廃棄物エネルギー、地熱発電、温泉熱等の再生可能エネルギーは、我が国の脱炭素社会の構築に向けた取組と、それを通じた持続可能な成長の切り札とも言えるものです。

再生可能エネルギーのポテンシャルは地域により偏りがありますが、我が国のどの地域にも、多種多様な再生可能エネルギー資源が存在しています。環境省の試算では、風況や日照等の統計データを元に、一定の経済的条件を設定して試算した結果、我が国全体で、エネルギー需要の最大約1.8倍の再生可能エネルギー供給力(1.8兆kWh)があると推計しています(図2-2-3)。さらに、今後、暮らしや経済を豊かにし得る技術やライフスタイルが浸透していくことが想定され、これらは再生可能エネルギーを主力エネルギー源に押し上げる武器になり得ます。

図2-2-3 再生可能エネルギーの導入ポテンシャル(市町村別)

一方で、前述のとおり、全国の約9割の市町村でエネルギー収支が赤字になり、地域外に資金が流出しています。そうした資金を再生可能エネルギーの導入や投資に回すことで、エネルギー収支を改善し、足腰の強い地域経済を構築するとともに、新たな雇用を創出し、災害時の強靱さ(レジリエンス)の向上にもつながる効果が期待されます。環境省の試算では、2030年の温室効果ガス排出26%削減に必要な再生可能エネルギーや省エネルギーの投資を行うと、ほぼ全ての自治体で域内総生産(GRP)が増大し、全国で計約3.4兆円の経済効果が得られると推計しています。

地域の資源である再生可能エネルギーの利活用を、地域の消費者・企業・自治体が自ら担い手となって主体的に取り組むことで、その効果を加速化・最大化させることが重要となっています。環境省では、2018年3月に「環境省 再エネ加速化・最大化促進プログラム2018年版」を公表し、地域を主体とする再生可能エネルギー活用の促進に向けて、様々な支援を行っています。

2 地域における再生可能エネルギーを活用した取組

(1)エネルギーの地産地消

地域全体で、地域の企業・市民・金融機関等の主体が協力して、地域の再生可能エネルギー資源を自ら開発・活用して、地域の産業活動・消費生活を支えるエネルギー需要を可能な限り再生可能エネルギーで賄うことにより、エネルギーの自立と脱炭素化を図る取組が始まっています。どの地域にもエネルギー需要や再生可能エネルギー資源があることから、この取組はあらゆる地域で実施可能です。また、エネルギーの地産地消は、脱炭素化のみならず、災害対応を含む地域のエネルギー自立度を高められる、新たな雇用と収益源を創出できるといったメリットがあります。

再生可能エネルギーの導入が進むドイツでは、「シュタットベルケ」による地域資源を有効活用した地域エネルギー供給の取組が進んでいます。シュタットベルケとは、電力、ガス、水道、公共交通等、地域に密着したインフラサービスを提供する公益事業体のことで、1990年代以降のドイツの電力自由化の中にあっても、地域内経済循環を実現し、地域での新たな雇用を創出しています。

我が国においても、地域のエネルギー企業が、地域の再生可能エネルギーを活用し、地域内にエネルギー供給する事例が多数出てきています。環境省の調べでは、地方公共団体や地域金融機関が関与し、地域の再生可能エネルギー資源を活用している地域エネルギー企業の数は、2018年1月時点で30を超えています。こうした取組により、地域の資源を活用した電力を供給し、エネルギーを効果的に地産地消することで、地域の資金を地域で循環させることが可能となります。

また、暖房や給湯といった熱需要は、ほぼ全てが電力や化石燃料を使用し、熱に変換することによって賄われています。しかし、電力を熱エネルギーに変換して利用する場合、発電時の効率まで考慮すると、投入する一次エネルギーの20〜30%しか利用できていない計算となります。発電時に発生する熱を暖房や給湯に利用することが、エネルギーを無駄なく効率的に利用することにつながります。さらに、再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱等)や廃棄物処理に伴う余熱等の利用を経済性や地域の特性に応じて進めていくことも有効です。

事例:日本版シュタットベルケのパイオニア(福岡県みやま市)

福岡県みやま市では、エネルギーの地産地消による地域経済の活性化、地域雇用の創出等を目的として、民間企業との合同出資により「みやまスマートエネルギー株式会社」を設立し、自治体主導の地域新電力では日本で初めて家庭向けの電力小売サービスを提供しています。電力を安価かつ安定的に供給するだけでなく、生活支援サービスを付加価値として提供し、電力事業で得た利益で地域の課題に対応することを目指しています。

具体的には、メガソーラーや家庭の太陽光余剰電力を買い取り、2015年11月から市役所等の公共施設に順次電力を供給しています。2016年4月の電力小売り全面自由化後には一般家庭等の低圧施設にも供給しており、2018年3月では契約件数は約3,000件に上ります。あわせて、2017年度では売上が18億円に達する見込みとなっており、雇用創出も40名程度と地域内経済循環の効果が少しずつ表れています。また、生ごみやし尿を活用したメタン発酵のバイオマス施設を小学校跡地に建設中(2018年12月稼働予定)であり、循環型社会の構築に向けても取組を推進しています。

みやまスマートエネルギー株式会社の仕組み

同市では、エネルギーの地産地消と循環型社会の構築に向けた取組を両輪で進めることで、持続可能な地域づくりをドイツのシュタットベルケに倣い、日本版シュタットベルケの実現に向けて積極的に進めています。

事例:自前の供給管理で地域内のエネルギーを最大限活用する(鳥取県米子市)

鳥取県米子市の「ローカルエナジー株式会社」は、米子市と地元企業5社の共同出資により、2015年に地域エネルギー会社として設立されました。地元自治体と地元企業が連携し、地域のエネルギーの地産地消を進めることで、新たな地域内の資金循環を実現することを目指しています。

ローカルエナジーが目指す地域内資金循環

同社は米子市クリーンセンター等の廃棄物発電、ソフトバンク鳥取米子ソーラーパーク等の太陽光発電、協和地建コンサルタント湯梨浜地熱発電所の地熱発電といった地域内の電力により、全体の電源構成の約6割を賄っています。

米子市クリーンセンター
ソフトバンク鳥取米子ソーラーパーク

また、同社は電力の需給管理も自前で実施しており、例えば地域の天気やイベント、学校の行事に合わせた電力供給を実施するなど、地域の特性に合わせた最適な需給調整を可能としています。加えて、需給管理を自前で実施することにより地域に新たな雇用を創出しています。

事例:エネルギーの地産地消による地域課題の解決(長野県飯田市)

内閣府の環境モデル都市に選定されている長野県飯田市は、1996年に市の環境政策の基本計画となる「21’いいだ環境プラン」を策定し、持続可能なまちづくりを基本理念として施策を推進しています。

2004年から、同市を中心とした南信州地域においてエネルギーの地産地消を進める「おひさま進歩エネルギー株式会社」は、日本初の大規模な太陽光発電の市民出資による「南信州おひさまファンド」を創設し、保育園や公民館等の屋根等に計351か所・6,700kWの太陽光発電を導入しています。この取組によって、2017年末時点で9人の雇用を生み出すとともに、2013年までの18.1億円の初期投資に対して、2030年までに31.5億円の売上見込みがあり、17.8億円の地域経済付加価値が生まれると試算されています。

飯田市における太陽光発電施設の設置台数

同市は、2013年に「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例(地域環境権条例)」を制定し、再生可能エネルギーから生まれるエネルギーを市民総有の財産と捉え、市民がこれを優先的に活用して地域づくりを行う「地域環境権」を市民に保障しています。また、地縁団体やまちづくり委員会(自治基本条例に位置付けられた自治組織)等が地域の自然資源を活用して発電事業を行い、地域が抱える課題解決(例えば、児童クラブの運営、コミュニティバスの増便、地域への医者の派遣等)に売電収益を使うといった、市民が主体となって地域づくりを進める事業を、同市との協働事業として条例に基づき認定しています。

事業認定の審査会には、環境経済、環境金融、法務、まちづくり、電気事業者の専門家や地域金融機関等が参加し、事業に対して信用力を付与することで市場からの資金調達を円滑にすると同時に、条例に基づく基金によって事業の初期費用を支援しています。認定事業は2017年度までに9件に上っています。

同市では、太陽光発電だけではなく、小水力や木質バイオマスの利用等の取組も進められています。例えば、上村(かみむら)地区において、地域住民主体の事業化によって、地域活性化につなげる小水力発電事業の検討が進められるなど、エネルギーの地産地消を通じて、地域の課題解決につなげようとしています。こうした取組を通じて、課題解決に向けた地域コミュニティの結束が強まり、地方創生を担う地域の人材育成にもつながっています。

地域環境権条例に基づく認定事業の例
(2)再生可能エネルギー熱の利用

再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱等)は、各地域の特性に応じて身近に存在しており、その利用可能性は様々です。

例えば、下水の水温は一年を通して比較的安定しており、大気の温度と比べ夏は低く、冬は高いという特徴があります。このため、下水熱を冷暖房や給湯等に利用することによって、大幅な省エネルギーを図ることが可能です。また、下水熱は都市域における熱需要家との需給マッチングの可能性が高く、採熱による環境影響が小さいなど複数のメリットがあり、今後の利用拡大が望まれています。

また、地中の温度は地下10〜15mの深さになると年間を通して温度の変化が見られなくなることから、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高くなり、この温度差を冷暖房等に利用することが可能です。

この他にも、降雪の多い地域においては、雪や氷を熱源とする熱を冷蔵、冷房その他の用途に利用する雪氷熱利用が進むことが見込まれますし、河川の利用が可能な地域においては、河川の水を熱源とする熱をヒートポンプ等で汲み上げることにより給湯・暖房・冷房等の用途に利用する河川水熱利用が見込まれます。

事例:「みなとアクルス」スマートエネルギーシステム(東邦ガス株式会社)

東邦ガス株式会社では、名古屋市港区において、先進のエネルギーシステムを導入した総合エネルギー事業のモデル地区となるスマートタウン「みなとアクルス」の開発を進めています。エネルギー効率の高いガスコージェネレーション(以下「CGS」という。)を中心に、オフサイトからの木質バイオマス電力調達、大型蓄電池(NAS電池)、太陽光発電、運河水熱利用等を組み合わせ、中部圏初となるCEMS(コミュニティー・エネルギー・マネジメント・システム)により、エリア全体のエネルギー需給を一括管理し、低炭素性・災害対応性を併せ持つ都市型モデルを実現します。これらの取組により、1990年比で、国内トップレベルの一次エネルギー削減率40%、CO2排出削減率60%を達成する見込みであり、名古屋市から「低炭素モデル地区」第1号に認定されています。

エネルギーシステムの特徴の一つとして、熱利用の高度化があります。エリア全体の熱需要に応じ、最適なCGS容量を設定し、年間の稼働率を高めるだけでなく、余剰排熱を最小化するシステム構成により、省エネ性と経済性を向上させています。また、エリア内の未利用エネルギーである運河水を、冷房時はヒートポンプの冷却水、暖房時は熱源水として有効利用し、一次エネルギー量を削減しています。もう一つの特徴として、CEMSによるエネルギーマネジメントがあります。供給先のEMS(BEMS・HEMS)と連携し、太陽光発電やエリア全体の需要予測を行い、エネルギーシステムの最適運転計画を立案・実行します。供給先に対するデマンドレスポンスの要請や省エネ活動の支援等を行い、エリア全体でエネルギー使用量を最適化します。

さらに、災害時にもエリア内のエネルギー需給を制御し、必要なエネルギーを供給します。具体的には、CGSや太陽光発電、NAS電池の分散型電源で構築するエネルギーネットワーク、耐震性の高い都市ガス中圧A導管によるガス供給、断水時にも対応した運河水や井水による冷却水の確保により、エネルギーシステムの運転を継続します。隣接する港区役所や港防災センターにも非常用電力を供給し、地域の防災に貢献します。

エネルギー供給計画図/エネルギーシステムフロー図

事例:新市庁舎における地域熱供給の導入(横浜市)

横浜市では、設備の老朽化や庁舎の分散化による業務効率の低下等の課題に対応するため、新市庁舎の整備を行っています。新市庁舎の整備に当たって、高い断熱性能を有する外壁の採用や高層部での外気導入による空調熱負荷の削減に加え、空調・照明等における高効率機器の採用や自然通風・太陽光発電など自然エネルギーを最大限利用することにより、最高ランクの省エネルギー性能と快適性を両立する計画です。

新市庁舎整備を契機として、隣接する施設(横浜アイランドタワー)と共に地域冷暖房方式を導入します。両施設によるエネルギーの面的利用に加え、下水再生水熱の利用や新市庁舎で受ける節電要請には地域冷暖房事業者と協力して一体で取り組むなど、建物と密接にエネルギーを融通し、エネルギーの最適化を図る計画です。さらに、コージェネレーションシステムを導入し、通常時は廃熱を熱源で有効に活用しながら、非常時には発電電力を地区内に供給できるようBCPの強化も図ります。

こうした計画により、新市庁舎では省エネルギー率40%以上を目指しています。

横浜市新市庁舎外観イメージ/新市庁舎における地域冷暖房の概要

3 住まい・オフィス等のエネルギーを使う場での再生可能エネルギーの活用

(1)住宅やオフィスを低炭素化する

私たちの住宅やライフスタイル、あるいはオフィスビルや働き方自体のゼロエネルギー化に向けて、ZEB(ゼブ)(ネット・ゼロ・エネルギービル)/ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の導入が進んでいます。ZEBやZEHは温室効果ガス排出量の削減のみならず、健康で快適な住まいや働きやすいオフィスの実現、災害時も含めたエネルギー自立度の向上といったメリットがあります。また、自家発電・自家消費が中心となることから送配電系統への負荷が比較的小さくなります。

(2)ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、年間の一次エネルギー消費量がネットでゼロとなる建築物のことです。民生部門は最終エネルギー消費の3割を占め、他部門に比べ増加が顕著であることから、徹底的な省エネルギーの推進は我が国にとって喫緊の課題となっています。また、東日本大震災における電力需給のひっ迫や国際情勢の変化によるエネルギー価格の不安定化等を受けて、エネルギー・セキュリティーの観点からも、建築物のエネルギー自給(自立)の必要性が強く認識されています。

このような背景から、室内外の環境品質を低下させることなく大幅な省エネルギーを実現するZEBに注目が集まっており、「地球温暖化対策計画」において、「2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指す」とされています。

事例:国内初の実用ビルZEB化改修(株式会社竹中工務店)

株式会社竹中工務店では、オフィスビルでの執務を続けながら改修を行い、実際に使用しているオフィスビルにおいては国内で初めてZEB化を達成しました。改修に当たっては、建物全体の高断熱化、自然通風や自然採光の最大限の利用、地中熱・太陽熱を直接利用する放射空調やデシカント空調、個人の好みに合わせて最適な温度や気流を提供するウェルネス制御等により、快適なオフィス環境と省エネルギーを両立しました。

また、オフィス空間を多様化し、場所によって集中しやすい空間やコミュニケーションを誘発する空間を設けることにより、オフィスの生産性を上げながら事務機器・端末等のシェアリングによるコンセント消費、空調、照明等を縮減しています。

最後に残ったエネルギー消費は、太陽光発電と蓄電池で創エネルギー及び蓄エネルギーを行い、ZEBの実現、更にはZEBを超えたプラスエネルギービルを実現しています。

このような技術は、災害時にも機能を維持することが可能です。非常時にも太陽光発電からの電力供給や蓄電池の充放電により建物を長時間稼働し、地中熱や太陽熱、自然通風も活用できるなど、災害にも強い建物となっています。

竹中工務店 東関東支店
改修前後の実績比較
(3)ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅で、「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味でおおむねゼロ以下」を同時に実現する住宅として注目を集めています。

政府では、「2020年までにハウスメーカー等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」を目標とし、普及に向けた取組を実施しています。この目標の達成に向け、2016年度より、ZEH支援事業(補助金制度)において自社が受注する住宅のうちZEHが占める割合を2020年までに50%以上とする目標を宣言・公表したハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者等を「ZEHビルダー」として公募、登録し、屋号・目標値等の公表を行っています。2017年10月時点で全国のハウスメーカー、工務店を中心に6,179社がZEHビルダー登録を行っています。

我が国の家庭部門における最終エネルギー消費量は石油危機以降約2倍に増加し、全体の15%程度を占めています。また、東日本大震災後の電力需給のひっ迫やエネルギー価格の不安定化等を受け、家庭部門における省エネルギーの重要性が再認識されています。加えて、2015年7月に策定された長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)では、省エネルギーについて、石油危機後並みの効率改善(35%程度)を見通しとして示しており、その実現のためには、住宅そのものの省エネルギーが不可欠となっています。ZEHの普及により、家庭部門におけるエネルギー需給構造を抜本的に改善することが期待されます。

事例:快適に暮らしながらエネルギー収支ゼロ(積水ハウス株式会社)

積水ハウス株式会社は、ZEHの新築戸建住宅として「グリーンファースト ゼロ」の販売を行っています。「グリーンファースト ゼロ」は、我慢することなく、快適・健康に暮らしながら生活時のエネルギー消費を建物断熱性能の向上と最新の省エネルギー機器で削減し、残ったエネルギー需要については、太陽光発電や燃料電池など創エネルギーで賄うものです。2013年の販売開始以来、2017年1月末までに26,840棟を販売し、CO2排出削減量は約10万トンCO2/年を達成しました。現在、同社の新築戸建住宅の受注に占める「グリーンファースト ゼロ」の比率は7割を超えています。

「グリーンファースト ゼロ」のイメージ

コラム:行動科学(ナッジ)を活用したCO2排出削減

2017年のノーベル経済学賞は、行動経済学の第一人者である米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が受賞しました。近年、この行動経済学の理論に基づくアプローチ(nudge(ナッジ):そっと後押しする)により、国民一人一人の行動変容を促し、ライフスタイルを変革しようとする取組が、「ナッジ・ユニット」と呼ばれる欧米の政府関連機関の下で行われ、費用対効果が高く、対象者にとって自由度のある新たな政策手法として注目されています。

我が国においてもこうした取組をCO2排出削減に活用できないかを検証するため、環境省は2017年4月に産学官が連携した「日本版ナッジ・ユニット」を設置し、CO2排出削減に資する行動変容のモデルを構築し、関係府省、地方公共団体、米国エネルギー省、ハーバード大学等と連携して、当該モデルの我が国への適用可能性等の検証を行うためのモデル事業を実施しています。

その取組の一つが、各家庭への省エネレポートの配布です。事業に参加する7つのエネルギー事業者が電気やガスを供給する合計34万世帯を対象に、行動科学の理論を活用した省エネレポートを配布しています。省エネレポートには、各家庭の電気やガスの使用状況に加え、前月との比較や節約のアドバイスを盛り込むことで、自発的な省エネ行動を促そうとするものです。先行して行われた北陸電力株式会社の管内の2万世帯での試験では1.2%の省エネ効果が、国際的には2〜3%の省エネ効果が確認されています。

省エネレポートの例