環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート3第1章>第2節 個別の枠組みの進展

第2節 個別の枠組みの進展

1 日中韓三カ国環境大臣会合の新たなフェーズ

 近年、北東アジアは急速な経済発展を遂げると同時に、環境汚染や自然破壊といった問題が表面化し、いかにして持続可能な開発を実現するかという点が重要な課題となっています。北東アジアに位置する日本、中国、韓国は経済や社会の状況は異なるものの、国家・地域・地球規模で環境問題に対処しなければならないという課題は共通しています。このような状況の下、日中韓3か国の環境大臣は、1999年(平成11年)以来日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)を毎年開催し、この枠組みの中で、北東アジアの環境管理において主導的な役割を果たすとともに、地球規模での環境改善に寄与することを目指しています。

 TEMMは、国際情勢の変化の中にあっても着実に歩みを進めてきました。具体的には、環境の現状並びに各国及び本地域共通の懸案事項について三大臣が意見交換を行うとともに、環境協力を推進する方策を協議しています。また、3か国はTEMMの下で、大気汚染に関する政策対話、日中韓三カ国黄砂共同研究、合同環境研修プロジェクト、日中韓環境教育ネットワーク(TEEN)、3Rに関する日中韓三カ国セミナー、化学物質管理に関する政策ダイアローグ、生物多様性政策対話、日中韓環境産業円卓会議等の具体的なプロジェクトを実施しています。

(1)TEMM17の開催と成果

 毎年のTEMMは3か国が持ち回りで開催しており、第17回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM17)は、2015年(平成27年)4月に中国・上海市で開催されました。会合では、各国の環境政策の進展、地球規模及び地域規模の環境問題、環境協力に係る三カ国共同行動計画の進捗等について意見交換が行われるとともに、今後5年間(2015年(平成27年)~2019年(平成31年))の「環境協力に係る日中韓三カ国共同行動計画(以下、「共同行動計画」)及び共同コミュニケが採択されました。

(2)共同行動計画とワーキンググループ

 共同行動計画は、行動計画(2010年(平成22年)~2014年(平成26年))の後継として、TEMM16において採択された9つの優先分野を対象としています(図1-2-1)。これらの優先分野での協力は、政策対話、共同研究、情報共有等の様々なアプローチを用いて実施することとなっています。


図1-2-1 共同行動計画の優先分野

 共同行動計画のうち、[1]大気汚染改善、[6]水及び海洋環境の保全の分野では、以下のように3か国の活動をより強化していくことになりました。

 [1]大気汚染改善分野については、政策対話の下に、(a)対策に関する科学的な研究、(b)大気のモニタリング技術及び予測手法に関する二つのワーキンググループを開催することに合意し、地域の大気環境改善のため3か国間の協力を強化することとしました。また、[6]水及び海洋環境の保全分野については、海洋ごみに関するワークショップを開催し、データの共有、各国の政策や経験に関する情報を交換することが合意されました。2015年(平成27年)9月には、北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)との共催で、初のワークショップが中国・煙台市において開催され、各国の現状や施策について情報交換するとともに、日本側からマイクロプラスチックを含む海洋ごみの共同研究の提案を行いました。さらに、[7]環境教育人々の意識向上及び企業の社会的責任(CSR)分野の下で進められるTEENについては、昨年15周年を迎えました。平成27年には、今後5年間で3か国による共同プロジェクトを実施することを決め、日本は環境教育教材として映像教材の作成を進めることとしています。このように、信頼関係の構築と具体的協力を重ね、新しい共同行動計画が策定されました。

 平成28年度は4月26日、27日に第18回を静岡県静岡市で開催する予定であり、平成27年度に策定した優先分野に基づく今後5年間の共同行動計画の進捗を確認し、3か国の環境協力の推進を図ります。

2 都市・自治体間連携の進展

(1)持続可能な開発における都市の大きな役割

 産業革命後の経済成長に伴い、近代は、世界的な都市化の進行により特徴付けられます。とりわけ近年は、先進国を追うようにアフリカやアジアの途上国を中心に急速な都市化が進行しています。都市に住む人は、いまや全世界人口の約54%を占め、2050年(平成62年)までには全世界人口の60%を超えると予想されています。都市は人間活動が集中しており、エネルギー、水、物質を多量に消費し、廃水や廃棄物といった汚染物の排出が高密度に生じる一方、自然環境に元来備わっている緩衝作用や浄化作用が働きにくいため、環境負荷の量・密度が共に高い空間となり、住民の健康や都市周辺環境への影響が問題となりがちです。このため、都市の環境負荷を抑え、持続可能であるように都市の成長を制御していくことが重要です。一方で、都市はその集約している形態から、公共交通による輸送が適し、エネルギーや水のカスケード利用が行いやすいなどの利点もあります。そのため、快適な住環境や、充実した教育や福祉等のサービス、利便性の高さという都市の特徴をいかしつつ、エネルギー効率、輸送効率等を高める対策の可能性を有しています。

 このような背景から、都市のリーダーである自治体の首長は、主体的な行動と、横のつながりを重視した都市間の連携を唱えてきました。持続可能な都市の実現のためには、電力や熱の供給・融通、上下水道、交通網等の都市インフラにおける取組・整備が不可欠であるとともに、強いリーダーシップに基づく都市ぐるみでの長期的な取組が必要になります。また、今世紀後半に温室効果ガス排出量の実質的にゼロ(カーボンニュートラル)を目指すというパリ協定の考え方を具体化するためにも、都市の主体的かつ早期の取組は極めて重要となります。

 これらの流れを受け、気候変動政策においては、持続可能な都市を目指した自治体の主体的な取組の重要性に注目が集まっています。2014年(平成26年)のCOP20で公表されたリマ・パリ行動アジェンダにおいては、気候変動政策の実施には、地球規模、国家規模、地域規模、そして地方自治体のリーダーたちが協調することの重要性が示され、COP21の合意に向け、一層の都市間連携の推進力となりました。COP20では、自治体や民間団体の取組を共有するためのNAZCAプラットフォームも構築されました。その結果、先述したようにCOP21決定では、都市を含む締約国以外の全てのステークホルダーによる取組の拡大を歓迎すること、NAZCAプラットフォームに自治体等の温室効果ガス削減取組を登録することを奨励することが明記されました。また、COP21開催に合わせ、自治体リーダーのための気候変動サミットが行われ、「パリ市庁舎宣言 COP21へのゆるぎない貢献」が採択されました。さらに、先述したSDGsの「ゴール11(安全な都市)」においても、「包摂的、安全かつレジリエントで持続可能な都市・人間居住を実現すること」が求められており、都市・自治体の役割への期待は大変に高まっていると言えます。

(2)役割を発揮するための行動

 都市はその大きさや態様、それを取り巻く自然的条件・社会的条件も様々です。また、都市の持続可能性を向上するための取組も、地域の創意工夫に基づくものも含めて多様であるため、地域間で情報や優良事例を共有したり、人材を育てたりしながら、気運を高めていくという地方自治体間の連携が重要です。ここでは、都市・自治体間連携を推進している国際的な取組を紹介します。

ア ICLEIの取組(世界的な都市間連携の推進)

 「イクレイ-持続可能性をめざす自治体協議会(ICLEI)」は、持続可能な社会の実現を目指す自治体で構成された国際ネットワークで、世界85か国、1,000以上の自治体が、環境面での都市の諸問題の解決を目指して活動しています。我が国からは、東京都、横浜市、京都市、仙台市等17自治体が会員となっています。ICLEIでは、持続可能な都市づくりのために様々なキャンペーンやプログラム、イベントの運営、セミナーの実施や出版物の発行等を通じた情報発信、ツールの提供等を行っています。また、次項で記載する「気候変動政策に関する首長誓約」や、持続可能な公共調達に関するグローバル先進都市ネットワーク、持続可能な公共調達に関する世界先進都市ネットワークの運営を行い、個別分野におけるネットワーク構築も推進しています。

イ 気候変動政策に関する首長誓約

 都市の気候変動政策を加速化するため、2014年(平成26年)に気候変動政策に関する首長誓約が発足しました。平成27年1月末時点では455都市が参加する世界最大規模の都市間ネットワークの一つになっています。我が国からは、東京都、横浜市、広島市、北九州市、富山市が参加しています。参加自治体は、1~3年目のそれぞれで、温室効果ガス排出量、削減目標、緩和行動計画の公表が求められています。進捗の報告も求められるため、気候変動政策における先進自治体としてのリーダーシップの表明と国際的認知・信頼の向上が、目標達成における原動力となっています。

ウ 気候とエネルギーのための首長誓約(EUにおける都市間連携の推進)

 欧州連合(EU)では、2008年(平成20年)から二酸化炭素(CO2)排出量の更なる削減のため、気候とエネルギーのための首長誓約(Covenant of Mayors for Climate and Energy)が実施されています。これは、「持続可能なエネルギー行動計画の実施を通じて、欧州連合のCO2削減目標20%を超えるCO2削減量を実現する」という誓約に賛同する市長が自主的に署名するものです。平成27年11月末現在で誓約自治体は6,600を超し、誓約自治体の人口は全EU人口の42%を占めています。首長誓約の枠組みには、署名市長はもちろん各国のエネルギー関係省庁や州政府等の国や地方のコーディネーター、地方自治体のネットワーク等のサポーター、欧州企業やNGO、国際ネットワーク等の様々な連携パートナーが含まれていることが特徴です。多様な連携パートナーが参画することで、技術的・科学的根拠に基づく共通の枠組みを活用した持続可能なエネルギー行動計画の策定が可能となるとともに、様々な実施・推進支援や財政支援が得られます。各誓約自治体はCO2排出量削減の状況を公表することとなっており、自主的な取組の促進につながります。EUにおけるこの取組を参考にし、我が国でも同様の動きが始まっています。

エ C40(大都市における都市間連携の推進)

 C40は、世界大都市気候先導グループ(The Large Cities Climate Leadership Group)の通称で、2005年(平成17年)にロンドン市長(当時)によって提唱・創設された都市間ネットワークです。東京都、香港、バンコク、ジャカルタ、ニューヨーク等、気候変動対策に取り組む世界の18の大都市から始まり、現在は80以上の大都市から構成されています。首長によるリーダーシップとコミットメント、実務者レベルでの具体的な施策の情報交換を通じ、参加都市の温室効果ガスの排出削減や気候変動対策の推進等に取り組んでいます。C40には、EUの首長誓約と同様、様々な連携パートナーが参画しています。例えば、Clinton Climate Initiative(CCI)は、C40の実施パートナーとして共同プログラムを運営しています。共同プログラムでは、自治体の調達を合同で行うことで調達力を高め、省エネ機器や低公害車の購入費用を抑え、低炭素化・低公害商品・技術の普及を図るなど、低炭素化の促進を目指しています。CCIは、C40の参加者に対し企業を紹介するとともに、商品やサービスの価格交渉等を自治体に代わって行っています。

 このように、国際的な都市間ネットワークには、多様な関連主体が参加し、自治体の取組との連携や支援を行うという様々な仕組みがあります。国内のネットワークにもこうした仕組みを取り入れていくことが重要です。

(3)都市間の連携による対策の水平展開

 現在進展している国際的な都市間連携の取組の一つとして、神奈川県とカンボジア・シェムリアップ州の低炭素都市づくりでの連携が挙げられます。世界遺産かつ著名な観光地であるアンコール・ワット遺跡を有するシェムリアップ州の優先課題である[1]再生可能エネルギー導入、[2]エネルギー利用の効率化、[3]電動車両の導入促進につき、県が鎌倉市や箱根町と協力し、先に紹介したJCMの活用を視野に支援しています。また、2015年(平成27年)11月には、神奈川県とシェムリアップ州間で低炭素観光都市に関する覚書を締結しました。他にも平成27年度には、福島市、横浜市、川崎市、京都市、大阪市、北九州市も都市間連携に基づくJCM案件形成事業をアジア各国で推進しました。

 他にも、国内における都市間連携の取組として、東京都と埼玉県による温室効果ガス排出量のキャップ・アンド・トレード制度の連携が挙げられます。一方の制度により大規模事業所で獲得した超過削減達成量を他方の制度の大規模事業所の削減義務に利用できるとともに、中小規模事業所の省エネ対策による削減量である中小クレジットについても相互に利用可能です。東京都と埼玉県の両制度において、基準排出量やクレジット量の確定には検証機関の検証が必要であることから、検証主任者の講習会の共同開催や都県両方に登録する場合の手続簡素化等を実施しています。このような水平展開の事例が増えることにより、都市間連携の一層の進展が期待されます。

(4)都市間連携を支える国際機関等の取組

 都市間連携の推進を後押しするため、国際的に様々な取組が行われています。例えば、UNEPにおいては、国連ハビタットと共同で「持続可能な都市計画プログラム(SCP)」を行っています。SCPでは、地方や国の協力機関による環境計画マネジメントプロセスの導入支援や、持続可能な開発達成のための環境資源管理等を実施しています。

 また、日・ASEAN統合基金(JAIF)の支援により、「ASEAN環境的に持続可能な都市(ESC)モデル都市プログラム」が実施されています。これは、ASEAN8か国で実施されているモデル都市事業で、14都市がモデル都市として選ばれ、それぞれの環境目標に沿った活動を実施するとともに、モデル都市に関する知見や優れた施策、取組の共有、情報交換等を行い、多国間における都市間での連携と学びを促進しています。これまでに、北九州市が、マレーシアのクチン市及びタイのノンタブリー県とごみのコンポスト化の知識の共有等の成果を上げています。

3 主要国首脳会議(G7サミット)及びG7環境大臣会合

(1)G7サミット

 G7サミットは、世界経済問題について首脳間で政策協調を議論する場として1975年(昭和50年)から開始され、その後、政治問題、地球規模の問題についても議論されるようになりました。サミットは毎年開催されており、2015年(平成27年)6月には、ドイツが議長国を務めるエルマウ・サミットが行われました。次回サミットは2016年(平成28年)5月に予定されており、日本が議長を務め、三重県伊勢志摩で開催されます。サミット開催に合わせ、環境大臣会合、外務大臣会合、財務大臣・中央銀行総裁会議等の関係閣僚会合が日本各地で開催される予定です。本項では、環境大臣会合を取り上げます。

(2)G7富山環境大臣会合

 2016年(平成28年)は、先述したようにSDGsが1月から効力を持つ年でもあり、持続可能な開発の長期的課題の解決に向けた大いなる挑戦のためのスタートの年と位置付けられます。2015年(平成27年)のパリ協定及び2030アジェンダという二つの歴史的な国際合意によって生まれた気運を引き継いで、実施に向けた取組を強力に推進していくことが必要です。G7富山環境大臣会合は、21世紀にふさわしい環境政策を世界に広げ共有する新しい世界を目指すG7各国の政治的意思を内外に示し、非G7国も含め、世界全体での取組を加速させていく契機になる役割が期待されています。その際、我が国の取組や経験等を基に、我が国が議長国として、そして環境政策の実施主体として、G7各国と協調、連携しながら、より一層の取組の推進につながる成果を得るべく、最大限貢献していきます。

 関係閣僚会合の開催地は、国際社会が直面する様々な課題を考慮し、それぞれ素晴らしい特色を持った候補地の中から、地方創生の観点も踏まえ、政府として然るべく検討しました。その結果、環境大臣会合については、5月15日~16日に富山県富山市で開催することを決定しました。

 富山県は、小水力発電等の再生可能エネルギーの導入、県内全域でのレジ袋の無料配付廃止、「水と緑の森づくり税」を活用した森づくり、立山におけるバスの排ガス規制等、県民総参加で環境保全に取り組むとともに、国連のNOWPAP地域調整部の設置や北東アジア地域自治体連合による国際環境協力等を積極的に推進し、環日本海地域をリードする「環境・エネルギー先端県」を目指して取り組んでいます。

 富山市は、「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を核に、人と環境に優しいまちづくりを進めてきました。平成20年度には「環境モデル都市」、平成23年度には「環境未来都市」の1都市に選定されました。富山市の環境配慮の取組は国際的にも高い評価を受けています。平成26年には、国連のイニシアティブの一つである「万人のための持続可能なエネルギー」(SE4All)の会合にて、日本で唯一「エネルギー効率改善都市」として選定されています。これらも踏まえ、平成27年3月にはエネルギー効率改善に向けた「富山市エネルギー効率改善計画」を策定するなど、継続して環境問題に積極的に取り組んでいます。

 2016年(平成28年)という長期的課題の解決に向けた大いなる挑戦のためのスタートの年に、先進主要国が協力を一段と高め、国内外に環境施策を発信することができる国際会議が我が国で開催される機会を最大限有効に活用し、一層の環境施策の推進を進めていきます。