環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 パリ協定を踏まえた世界の潮流

第2節 パリ協定を踏まえた世界の潮流

1 世界の温室効果ガス排出量

国際エネルギー機関(IEA)によると、2016年の世界のエネルギー起源CO2排出量は321億トンCO2で、3年連続で横ばいとなった一方で、世界経済は、2015年比3.1%の成長となっており、経済成長とCO2排出量のデカップリング(切り離し)が継続する兆候があると指摘しています(図2-2-1)。また、この要因として、世界経済の構造改革に加えて、再生可能エネルギーの導入、石炭から天然ガスへの転換、エネルギー効率の上昇等を挙げています。過去のCO2排出量の横ばい又は低下は、1980年代前半、1992年、2009年の三度あり、いずれもオイルショック等、グローバル経済の低迷が原因となっていましたが、今回は経済成長が続く中でのCO2排出量が横ばいとなっています。

図2-2-1 世界のエネルギー起源CO2排出量と実質GDPの推移

2016年5月の気候変動枠組条約事務局の報告書によれば、2030年の温室効果ガス(GHG)の排出量は各国のINDCを総計した効果を踏まえても、2℃目標を最小のコストで達成するシナリオの経路には乗っていません。各国のINDCを総計した効果を踏まえた2030年の排出量は、同シナリオの排出量から152億トンCO2超過しており、同報告書では更なる追加削減が必要と指摘しています(図2-2-2)。

図2-2-2 2030年の温室効果ガス排出量と2℃目標のギャップ

2030年以降の一層の削減努力により2℃目標の達成の可能性は残っていますが、その場合には2030年~2050年に年平均約3.3%の削減が必要です。これは2℃目標を最小コストで達成するシナリオと比べ2倍の削減率に相当し、2030年以降に2℃に向けた必要な対策を取る場合は、相当多額のコストを要することとなります。

NDCは5年ごとに提出・更新し、従来より前進を示すものとされているため、今後更新される各国のNDCにおいて、世界全体でどれだけ意欲的な目標設定がなされるかがパリ協定の達成のために重要となっています。

なお、2017年に発足した米国新政権においては、既設火力発電所に対するCO2排出規制であるクリーンパワープランのレビューを指示する大統領令を発出するなど、これまでの気候変動政策を見直す動きも見られ始めており、今後の動向を注視していく必要があります。

2 世界の長期低排出発展戦略の動向

パリ協定では、全ての国が長期低排出発展戦略を策定・提出するよう努めることとされており、2020年までに提出することが招請されています。2017年3月末現在、米国、ドイツ、カナダ、メキシコ、フランス等が国連に長期低排出発展戦略を提出しています。

各国が提出している長期低排出発展戦略によれば、米国は温室効果ガス2005年比80%以上削減、ドイツは1990年比80~95%削減、フランスは1990年比75%削減、カナダは2005年比80%削減、メキシコは2000年比50%削減を目指すこととなっています(表2-2-1)。

表2-2-1 各国の長期低排出発展戦略の策定状況

3 世界のカーボンプライシングの動向

(1)世界の動向

カーボンプライシング(炭素の価格付け)については、2016年10月の世界銀行の報告書によれば、様々な政策やプログラムによってINDCが実施されていくことになるが、その実施に当たってカーボンプライシング施策の役割が増していくだろうとされており、既に世界で我が国を含む40の国と24の地方政府が、何らかのカーボンプライシング施策(排出量取引制度、炭素税)を導入・検討しているとされています(図2-2-3)。

図2-2-3 政府・地域・自治体におけるカーボンプライシングの導入状況
(2)ヨーロッパの動向

EUでは、域内の温室効果ガス排出量の約45%をカバーする世界最大の排出量取引制度であるEU-ETSが2005年から導入され、対象の固定施設からの温室効果ガスの排出量は、開始から2015年までの間に24%減少しました。2008年の経済的危機や国際クレジットの利用等によって制度対象企業の温室効果ガス排出量が排出枠の割当てを下回り、排出枠価格が下落したことを踏まえて、第3フェーズ(2013年~2020年)においては、[1]各加盟国政府ベースでの無償割当てから、欧州ベースでの割当てとし有償割当てを拡大、[2]排出枠の一部を取り置き市場需給の安定化を図る「市場安定化リザーブ」の導入等、制度改善が現在も進められています。今後の削減目標の強化等により、余剰排出枠が第4フェーズ(2021年~2030年)中に市場安定化リザーブに全て吸収される見通しです。また、炭素リーケージのリスクが大きいとされるセクターに対しては、原則として、ベンチマーク方式による全量無償割当てを引き続き行う見込みです。

また、炭素税については、フィンランドが1990年に導入したのを皮切りに、現在、13か国が導入しており、課税対象、上流・中流・下流課税の別、税率等において、各国の国情に応じた制度設計が見られます。2008年に導入したスイスでは、熱利用や照明利用等のための石油、ガス、石炭が対象となっており、排出量取引制度の対象企業のほか、国際競争にさらされているエネルギー多消費産業も排出削減を約束すれば、課税が免除されます。税率は過年度の排出実績に基づいて決定されることとなっており、例えば、2018年の税率は2016年の排出実績に応じて三つの候補から決まることになっています。2014年に導入したフランスでは、EU-ETSの対象となっていない天然ガス、熱利用のための石油、石炭、運輸用燃料の使用が対象となっており、また、影響の大きい部門は一部または全額が免除されています。税率は、2014年のCO21トン当たり7ユーロから、2020年のCO21トン当たり56ユーロまで、段階的に税率が引き上げられることとなっています 。また、その後は、2030年にCO21トン当たり100ユーロまで引き上げることが目標とされています。2015年に導入したポルトガルでは、EU-ETSの対象となっていない石油、ガス、石炭が対象となっており、EU-ETSの対象となっていない全ての部門のエネルギー使用に課税されています。税率は、導入時はCO21トン当たり5ユーロとされ、毎年、前年のEU-ETSにおける排出枠価格の年間平均値により決定されます。

(3)北米・中南米の動向

北米は、2008年にカナダのブリティッシュコロンビア州が初めて炭素税を導入し、2017年にはアルバータ州も炭素税を導入することが決まっています。また、米国北東部州地域GHGイニシアティブ(RGGI)が2009年、カリフォルニア州が2013年、カナダのケベック州が2013年に、それぞれ排出量取引制度を導入し、2017年にはカナダのオンタリオ州も排出量取引制度を導入することが決まっています。

カナダ連邦政府は、2016年10月に連邦カーボンプライシング提案を発表し、2018年までに全ての州・準州が炭素税又は排出量取引制度を導入することとしました。同提案では、各州・準州ごとに制度を定めることとなっています。サスクチュワン州及びマニトバ州は、同提案を含む「Pan-Canadian Framework on Clean Growth and Climate Change」への署名を行っていません。2018年に連邦政府の定めた条件を満たしていない州・準州に対しては、連邦政府により明示的な炭素価格制度が導入されます。

また、メキシコは2014年に炭素税が導入され、チリでも2017年に炭素税が導入される予定です。

(4)アジアの動向

中国は、第12次5カ年計画の市・省別排出削減目標の達成及び全国制度の準備を目的として、2013年から2014年にかけて、排出量取引制度のパイロット事業を2省5市(北京市、上海市、広東省、湖北省、深セン市、天津市、重慶市)が開始されました。このパイロット事業の成果を踏まえ、中国全土を対象とした排出量取引制度が2017年中に開始される予定となっています。

韓国は、2015年から排出量取引制度を導入しています。2016年5月の法改正により、制度の管轄を環境部から企画財政部に移管した上で、排出量算定等の実施を産業通商資源部、環境部、国土交通部、農林畜産食品部の4部で行う体制に変更されました。排出枠の供給不足に対し、排出枠の初期割当てを厳しく設定したため、市場に供給される排出枠が不足し、余剰排出枠が少なくなりました。このため、ボローイング(次期目標期間以降のための排出枠を使用(償却)できるようにすること)の上限引上げや政府リザーブによる供給等、様々な柔軟性措置が実施されています。2016年7月には、EU-ETSと共同プロジェクトを立ち上げました。

シンガポールでは2019年から炭素税を導入する計画となっています。

(5)オセアニアの動向

ニュージーランドは、2008年に排出量取引制度を開始しました。この制度では、メタン等6ガス(CO2、CH4、N2O、SF6、HFCs及びPFCs)全てが対象とされており、農業起源以外のほぼ全ての温室効果ガス(国全体の排出量の約52%)が償却義務の対象となっています。一方、オーストラリア連邦では、2012年に炭素価格付け制度が導入されましたが、政権交代により、同制度は廃止されています。

(6)実効炭素価格の国際比較

政府によるカーボンプライシングについては、炭素価格が明示的に示されるもの(排出量取引、炭素税等)のほか、エネルギー課税、省エネ取引制度、再エネ支援策など他の政策等によって実質的に排出削減コストが発生する場合に、これを「暗示的な炭素価格」とする考え方もあります。例えば、OECD は、炭素税及び排出量取引制度による炭素価格に、エネルギー課税による炭素価格を合計した「実効炭素価格」を計算するとともに、各国において当該施策でカバーされている温室効果ガス排出量の国全体の温室効果ガス排出量に対するシェア等を調査しています(図2-2-4)。同分析に基づく実効炭素価格(2012年時点)で国際比較を行うと、道路輸送部門では、中国、カナダ、インド、米国、インドネシア、ブラジル、メキシコ、ロシアを除く国において、実効炭素価格が50ユーロを超えています。また、その他の部門を見ると、産業部門、業務・家庭部門、電力部門それぞれにおいて、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダ、オーストリア等が高い値を示し、産業部門、業務・家庭部門では、英国、ドイツ、韓国等が中位に、ベルギー、日本、米国等が低位になっています。電力部門においては、英国、韓国、日本等が中位に、中国、米国、豪州等が低位になっています。

図2-2-4 各国における部門別の実効炭素価格の比較
(7)民間企業の動向

カーボンプライシングの動きは、国内外の民間企業や投資家の間でも盛んになっています。自社の気候変動リスクと機会を管理するアプローチ等として、自主的に炭素に価格付け(社内カーボンプライシング)を行う企業が増えています。これらの企業がバリューチェーンで排出される温室効果ガスを把握し、価格を付けることにより、政策の変更等によるリスク評価や投資判断に活用している事例があります。機関投資家と連携し、企業に対して気候変動や温室効果ガス排出に関する情報開示を求め、調査を行う世界的な非営利組織であるCDPの2016年の調査によれば、社内カーボンプライシングを「導入している」又は「2年以内に導入予定」と回答した企業は、世界全体で1,249社に達し、2015 年比で23%増加しています。また、我が国の企業で、「導入している」と回答した企業は54社、「2年以内に導入予定」と回答した企業は37社となっています。2015年10月には、世界の大企業14社が、COP21に先立ち、パリでの合意を支援する提言を発表し、その中で、パリでの合意が国際的な炭素取引を行う国々に環境十全性を求めるものとなれば、国際的な炭素市場の成長と信頼性向上に役立つとしました。また、2016年8月には、世界の130の投資家が、パリ協定を踏まえてG20首脳に提言を送付し、その中では、政府が実施すべきことの一つとしてカーボンプライシング施策の実施を求めています。

また、COP21においては、炭素価格付けに関する国と企業の協力を促進することを目的とし、企業及び世界経済における炭素価格付け制度の実施を支援する活動を行う国際的な枠組みとして、カーボンプライシングリーダーシップ連合が発足しています。

4 世界のビジネスの動向

IEAによれば、2℃シナリオにおいて電力部門を脱炭素化するには、2016年から2050年までに約9兆ドルの追加投資が必要とされ、建物、産業、運輸の3部門の省エネを達成するには、2016年から2050年までに約3兆ドルの追加投資が必要と試算されています(表2-2-2)。この追加投資により将来にわたる巨大な市場が出現するなど、世界が大きな変革期を迎えています。こうした中、国内外の有力企業は、気候変動をビジネスにとってリスクと認識しつつ、更なるビジネスチャンスと捉え、様々な企業が先導的な気候変動対策を進めています。ここでは、国際的なパートナーシップによる取組を中心に紹介します。

表2-2-2 IEAにおける世界全体の部門別対策投資額(2016~2050年)
(1)WE MEAN BUSINESS

低炭素社会への移行は、各国の民間企業によっても後押しされています。WE MEAN BUSINESS(以下「WMB」という。)は、2014年9月に結成された、世界の有力な企業及び投資家による連合体であり、企業や投資家は、WMBが奨励するイニシアティブ等に一つ以上誓約する形でWMBに加盟しています。WMBのウェブサイトによると、WMBは企業や投資家と国際機関等のイニシアティブをつなぐプラットフォームの役割を果たしており、2017年3月現在、参加する企業は約500社(総収益額:8.1兆ドル超)、投資家は183機関(総管理資産額:20.7兆ドル超)、誓約の総数は約1,100となっています。

(2)Science Based Target

Science Based Targetは、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト、国連グローバル・コンパクト、WRI、世界自然保護基金(WWF)による共同イニシアティブです。IPCC第5次評価報告書(AR5)を科学的な知見と捉え、企業に対し、AR5に基づく世界の平均気温の上昇を「2℃未満」に抑える排出シナリオと整合した削減目標を設定することを推奨しています。目標がいわゆる2℃目標と整合すると認定されている企業は28社となっています(2016年12月時点)。

5 金融の動向

(1)ESG投資の拡大

グリーン経済を投資家サイドから後押ししているのが、ESG投資と呼ばれる手法です。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の非財務情報を財務情報と共に重視することにより、長期的に起こり得るリスクを回避し、安定した投資を行うものです。パリ協定の発効はこの流れを後押しし、世界のESG要素を考慮した持続可能な投資(sustainable investment)による資産規模は、2014年の18.3兆ドルから2016年の22.9兆ドルへと拡大しています。日本においては、2014年の70億ドルから2016年の4,740億ドルへと拡大していますが、世界全体に占める割合は約2%(2016年時点)となっています(図2-2-5)。

図2-2-5 ESG要素を考慮した持続可能な投資(sustainable investment)の成長

ESG投資を行う際にも、企業による情報開示は重要となります。これまで各企業はCSR報告書等で自社の気候変動に対する取組等を公表していましたが、投資家等による企業の気候変動関連のリスク・機会の評価に資するよう、2015年に開催されたG20のアンタルヤサミットにおいて、金融安定委員会(FSB)に対し、気候変動に関係した非財務情報の開示に関する提言の策定を目指すべく、官民の関係者が招請されました。これに基づき、気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD)が発足し、パブリックコメントを経て、2017年6月に最終報告書が完成、公表される予定です。また、EU、アメリカ、上海、台湾、シンガポール、香港等の国や地域が非財務情報開示に関するガイドライン等を策定しています。

(2)グリーン投資の拡大

グリーン投資とは、自然資源の保全、再生可能エネルギーの生産や開発、水大気環境の向上や環境配慮ビジネスの実践に係る投資のことです。投資の形態は問わず、公債や社債、環境関連産業の株式やファンド、投資信託等が含まれます。

現在急速に成長しているのがグリーンボンドです。グリーンボンドとは、民間企業、国際機関、国、地方公共団体等の発行体を問わず、温暖化対策や汚染の予防・管理、生物多様性の保全、持続可能な水資源の管理等の環境プロジェクトに要する資金を調達するために使途を限定して発行される債券です。世界でのグリーンボンド発行額はここ数年で急増しており、2016年の年間発行額は810億ドルと、2015年の2倍に迫る水準となっています(図2-2-6)。

図2-2-6 グリーンボンドの市場規模
(3)エンゲージメント

エンゲージメントとは、保有株式等に付随する権利を行使するなどにより投融資先企業の取組に影響を及ぼすことです。具体的な例として、「Aiming for A」と呼ばれる機関投資家の連合は、BPやロイヤル・ダッチ・シェル等の大手エネルギー企業に対し、温室効果ガス排出量の管理の改善等を求めて株主行動を展開しています。また、2015年10月に成立した米国カリフォルニア州の法律では、二つの年金基金(カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、同州教職員退職年金基金(CalSTRS))に対し、対象企業(燃料炭採掘からの収入が50%以上の上場企業)への投資を清算するに当たり建設的なエンゲージメント(例えば、収入源としての燃料炭への依存度を減少させるなど、クリーン・エネルギーの創出に適合するビジネスモデルへの転換)の実施及び受託者責任に矛盾・違反しないことを求めています。

(4)座礁資産

座礁資産について、IEAは、気候政策によって引き起こされる市場及び規制環境の変化の結果として、投資決定時点の想定よりも早い段階で投資先の経済的価値が無くなり、投資利益を得ることができなくなる投資としています。なお、IEAの「World Energy Outlook 2016」の中で、「化石燃料、特に天然ガスと石油は今後数十年にわたって世界のエネルギーシステムの基盤であり続けるが、化石燃料産業は、より急激な変革から生じうるリスクを無視するわけにはいかない」と述べており、石油に関しては、政府がその意図を明確にし、一貫した政策を最後まで続ける限りにおいて、石油の上流資産が広範囲にわたって座礁してしまう見込みは小さいとしているものの、急な政策転換などが起きた場合には、座礁資産化するリスクは急に高まるとされています。

(5)ダイベストメント

ダイベストメントとは、金融機関や機関投資家等が特定の資産に対する投融資を引き揚げるなどの活動のことです。例えば、2015年6月に、ノルウェー公的年金基金が保有する石炭関連株式を全て売却する方針がノルウェー議会にて正式に承認されました。同年10月に成立した米国カリフォルニア州の法律では、二つの年金基金(カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、同州教職員退職年金基金(CalSTRS))に対し、発電用の石炭に関連する企業(a thermal coal company)に新規に投資することなどを禁じているほか、受託者責任に矛盾・違反しないことを求めています。2017年1月には、大手金融機関のドイツ銀行が、新たな石炭火力発電所の建設及び既存の石炭火力発電所の拡張に対する投融資を行わないなどの方針を公表しました。

コラム:石炭火力発電に対する動き

我が国では、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合(3E+S)を考慮して策定したエネルギーミックスにおいて、2030年度の電源構成に占める石炭火力発電の割合を「26%程度」(約2,810億kWh)としており、石炭火力発電、LNG火力発電を含めた電力全体からのCO2排出量は約3.6億トンとなるとされています。電力消費量の減少や電力の排出原単位の改善等により、2013年度以降2015年度までの電力由来CO2排出量は減少しています。そのうち、石炭火力発電からのCO2排出量は1990年度以降増加傾向で推移していますが、2013年度以降2015年度までは微減となっている一方、電力由来CO2排出量に占める石炭火力発電の割合は、東日本大震災の影響で原子力発電所の稼働が停止し、その供給不足分が火力発電により代替されたことなどにより、引き続き増加傾向にあります。我が国における2015年度の石炭火力発電の発電電力量、CO2排出量の実績は、それぞれ3,210億kWh、2.67億トンであり、これを含めた電力全体からのCO2排出量は全体で約5.05億トンとなっています。さらに、環境影響評価法(平成9年法律第81号)対象規模未満のものを含め、過去10年間の立地・運転開始のペースを大きく上回る石炭火力発電所の立地・運転開始が計画されています。

諸外国では、石炭火力発電及びそれからのCO2排出を抑制する動きがあります。例えば、フランス、英国、カナダが相次いで、2020年から2030年にかけて石炭火力発電の廃止に向けた政策方針を発表しました。また、ドイツでは、褐炭を用いた石炭火力発電所の停止等、石炭への依存度を低減させていく方針を示しています。世界最大の温室効果ガス排出国である中国においても、石炭火力発電の新増設の抑制や一部建設計画の再検討、認可の取消し等、経済性・設備余裕度・環境保護や政策の制約等による石炭火力発電所の建設リスクの公表の実施等を打ち出しています。米国については、火力発電規制のレビューを指示する大統領令を発出するなど、今後の状況は依然として不透明であるため、火力発電規制やシェールガス等に関する今後の動向を注視する必要がある一方で、経済性の観点から石炭火力発電は優位にはならないとの見方があります。さらに、インドも国の電力計画案において、既に建設中の石炭火力発電所により必要量を満たすため、少なくとも2027年までは石炭火力発電所の新設は不要とする見通しを公表しています。

一方、IEAの「World Energy Outlook 2016」では、東南アジアにおいては、増大するエネルギー需要を満たす上で低コスト燃料である石炭を選択肢から除外することは容易でないとも指摘しています。

電力部門はCO2排出量が多い部門であり、また電力部門におけるCO2排出係数が相当程度増加することは、企業や家庭における省エネの取組(電力消費量の削減)による削減効果に影響を与えます。このような中、足下の状況として、節電の定着や省エネの進展等による電力需要の減少や、CO2排出量の削減に向けた対策の強化が求められていることなどを背景に、石炭火力発電に係る事業計画を見直すという事例がありました。こうした国内外の動向にも注視しながら、引き続き電力部門の地球温暖化対策の取組を進めていくことが重要です。

6 世界の再生可能エネルギーの動向

(1)再生可能エネルギーの導入量

世界の再生可能エネルギーの導入量はこの10年間で2倍以上に拡大しており、2015年には1,965GWまで増加しています。この5年間で見ると、特に風力、太陽光の導入量が拡大しています。(図2-2-7

図2-2-7 再生可能エネルギーの累積導入量と年ごとの成長率

国別で見ると、ドイツ、中国での再生可能エネルギーの導入が進んでおり、2030年に再生可能エネルギーが占める割合は、中国で29.7%、ドイツで50%に達する見込みとなっています。

(2)再生可能エネルギーの発電コスト

再生可能エネルギーの発電コストは年々低下しています。大規模太陽光の世界全体での平均発電コストは2010年から2015年にかけて約58%低下し、0.13ドル/kWhとなっています。陸上風力の世界全体での平均発電コストは1995年以降低下傾向にあります。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の予測では、今後更なるコスト低減が見込まれており、2025年の大規模太陽光の平均発電コストは0.053ドル/kWh、陸上風力の平均発電コストは0.06ドル/kWhまで下がりうると予測されています(図2-2-8)。

図2-2-8 大規模太陽光と陸上風力の発電コスト推移及び今後の見通し
(3)再生可能エネルギーへの投資額

世界の再生可能エネルギーに対する投資額は既に火力発電を上回っています。セクター別で見ると、太陽光、風力への投資額が著しい伸びを示しています。また、国・地域別で見ると、2012年まではヨーロッパの投資額が多くなっていましたが、近年では中国一国でヨーロッパを上回っており、インド、アジア・オセアニアとともに、投資額が増加傾向にあります。(図2-2-9

図2-2-9 再生可能エネルギーへの投資額

コラム:再生可能エネルギー100%による企業経営(RE100)

RE100とは、「Renewable Energy 100%」の頭文字をとったもので、2014年に設立された再生可能エネルギー100%による企業経営を宣言した企業によるパートナーシップです。2016年3月末現在、製造業、情報通信業、小売業等に属する全83社が参画しています。アップル、ナイキ、ネスレ、ユニリーバといった欧米のグローバル企業に加え、中国やインドの企業も参画しており、事業運営を再生可能エネルギー100%で賄うことを目指し、導入実績を毎年公表しています。

(4)我が国の再生可能エネルギー産業の付加価値

我が国では現在、2012年に導入された固定価格買取制度(FIT制度)により、各家庭や事業者から徴収される再生可能エネルギー発電促進賦課金が生じています。2014年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金は6,520億円が計上されており、賦課金の上昇による、経済への影響にも留意が必要です。

一方、2016年3月の環境省の「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によれば、再生可能エネルギー関連産業の市場規模(再生可能エネルギー売買を含まない)は、FIT制度開始を契機に急拡大し、2014年度には、約5.1兆円に達しています。また、再生可能エネルギー関連の国内に帰属する付加価値額は、2014年度には約2.2兆円となり、2年間で2倍以上増加しました。再生可能エネルギー関連機器の製造・販売だけでなく、設置工事等で幅広く付加価値が生み出されています。