環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート2第2章>第2節 自然生態系を活用した備えの推進

第2節 自然生態系を活用した備えの推進

 生態系はその機能の一つとして防災・減災機能を有しています。例えば、海岸林が津波被害を軽減する、サンゴ礁が高潮被害を軽減する、湿原が洪水を調節する、森林が土砂の崩壊等を抑制するといった機能があります。

 気候変動により気象災害の激甚化や、人口減少による未利用地の増加が進む中、生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction、以下「Eco-DRR」という。)という考え方が注目されています。これは、防災・減災対策を検討・実施する際に、地域の特性や利害関係者間の参加・合意を基に、自然災害の被害に遭いやすい土地の利用や開発を避けることで、被災する可能性を低下させるとともに、生態系の持続的な管理、保全と再生を行うことを通じて、防災・減災等、生態系が有する多様な機能をいかして災害に強い地域をつくるという考えです。

 Eco-DRRは、平時においては、水・食料・美しい景観・レクリエーションの場の提供等、多様な生態系サービスを提供することが特徴の一つとして挙げられます。また、気候変動への適応策としても有効なことや、森林や湿地等の適切な維持管理は炭素固定・貯留機能により緩和策としても有効であることも特徴です。さらには、生態系の持つ多面的な機能を通じて私たちの豊かな暮らしを支え、地域の活性化に寄与することも期待されます。こうした特徴から、Eco-DRRは、地域の防災・減災機能の強化と、生物多様性と生態系サービスの確保を図り、持続可能で安全で豊かな自然共生社会を構築することにつながると言えます。

 なお、Eco-DRRは、人工構造物による防災対策と相反するものではありません。地域の特性や土地利用の状況、また地域の人々のニーズに応じて、生態系と人工構造物を最適な組合せで用いることが重要です。

 環境省では、Eco-DRRの考え方を普及するため、平成27年度に、専門家による検討会を踏まえ、Eco-DRRの考え方をまとめたハンドブック「自然と人がよりそって災害に対応するという考え方」と事例集を作成しました(図2-2-1http://www.env.go.jp/nature/biodic/eco-drr.html(別ウィンドウ)))。


図2-2-1 ハンドブックの表紙