環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第2節 環境技術の普及によるグリーン経済の実現

第2節 環境技術の普及によるグリーン経済の実現

 グリーン経済を実現するためには、個々の経済活動が環境に与える負荷を低減させるとともに、環境産業の振興にもつながる環境技術の開発・普及が必要になります。我が国は、これまでの経済成長の過程で、さまざまな公害や環境汚染を経験する一方、経済活動に伴う環境負荷を低減させる先端技術の開発を進めてきました。こうした我が国の経験と高い技術力を活かし、経済成長しつつある途上国に対して、我が国が有する環境面での先端的な技術を提供することで、地球環境への負荷を抑制しながら、途上国の経済成長に貢献し、同時に我が国の経済成長へとつなげていくことが可能となります。

 本節では、グリーン経済の実現に向けた環境技術政策の考え方を示すとともに、環境技術の開発や普及、国際展開の取組について紹介していきます。

1 グリーン経済実現のための環境技術等の開発とその普及の方策

 環境政策にはさまざまな手法が用いられます(表3-2-1)。規制的な手法は経済活動のコストとして見られがちですが、結果として優れた環境技術・省エネ技術が社会に普及する契機となることがあります。政策の費用対効果や社会全体で負担するコストの低減に留意しつつ、経済的手法と組み合わせるなど、適切な政策パッケージを形成することで、効果的に環境技術の開発・普及を促していくことが重要です。特に、経済的手法の一つとして、金融市場を通じて環境配慮に適切なインセンティブを与えることで、企業や個人の行動を環境配慮型に変えていく「環境金融」という新たな手法の活用が、こうした技術の普及に不可欠となっています。

表3-2-1 主な環境政策手法について

 環境金融については、第3節で詳しく取り上げることとし、本項では、環境政策のさまざまな手法と環境技術・省エネ技術の開発・普及との関連を紹介します。

(1)規制的手法

 我が国はエネルギー価格の高騰や公害関連規制を経て、世界でもトップレベルの環境技術・省エネ技術を培ってきました。規制的手法による政策が、技術革新のきっかけとなった事例として、昭和53年に導入された自動車排ガス規制(日本版マスキー法)が知られています(図3-2-1)。同規制は、既存の技術では対応しきれない規制基準を設け、強制的に技術を促進させる特徴を有しており、いち早く規制を達成した企業が業界における競争優位を得ることができるものでした。当時は産業界から、自動車産業の対外競争力を失わせるという強い反発が起こったものの、排ガス規制に対する世論の高まりなどにより導入されました。しかし、結果的に我が国の自動車メーカーは当時世界で最も厳しいこの排ガス規制基準を達成し、燃費技術も向上させることで、かえって国際競争力が強化されることとなりました。

図3-2-1 自動車排出ガス(NOx)規制値の推移

 最近の規制的手法を用いた政策では、平成10年のエネルギー使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49号)改正時に導入されたトップランナー制度があります。トップランナー制度とは、自動車や家電等の製造・輸入事業者に対し、3~10年程度後に、現時点で最も優れた機器の水準に技術進歩を加味した基準(トップランナー基準)を満たすことを求める制度です。例えば、トップランナー制度の対象である家庭用冷蔵庫は、平成17年度から平成22年度の6年間で、約43%のエネルギー効率の向上が達成されてきました。

 規制的手法の環境技術等への効果を説明したものに、「ポーター仮説」があります。ハーバード大学の経営学者マイケル・ポーターは、「適切に設計された環境規制は、費用低減・品質向上につながる技術革新を刺激し、その結果、国内企業は国際市場において競争上の優位を獲得し、他方で国内産業の生産性も向上する可能性がある」と主張しました。例えば、上記の日本版マスキー法は、環境庁(現 環境省)の中央公害対策審議会が、各自動車メーカーから技術的可能性を聞き取りながら規制値を決めていく方法がとられていました。こうした適切な環境規制の設計により、技術革新が誘発されると考えられます。

 このように、将来の技術開発の実現可能性を見据え、適切かつ明確な目標を設定することにより、技術の進歩を促すことが可能です。さらに、これによって得た技術的優位が産業の国際競争力強化につながるというように、環境規制等、技術、産業の競争力の間に、相互に助長する関係を築くことができるといえます。他方、適切な規制・指導の実施のみで技術開発が進むわけではありません。企業の技術開発にはさまざまなリスクが伴うことから、以下で紹介する経済的手法と組み合わせていくことが重要です。

(2)経済的手法

 経済的手法とは、経済的誘因を提供するか、行為者に経済的負担を課すことにより、望ましい行為を誘導し、又は望ましくない行為を抑制する結果、環境への負荷を低減する手法です。各主体が市場原理に基づいた合理的な選択をすることができるようになるため、規制的手法に比べて低い経済的・社会的コストで目的を達成できる手法といわれています。OECDと欧州連合(EU)は、経済的効率性を損なわずに環境目標を達成し、経済政策と環境政策を両立する手法として、経済的手法の活用を推奨しています。ここでは、経済的手法のうち代表的な政策である補助金、税、排出量取引制度について、環境技術への影響を紹介します。

 補助金は、特にコストが高い環境技術について、量産効果などにより価格競争力が向上し、市場が整備するまでの暫定的な措置として有効です。また、政府が支援することによって、環境技術に対する民間投資を呼び込む効果が生まれるとともに、研究開発へ支援することで、技術革新を誘発することが期待されます。ただし、補助金による支援だけではそれに依存してしまう可能性があるため、補助金が終了しても環境技術の開発・普及が継続されるよう、さまざまな政策を組み合わせていくことが求められます。

 税制のグリーン化は、課税や減税による価格インセンティブを働かせることにより環境配慮行動を促す手法であり、企業や消費者が商品を製造・購入する際に、より環境負荷の少ない技術や商品の選択が促進され、環境汚染物質の排出削減やエネルギー使用の効率化といった環境改善効果をもたらすものです。また、税収を環境負荷の少ない技術や商品の開発や普及に充当することにより、環境汚染物質の排出削減やイノベーション(技術革新)が促される効果もあります。

 我が国では、平成24年10月から「地球温暖化対策のための税」が導入されました。具体的には、我が国の温室効果ガス排出量の約9割を占めるエネルギー起源二酸化炭素(CO2)の排出削減を図るため、全化石燃料に対してCO2排出量に応じた税率(289円/CO2トン)を石油石炭税に上乗せするものです。急激な負担増を避けるため、税率は3年半かけて段階的に引き上げることとされており、平成26年4月に第2段階目の引上げが行われました。この課税による税収は、エネルギー起源CO2の排出削減を図るため、省エネルギー対策・再生可能エネルギーの導入に充当されます。

 また、平成21年度から、いわゆるエコカー減税が実施されており、環境性能が高い自動車の自動車重量税・自動車取得税を減免することで、環境技術の開発・普及を促進しています。平成23年度には、最新の技術を駆使した高効率な省エネ・低炭素設備や再生可能エネルギー設備への投資(グリーン投資)を重点的に支援するため、「環境関連投資促進税制(グリーン投資減税)」が導入され、平成25年度から、同減税措置の対象設備を拡充するとともに、適用期限を延長するなど、引き続きグリーン投資の促進による環境技術の普及に取り組んでいます。さらに、平成26年度からは、車体課税のさらなるグリーン化や、ノンフロン製品などの設備投資の促進に向けた減税措置が講じられています。

 排出量取引制度は、温室効果ガスの排出に価格をつけることで、排出削減行動を行うインセンティブが働くため、費用対効果の高い対策技術の導入や技術開発が促進されるとともに、取引等を行うことで排出削減に要する社会全体としてのコストを低減させることが期待されます。原則として、キャップ・アンド・トレード制度は、コスト効率の良い形で緩和を実現し得ますが、その履行は各国の事情に依拠します。

 2007年(平成19年)頃から、キャップ・アンド・トレード型排出量取引制度を始めた国や地域の数は増えており、また我が国では、東京都や埼玉県において同制度が導入されています。制度導入の成果の例として、高効率照明器具、昼光利用による照明制御、太陽光発電、空調機変風量システム、外気冷房、CO2濃度による外気量制御が導入されるなど、環境技術の導入が進みました。これらの環境技術を積極的に導入し、東京都の優良特定地球温暖化対策事業所に認定された事業所の一例として、丸の内パークビルディングが挙げられます。

(3)自主的取組手法

 自主的取組手法とは、事業者などが自らの行動に一定の努力目標を設けて対策を実施するという取組によって、環境負荷低減などの政策目的を達成しようとする手法です。技術革新への誘因となるとともに、関係者の環境意識の高揚や環境教育・環境学習にもつながるという利点があります。事業者などがその努力目標を社会に対して広く表明し、政府においてその進捗点検が行われることなどによって、事実上社会公約化されたものとなる場合等には、さらに大きな効果を発揮します。

 我が国では、産業界における対策の中心的役割を果たす「自主行動計画」を推進しています。同計画は、経団連を中心とした産業界により、地球温暖化問題への主体的な取組として策定されました。同計画に続く新たな計画である「低炭素社会実行計画」においても、低炭素製品の開発・普及や中長期的な革新的技術開発が取組の柱として掲げられており、各業種の状況に応じた柔軟な技術開発の進展が期待されます。

2 グリーン経済の構築に向けた環境技術に関する取組

 ここまでは、環境技術の開発や、社会への普及を促進するためのアプローチ方法について概観しました。こうしたアプローチ方法を踏まえて、環境技術を開発するとともに、我が国の環境技術を国内外へと普及させていくことが重要です。

 平成26年3月、石原環境大臣は、「L2-Tech・JAPANイニシアティブ」を発表しました。このイニシアティブは、大幅な省エネにつながるような、先導的な低炭素技術(Leading &Low carbon Technology)を「L2-Tech」と位置付けてリスト化し、それを活用しつつ、先導的な低炭素技術の開発・導入・普及を強力に推進するものです。こうした取組を進めることで、グリーン経済の構築にも寄与することが期待されます。

(1)環境技術の開発促進とその普及のための枠組~低炭素分野を中心に~

ア 低炭素技術の開発

 低炭素技術の研究開発とその実用化は、温室効果ガスを削減する環境面での効果と、技術開発が新たな産業分野を創出するという経済面での効果を同時に有するものです。我が国は、こうした効果を増大させるべく、地球温暖化対策技術開発・実証研究事業を通じて、技術革新を促す開発・実証へ支援を実施しています。

 同事業では、4分野([1]交通、[2]建築物等、[3]再生可能エネルギー・自立分散型エネルギー、[4]バイオマス・循環資源)を対象とした支援を実施しています。例えばバイオマス・循環分野では、自動車燃料にも使用可能な第二世代バイオディーゼル燃料の技術開発や、事業化に向けた社会システムの構築に取り組んでいます。第二世代バイオディーゼル燃料は、従来の第一世代バイオディーゼル燃料に比べて燃料品質が安定しているとともに、多様な動植物性油脂への原料拡大が図られることで、廃棄物系バイオマスの利活用の低コスト化に大きく貢献することが期待されています。こうした第二世代バイオディーゼル燃料を、車両適合性のある燃料にする技術開発を進めると同時に、スーパー等の店舗を活用するなど、地域での実用化を想定した回収事業モデルを構築して、本技術開発を事業化につなげていきます(図3-2-2)。

図3-2-2 第二世代バイオディーゼル燃料の技術開発実証研究事業の構図

 環境省は、将来的な地球温暖化対策の強化につながる技術であって、産業界による自主的な技術開発では社会への普及が困難なものに重点を置いて、開発・実証研究を支援していく予定です。

イ 固定価格買取制度による再生可能エネルギー技術の普及

 再生可能エネルギーの普及を図るための制度として、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)に基づき、平成24年7月1日から、固定価格買取制度(以下「FIT」という。)が開始されました。FITは、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、一定の期間と価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるとともに、再生可能エネルギーの発電事業者に一定期間、「買取価格の保証」などの経済的インセンティブを与えるという経済的手法を用いています。電気事業者が買取に要した費用は、各電気事業者が一般家庭や事業所などに対し、使用電気量に比例した賦課金を電気料金に上乗せして請求することが認められています。買取価格は毎年度改定され、量産効果による発電設備の価格下落などを、買取価格に反映させる仕組みとなっています。

 FITでは、太陽光発電・風力発電・中小水力発電(3万kW未満)・地熱発電・バイオマス発電で発電された電気が買取の対象となります。制度開始から平成25年12月までの間に、新たに稼働した再生可能エネルギーの発電設備容量は、制度開始前に比べ約3割増加しており、そのうち9割以上が太陽光発電となっています。例えば埼玉県桶川市では、世界で初めて大規模な水上設置型太陽光発電システム(以下「水上メガソーラー」という。)を設置し、一般家庭約400世帯分の年間電気消費量に相当する発電量を見込んでいます(写真3-2-1)。水上メガソーラーは、太陽光パネルが水で冷やされることで発電効率が高まる効果があるとともに、貯水の蒸発や、青粉などの藻類の異常発生を軽減できるため、灌漑池を有効利用できる効果も期待されています。今後メガソーラーを設置する陸上の土地が不足することを想定した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、水上メガソーラーによる発電コストを従来型の地上設置型メガソーラー並みにすることを含め、従来太陽光発電が設置されてこなかった場所の活用を目的として平成25年度から実証事業を実施しています。このように、FITによる再生可能エネルギーの普及拡大により、新たな再生可能エネルギー技術の開発が促されることが今後も期待されます。

写真3-2-1 桶川市の水上メガソーラー

ウ 利用可能な最先端技術の普及

 事業者などが利用可能な最先端技術(Best Available Technology、以下「BAT」という。)を積極的に導入する取組に対して、支援していくことも重要です。日本経済団体連合会が策定した「低炭素社会実行計画」において、参加業種が設備の新設・更新時にBATを最大限導入することを前提に、2020 年(平成32年)のCO2排出削減目標を設定することや、低炭素製品の普及・開発、技術移転を通じた国際貢献、革新的技術の開発などのコミットメントを行うことが掲げられています。政府は産業界によるBAT導入の最大化を実現すべく、率先して取り組む事業者に助成し、かつ参加事業者同士が協働して目標を達成できる仕組みを創設しました(先進対策の効率的実施による二酸化炭素排出量大幅削減事業)(図3-2-3)。参加企業は、政府が選定したリストからBATを選択し、参加事業者自身がCO2排出削減目標を設定します。助成をするかどうかは、CO2を1トン削減するのに必要な費用が小さいものから採択するリバースオークション方式をとるため、費用対効果が高い削減対策が優先されます。さらに、目標達成方法には市場メカニズムを採用し、参加事業者同士が排出枠を取引できる仕組みとしました。目標を達成できなかった事業者は、目標を超過した企業から排出枠を購入することで、確実に目標を達成させることができます(図3-2-4)。

図3-2-3 「先進対策の効率的実施による二酸化炭素排出量大幅削減事業」の仕組み

図3-2-4 「先進対策の効率的実施による二酸化炭素排出量大幅削減事業」の流れのイメージ

ドイツにおける固定価格買取制度とグリーン経済

 ドイツでは、1990年(平成2年)に、世界で初めて導入されたFITにより、ドイツ国内の発電量に占める再生可能エネルギーの割合が、2000年(平成12年)の6.2%から2012年(平成24年)には22.4%へと急速に増加し、再生可能エネルギー分野での雇用は2004年(平成16年)から倍増して、38万人に増加しました。ドイツ連邦環境省は今後も再生可能エネルギーなどの環境技術による経済的効果は高まると予想しており、2012年(平成24年)に公表した報告書「環境技術アトラス」において、国内総生産における環境技術の割合は、2011年(平成23年)の11%から2020年(平成32年)には20%以上に上昇し、環境技術の売り上げは2020年(平成32年)には世界全体で2兆440億ユーロであったのが、2025年(平成37年)には4兆4,000億ユーロに達すると試算しています。

 こうした再生可能エネルギー技術の普及や環境産業への波及効果が大きい一方で、ドイツ国内ではFITについて見直しの検討が行われています。見直しの主な原因は電気料金の高騰であり、2013年(平成25年)には前年比で47%も電気料金が上昇しました。高騰の原因としては、買取価格が高い太陽光発電による売電が急増したことや、大規模需要家(鉄鋼産業や化学産業など)を対象とした賦課金の負担免除を増額したり、負担免除の対象企業を拡大したことが挙げられます。

 ドイツは2020年(平成32年)までに最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を少なくとも35%に、2050年(平成62年)には60%に引き上げることを目標にしており、現在の電気料金高騰に対してどのような対応を行うのか注目されています。我が国はドイツの経験からヒントを得ながら、再生可能エネルギーの普及を進めていくことが必要となります。

ドイツにおける固定価格買取制度の賦課金水準と発電量に占める再生可能エネルギー比率の推移

東京オリンピックとグリーン経済

 我が国では、グリーン経済の概念は、スポーツの祭典にも浸透しつつあります。

 平成25年9月、56年ぶり2度目の開催となる東京オリンピック・パラリンピックが2020年(平成32年)に開催することが決定しました。昭和39年に開催された一回目の東京オリンピックはアジア初のオリンピックであり、戦後の日本経済復興のシンボルとなる大会でしたが、今回のオリンピックでは「復興の加速と世界への感謝」を招致動機として、招致に伴うインフラの整備が日本の再興につながると期待されています。国際オリンピック委員会(IOC)本部に提出した「2020年夏季オリンピック・パラリンピック大会立候補申請書」では、「都市施策に合致した大会の環境対策と持続可能性戦略」を明記しており、我が国の環境技術を最大限に活用して大会の環境対策を行うこととしています。具体的には、競技会場のうち28会場を選手村から8km圏内にコンパクトに配置し公共交通機関を最大限活用することによる環境負荷の最小限化、競技会場の建設や運営にできるだけエネルギーを使わない、カーボン排出の少ない運用を行う、低公害かつ低燃費車両の活用、廃棄物の発生を最大限抑制、再使用、再利用の促進など行うとともに、オリンピック開催を梯子にして、環境技術の展開を促進するとともに、実現可能な環境保護と持続可能な対策を提示するとしています。特に選手村については、日本の気候に応じた伝統的な建築技術と最先端の環境設備を融合した環境負荷の少ないまちづくりを体現するモデルとなることを目指して、我が国の伝統的な建築材料である木材を多用し、自然の光や風を取り入れるパッシブデザインの居住空間により、エネルギーを最小限に抑え、快適な環境を提供するとしています。また大会を契機として東京を中心とした大都市圏で官民が展開する環境対策を連携・協働させることにより、2020年(平成32年)に向け東京を中心とした大都市圏の低炭素化を一層促進し、国内外に環境先進国日本の姿を発信することが期待されています。

 このように2020年(平成32年)東京オリンピックでは、環境負荷の最小化、自然と共生する都市環境計画、スポーツを通じた持続可能な社会づくりを柱に、カーボンニュートラルな大会を目指しています。

東京オリンピック 選手村イメージ図
(2)我が国の優れた低炭素技術

 ここまでは、我が国の環境技術の開発促進と、その普及のための仕組みについて、低炭素分野を中心に見てきました。低炭素社会を実現するためには、優れた低炭素技術の社会への実装によって、温室効果ガスの削減に努め、環境負荷を低減するとともに、我が国の経済成長にもつなげていくことが重要です。ここでは、我が国の優れた環境技術を特定し、開発や普及の方向性を示した「環境エネルギー技術革新計画」を紹介するとともに、低炭素分野において、今後普及が期待される優れた技術をエネルギー起源CO2の排出部門別に紹介します。

ア 環境エネルギー技術革新計画

 第1章で紹介した、攻めの地球温暖化外交戦略を実現させるべく、平成25年9月に改訂された「環境エネルギー技術革新計画」において、我が国の優れた環境技術の開発・普及への道筋が示されています(図3-2-5)。平成20年に策定された「環境エネルギー技術革新計画」は、国際的な低炭素社会の実現とともに、エネルギー安全保障、環境と経済の同時達成及び途上国への貢献を目指すための計画です。今回の改訂では、切れ目なく優れた技術の開発・普及を推進すべく、最新の知見を踏まえて技術レベルのあり方を提示する技術ロードマップを示す観点から改訂を行いました。具体的には、[1]短中期・中長期に開発を進めるべき革新的技術の特定、[2]技術開発を推進するための施策の強化、[3]革新的技術の国際展開・普及に必要な方策についてまとめました。「環境エネルギー技術革新計画」に記載された技術が世界中で開発・普及されれば、2050年(平成62年)までに、世界の温室効果ガス半減に必要な量の約8割が削減できると試算しています。

図3-2-5 環境エネルギー技術革新計画における環境技術の開発・普及への道筋

イ 部門別にみる低炭素技術

 「環境エネルギー技術革新計画」では、開発を進めるべき37の低炭素技術を特定していますが、ここではエネルギー起源CO2の排出部門別に、グリーン経済の実現に向けて開発・普及が期待される優れた低炭素技術を紹介します。CO2排出量が最も大きい産業部門では、大規模排出源への導入が期待される二酸化炭素回収・貯留(以下「CCS」という。)、CO2排出量が横ばい傾向にある運輸部門では次世代自動車、CO2排出量が急増している民生部門では、地中熱を利用したヒートポンプ技術、エネルギー転換部門(発電等)では、洋上風力発電技術について取り上げます。

(ア)産業部門やエネルギー転換部門での普及が期待される二酸化炭素回収・貯留技術

 CCSとは、主に発電所や製鉄所などのCO2大規模排出源で、化石燃料を燃やした際に生じる排ガスからCO2を回収した後、パイプラインや船舶で輸送し、地下深くの貯留層に埋める技術です。大気中に放出されるCO2を減らすことができるため、温暖化対策技術の一つとして世界的に注目されています。IEAでは、2009年(平成21年)と比較して、2050年(平成62年)時点のCO2を半減する上で、各種技術がどう貢献するかを示しており、これによると、2050年(平成62年)までのCO2累積排出削減量のうち、CCSによる削減割合は14%を占めると推計されています。

 CCSは、分離・回収、輸送、貯留の主に3つの技術で構成されています(図3-2-6)。特に我が国の回収技術は世界最高水準を誇っており、米国等で実施されているCCS実証プロジェクトにおいても採用されています。

図3-2-6 CCSの流れ

 IEAが平成25年に公表した「技術ロードマップ:CCS」では、CCSを展開するための基盤を整えるには、2020年(平成32年)までに7つの行動が必要であると提案しており、CCSの実証と早期展開のための財政支援メカニズムの導入など、政府による規制や支援の必要性が示されています(表3-2-2)。

表3-2-2 IEA「CCS技術ロードマップ」における7つの提言

 CCSは「環境エネルギー技術革新計画」において、地球全体の環境・エネルギー問題の解決と、各国の経済成長に必要と考えられる「革新的技術」の一つとして位置づけられるとともに、「日本再興戦略」のロードマップにおいて、CCSの実用化・普及促進に向けた工程が示されており、平成32年頃の実用化を目指して、平成24年度から北海道苫小牧沖で実証実験を行っています。また、平成26年度から、船舶(シャトルシップ)で海上輸送し、船舶から海底下に圧入・貯留するシステムの検討や、CO2分離・回収に用いるアミン吸収液の環境負荷の評価等を行うとともに、我が国周辺水域においてCO2貯留に適した地点の調査を実施します。

 近年、欧米においてもCCSに関連した動きがみられます。米国では、環境保護庁(EPA)がオバマ大統領の「気候行動計画」に基づき、新設する石炭火力発電所に対して、新しいCO2排出基準案を作成しており、同案にはCCS導入についても記述されています。欧州では2009年(平成21年)よりCCS指令(CCS-Ready)が施行され、300MW以上の新設火力発電所については、CCSが将来適用できるように調査・準備することを各国に義務付けています。現在、我が国を含む各国が、CCSに関する技術的課題等の解決に取り組んでいますが、世界のエネルギー起源CO2排出量のうち、約3割が石炭火力発電から排出されていることにかんがみれば、将来的にCCSによるCO2排出削減が進んでいくことが期待されます。

 他方、CCSの導入を進めていく上では、安全性と環境の保全を確保することが必要です。貯留したCO2が漏出しないよう、貯留容量、遮蔽性能、地質構造といった観点から貯留に適した地層を選定するとともに、海洋環境や生態系への影響の評価、モニタリングをしっかりと行うことが重要です。

我が国における火力発電の環境負荷低減に向けた動き

 東京電力株式会社による平成24 年度電力卸供給入札で、安定供給・経済性に資するが環境面に課題がある石炭火力の落札の可能性があったことから、環境省及び経済産業省は「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議」において、電力の安定供給の確保、燃料コストの削減、環境保全に取り組むための対応について議論を行い、平成25年4月に合意した成果を取りまとめました。

 具体的には、電気事業分野における実効性ある地球温暖化対策のあり方として、国の目標と整合的な形で電力業界全体の実効性のある取組が確保されることが必要であるとの観点から、エネルギー政策の検討も踏まえた国の地球温暖化対策の計画・目標の策定とあわせて、電力業界全体の自主的な枠組の構築を促すこととしています。また、CO2排出量が非常に大きい個々の火力発電所の建設に係る環境影響評価に当たって、BATの採用等により可能な限り環境負荷低減に努めているか、国のCO2排出削減目標・計画と整合性を持っているかとの観点から、必要かつ合理的な範囲で国が審査することとしています。

(イ)運輸部門での普及が期待される次世代自動車

 自動車からのCO2排出量は、運輸部門からのCO2排出量のうち約9割を占めていますが、次世代自動車によって大幅に削減できる可能性を有しています。電気とガソリンの両方を燃料とするハイブリッド自動車(HV)や、外部電源から充電できるプラグインハイブリッド車(以下「PHV」という。)、電気のみで走行する電気自動車(以下「EV」という。)については量産化されており、2011年(平成23年)の世界全体でのこれらの販売台数は約250万台に上ると推計されています。我が国は次世代自動車において高い国際競争力を有しており、PHVやEVについて世界初の量産車の製造に成功するなど世界をリードしています。

 究極のエコカーと呼ばれる、水素を燃料とした燃料電池自動車(以下「FCV」という。)は、商用化に向けた開発・実証が進められています。FCVは、燃料である水素と空気中の酸素の化学反応により発電した電気を使用して走行し、走行時に排出するのは水のみであり、大気汚染物質やCO2を一切排出しません。

 燃料となる水素は、自然界には単独で存在せず、化石燃料の改質や、水の電気分解などにより取り出すことができます。再生可能エネルギーによる電力を用いて、水の電気分解により水素を取り出せば、水素は製造から利用までの全過程でCO2を排出しないクリーンエネルギーとなります。こうした利点をもつ水素の普及には、大量の水素を安価かつ安定的に供給する体制の構築が必要となります。我が国の民間企業は、2015年(平成27年)に予定される市場投入までに、四大都市圏を中心に約100か所の水素ステーションを整備する予定です。政府もこれを後押しするべく、水素ステーションの整備に対する支援を行うとともに、水素ステーションに係る規制の見直しなど、制度面における水素普及に向けた取組を進めています。また、再生可能エネルギーを活用した、低炭素な水素供給システムの普及に向けて、環境省では、埼玉県庁における小型ソーラー水素ステーションの技術開発・実証研究を支援しています(図3-2-7)。同ステーションは、水電解で1日150km分の高圧水素を供給可能であり、電力に換算すると63kWh以上になります。

図3-2-7 埼玉県庁ソーラー水素ステーション

 次世代自動車の基盤技術の一つであり、高い安全性能を求められる車載用電池技術についても、我が国は高い競争力を有しています。EVやPHV、FCVにはリチウムイオン電池などの蓄電池が搭載されていますが、平成23年の車載用リチウムイオン電池の日系企業シェアは約8割を占めました。この次世代自動車の蓄電池は、停電や災害時の非常用電源としての役割も期待されています。例えば、蓄電容量が24kWhの電気自動車(日産リーフ)は、満充電時であれば一般家庭に必要な電力を約2日分供給可能です。このように、自動車が発電した電力や、蓄電池に貯蔵してある電力を家庭用に利用するV2H(Vehicle to Home)や、家庭用電力を自動車の充電に利用するG2V(Grid to Vehicle)に対応した次世代自動車が今後普及することによって、安価な深夜電力や再生可能エネルギーの余剰電力による自動車充電、夏季の需給ひっ迫時や停電時における次世代自動車の電力利用が可能となります。

 また、前述の第二世代バイオディーゼルの車両燃料化など、燃料の非化石燃料化も進んでいます。

(ウ)民生部門での普及が期待されるヒートポンプ技術

 第1章で見たとおり、我が国では民生部門のエネルギー消費量が特に増えています。同部門の用途別のエネルギー消費量を見ると、家庭部門におけるエネルギー消費のうち、給湯が約30%、冷暖房が約30%を占めており、全体の約6割が熱エネルギーとなっています。また、業務部門においても消費エネルギーのうち約5割が熱エネルギーです(図3-2-8)。こうした熱エネルギーの多くは、化石燃料によるエネルギーによって供給されていますが、熱エネルギーの供給源をヒートポンプに代えることで、CO2排出量を3分の1から2分の1削減できるポテンシャルがあります。

図3-2-8 家庭や業務部門のエネルギー消費の内訳

 ヒートポンプ技術とは、空気や地中など自然界に存在する熱を、CO2や代替フロンなどの冷媒によって圧縮・膨張させることで、大きな熱エネルギーを得る技術であり、身近な機器では冷蔵庫やエアコンに使用されています(図3-2-9)。我が国は世界最高水準の高効率ヒートポンプ技術を実現しており、世界初の二酸化炭素冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート)の実用化に成功するなど、ヒートポンプ技術分野で世界をリードしています。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書においても、我が国のヒートポンプ技術は欧米に比べて高効率であることが評価されました。

図3-2-9 ヒートポンプ技術のメカニズム

 ここではヒートポンプ技術のヒートソースのうち、安定した自然エネルギーとして注目されている地中熱を活用した地中熱ヒートポンプについて詳しく見ていきます。

写真3-2-2 地中熱ヒートポンプ

 地中熱とは、浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギーを指します。深さ10m以深の地中温度は、1年を通じて一定であり、地下10mの地中温度はその地域の年間平均気温と同程度になっています。

 地中熱のメリットは多岐にわたります。まず、気温と地中の温度差が大きい真夏や真冬ほど高い省エネ効果を発揮します(図3-2-10)。また、日本中どこでも利用可能であるとともに、太陽光や風力と異なり天候や地域に左右されない安定性を有しており、蓄電システムと併用すれば、災害時に少ない電力でも長時間給湯や冷暖房の使用が可能となります。さらに夏季には、空冷式ヒートポンプ(一般的なエアコン)とは異なり大気中に熱を排出しないため、ヒートアイランド現象を抑制し、消費電力の節約などを通じたCO2削減効果があります。この安定した熱エネルギーを、ヒートポンプによって地中から取り出すことで、冷暖房や給湯、融雪に利用することが可能となります。

図3-2-10 地中温度と外気温度の関係

 我が国では近年地中熱ヒートポンプの導入が急増しており、平成23年までに990件の地中熱ヒートポンプが導入されました。しかし、米国、中国、スウェーデンなどの欧米に比べて圧倒的に少ないのが現状です(図3-2-11)。こうした欧米諸国との差の背景には、日本に比べ寒冷な地域が多い欧米諸国では、政府により早くから地中熱ヒートポンプに対する研究開発の支援や助成制度の適用が行われたことや、我が国の地質構造が欧米に比べて複雑であることから、掘削費などの初期費用が高いことなどが挙げられています。今後は我が国においても、低コスト化に向けた技術開発や、普及拡大に向けた取組が求められます。

図3-2-11 各国における地中熱ヒートポンプ導入台数

 他方、地中熱ヒートポンプは、不適切な設計や運転により地盤中に熱が蓄積し、地下水・地盤環境に影響を及ぼす可能性があります。我が国は、こうした環境影響の可能性と地中熱ヒートポンプ技術の導入における留意点を提示し、熱利用効率の維持や地下水・地盤環境の保全に資するモニタリング方法などについての基本的な考え方を整理した「地中熱利用にあたってのガイドライン」を策定しました。さらに、集中的な地中熱利用により地中温度が変化することで、地盤にどのような影響があるかを把握するため、モニタリング機器が組み込まれた「先進的地中熱利用ヒートポンプシステム」の普及を促進しています。

(エ)エネルギー転換部門での普及が期待される風力発電技術

 風力発電は再生可能エネルギーの中でも比較的発電コストが低いとともに、自然エネルギーを電気エネルギーに変換する「変換効率」が高いという利点を有しており、安全性を確保し、環境や地域住民への影響を考慮しながら、より一層普及していくことが期待されています。特に、世界第6位の海域を有する海洋大国である我が国では、広大な海域を活用した再生可能エネルギー技術として、洋上風力発電技術が注目されています。現在開発が進められている洋上風力発電は、水深が浅い海域に適した「着床式」と、深い海域に適した「浮体式」の2つに分類できます。特に「浮体式」は、風を遮るものがない外洋に設置されるため、陸上や陸地に近い「着床式」よりも強く安定した風力が利用できるという利点を有しています。さらに、風車の基礎部分が魚礁となって、魚を集める効果が見込まれています。IEAは、風力発電技術の開発・普及により、2050年(平成62年)に世界全体で約30億トンのCO2排出削減ポテンシャルがあると試算しています。

 環境省では、平成22年度より長崎県五島市で、我が国初となる商用スケール(2MW)の浮体式洋上風力発電機1基を設置・運転する実証事業を実施し、平成25年10月より運転を開始しました(写真3-2-3)。今後約2年間かけて発電効率や環境への影響を検証していき、平成27年度以降早期の実用化を目指しています。また経済産業省では、平成23年度より福島県沖で、本格的な事業化を目指した世界初となる浮体式洋上風力の実証研究事業を実施し、技術的な確立を行うとともに、安全性・信頼性・経済性の評価を進めています。来年度以降、世界最大の浮体式洋上風力発電設備(出力7MW級)2基の設置や評価も進めることとしています。

写真3-2-3 五島市洋上風力発電実証事業の開所式の様子

 風力発電はCO2排出削減だけでなく、経済への波及効果も期待されています。発電に使用される大型風車は、精密加工が必要な歯車や軸受など、約1万点の部品から構成されており、我が国の製造業を中心とした雇用を拡大させる可能性を有します。環境省の推計でも、「風力発電装置」の平成24年の市場規模は291億円ですが、経済波及効果は637億円となっており、規模に比して大きな波及効果を有しています。世界の風力発電の市場規模は、平成22年時点で10兆円と推定されており、今後世界的な風力発電の普及が見込まれる中で、大型軸受けなど我が国が高いシェアを誇る部品や、洋上風力発電技術などを世界に展開していくことが期待されます。

 風力発電などの再生可能エネルギー技術を普及させるには、事業化が不可欠です。しかし、再生可能エネルギー産業の多くは装置産業であり、風力発電は総事業費が数億から数十億円に上ることから、多額の初期投資資金をいかに調達するかが重要となります。例えば、株式会社自然エネルギー市民ファンドは、全国の市民から、これまで11基の風力発電所の建設資金として、20億円以上の市民出資を調達しました。平成26年には、風力発電所のみならず大規模太陽光発電所に対しても市民出資による資金調達を実施し、地元金融機関等によるプロジェクトファイナンスも活用する予定です。

環境負荷の少ない新素材

 環境負荷の少ない次世代型の新素材として、「人工クモの糸」と「セルロース・ナノファイバー(以下「CNF」という。)」という2つの革新的な素材について紹介します。

 鋼鉄にも勝る強度とナイロンを上回る伸縮性を兼ね備え、既存繊維中で最高の強度を誇る「クモの糸」は、タンパク質を原料とし、石油由来の原料を含まない低炭素な素材として注目され、世界的に人工的な量産化に向けた研究開発が進められてきました。一方で、従来の技術では生産コストと安全性の面で課題を抱えており、量産化は困難とも言われていました。

 しかし、慶應義塾大学先端生命科学研究所において研究開発された「人工クモの糸」技術の実用化に向けて、山形県鶴岡市に設立されたベンチャー企業「スパイバー株式会社」が、平成25年に世界で初めて量産化技術の開発に成功しました。「QMONOS」と名付けられたこの「人工クモの糸」は、将来的には航空機や自動車の複合材料や、人工血管・縫合糸、防弾チョッキなど、さまざまな分野での利用が期待されています。

人工のクモ糸「QMONOS」

 CNFは、植物繊維をナノサイズまで微細化することで得られます。原料は木材に限らず、稲わらやサトウキビの搾りカスからも得られ、環境負荷が少なく持続可能な素材であるとともに、鋼鉄に比べて5分の1の軽さと、5倍以上の強度を有するという優れた特性を兼ね備えています。

CNF(透明な紙)により折りたたみ可能な有機薄膜太陽電池

 CNFでは透明な紙の製造が成功しており、今後は薄型太陽電池の被膜のほか、軽量化した自動車車体、リサイクル可能な建築材料など、さまざまな分野での活用が期待されています。

原料からセルロース・ナノファイバーが得られるまで
(3)環境産業・環境技術の国際展開

 ここまでは、低炭素分野を例に環境技術の開発・普及に向けた取組と、今後普及が期待される具体的な低炭素技術について紹介してきました。一方世界に目を向けると、新興国や途上国を中心に、経済成長や工業化に伴う温室効果ガス排出量の増加のほかに、廃棄物の増加、水質汚濁や大気汚染などの環境汚染が進んでいます。こうした国々において、今後環境技術に対する需要の拡大が予想され、我が国の強みである優れた環境技術による国際貢献の機会がますます増大していくことが考えられます。さらに、我が国の環境技術を途上国に展開することは、その国におけるグリーン経済の実現にとって重要であるのみならず、我が国の経済活性化にとっても有益であり、環境技術の国際展開を積極的に進めていく重要性は高いといえます。

 他方、我が国の環境技術の水準は非常に高いものの、途上国においては導入が進みにくいのが実態です。原因としては、高価格、環境規制など法整備の不足、環境規制遵守の不徹底などが挙げられており、我が国の優れた環境技術の導入を促すには、価格の低下や現地のニーズを踏まえた製品改良だけでなく、途上国内における環境関連制度の整備や、適切な執行に向けた政策担当者の育成が必要となります。例えば、我が国は今後成長が期待される中国、インドネシア、ベトナムに対して、「環境対策・測定技術」、「環境保全の規制体系」、「人材育成」などをパッケージにして普及・展開することにより、アジア諸国における環境の改善や環境管理能力の強化に貢献するとともに、我が国の優れた環境対策技術などのアジア諸国への展開を促しています。

 こうした重要性を踏まえて、ここでは環境技術の国際展開について、我が国の取組を中心に紹介していきます。

ア 低炭素技術の国際展開に向けた我が国の取組

 地球温暖化などの地球規模の環境問題は、我が国一国が取り組んでも解決できず、世界各国とともに取り組んでいかなければならないという特徴を有しています。特に中国やインドなどの新興国や途上国による温室効果ガス排出量の増加は著しく、世界の温室効果ガス排出量に占める途上国の割合は年々高くなっていくことが予測されています。したがって、地球温暖化問題に歯止めをかけるには、先進国における取組もさることながら、新興国や途上国における低炭素化の取組を促していくことが重要です。しかし、貧困や飢餓などの課題を抱える途上国や、経済成長期にある新興国においては、環境問題に対して実効ある対策を講じることは容易ではありません。

 そこで、我が国の優れた低炭素技術を活かし、途上国が先進国の轍を踏まず、一足飛びに最先端の低炭素社会へ移行できるよう支援することによって、途上国におけるグリーン経済を実現していくことが重要となります。ここでは、そのための制度(二国間オフセット・クレジット制度。以下「JCM」という。)やノウハウ(制度整備支援)、ルール(国際標準)など、低炭素技術をパッケージで国際展開していく取組を紹介します。

(ア)二国間オフセット・クレジット制度(JCM)の構築と展開

 我が国は、低炭素技術等を途上国に普及させて、実現した温室効果ガス排出削減への我が国の貢献を適切に評価し、我が国の削減目標の達成に活用するJCMの構築を推進しています。JCMの展開を通じて、途上国における優れた低炭素技術・製品・システム・サービス及びインフラなどの普及や緩和活動の実施を加速し、途上国の持続可能な開発に貢献するとともに、世界全体の温室効果ガス削減に貢献することが期待されています。

 JCMは途上国からの関心が高く、かつ我が国による積極的な働きかけにより、これまでにモンゴル、ベトナム、インドネシアなど10か国の国々と、JCMを開始するための二国間文書に署名しています。今後は、二国間文書の署名国を増やしていくとともに、我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成に向けて、JCMを活用したプロジェクトを推進していくことが求められます。環境省では、温室効果ガス排出削減プロジェクトの、初期投資の一部について資金支援をすることによって、JCMクレジットの獲得を行う事業を実施しており、温室効果ガス排出削減と環境技術の国際展開を推進しています(図3-2-12)。

図3-2-12 平成25年度JCM設備補助事業の概要

 また政府は、公的機関との連携を図りながら、JCMプロジェクトの形成を支援しています。具体的には、独立行政法人国際協力機構(JICA)やアジア開発銀行(ADB) と連携しつつ、排出削減を行うプロジェクトを支援するための基金を設置するとともに、株式会社国際協力銀行(JBIC)や独立行政法人日本貿易保険(NEXI)と連携したJCM特別金融スキームを創設しました。これらの支援を活用していくことで、JCMプロジェクトの資金調達や事業リスクの低減を促し、低炭素技術等の国際展開が一層進むことが期待されます。

(イ)途上国における低炭素技術の普及に係る制度整備支援

 冒頭で述べたとおり、我が国の優れた技術の国際展開を促進していくには、途上国における環境関連制度の整備を促していくことが重要です。例えば、我が国はベトナムに対して環境法の専門家を派遣して、ベトナム環境保護法の改正を支援しており、日本の知識や経験が反映されることが期待されています。

 また我が国は、国内で省エネ促進のための、「エネルギー管理士」などの資格制度や「省エネラベル」などの製品の性能を表示する方法の導入を東南アジアや中東などの途上国に対して支援することで、省エネに関する我が国のノウハウや、省エネ性能の高い日本製品の普及を促進しています。例えば、ベトナムで平成25年に導入された省エネラベル表示制度について、家電の性能を評価する政府の試験体制を整備していく必要があることから、我が国は専門家の派遣や研修生の受入を通じて、技術指導を行うなどの支援をしています。

 このように、環境配慮型製品・サービスへの支援だけでなく、途上国における制度整備などのソフト面もあわせて支援していくことが、我が国の優れた環境技術を途上国に普及させる上で重要といえます。

(ウ)低炭素技術における国際標準化の動き

 近年、環境関連技術における国際標準化の動きが活発となっています。国際標準化とは、製品の品質や性能、安全性などに関する国際的に共通な基準を定めることであり、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などにおいて国際標準の議論や承認が行われています。ISOにおいて議論されているCCSでは、我が国が特に先端技術を有している回収と貯留の作業部会で議長を務めており、我が国の技術規格が国際標準化として承認されるよう議論を主導しています。

 世界貿易機関(WTO)では、国内で強制規格などを導入する際に、原則として国際標準規格をその基礎として採用する義務が定められており、ISOなどで決められた国際標準が有利になる仕組みとなっています。その反面、国際標準でなければ、優れた技術であっても採用されず、国際展開の障害になるという問題が生じてしまいます。このため、環境技術の国際展開を進めていくには、技術等の規格の国際標準化にも対応していくことが必要です。

通商分野における環境の動き

 多角的貿易交渉であるWTOドーハ・ラウンド交渉が停滞する中、アジア太平洋経済協力(APEC)や地域貿易協定(以下「RTA」という。)などの有志国・地域間の枠組において、貿易と環境の調和が図られるようになっています。

 APECでは平成24年に、太陽光パネルや風力発電設備など54品目の環境物品について、平成27年末までに実行関税率を5%以下にすることに合意しました。こうした環境物品の貿易自由化は、世界の環境問題の改善に貢献するとともに、貿易の活性化による経済的効果も期待されます。例えば環境計測機器や焼却炉など、我が国が強みをもつ品目の輸出が増加することや、海外の優良な環境物品が安価に入手できるようになることで、国内の環境設備投資が一層促進されることなどのメリットが考えられます。

APECに参加している国・地域

 RTAでは、環境規定を設けているものが増えています。例えば、EU・シンガポールEPAでは、特定の環境技術への貿易や投資の障害をなくす条項に加えて、環境サービス(下水、廃棄物の収集・処理など)の自由化や、グリーン調達の促進も規定されています。そのほか、これまで環境技術に対して両国が課す技術規格の試験が二重になっていましたが、特定の環境技術については、相互の技術規格を受け入れることが合意されました。地球温暖化問題など、世界で取り組まなければならない環境問題については、環境技術の国際展開が重要となります。こうした環境技術の国際展開の障害を取り除く取組が、RTAの枠組みで行われたことは注目に値します。

イ 循環産業・技術の国際展開について

 我が国では、これまで廃棄物処理・リサイクルに関する時代の要請に応じて、循環産業に係る技術を向上させてきており、その結果として我が国の循環産業は、環境保全及び循環資源の利用において先進的な技術を有しています。こうした先進的な我が国の循環産業を国際展開することにより、世界規模で環境負荷の低減を実現するとともに、我が国の経済の活性化につなげる必要があります。

 とりわけアジア諸国では、我が国が経験したように、経済発展に伴う廃棄物発生量の増加が予想されるとともに、所得水準の向上により、公衆衛生や生活環境の向上に関する社会的な要請が高まっていくことも考えられます。このような状況下にある国では、廃棄物処理システムの近代化や高度化のニーズが高まる一方で、自国内に、関連する技術や経験、資金などが不足しているために、廃棄物の適正処理の実現が困難な場合が多いと考えられています。このため、各国におけるニーズや問題に対応する形で、我が国の循環産業が現地に進出することにより、現地の問題解決、ひいては地球全体の環境負荷の低減に貢献することができると考えられます。またこうした国際展開を通じ、我が国の経済活性化に裨益させていくことも重要です。

 国際展開を目指す循環産業とは「廃棄物の収集・運搬、中間処理、リサイクル、最終処分にかかわるサービスを提供する産業、及び関連する設備・装置などを製造する産業」を想定しており、我が国は同産業において高い技術と経験を有しています。

(ア)循環産業に関するアジア地域の市場規模

 現在、世界的な経済成長と人口増加に伴い、地球規模で廃棄物発生量が増大しており、特にアジア地域は世界の廃棄物発生量全体の約4割を占めています。廃棄物発生量は今後も増加することが見込まれ、2050年(平成62年)の世界全体の廃棄物発生量は、2010年(平成22年)の2倍以上となる見通しとなっています。すでに、中国やインドなど、近年急速に工業化が進んでいる国々においては、日本が高度経済成長期に経験したような公害問題や、廃棄物処理に関する問題が発生しています。国内経済の工業化がそれほど進んでいない途上国でも、河川や湖などへの生ごみの投棄が、環境汚染の原因となっています(写真3-2-4)。

写真3-2-4 途上国の不衛生な最終処分場とウェイストピッカー

 こうした廃棄物発生量の増大に伴い、アジア地域の廃棄物・リサイクル関連市場が拡大していくことが見込まれます。アジアの主要8か国(中国、インド、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ)における都市ごみの市場規模を環境省が推計したところ、現在(2009年(平成21年))の約2兆円から2020年(平成32年)には約3.5兆円となることが予測されました(図3-2-13)。また、産業廃棄物については、各国における統計データが不足しているため、日本の過去のデータに基づいて推計したところ、調査対象国全体の市場規模が、2009年(平成21年)の14兆円から2020年(平成32年)には17兆円に拡大するという推計結果が得られました(図3-2-14)。これは、日本市場の現状と比較して、都市ごみで約2倍、産業廃棄物で約9倍の市場となるものと考えられます。

図3-2-13 世界の廃棄物量推計

図3-2-14 アジアにおける都市ごみ市場規模推計

(イ)アジア地域における諸外国との競合状況

 都市ごみ処理事業については、欧米企業などが、中国の沿岸部の大都市を中心として、韓国、台湾、シンガポールへも進出しています。事業内容は、中間処理としての都市ごみの焼却処理によるごみ発電事業が多く、埋立処理、バイオマス系廃棄物のガス化技術などの分野でもアジア新興国などへの展開を進めています。これらの事業は、事業権譲渡方式やBOT(民間事業者が施設を建設運営し事業期間終了後に国や自治体に所有権を委譲する事業方式)などのPPP(官民パートナーシップ)による長期契約形態によるものが多くなっています。一方、我が国の循環産業はプラントメーカーなどを中心に、ごみ焼却処理装置や中継施設などのEPC(設計、調達、建設)ビジネスを展開しています。1980年代から2000年(平成12年)にかけて、韓国、台湾、シンガポールなどへ展開し、2005年(平成17年)以降は中国沿岸部の大都市への展開が進んでいます。欧米企業は、処理施設の整備と運営事業に関する長期契約による展開であり、我が国の循環産業が展開している処理装置のEPCビジネスとは違いがあるものの、展開地域が重なることから今後とも競争は激しくなると考えられます。

 産業廃棄物処理分野でも、欧米企業などが、中国沿岸部の大都市を中心に、有害廃棄物処理事業分野に進出しています。多くの国では有害廃棄物の取扱について新規の事業許可を得る必要がありますが、欧米企業の中には、現地企業との合弁や買収により許可取得に係る手続コストの低減や廃棄物の安定的な回収を図っているところもあります。

(ウ)我が国の循環産業の特徴と課題

 我が国の循環産業の特徴や機会を活かす視点からは、都市ごみ処理分野では、我が国の循環産業が環境性能の高い焼却技術を有していることに加え、焼却炉をはじめ処理装置製造・販売事業の国際展開の実績が豊富なことから、これらの能力・経験を活かしつつ、各国の地域社会における廃棄物管理について、総合的な解決策を提供する事業を展開していくことが考えられます。また、産業廃棄物処理分野においては、多様で高度な技術を有していることや、アジア諸国において製造業などの日系企業の進出が進んできたことから、日系企業との連携による産業廃棄物処理事業の展開が近道と考えられます。

 また、我が国の循環産業の国際展開における課題は、事業運営の国際展開の経験が乏しいこと、国際展開に伴うリスク管理や対応能力が不十分であることが中心であり、現地のニーズやリスクを的確に把握する必要があります。我が国の優れた循環技術を国際展開していくためには、当面行政の支援によって事業の国際展開成功事例を創出する取組を進めることが必要です。取組の柱としては、実現可能性調査を通じた先導的に国際展開を図る企業への支援、国際協力事業と循環産業の国際展開との連携、国際展開事業形成のための国内連携促進の支援があります。

(エ)循環産業の国際展開に向けた協力体制の構築

 我が国の政府として国際的に果たすべき役割としては、第一に、途上国における廃棄物・リサイクル制度・体制の整備を通じた貢献が考えられます。途上国では、これらの制度が不十分なために廃棄物処理が滞っている場合があり、まずは制度・体制の整備を支援していくことが必要です。我が国では、アジア大洋州3R推進フォーラムなどを通じた各国の知見の共有や、二国間協力の一環として、国家として3Rを推進するための戦略づくりの支援や政策対話の実施、途上国の行政機関担当者などを対象にした招聘事業などの実施により、相手国との信頼関係を構築するとともに、事業環境の整備を行っています。特に二国間協力については、現在までにアジア地域6か国への3R国家戦略の策定支援を行い、カンボジア、フィリピン、ベトナム、バングラデシュでは本戦略が策定され、そのほかの国においても策定への手続が進められています。

 また、特に都市ごみ処理分野では、我が国においては、地方公共団体が処理事業を担っており、都市ごみ処理事業に関するノウハウは地方公共団体に蓄積されています。我が国の地方公共団体は、廃棄物処理計画や施設整備計画などの計画策定、施設設計や発注方式、施設の運転管理、施設建設時の住民対話や合意形成、住民への啓発活動など、多岐にわたる経験・ノウハウを有しており、この経験・ノウハウは、我が国企業が国際展開する際の環境整備にも資するものです。現在でも、大阪市-ホーチミン市(ベトナム)間、北九州市-スラバヤ市(インドネシア)間、東京都-ヤンゴン市(ミャンマー)間などにおいて、積極的に都市間連携が進められており、回収・運搬を含む都市ごみ処理システムの構築や住民への環境教育などに関して支援が行われています。

(オ)今後の展望

 途上国における都市ごみを中心とした廃棄物管理は、まず行政がマスタープランなどの形で予算や利用技術などを含むプロジェクトの方向性を示し、関連する施設整備や事業運営は、民間事業者を活用しながら実施されています。我が国の循環産業の国際展開を成功させていくためには、行政が意思決定する段階から、我が国の優れた技術を導入することの妥当性をアピールしていくことが必要です。また、発注形態も多様化しており、民間事業者間の連携の重要性も増しています。こうした関係者がそれぞれの役割を担いつつ、連携しながら活動していくことが求められます。

ウ 水処理技術の国際展開

 世界では、今なお7億8,000万人以上が安全な水にアクセスできない状況にあるとともに、今後途上国を中心とした工業化や人口増加により、水質汚濁や水不足が深刻化すると予測されています。地球上の水の97.5%は海水であり、人類が生活用水として使用できる淡水は非常に限られている一方で、OECDの調査によると世界の水需要は2050年(平成62年)までに、さらに55%増加すると予測されています。我が国は優れた水処理技術を有しており、こうした強みを活かして、世界の水環境改善に貢献していくことが求められています。さらに、我が国の優れた水処理技術を、高成長が見込まれる途上国の水ビジネス市場へ展開させていくことで、我が国のグリーン経済の実現につなげていくことも重要です。

 こうした観点から、我が国では「アジア水環境改善モデル事業」を通じて、我が国の優れた水処理技術による貢献を推進しています。例えばインドネシア国ジャカルタ特別州では、人口増加により下水処理場への需要が高まっているにもかかわらず、急激な都市化や交通渋滞などにより、大規模下水処理場の設置や、下水管の敷設が困難となっています。このため、同地では「現地型オンサイト処理施設」が近年普及していますが、放流される水質が悪く、地下水の汚染源となっています。こうした問題を解決するため、我が国が優れた技術を有する浄化槽について実証実験を支援し、現地のニーズに応えた浄化槽の開発を進めています。今後増加する商業施設や病院、アパートなどにおいて採用されることが期待されるとともに、同様の問題を抱えるアジア各国にも、我が国の分散処理機器の普及が進むことが望まれます。

 また、我が国の強みとなる水処理技術をインフラとして国際展開していくことも重要です。例えば、我が国は水処理膜技術について高い競争力を有しており、特に塩分を除去する海水淡水化用の逆浸透膜(以下「RO膜」という。)については、日本企業が世界市場の約7割を占めています。RO膜は、従来の方法(海水を蒸発させて真水を得る蒸発法)に比べて省エネルギーで海水を淡水化することが可能であり、環境負荷を低減しながら、世界の水不足の解決に貢献することが可能となります。こうした個別技術の2025年(平成37年)の市場規模は1兆円と推計されていますが、水ビジネス全体の市場は100兆円に上り、その大半を占める事業運営や管理業務とパッケージで展開していくことが重要となります。我が国は平成25年に「インフラ輸出戦略」を策定し、水処理技術の国際展開についても推進していくこととしています。

横浜市水道局の水インフラシステム輸出の取組

 水のインフラ整備が進む途上国では、施設建設後の維持管理や事業運営までパッケージとなった上下水道事業などに対して高いニーズがあります。他方、我が国の民間企業は膜処理技術などの優れた要素技術を有しているものの、世界トップレベルの漏水率の低さや高い料金徴収率を実現させている水道事業は長年地方公共団体が担当してきたため、総合的な施設の維持管理や運営のノウハウの蓄積が限られており、国際競争入札において事業経験などの資格要件を満たせないという問題が生じています。このため、我が国の水インフラシステムを世界に展開していくためには、維持管理や事業運営のノウハウをもつ地方公共団体と、優れた技術を有する民間企業による官民連携や、民間企業へのノウハウの移転が不可欠です。

 横浜市水道局は、横浜市水道事業の将来に向けた経営基盤強化のため、平成22年に「横浜ウォーター株式会社」(以下「横浜ウォーター」という。)を設立しました。横浜ウォーターは、横浜市水道局の技術力・ノウハウなどを活用し、優れた技術をもつ横浜水ビジネス協議会会員企業(約150社)と連携してビジネス展開を進めています。海外展開も積極的に行っており、これまでに東南・南アジアや中東、アフリカにおいてコンサルティングの実施や研修員の受入など、40件以上の事業を実施してきました。

 平成25年には、会員企業と連携し、JICAが実施するベトナム「ダナン市ホアリエン上水道整備事業準備調査(PPPインフラ事業)」を受託しました。これに先立ち、横浜市水道局は、平成22年からJICAの人材開発プロジェクトを通じてダナン市水道公社との信頼関係を構築してきており、平成25年4月には、横浜のもつ資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)の一環として、ダナン市と「持続可能な都市発展に向けた技術協力に関する覚書」を締結しました。水分野は、安全が重視される分野であり、こうした信頼関係の構築は事業を成功させる上で重要な要素となります。

 また、優れた技術をもつ中小企業と連携し、途上国のニーズに合った海外展開も実施しています。配水管の80%以上で樹脂管が使用されているインドネシア国北スマトラ州メダン市では、株式会社グッドマンが開発した、樹脂管に特化した漏水探索器を用いて、効率的な漏水対策の有効性を実証・普及する事業を行っています。途上国のニーズに合致する中小企業の技術を発掘し、海外展開を実現させていることは注目に値します。

エ 水銀に関する水俣条約の採択と我が国の経験・技術を活かした国際貢献

(ア)水俣病の発生と我が国の水銀対策

 水俣病は、熊本県水俣湾周辺において昭和31年5月に、新潟県阿賀野川流域において昭和40年5月に公式に確認されたものであり、四肢末梢の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、中枢性聴力障害を主要症状とする中枢神経系疾患です。それぞれチッソ株式会社、昭和電工株式会社の工場から排出されたメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、それを経口摂取することによって起こった中毒性中枢神経系疾患であることが昭和43年に政府の統一見解として発表されました。

 水俣病による甚大な健康被害を経験した我が国では、行政機関、産業界、市民が、それぞれの役割を担いながら、一体となって水銀対策に取り組んできました。この結果、我が国における水銀の使用量は、1964年(昭和39年)のピーク時の0.5%まで減少するとともに、排出量も大きく減少し、水銀管理に関しては世界でも優良国となりました。

(イ)我が国の水銀利用と水銀対策技術

 我が国の水銀需要は1964年(昭和39年)がピークで年間約2,500トンありましたが、水銀以外の物質への代替や水銀を使用しない製造プロセス導入が進められた結果、急速に減少し、近年の水銀利用量は年間約10トン程度となっています。現在、我が国では鉱山からの水銀採掘は行っておらず、輸入及び国内で回収・リサイクルされた水銀を使用しています。主な用途は照明(蛍光灯など)、計測・制御器(体温計、血圧計など)、無機薬品(顔料、試薬など)、電池ですが、水銀を使わない体温計や血圧計が普及するとともに、照明器具も蛍光灯から水銀を使用しない発光ダイオード(LED)などへの転換が進んでいます。乾電池についても、1995年(平成7年)に水銀電池の生産が中止され、現在は一部のボタン型電池に微量の水銀が使用されているのみです。

 我が国では、大気汚染防止法、ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)により、NOx、SOxやダイオキシン類について大気への排出基準が設定されており、これらの物質に対する排出抑制対策が、排気ガス中の水銀濃度の低下に役立っています。

 例えば、一般廃棄物処理施設において、1991年(平成3年)時点での排ガスの水銀低減効率は34.5%でしたが、2003年(平成15年)には、74.9%となりました。これは、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく規制により、活性炭吹き込み及びバグフィルタによる排ガス処理に転換が進んだことから、水銀低減効率が高まったものと考えられています。

 また、石炭火力発電所においても、大気汚染防止対策として、主にばいじんの除去のための電気集じん機、あるいはバグフィルタ、SOx除去のための湿式脱硫装置などが設置されていて、排ガス中に含まれる水銀についてもあわせて除去されています。

石炭火力発電における水銀除去技術

 三菱重工業株式会社では、2005年(平成17年)より石炭火力発電所から排出される排気ガスから水銀を取り除く技術の開発に取り組んでいます。すでに国外においては、活性炭を用いた水銀の除去技術が普及していましたが、同社は塩化アンモニウムを使用した技術を開発しました。この技術により、石炭の燃焼によって排出された気体から、水銀物質を90%以上除去することが可能となります。また、既存の設備を活用して設置されるため、導入コストの大幅削減が可能です。

 同社では、水俣条約の発効後に、途上国を中心とした署名国において国内の水銀規制の厳格化が図られることを見据え、当該技術の普及に取り組んでいます。

塩化アンモニウムを用いた水銀除去技術

(ウ)地球規模で進む水銀汚染と国際社会に対する我が国の貢献

 a 世界の水銀利用・排出の状況

 水銀は主に4つの分野の用途に使われています(図3-2-15)。小規模な金の採掘(金鉱石に水銀を加えて鉱石中の金を採掘)、塩化ビニルモノマー製造などの工業プロセス、歯科用アマルガム(虫歯の充填剤)、そして電池、計測機器、照明ランプなどの製品への利用です。UNEPの報告によれば、世界での水銀の利用量は年間約3,800トン(2005年(平成17年)時点)となっています。金の採掘と工業用で半分以上が使われていますが、電池、計測機器、照明ランプなどの水銀含有製品への使用も少なくありません。

図3-2-15 世界の水銀需要量(2005年)

 また、世界における大気への水銀の排出量は、全体で約2,000トンです(2010年(平成22年)時点)。その内訳は、小規模金採掘、発電・熱供給での石炭などの燃焼、非鉄金属の生産、セメント製造工程からの排出が大半を占めます(図3-2-16)。なかでも一番多いのは小規模金採掘(ASGM)です。金鉱石に水銀を加えて鉱石中の金を水銀に溶かし、加熱して水銀だけを蒸発させて金を取り出す方法がとられ、使用された水銀は環境中に排出されます。

図3-2-16 排出源ごとの大気排出量(2010年)

 地域別では、アジアからの排出が世界の約半分を占め、ついでアフリカ、中南米となっています(図3-2-17)。最大の排出国は中国で、世界の約3割の排出量を占めると言われています。

図3-2-17 世界各地域ごとの大気排出量(2010年)

図3-2-18 地球上の水銀循環システム

 b 水銀に関する水俣条約の採択

 2001年(平成13年)にUNEPが世界各国の水銀汚染に関する調査などの活動を開始し、2010年(平成22年)から水銀の規制に関する国際条約の制定に向けた政府間交渉が開始されました。

 そして、2013年(平成25年)1月にスイスのジュネーブで開催された政府間交渉委員会第5回会合(INC5)において、条約条文案が合意されました。また、我が国の提案を踏まえ、条約名を「水銀に関する水俣条約」とすることが全会一致で決定されました。

 同年10月7日から11日まで熊本県熊本市・水俣市で開催された水銀に関する水俣条約外交会議及びその準備会合には、60か国以上の閣僚級を含む約140か国・地域の政府関係者のほか、国際機関、NGO等、1,000人以上が出席しました。我が国は、同会議の開会記念式典において、公害・環境対策に日本がもつ技術と経験をこれまで以上に世界に提供するため、今後3年間、途上国の環境汚染対策として大気汚染対策、水質汚濁対策、廃棄物分野の3分野に対し総額20億ドルの支援を実施することを発表するとともに、条約の早期発効に向けた途上国支援や、水俣から水銀技術や環境再生について世界への発信を行う「MOYAIイニシアティブ」を表明しました(図3-2-19)。同会議では水俣条約が全会一致で採択され、92か国(含むEU)が条約への署名を行いました。

図3-2-19 MOYAI イニシアティブ

 水俣条約は、水銀及び水銀化合物の人為的排出から人の健康及び環境を保護することを目的とし、産出、使用、廃棄の各段階にわたって水銀の環境中への排出を削減する内容となっています。また、その前文には、水俣病を重要な教訓として、水銀による汚染から生ずる同様の公害の再発を防止することが記載されています。

 本条約によって、先進国と途上国が協力して水銀対策に取り組むことにより、水銀の人為的排出の規制をはじめとする地球的規模での水銀汚染の防止を目指すことができます。条約は50か国の締結の90日後に発効することとされており、できるだけ早く水俣条約に基づく水銀対策が世界的に進められることが望まれます。

 c 我が国の技術的な国際協力

 2005年(平成17年)のUNEP管理理事会の決議を受け、各国政府、NGO、企業等による自主的な水銀放出削減を推進する取り組みとしてUNEP水銀パートナーシップが開始されています。現在、塩素アルカリ分野における水銀削減や、石炭燃焼における水銀管理、廃棄物管理などの8分野でパイロットプロジェクト、意識啓発、ガイダンス作成などの活動が実施されています。我が国は、このうち廃棄物分野について主導しており、途上国等における水銀廃棄物の処理の際に参考となるよう、水銀廃棄物管理に関する優良事例をとりまとめた文書の策定等を進めています。

 我が国では、国立水俣病総合研究センター(熊本県水俣市)が中心となり、メチル水銀の分析能力やモニタリング能力の向上のための人材育成を途上国向けに行っています。

 さらに、水俣条約の採択を受け、水俣病の経験で培った環境技術や関連システムを活用した我が国ならではの支援として、水銀汚染防止に特化した人材育成支援を新たに実施します。例えば、日本の技術を必要とする途上国に対して研修を行い、水銀管理技術・手法の国際展開を図っていきます。

 今後、水俣条約ができるだけ早期に発効し、同条約のもと世界の水銀対策が進められることが望まれます。我が国は、上述のとおり水銀管理の取組を世界に先駆けて進めてきており、我が国の有する技術や経験を活かし、途上国等における水銀対策を支援していくことが重要です。

オ 大気汚染防止技術の国際展開に向けた我が国の取組

(ア)我が国における大気汚染問題

 我が国では、高度経済成長に伴って、全国各地で工場から排出されるばい煙や、急速な都市化や交通量の増加に伴う排気ガスの増加など大気汚染問題が深刻化しました。

 昭和34年、三重県四日市市に我が国初の石油コンビナートの建設が始まりました。ここから発生したばい煙には硫黄酸化物などが多く含まれていたことにより、周辺住民にぜんそく症状を訴える患者が増加しました。これが四大公害病の一つである「四日市ぜんそく」です。

 四日市ぜんそくの原因の一つとなった硫黄酸化物の排出削減に向けて、我が国は燃料となる原油の低硫黄化と重油の脱硫を推進するとともに、各企業が排煙脱硫装置の開発に注力した結果、大気汚染は段階的に解消していきました。

写真3-2-5 四日市市の大気汚染の改善(昔と現在の写真を並列)

 産業公害を原因とした大気汚染問題が段階的に改善される一方で、昭和50年代半ばから自動車を中心とした交通量の増加などによって、都市部を中心に大気汚染問題が深刻化しました。特に窒素酸化物による大気汚染については、自動車排出ガスに対する排出基準の段階的な強化や、大気汚染防止法に基づく規制対象の拡大にもかかわらず、二酸化窒素の環境基準は昭和60年度の達成目標年次を迎えても達成されず、改善が遅れていました。その後、平成4年に自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)が制定され、東京や大阪の周辺地域からなる特定地域において、排出基準に適合しない車両の使用を規制するなどの対策が講じられ、さらにその後も段階的な規制強化が図られました。

 我が国の産業界はこれらの排出基準の厳格化に応えるため、自動車からの排気ガスの低減技術や各種燃料の硫黄分濃度の低減に関する技術、工場・事業所からの排出における脱硫・脱硝・集じんに関する技術など、さまざまな分野において技術革新を急速に進めました。

(イ)国外で深刻化する大気汚染問題とその改善に向けた我が国の技術的貢献

 我が国の大気汚染は、段階的に改善してきましたが、昨今、中国の大都市圏などを中心にPM2.5等による深刻な大気汚染が発生しています。ここでは中国における大気汚染の現状と、我が国の大気汚染浄化技術の国際展開に係る施策について紹介します。

 a 中国における深刻な大気汚染の状況

 2013年(平成25年)以降、北京市内の多くの観測地点でPM2.5の濃度が急上昇し、工場の生産停止、建設工事の中止、交通事故の多発、高速道路・空港の閉鎖、呼吸器系疾患の患者の増加などの事態が生じました。このような状況は以前から確認されていましたが、2013年(平成25年)1月の事例は深刻かつ広範囲に及んだこともあり、社会問題化しました。中国の環境保護省は、PM2.5などの大気汚染物質を測定した結果を公表していますが、日本の環境基準(日平均35μg/m3)の数倍に相当する高い濃度を観測している都市もありました。その原因として、経済成長に伴う交通量の急速な増加と使用される燃料の品質が十分ではなく、また規制基準が緩いことや、製鉄所や発電所、家庭用の暖房の多くに石炭を使用していることなどが挙げられています。

 b 大気汚染の改善に向けた各国間の対話と我が国の技術貢献

 2013年(平成25年)5月に福岡県北九州市で開催された「第15回日中韓三か国環境大臣会合」では、中国で深刻化する大気汚染問題が議題となりました。その結果、浮遊粒子状物質などの大気汚染物質により引き起こされる大気汚染問題に関する科学的知見の充実に努めることが決議されるとともに、3か国間の協力体制を強化していくことの重要性が再確認されました。

 また、2014年(平成26年)3月には、「日中韓政策対話」を北京市で開催しました。同会議では、東アジアにおける酸性雨による環境への悪影響を防止するための政策決定に有益な情報を提供し、参加国間での協力を推進することを目的に設立された「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)」や、東アジアの越境大気汚染問題に対してモニタリングなどの分野で共同研究を行い、黄砂や大気汚染物質の長距離輸送の実態を把握することを目的として設立された「北東アジア長距離越境大気汚染(LTP)プロジェクト」などの取組に関しても、その重要性が再認識されました。

 また、アジア各国において大気汚染が深刻化する中、対策の実施に向けた技術や資金が不足している状況にあります。他方、温室効果ガスに取り組むことが国際的に求められている状況も踏まえて、我が国では、大気汚染問題及び温室効果ガス削減の双方に効果を有する事業として、「アジア地域におけるコベネフィット型環境汚染対策推進事業」を今後展開していく予定です。同事業では、我が国で培った科学的知見のUNEP等国際機関などへの報告や、環境技術を活用したコベネフィット技術の実証試験などの取組を行っていきます(図3-2-20)。これにより、アジア地域における環境汚染対策と低炭素化が同時に実現されるとともに、我が国の環境技術が途上国を中心に展開されることが期待されます。

図3-2-20 アジア地域におけるコベネフィット型環境汚染対策推進事業

(ウ)大気汚染防止に関する我が国の技術

 大気汚染防止技術は、各種の大気汚染物質の処理技術と排出ガスや大気の分析・測定・監視技術などの二つに大別されます。ここでは、我が国において世界をリードするばい煙の集じん技術を紹介します。

 我が国では大気汚染防止法の改正に伴い、窒素酸化物の排出削減は進みましたが、その背景にはばいじん処理技術の開発が貢献していました。集じんとは、ばい煙などの排気ガス中に含まれる環境汚染物質を分離・捕集する操作です。集じん技術は、我が国において戦後大きく発展してきた技術であり、現在では微小な粒子まで分離・除去することが可能となりました。現在では、従来までの遠心力を利用して粉じん自体を直接収集するサイクロン式集じん装置によるものだけでなく、ばい煙に静電気を放電して電極に粉じんを吸着する電気集じん式装置や、織布や不織布を用いてばい煙中のばいじんをろ過・捕集するバグフィルタ式集じん装置が開発されています。

 我が国は大気汚染問題の経験を踏まえて、発電所やごみ焼却場に最新の集じん機が設置されていますが、今後これらの技術の国際展開が進むことが期待されています。

大気汚染物質の分析技術

 我が国における大気汚染物質の除去技術は、戦後の公害問題の経験を踏まえて急速に進化しました。近年では、中国で深刻化している大気汚染の状況などを踏まえ、大気汚染物質の分析や測定に関する技術についても技術革新が生まれています。

 PM2.5の主成分は炭素成分、イオン成分(硫酸塩・硝酸塩等)などですが、従来これらの濃度成分の定量には、1日程度捕集したフィルターを分析していたため、季節変動などは把握可能でしたが、発生源・生成過程の解明に必要なリアルタイムでの成分濃度の変動を把握することが困難でした。しかし、平成25年、科学技術振興機構の先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として東京大学・富士電機を中心に、大気汚染の原因となる粒子状物質の粒径分布、化学組成、混合状態、形状などをリアルタイムで計測可能な分析機器の開発が行われました。

エアロゾルの質量測定に関する概念図

分析機器の構造図

 今回開発された分析装置では、導入した試料空気にレーザー光を照射して、人為起源もしくは自然由来かを大まかに判別することが可能であることに加え、各成分の質量分析により化学的な組成も定量することが可能になりました。さらに、これらの分析結果に風向や風速などの気象データや数値シミュレーションを組み合わることで、排出源となった地域を推定することも可能となります。今後、これらの技術によって、より精度の高いPM2.5の拡散予測システムの構築や健康影響の適切な評価につながることが期待されています。