環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 グリーン経済の取組の重要性~金融と技術の活用~>第1節 持続可能な社会の実現に向けたグリーン経済の広がり

第3章 グリーン経済の取組の重要性~金融と技術の活用~

 第1章では、地球環境の現状をさまざまな側面から見てきました。地球温暖化防止、生物多様性の保全、資源の循環利用の観点からさまざまな対策が講じられていますが、地球環境の悪化はいまだ歯止めがかかっていない状況にあり、地球環境への負荷低減に向けて、引き続きこれらの分野への施策を講じていく必要があります。

 我が国においても、環境負荷の低減が喫緊の課題となっているとともに、最近の景気回復に向けた動きを持続的な経済成長につなげていくことも課題となっています。これらの課題を解決し、持続可能な環境・経済・社会の実現に向けて、「グリーン経済」を構築しようとする動きが進んでいます。第3章では、地球環境問題への対応が、同時に経済成長にも資するという両面の効果をもつ方策を紹介し、グリーン経済の重要性について述べます。

第1節 持続可能な社会の実現に向けたグリーン経済の広がり

1 グリーン経済の潮流

 我が国では高度成長期に入った頃から深刻な公害問題が発生しました。特に水俣病や四日市ぜんそくなどの四大公害病は、広範な健康被害をもたらし、大きな社会問題となりました。また、欧州においても、1970年代初頭より、国境を越えた酸性雨の深刻化や漂流ゴミによる海洋汚染など、一国内に収まらない地球規模での環境汚染が報告されるようになりました。

 国際社会が環境問題に注目し始める中、世界中の有識者が集まって設立されたローマクラブが、1972年(昭和47年)に「成長の限界」と題した研究報告書を発表し、人類の未来について、「このまま人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球上の成長が限界に達する」と警告しました。そして、その10年後の1984年(昭和59年)には、「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が国連に設置されました。同委員会は、3年間の議論を経て作成した「我ら共通の未来(Our Common Future)」という報告書を公表し、「持続可能な開発」という概念を提唱しました。「我ら共通の未来」では、「持続可能な開発」を「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義し、政策決定における環境と経済の統合を目指す考え方を示しました。

 2012年(平成24年)に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)では、[1]持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済と、[2]持続可能な開発のための制度的枠組の2つを主な議題として議論されました。特に、資源制約の克服、環境負荷の軽減、経済成長の達成を同時に実現する経済のあり方としてグリーン経済に関する活発な議論が行われたことから、国際的に大きな関心がリオ+20に寄せられました。

 ここでは、グリーン経済に関する世界的な議論の潮流や、グリーン経済の推進に寄与する持続可能性指標の開発状況についても紹介します。

(1)グリーン経済・グリーン成長に関する国際的な議論

 環境対策と経済活動の関係については、さまざまな文脈で取り上げられますが、国際的な議論においては、国連環境計画(UNEP)の提唱する「グリーン経済」と、経済協力開発機構(OECD)の提唱する「グリーン成長」がよく知られています(表3-1-1)。

表3-1-1 UNEPのグリーン経済とOECDのグリーン成長

 UNEPでは、「環境問題に伴うリスクと生態系の破壊等を軽減しつつ、人間の福利や不平等を改善する経済のあり方」をグリーン経済として定義しています。グリーン経済の達成のための政策として、UNEPでは、効果的なグリーン経済への移行を促進する分野への政府の投融資の促進、グリーン投資や技術革新を促進させる税を活用した研究開発や技術革新への投資などを挙げています(表3-1-2)。

表3-1-2 グリーン成長における重要な要素

 一方、OECDでは、資源制約の克服と環境負荷の軽減を図りながら経済成長も実現するグリーン成長の重要性を説いています。OECDではグリーン成長を、「私達の暮らしを支えている自然環境の恵みを受け続けながら、経済成長を実現する考え方」と定義し、その実現の重要な要素として、環境問題を軽減するための投資の促進や技術革新、新しい市場の創造などを挙げています。

 「グリーン経済」・「グリーン成長」のいずれも、環境・経済・社会のいずれの側面においても持続可能性を追求しようとしている概念といえます。特に、グリーン成長については、従来、環境保全を経済成長の阻害要因として捉えていたものを、環境分野への投資が経済成長を推進する要因として捉え直すという、発想の転換を図るものとなっています。

 社会経済が成熟期に入っている先進国では、今後の成長が大きな課題であり、環境分野における経済成長に関心が集まる一方で、途上国では貧困撲滅や経済発展が主要な課題であり、これに伴って生じる環境問題にどのように対応するかが関心事となっています(表3-1-3)。

表3-1-3 持続可能な社会の実現に関する国際的な動き

環境問題と外部不経済

 市場経済の下では、個人や企業が自らの利潤を最大限追求すれば、社会的に望ましい状態が達成されるとされていますが、市場において価格付けされていない財を利用する場合には、利用に伴う社会的費用が適切に私的利用の意思決定に反映されないため、その財の利用状態が社会的に好ましくない状況となることがあります。この状態を外部不経済と言います。具体的には、我々の経済社会では、天然資源や水資源をはじめとした自然資源を利用していますが、その利用の意思決定の際に、社会全体で負担すべき費用が適切に考慮されず、自然資源がもつ浄化機能や供給機能を上回った利用がなされた場合に、生活環境に負の影響が及ぶ可能性があります。公害問題や地球温暖化、生物多様性の損失などに代表される環境問題は、外部不経済の代表的な例と言えます。英国のTRUCOST社が2013年(平成25年)に発表した報告書では、2009年(平成21年)の世界の一次産業及び一次加工業が環境に与えたコストは7.3兆ドルと見積もられています。これは当時の世界の国内総生産(GDP)の13%に相当し、より上流側の産業によるコストも含めれば、事業活動全体での影響はさらに大きいと言えます。

(2)グリーン経済の構築に寄与する持続可能性指標の開発

 1980年代以降、持続可能性についての議論が進展し、この概念を開発政策などにどのように組み入れるべきかとの関心も高まったことなどから、国内外で経済社会の持続可能性を測る指標の開発が進められています。持続可能性指標が実社会に適用されていくことにより、これまでのように経済活動の大きさのみではなく、環境保全の進捗度合いなども含めたさまざまな社会的要素が加味されるようになることで、環境と経済が共に持続可能となるグリーン経済の構築に寄与することが期待されています。

ア ジェニュイン・セイビング

 世界銀行では、「ジェニュイン・セイビング(Genuine Savings)」という持続可能性指標を開発しています。この指標は、国民総貯蓄から固定資本の消費を控除し、教育への支出を人的資本への投資額として加え、そこから天然資源の枯渇・減少や二酸化炭素の排出、森林減少、浮遊粒子状物質などによる損害額を控除して計算されます。ジェニュイン・セイビングがマイナスとなることは、総体として富が減少することを示しており、その状態が続けば、現在の消費水準を持続することはできないということを意味します。

イ Beyond GDP

 GDPは各国の経済規模を示すものですが、環境破壊などの「社会的な負の要素」が増加してもGDPは増加してしまうという面を持っています。

 2007年(平成19年)に「Beyond GDP会議」が開催され、GDPを補完し、より包括的な情報を提供する新たな指標の開発に向けた合意が得られたことから、欧州委員会では2009年(平成21年)に「GDP and beyond」を公表し、持続可能な社会の進歩を測定する指標の開発のための5つの行動計画を決定し、欧州諸国においてGDPに代わる新指標の開発が進められています。GDPがもつ負の要素をGDPから控除した国民純福祉(NNW)、真の進歩指標(GPI)といった指標があります。

ウ グリーン成長指標

 OECDでは、グリーン成長に向けた取組の進捗状況を評価するために、25のグリーン成長指標を整備しています。これらの指標は、経済成長と環境との関係について、[1]生産性・効率性がどの程度高いか、[2]自然資源がどの程度残されているか、[3]社会経済活動が人の健康や環境に悪影響を及ぼしていないか、[4]グリーン成長を支える政策が効果的に実施されているか、という4つの視点から分類され、評価に用いられています。

エ 包括的富指標

 国連大学では、「包括的富指標(Inclusive Wealth Index、以下「IWI」という。)」の開発を進めています。IWIとは、従来のGDPや人間開発指数(HDI)などのように短期的な経済発展を基準とせず、持続可能性に焦点を当て、長期的な人工資本(機械、インフラ等)、人的資本(教育やスキル)、自然資本(土地、森、石油、鉱物等)を含めた、国の資産全体を評価し、数値化した指標です。2012年(平成24年)にブラジルで開催されたリオ+20において、国連大学地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(UNU-IHD)が、UNEPなどと共同で発表した報告書の中で示されました。

 本報告書では、「経済成長の偏重は、将来の世代に深刻な被害をもたらし、資源を枯渇させる。IWIは、豊かさと成長の持続可能性を提示できる」と、その有用性を指摘しており、IWIは各国における持続可能な社会の構築に寄与する指標として、世界的に注目されています。

2 環境産業の現状

 我が国で公害問題が発生し、環境負荷物質に対する環境基準が設定されると、その基準を達成するべく、さまざまな環境技術の開発が進められてきました。自然環境への負荷を低減させる製品・サービスを提供する産業は従来から我が国に存在してきましたが、このような環境技術の開発も我が国の環境産業発展の契機になってきました。

 ここでは我が国の環境産業の現状と世界規模での見通しについて見ていきます。

(1)環境産業の現状

ア 環境産業の規模と見通し

 我が国では、OECDの環境産業の分類(The Environmental Goods & Services Industry)を参考に、環境産業の市場と雇用規模について、毎年推計を行っています。これによると、平成24年における環境産業の市場規模は約86兆円、雇用規模は約243万人と推計されており、2008年(平成20年)の世界金融危機で一時的に落ち込みましたが、ともに拡大基調にあります(図3-1-1)。また、環境産業の市場規模と雇用規模の伸び率を全産業平均と比較すると、いずれも高い伸び率を示しています。国内生産額に占める環境産業の市場規模の割合は、過去10年で一貫して増加しており、環境産業は成長している分野といえます(図3-1-2)。

図3-1-1 環境産業の市場・雇用規模の推移

図3-1-2 環境産業市場規模と国内生産額の比較

 環境ビジネス関連企業の景況感などの動向を把握する調査では、他産業と比較して足下も将来も景況感が良いことが示されており、今後も成長が期待されます。環境ビジネスを実施している企業から見た自社の環境ビジネスの現在(平成25年12月)の業況DI(Diffusion Index。良いと答えた企業の割合から悪いと回答した企業の割合を引いた値、%ポイント)は、17となっており平成25年6月の15と比較しても引き続き業況は好調を維持していると言えます。また、環境ビジネスを実施している企業に関しては、自社の同ビジネスの10年後の業況DIは25となっており、現在の業況DI(17)と比較すると、8%ポイント増加しています。これは、環境ビジネスを実施していない企業も含めたビジネス全体の10年後の業況DIが10となっており、現在の業況DI(9)から1%ポイントしか増加していないことと比較して、相対的に高い伸びを予想しているという結果になっています(図3-1-3)。

図3-1-3 環境産業の業況DI

 国内だけでなく、世界的にも環境産業への投資の拡大が見込まれています。例えば、国際エネルギー機関(IEA)によると、2012年(平成24年)から2035年(平成37年)の、風力発電への世界の累積投資額は約170兆円、太陽光発電では101兆円に上ると予測されています。

イ 環境産業がもつ経済波及効果

 環境省では、環境産業の経済波及効果についても試算しています。平成24年における環境産業の経済波及効果は約169兆円と市場規模の約2倍となっています。このうち、廃棄物処理・資源有効利用分野と地球温暖化対策分野がそれぞれ83兆円、53兆円と大きな割合を占めています。これは廃棄物処理・資源有効利用分野の関連機器の製造などや、地球温暖化対策分野の省エネルギー自動車など大きな経済波及効果をもつ産業が含まれていることによるものです。特に地球温暖化対策分野は、世界的な経済危機の影響で環境産業の市場規模全体が大きく落ち込んだ時期も含めて、一貫して市場規模は増加傾向を示しており、また、現在(平成25年12月)の業況DI(27)も10年先の業況DI(36)も環境ビジネス全体と比較して高い数値を示していることに加え、「再生可能エネルギー」が10年後の我が国で発展していると考える環境ビジネスの第1位となっていることから、環境ビジネスの中でも発展が最も期待されています。

 以上のように環境産業は、将来にわたり規模が拡大していくことが期待され、また経済波及効果も大きい分野があることから、我が国の成長産業の一つとして期待されます。

(2)世界規模での環境産業の雇用規模推計

 UNEP、国際労働機関(ILO)、国際使用者連盟(IOE)、国際労働組合総連合(ITUC)の4機関が2008年(平成20年)に共同で発行した報告書によると、2030年(平成42年)までに世界中で、太陽光発電分野で630万人、風力発電分野で210万人、バイオマス発電で1,200万人の雇用が創出されると予測されています(図3-1-4)。

図3-1-4 再生可能エネルギー分野における雇用規模に関する推計

 また、環境産業の市場規模の拡大も期待されています。太陽光や風力発電分野においては、2030年(平成42年)までに大幅な拡大が見込まれており、技術革新の結果、その拡大がさらに加速すると期待されています。