環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 グリーン経済の実現に向けた環境金融の拡大

第3節 グリーン経済の実現に向けた環境金融の拡大

 中央環境審議会「2013年以降の対策・施策に関する報告書」(平成24年6月)によれば、「再生可能エネルギー及び省エネルギーの追加投資額として2030年(平成42年)までに135兆円から163兆円の追加投資額を必要とする」とされており、温室効果ガスの排出削減により、地球温暖化に歯止めをかけるためには、巨額の追加投資が必要となります。政府の財政状況にかんがみれば、公的資金のみによってこれをまかなうことは不可能であり、民間資金を環境分野に呼び込み、商用段階にある環境技術を活用した具体的なプロジェクトを実現させていくことが必要です。こうした事業化を促進する手法として、金融が注目されています。

 企業が事業を行う上では一定の資金が必要となりますが、このような場合に、資金が不足する主体に対して資金に余裕がある主体から資金を融通することが金融です。金融はこのような資金仲介機能を通じ、社会が求める分野に資金を融通することで、社会の発展を支えてきました。現代社会において、あらゆる経済活動は資金を媒介としていることを踏まえれば、金融がつくり出す資金の流れは、いわば経済の血流といえ、経済社会全体への大きな影響力を有しています。

 このように、経済社会全体への大きな影響力を有する金融に、環境の視点を織り込むことで、我が国の1,600兆円に迫る個人金融資産等の活用を視野に入れながら、環境分野に流れ込む民間資金を太くするとともに、広がりを見せる金融手法を環境政策に積極的に取り込むことで、さまざまな社会の仕組みを持続可能なものに変革することが求められます。

 本節では、グリーン経済の実現に向け、環境に配慮した金融(環境金融)の果たすべき役割や今後の方向性を示すとともに、環境金融の拡大に向けた国内外の取組を紹介します。

1 環境金融の役割と方向性

 環境金融とは、金融市場や直接投資を通じて環境への配慮に適切な誘因を与えることで、企業や個人の行動を環境配慮型に変えていく仕組みです。具体的には、[1]企業行動に環境への配慮を組み込もうとする経済主体を評価・支援することでそのような取組を促すこと、[2]環境負荷を低減させる事業に直接資金が使われること、という2つの役割があります。

 こうした環境金融を拡大していくため、[1]については、「責任ある投資」の重要性について認識を広め、短期主義(短期的リターンに偏重)的な投融資では考慮されにくい、環境、社会、企業統治などの非財務情報を投融資の意思決定に反映することが重要です。そのためには、環境に関するリスクと機会を投資家が適切に評価できるよう、企業における環境関連の情報開示を促進することが必要となります。また、[2]に関しては、従来コストとして捉えられていた環境保全を、経済成長を推進する要因として捉え直すことが重要となります。経済成長を推進する要因とするには、環境保全を事業として展開していくことが必要であり、そのためには社会に滞留する民間資金を環境分野に呼び込む、グリーン投資の推進が鍵となります。

2 金融を通じた企業の環境配慮の促進

 企業活動に対する環境面からの要請など、企業に対する各方面からの社会的要請が強まる中で、企業がこれらの問題へどう対応するかは、企業価値に影響を及ぼす要因となると考えられます。例えば、今後市場拡大が見込まれるエネルギーなどの分野に対し、企業が新たな環境配慮型の製品やサービスを提供できれば、ビジネスチャンスの獲得につながります。投資家や金融機関が、環境を含む非財務情報を投融資判断に積極的に取り込み、環境経営に取り組む企業を評価・支援することは、企業の事業活動における環境配慮を促進する契機となるとともに、投融資先の企業価値の向上を通じて、結果的には投資家や金融機関自らの長期的な収益拡大につながっていくと考えられます。ここでは、グリーン経済の実現に向けた投融資の取組を紹介していきます。

(1)地球規模で広がる環境に配慮した投資

ア 世界で進むPRIへの署名とESG投資

 環境に対する社会的な関心が高まり、環境配慮活動などの企業の社会的責任(CSR)に基づいた活動に取り組む企業が増えるとともに、金融機関の投資判断プロセスに投資先の環境配慮や社会的側面を考慮する社会的責任投資(以下「SRI」という。)に対しても関心が高まっています。また、今日では、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)(以下「ESG」という。)という非財務項目を投資分析や意思決定に反映させる投資のあり方に着目したESG投資が欧米を中心に急速に拡大しています。

図3-3-1 地域別のESG投資の資産規模

 これらの考え方を牽引するのは、2006年(平成18年)にコフィ・アナン国連事務総長(当時)の発案で、国連グローバルコンパクトと国連環境計画金融イニシアティブ(以下「UNEP FI」という。)が共同で策定した責任投資原則(以下「PRI」という。)です。PRIでは「(ある程度の会社間、業種間、地域間、資産クラス間、そして時代ごとの違いはあるものの)環境、社会、企業統治(ESG)の問題が運用ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼすことが可能であると信じる」と述べられており、投資分析と意思決定のプロセスにESGを組み込むことについて記載されています。また、PRIやUNEP FIのレポートでは、ESG投資はESGを考慮していない場合よりも良好なパフォーマンスが発揮されるという結果が多数得られているとされています。

 PRIに署名した機関は、欧米の主要な公的年金や運用機関を中心に、2006年(平成18年)時点では20機関に留まっていましたが、2013年(平成25年)8月には1,223機関にまで増加し、その運用金額も35兆ドルに上っています。こうした活動の急拡大を背景に、現在PRIは多大な影響力を発揮しています。

 ESG投資については、2013年(平成25年)時点で、世界全体で約13.6兆ドルの市場規模があり、全金融資産の22%を占めているとの調査結果もあります。

イ 我が国におけるESG投資の現状

 我が国では、海外に比べ、ESG投資が限定的です。ESG投資の規模は、欧米では年金基金を含む機関投資家による投資が中心であるのに対し、我が国では個人投資家による公募投資信託が中心であることから、欧米に比べて我が国では依然として非常に小さくなっています。韓国や南アフリカ共和国等では、公的年金基金がPRIに署名し、ESG投資に取り組んでいますが、我が国では署名がなされていないのが現状です(表3-3-1)。我が国の総投資額に占めるESG投資の割合は、0.2%にとどまるとの調査結果もあります(図3-3-2)。

表3-3-1 世界の年金基金総資産及びPRIの署名状況

図3-3-2 ESG投資の総投資額に対する地域別の割合

 我が国のESG投資に関する課題として、企業のESG情報の開示が不十分であることや、資金の運用慣行が短期的であり、環境等の非財務情報が考慮されにくいこと等が挙げられます。今後の非財務項目に関する情報開示基盤の拡充や、投資家に対する適切な情報提供を通じて、我が国におけるESG投資の一層の促進が求められます。

ウ ESG投資の推進に向けた動き

 近年、ESG投資に関する新たな動きも出始めています。2013年(平成25年)8月から開催された、「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」において、「「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」がまとめられました。英国では、英国企業財務報告評議会(Financial Reporting Council)が、英国企業株式を保有する機関投資家向けに策定した株主行動に関する諸原則を、「スチュワードシップ・コード」として2010年(平成22年)7月に公表しました。日本版スチュワードシップ・コードも、機関投資家と投資先の企業との対話を通じて、企業の持続的成長を促し、ひいては我が国全体の経済を活性化させることを目的に策定されました(図3-3-3)。この日本版スチュワードシップ・コードの普及を通じて、機関投資家が企業の非財務情報を積極的に理解し、ESG投資を積極的に実施することが期待されます。

図3-3-3 日本版スチュワードシップ・コードの原則

 また、2013年(平成25年)6月に閣議決定された「日本再興戦略」に基づき、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)等を検討対象に含む「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化に関する有識者会議」が開催されました。同会議でとりまとめられた報告書では、非財務的要素であるESGを考慮すべきとの意見もあり、各資金において個別に検討すべきとされています。

 さらに、経済財政諮問会議の場においても企業の中長期的な成長を促すための「責任ある投資」についての議論が交わされるなど、現在、我が国においても、環境への配慮を含む非財務情報を考慮した投資が活発化するための基盤が整いつつあります。

エ 環境情報開示の促進

 前述のSRIやESG投資を進める上では、企業が、金融機関等を含む利害関係者に対して広く情報を開示し、コミュニケーションを進めていくことが重要です。海外における情報開示の動きとして、フランス、英国等の欧州では、企業の年次報告書について環境的・社会的側面の情報開示を義務付けており、米国、南アフリカ等では、上場企業において、財務情報のみならず環境等に関する情報の開示が求められる傾向が強まっています。温暖化分野では、2000年(平成12年)に国際非営利組織(国際NPO)としてカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)が設立され、世界の機関投資家を代表して企業の気候変動に関する情報開示を要請し、企業や政府の低炭素化の取組を促進する活動を行っています。我が国でも、有価証券報告書の中で、気候変動や環境規制等に係る自社への影響を「事業等のリスク」として開示している企業が多数あります。今後は有価証券報告書の中で、環境問題に関する課題等に対してどのように対処するかについても、開示されていくことが期待されます。

 このように国際的な情報開示の取組が進む中、近年、「統合報告」に注目が集まっています。「統合報告」とは、長期的に企業価値をどのように高めていくかという観点から、企業の財務情報や非財務情報の中から、投資家や企業にとって重要な情報を統合的に整理し、企業の成長戦略と関連づけながら、簡潔にまとめられた報告書です。「統合報告」に関する取組としては、国際統合報告委員会(IIRC)が「統合報告」のフレームワークを作成し、2013年(平成25年)12月に当該フレームワークが公開されました。本フレームワークの活用により、ESG投資を行う投資家へ、環境への配慮を含む有益な情報が提供されることが期待されます。

金融機関におけるバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量算定の動き

 金融機関においても、金融商品やサービスの提供、つまり金融活動そのものによる環境負荷を算定する取組が始まっています。

 UNEP FIと温室効果ガス(GHG)プロトコル(以下「GHGプロトコル」という。)は2013年(平成25年)より金融機関の投融資がもたらす温室効果ガス排出量の評価のための「GHGプロトコル・金融部門の手引き」の作成を開始しました。同手引きを整備するために、2013年(平成25年)、ニューヨークにおいて金融関係者などの間で第1回目の会合が開催されました。

「GHGプロトコル・金融部門の手引き」作成に関する組織体制

 GHGプロトコルとは、1998年(平成10年)に持続可能な発展を目指す企業で構成される連合体組織である世界環境経済人協会(WBCSD)、世界資源研究所(WRI)、各国政府関係者、金融機関の協力によって設立された、GHGプロトコル・イニシアチブが作成したGHG排出量の算定と報告に関する基準です。同プロトコルにおいて公開されている基準のうち、特定の企業だけでなく、上流から下流まで含めたバリューチェーン全体のGHG排出量を対象とする基準(スコープ3)が示されており、「GHGプロトコル・金融部門の手引き」はこれらを補完する役割が期待されています。

「GHGプロトコル・金融部門の手引き」作成に向けたスケジュール
(2)環境に配慮した融資

ア 環境格付融資の広がり

 企業の環境経営を金融機関が評価・支援する取組は、融資の分野でも広がっています(図3-3-4)。我が国では、2004年(平成16年)に株式会社日本政策投資銀行(以下「DBJ」という。)が、環境経営を評価する「環境格付」と、その格付に応じた「優遇金利融資」を実施する「環境格付融資」を世界に先駆けて導入しました。この取組が契機となり、地域金融機関やメガバンクなどの金融機関が環境格付融資の取扱を開始してきました。環境省は、2007 年(平成19年)に環境格付融資に係る利子補給事業を立ち上げ、その後も事業を継続しながら、環境格付融資の促進に向けて取組を進めています。現在では、多数の金融機関が環境格付融資に取り組んでおり、取組の一定の浸透が見られています。

図3-3-4 環境配慮型融資の概要

地域金融機関と連携した環境格付融資の取組

 DBJは、東北地方6県の地域金融機関等と共同で、計2回のシンジケート・ローンを組成し、環境経営を行う企業・公益法人等の取組や、東北地域の震災からの復興に向けた取組を支援する事業に取り組んでいます。シンジケート・ローンとは、複数の金融機関が協調してシンジケート団を組成し、一つの融資契約書に基づいて、同一条件で融資を行うことです。本事業は、企業の環境経営度を点数化し、その得点に応じて3段階の金利を設定する「DBJ環境格付制度」を適用した上で、優れた環境配慮型製品の生産・販売などを実施する東北地方の企業に対して資金面で支援する取組であり、第15回グリーン購入大賞において環境大臣賞を受賞しています。また、DBJは、地域金融機関が独自で作成する「環境格付」評価ツールの開発支援や地域金融機関との環境金融に関する情報交換、環境格付融資の深化等についての意見交換を目的とした「エコファイナンスクラブ会議」を開催するなど、地域金融機関との連携、協働を図っています。

日本政策投資銀行によるシンジケート・ローンの仕組み

イ エクエーター原則(赤道原則)

 油田開発や発電所の建設、インフラ整備などの大規模プロジェクト案件が社会や環境に与える影響について関心が高まる中、世界銀行などの開発金融機関では、1990年代後半以降、ガイドラインを策定し、その影響を最小限に抑える取組を進めてきました。さらに、民間金融機関においても2003年(平成15年)6月、海外においてプロジェクトファイナンス業務を実施する主要金融機関が「エクエーター原則(赤道原則)」を策定しました。同原則は、民間金融機関が大規模なプロジェクトに対する投融資を実施する場合に、そのプロジェクトが社会や自然環境に与える影響に配慮して実施されることを確認する原則です。従来、同原則は、プロジェクトファイナンス業務やそのアドバイザリー業務に適用することとされていましたが、2013年(平成25年)の第三版の発効により、プロジェクトファイナンスだけでなく、一定の基準に該当するコーポレートファイナンスにまでその適用範囲が拡大されました。現在、世界79機関(うち日本からは大手都市銀行3行)が同原則を採択しています。

ウ 汚染リスク等の資産除去債務への反映

 環境への影響を考慮した投融資を行う際、土壌汚染リスク等は、将来の経営に大きな影響を与えかねない重要な要素だと考えられています。企業側にとっても、土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)の改正や、不動産取引時の土壌汚染に対する意識の高まりなどを受け、環境への影響を評価しないまま事業を継続することによって被る損失への懸念が高まっています。我が国では平成20年から、汚染した土壌等の除去に要する費用をあらかじめ資産除去債務として計上するという会計基準が導入されています。本会計基準は、金融機関や投資家等にとっても、将来の企業経営に影響を与えかねないリスクを、現在の企業の財務内容に反映させることができるため、事前に環境リスクを考慮した状態での投融資が可能になるという利点があります。金融庁の金融検査マニュアルにおいても、融資における不動産等の担保評価時において、「土壌汚染、アスベストなどの環境条件等にも留意する」こととされています。本会計基準の適用により、企業が継続的に環境対策を講じることを通じて、最終的な費用を軽減する動機が生じることが期待されます。

3 グリーン投資の拡大に向けて

 環境負荷を低減すると同時に、経済成長の達成を目指すグリーン経済を実現するには、グリーン投資の拡大が不可欠ですが、さまざまな課題を抱えています。例えば、今後必要とされる追加投資の規模に照らせば、現状ではグリーン投資を行う投資家が限定的であり、環境分野への資金供給が十分な水準に達しているとは言えません。また、再生可能エネルギーのうち、風力や地熱、中小水力発電などは技術面等での難易度や開発・建設リスクの高さ、天候や自然災害に左右されやすいなど、投資リスクがリターンに見合わないという課題があります。さらに、再生可能エネルギーなど環境分野への投資は、投資家にとって「新しい分野」であり、過去の事業実績が少なく、投融資の判断や評価が難しいという課題も障害となっています。

 このような、投資家が限定的なことや、リスクとリターンの不均衡、投資判断に必要な情報や評価のノウハウの不足などの課題を解消することで、グリーン投資の拡大を図ることが重要です。ここでは、こうした課題に対応している国内外の取組を紹介します。

(1)グリーン投資への幅広い投資家の参加

 前述のとおり、グリーン投資における投資家が限定的であるという課題を解決するには、従来、環境分野を投資対象として捉えていなかった投資家にも、適切な投資機会を提供することにより、再生可能エネルギー等の環境分野へ大きな資金を投入していくことが重要です。このように幅広い投資家の参加を促すには、資産の流動性(換金の容易さ)を向上させて投資機会を提供する証券化や、有価証券等の取引を円滑にする市場づくり、個人からの投資を促す市民ファンドの促進などが有力な対応策と考えられます。

ア 証券化による資金調達

 幅広い投資家をグリーン投資へ呼び込むには、証券化によって、資産の流動性を高め、投資機会を提供することも有力な方策です。証券化とは、企業や金融機関などが、自社で保有する資産(不動産や債権等)を裏付けにして有価証券を発行し、資金調達をする手法のことを指します(図3-3-5)。証券化によって、幅広い投資家から資金を調達することが可能となることに加え、資産が抱えるリスクを自ら保有することなく投資家に移転すること等が可能となります。

図3-3-5 一般的な証券化スキームの概念図

 近年、この証券化の仕組みを再生可能エネルギー事業に応用した事例も出始めています。太陽光発電事業などの開発運営を行う「JAG国際エナジー株式会社」では、国内で手掛ける3件のメガソーラー事業について、当該事業へのプロジェクトファイナンスによる融資債権を裏付資産として発行された有価証券により、総額15億円の資金調達を行いました。また、本有価証券は、「株式会社日本格付研究所」の格付を取得しています。

 このような資金調達手法は、海外のインフラ関連事業において進んでいますが、近年、我が国でも、類似のスキームによる太陽光発電事業の資金調達事例が多数見られています。

イ 上場インフラ市場の創設に向けた取組

 幅広い投資家をグリーン投資へ呼び込むには、投資スキームの開発だけでなく、証券取引市場における上場市場の創設も有力な選択肢です。

 諸外国においては、インフラの整備や運営を図るためファンド(以下「インフラファンド」という。)を組成し、これを証券取引所に上場して、民間資金を集めるという動きが始まっており、一部には太陽光発電等の再生可能エネルギー設備を投資対象としたファンドも組成されています(図3-3-6)。すでにインフラファンドは全世界で約50銘柄、時価総額約10兆円(平成25年1月30日時点)の規模まで拡大しており、アジアにおいても、シンガポールや韓国などの取引所で上場市場の整備が行われ、各取引所の主要な上場商品の一つとなりつつあります。

図3-3-6 海外におけるインフラファンドの上場事例

 このような状況を受けて、我が国においても日本証券取引所グループが上場インフラ市場の創設を予定しています。同市場の創設によって、高度経済成長期に整備したインフラの維持、更新を広く社会全体で支える仕組みが構築されるだけでなく、我が国において、アジア経済圏の成長の基盤となる金融市場の強化、発展が期待されています。

 また、これらの動きにあわせて我が国では、再生可能エネルギー設備など、上場インフラファンドの投資対象分野を策定するべく、投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)等に基づく関係法令における措置も検討が進んでいます。これにより、需要が高い太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー設備を投資対象としたファンドが上場し、幅広い投資家の参加が可能となるとともに、グリーン投資の持ち分の売買が容易となることで流動性リスクが低減され、グリーン投資が活性化することが期待されています。

ウ 市民ファンドの広がり

 グリーン投資の裾野の拡大のため、一般市民から出資を募る方法もあります。平成24年に開始した再生可能エネルギーのFITによって、再生可能エネルギーの普及が拡大する中、多数の市民から小口の出資を募ることで、再生可能エネルギー事業の資金調達を行う市民ファンドの取組が進んでいます。北欧諸国では、1990年代に「地域のエネルギーを住民の意思で選択する」という考え方が広がり、地域住民が再生可能エネルギーの重要性を自ら認識したことに伴って、市民出資による風力発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が各地で進みました。我が国においても、2000年代以降、これらを参考にした市民ファンドの取組が始まっています。

 市民ファンドの出資者の特徴としては、収益の追求だけでなく、投資した資金の地域への還元や社会貢献を目的としている点が挙げられます。市民ファンドは、地域の資本(人、モノ、カネ)を地域の再生可能エネルギー事業に結び付けることで、出資者である市民に対し単なる投資収益を還元するだけではなく、地域経済の活性化という形で社会的なリターンを提供するものであり、エネルギーの地産地消を目指した草の根の活動の一つともいえます。

クラウドファンディングを用いた投資

 クラウドファンディングとは、群集を表す「クラウド(crowd)」と資金調達を表す「ファンディング(funding)」を合わせた造語で、小規模事業者が取り組む事業の目的や内容などに共感した個人をインターネットなどで結び付け、多数の個人から少額ずつ資金を集める仕組みです。欧米を中心にクラウドファンディングの規模は拡大していますが、それらは[1]インターネット上で対価を伴わない寄付を募り、寄付者向けにニュースレターなどの情報を発信する寄付型、[2]購入者から前払いで集めた代金を元手に製品を開発し、購入者に完成した製品などを提供する購入型、[3]運営業者を介して投資家と事業者で契約を締結し、株式などの購入によって出資し、事業の収益を得る投資型の3つに分類されています。

 ここでは、クラウドファンディングの手法を活用した再生可能エネルギー発電事業への投資事例を紹介します。「ミュージックセキュリティーズ株式会社」は、クラウドファンディングを活用した少額投資のプラットフォームを運用しています。本プラットフォームにおいて、個人を中心とした投資家はウェブサイトの情報や説明会でさまざまな地域の好きな事業を選択し、一口数万円という少額の購入金額を出資し、対価として分配金のほか、出資者限定の製品提供やツアーへの参加などを対価として受け取っています。このプラットフォームの活用によって、事業者にとっては地域内外の多様な資金を調達できることに加え、出資する個人の環境意識の向上につながります。

投資型クラウドファンディングのイメージ

 平成24年12月に環境NPO法人と民間企業による共同出資で設立した「しずおか未来エネルギー株式会社」は、「ミュージックセキュリティーズ株式会社」のプラットフォームを活用して、地域のエネルギーを地域住民でつくる取組に対して、クラウドファンディングの手法を用いて資金を調達しています。これらの資金は静岡市内の動物園や市民が利用する市民センターにおける太陽光パネルの設置などに投資されています。

(2)リスク・リターンの不均衡の是正

 冒頭で述べたリスク・リターンの不均衡という課題に対しては、与信を得られにくい事業者やプロジェクトに対して、公的機関がその信用力を活用して資金調達を実施することや、公的機関が出資によりリスクマネーを提供することで民間資金を呼び込む方策が有効です。また、保険などにより損失リスクを回避する「リスクコントロール」を促していくことで、リスクを低減させることも重要です。以下では、国内外におけるこれらの取組を紹介します。

ア 国内外における公的セクターの取組

(ア)英国におけるグリーン投資銀行(Green Investment Bank)の設立

 英国政府は、低炭素社会の構築に向けた従来の公的資金の統合等によって組成した約30億ポンド規模のファンドに、民間からのファンドの資金を加えて、2012年(平成24年)にグリーン投資銀行を設立しました。

図3-3-7 2020年までのグリーン投資銀行の業務拡大想定図

 具体的な投資対象として、洋上風力発電、廃棄物循環システムの構築、建造物のエネルギー効率化、輸送機器向けバイオ燃料、バイオマス発電、CCS、海洋エネルギー、再生可能エネルギーを活用した暖房の8分野の低炭素化プロジェクトとし、全運用資金の80%を優先的に投資する計画となっています。

(イ)世界銀行グループによるグリーンボンドの発行

 世界銀行や、世界銀行グループの一機関であり途上国の民間企業などへの投資・資金援助業務に特化した金融機関である国際金融公社(IFC)は、気候変動問題に取り組むプロジェクトのための資金を調達する債券として、「グリーンボンド」を発行しており、世界銀行は2008年(平成20年)以降総額35億ドル、IFCは2010年(平成22年)以降約34億ドルの資金調達を行っています。「グリーンボンド」が急速に市場に広がった理由として[1]世界銀行が発効するほかの債券と同等の信用力があること、[2]通常の債券と比較して利回りが高い、[3]その意義が個人投資家への訴求力を持っていることなどの理由が挙げられます。調達した資金については、途上国における再生可能エネルギーの導入やエネルギー使用の効率化など、気候変動の緩和に資するプロジェクトへ投資されています。このように公的セクターが、その信用力を担保に、債券を通じて資金調達をすることで、グリーン投資の推進が図られています。なお、対象事業を明確化した「グリーンボンド」による資金調達の手法は、近年、民間事業者においても活発に利用されています。

表3-3-2 グリーンボンドの取扱金融機関

(ウ)地域低炭素投資促進ファンドの創設

 我が国においては、再生可能エネルギーの固定価格買取制度等を背景に、再生可能エネルギーの事業化が各地で検討されています。しかし、地域において低炭素化プロジェクトを実施しようとする事業者は自己資金が少ないと同時に、金融機関等から融資を受けられる信用力に乏しい場合が多いため、資金調達に苦慮しています。一定の採算性・収益性が見込まれるものの、事業完了までの期間や投資回収期間が長期に及ぶこと等に起因するリスクが高く、それらのプロジェクトに対し民間資金が十分に供給されていない点が課題となっています。このため、環境省は、こうした課題を解決し、低炭素化と地域活性化を同時に実現する優良なプロジェクトの実現を支援することを目的に、平成25年に「地域低炭素投資促進ファンド」を創設しました(図3-3-8)。同ファンドを通じて、資金調達に苦慮している地域の低炭素化プロジェクトに対して「出資」を行い、リスクマネーを提供することにより、プロジェクトにおける事業者の自己資本比率を高め、事業者の資金調達の円滑化を図ります。今後、地域低炭素投資促進ファンドでは、地域金融機関等と連携して、サブファンドの組成の拡大を図り、地域の目利き力を活用して、潜在する優良案件に対する支援を展開することとしています。

図3-3-8 地域低炭素投資促進ファンドの概要

地域低炭素投資促進ファンドにおける出資事例

 地域低炭素投資促進ファンドでは、平成25年度の出資案件が7件となり、ここではその具体的な事例を一つ紹介します。

 平成25年12月、地域低炭素投資促進ファンドは、大分ベンチャーキャピタル株式会社(大分VC)が運営する「おおいた自然エネルギーファンド投資事業有限責任組合」に対し、3億円の出資を決定しました。おおいた自然エネルギーファンドは、温泉熱のポテンシャルが高い大分県において、地域活性化に資する温泉熱発電事業を中心とした再生可能エネルギー事業に投資をするものです。ファンド総額25億円の資金は、地熱コンサルタントや専門家と連携して温泉源の熱源を調査した上で、十分な熱源が見込まれる温泉熱発電プロジェクトに投資される予定です。我が国において取組事例の少ない温泉熱発電事業へ投資するファンドであることから、この取組がモデルケースとして成功するよう支援することで他地域への展開が期待できます。また、地元温泉業者が事業主体であることから、大分県内の建設業や観光業などの周辺産業に経済波及効果が広がるなど、地域活性化につながることも期待できます。

温泉熱発電事業への投融資スキーム

イ リスクをコントロールする保険商品

 グリーン投資を促進していくためには、事業活動に伴うリスクを軽減する保険の活用が有効です。特に、気温や気象条件の変化に伴う環境の変化等は、投資先のプロジェクトにおけるリスク要因となりますが、保険によりこうした損失リスクをコントロールすることで、グリーン投資を促進することが期待されます。

 グリーン投資に資する保険商品の一つに、天候デリバティブを活用したものがあります。天候デリバティブとは、ある期間において気温や日照時間などが一定の数値を超過し、又は下回った場合に、その日数などに応じて保険会社が補償金を支払う保険商品です。天候の変化に関するリスクは太陽光発電や風力発電を中心とした再生可能エネルギーの導入に伴うリスクとされていることから、天候デリバティブを活用した保険パッケージ商品の導入によって、再生可能エネルギーに関連した設備投資が活性化することが期待されています。

 近年、我が国の損害保険会社においても、太陽光発電事業や中小水力発電等を対象にした保険パッケージ商品の販売が広がっています。販売された保険パッケージ商品では、火災や落雷などの偶発的な事故によって生じた施設の損害に対して補償するだけでなく、発電量に影響する日照時間や降水量、積雪量の想定値を契約であらかじめ定めておき、その数値を下回った場合に補償金を支払うという、天候デリバティブの仕組みを活用しているものもあります。

(3)投融資判断に必要な情報の蓄積等

 グリーン投資の課題としては、[1]投融資判断に必要な情報(トラックレコード)の蓄積の不足、[2]投融資先のプロジェクトにおける事業性の評価手法の不足も挙げられます。

 トラックレコードの蓄積を促す取組として、米国では、再生可能エネルギーに関連するコストなどの情報を収集する取組が始まっています。米国の環境保護庁(EPA)では、再生可能エネルギーに関連するコストのデータベースを作成しており、風力・太陽光・太陽熱・地熱に関する過去のデータと予想コストが開示されています。また、米国エネルギー省の機関である国立再生可能エネルギー研究所(NREL)は、再生可能エネルギーの導入に資するデータとして、初期投資金額や電力購入契約などのコスト、期待される運用収益や資金調達手段などの情報を収集・蓄積しています。

 また、プロジェクトの事業性や採算性、リスクを精緻に評価する取組として、近年、我が国では、再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンスが広がっています。プロジェクトファイナンスとは、企業の信用力や土地などの不動産担保ではなく、プロジェクト自体の収益性を評価し、プロジェクトから生み出される収益のみを返済原資とする融資の手法です。プロジェクトファイナンスは、組成に一定のコストがかかることから大規模事業に適用されることが多く、大手金融機関などによる実施が主流ですが、地域金融機関が主体となってファイナンスを組成する動きもみられます。例えば、「株式会社北都銀行」では、「株式会社風の王国・潟上」による太陽光発電事業に対して、平成25年にプロジェクトファイナンスによる融資を行いました。「株式会社風の王国・潟上」は、太陽光発電事業の建設・運営を主な目的として、地元4社の出資により設立された特別目的会社(SPC)です。本事業は、秋田県の県有地で実施され、出資者でもある地元の太陽電池メーカーのパネルを採用しているなど、地域経済の活性化にも資する取組となっています。

(4)初期投資負担を軽減するファイナンスの取組

 温室効果ガス排出削減のためには、民生部門(家庭部門、業務部門)で急増している排出量のさらなる削減を加速させる必要があり、そのためには、投資家によるグリーン投資だけでなく、家庭や企業自身による高効率な省エネ機器等への設備投資を促進することも重要です。具体的には、今後、家庭部門においては太陽光パネルや燃料電池などの設置、また、業務部門においては高効率ボイラーやヒートポンプ空調、高効率照明の導入など、CO2削減に資する機器の導入が必要となる一方で、これらの低炭素機器の導入に伴う多額の初期投資費用は、家庭や中小企業にとって大きな負担となります。

 こうした多額の初期投資負担を軽減し、低炭素機器を普及させるためには、リースを活用することが一つの有効な手段といえます。環境省では、リースにより低炭素機器を導入した場合に、助成金を支給する事業を実施しています(図3-3-9)。同事業では、家庭や中小企業がリースにより低炭素機器を導入した場合に、リース料の3%又は5%(東北3県に係るリース契約については10%)を助成するものです。本事業の実施によって、年間約3万トンのCO2削減効果だけでなく、約300億円の経済波及効果が見込まれます。また、本事業では、エネルギー環境適合製品の開発及び製造を行う事業の促進に関する法律(平成22年法律第38号)に基づく、低炭素設備リース信用保険制度とも連携を図りながら、低炭素機器の普及を推進しています。

図3-3-9 家庭・事業者向けエコリース促進事業スキーム

海外における省エネルギー・ファイナンスの取組

 海外では再生可能エネルギーに対する投資促進を目指した支援制度だけでなく、省エネルギー化に向けた取組を支援する制度も始まっています。ここではその一例を紹介します。

 英国では2013年(平成25年)1月から、住宅や建築物への断熱材等の導入など、省エネルギー化のための改修(以下「省エネ改修」という。)を実施し、その改修費用を電気代に上乗せして支払う「グリーンディール制度」を開始しました。省エネ改修により光熱費などが削減されれば、月々の負担が増えることなく、住宅の省エネ改修が可能となることから、省エネルギー対策への投資が活性化されることが期待されます。この制度の対象になる改修は、住宅や建築物に対する壁、天井の断熱改修や二重窓の設置に加え、太陽光発電の設置など、2013年(平成25年)1月現在で45種類に上っています。一般家庭がこの制度を利用する場合、まず省エネルギー診断事業者に、エネルギーの使用状況や現在実施している省エネルギー対策について調査を依頼します。その結果に基づいて、今後実施可能な省エネルギー対策とそれによる光熱費の節約額を記載した「グリーンディールアドバイス報告書」などの作成をグリーンディールアセスメント事業者に依頼します。その後、住宅の所有者が同報告書に基づいた省エネルギー化プランを了承した場合、住宅の所有者と英国政府が支援するグリーンディール・ファイナンス会社との間で省エネ改修に必要なリース契約を締結し、改修費用を月々の電気・ガス料金と一括して返済するという仕組みです。「グリーンディール制度」では、初期費用なしで住宅や建築物の省エネ改修が可能になることで、温室効果ガスの削減や省エネルギー化が期待されるだけでなく、断熱材などの関連産業に大きな雇用が見込まれることから、その経済効果にも注目が集まっています。

英国のグリーンディール制度の仕組み

4 環境金融の更なる発展に向けて

 前項で挙げられた環境金融が有するさまざまな課題を解決し、グリーン経済の実現に向け、環境金融のさらなる発展を図るためには、我が国の多くの金融機関とともに環境金融を支える基盤を構築していくことが重要です。

 我が国においては、環境金融の普及・促進に向け、約30の金融機関が協働し、平成23年10月に、環境金融への取組の輪を広げていくための行動原則である「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」が策定されています(表3-3-3)。同原則は、持続可能な社会の形成のために果たすべき行動指針として7つの行動原則を示しており、その具体的な行動指針として、「預金・貸出・リース業務ガイドライン」、「運用・証券・投資銀行業務ガイドライン」、「保険業務ガイドライン」という3つのガイドラインをあわせて策定しています。同原則には、189の金融機関が署名し、活発な意見交換が実施されています。

表3-3-3 持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)

 また、近年、投資者が単なる収益性の追求ではなく資金需要者への共感に基づいて投資する「共感する投資」という考え方も議論されています。

 環境金融は、通常の金融と同様に投融資のリターンが投融資を行った者に還元されるものですが、そのリターン以上に、地球温暖化問題の解決や地域の活性化など社会的な意味のある活動に対して支援を行うことに付加的な価値を見出して、投融資が行われる場合があります。共感や価値観の共鳴に基づく環境金融の分野も環境行政の観点からは重要な分野として支援していく必要があると考えられます。