平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震と津波に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の重大事故の教訓を踏まえ、原子力利用の「推進」と「規制」を分離し、規制事務の一元化を図るとともに、専門的な知見に基づき中立公平な立場から、独立して原子力安全規制に関する業務を担う行政機関として、平成24年9月19日、環境省の外局として原子力規制委員会が発足しました。原子力規制委員会は、内閣総理大臣が任命した委員長及び4人の委員から構成され(25年2月15日に国会同意)、その事務局機能は原子力規制庁が担います。「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」を組織の使命として掲げ、5つの活動原則とともに、原子力規制委員会の組織理念として決定しています。
平成25年3月現在の定員は473名(図6-9-1)、平成24年度予算(補正後)は37,755百万円です(なお、内閣府において、別途、原子力防災関連予算21,842百万円(補正後)を計上。)。24年9月19日から25年3月末日までに、原子力規制委員会を35回開催し、必要な審議、評価、決定等を行いました。
東京電力福島第一原子力発電所の安全確保及び同1~4号機の廃炉に向けて、平成24年11月7日に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)に定める「特定原子力施設」として指定し、「措置を講ずべき事項」を提示しました。これを受け24年12月7日に東京電力から提出された実施計画について、原子力規制委員会委員、外部有識者、原子力規制庁職員等から成る「特定原子力施設監視・評価検討」において認可に向けて検討を進めています。また、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)に基づき東京電力から原子力規制委員会に報告があったもののうち、3号機使用済燃料プール内への鉄骨落下、停電による使用済燃料プール代替冷却システム等の一部設備の停止等、施設の安定的な運転に影響を与える可能性のある事象や放射性物質を含む水の系外への漏えいなどの事象については、原子力規制委員会が再発防止策等の妥当性について確認しました。
平成24年6月に原子炉等規制法が改正され、重大事故(シビアアクシデント)対策の強化や、最新の技術的知見を取り入れ、既設の施設にも新規制基準への適合を義務づける制度(バックフィット制度)の導入等を行うこととなりました。このうち、改正法に基づき25年7月までに施行する必要のある発電用軽水型原子炉に係る新規制基準等の策定に関しては、原子力規制委員会委員、外部有識者、原子力規制庁職員等から成る検討チームを3つ設け、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓や国際原子力機関(IAEA)等の国際基準を踏まえ、検討を行いました。25年2月には、重大事故対策を取り入れ、地震・津波対策等を強化した新規制基準の骨子案を取りまとめ、パブリックコメントを実施しました。
また、核燃料施設等についても、平成25年12月までの施行に向けて、新規制基準等の策定作業を開始しました。
旧原子力安全・保安院の指示により追加調査を行っている原子力発電所の敷地内の破砕帯については、平成24年10月以降、関西電力大飯発電所、日本原子力発電敦賀発電所及び東北電力東通原子力発電所において、順次現地確認を行い、活断層であるかどうかの評価のための検討を行いました。これらの現地調査・評価は、担当委員及び関係学会からの推薦を受けた者から成る有識者会合を発電所ごとに設けて実施しました。
平成25年3月現在の原子力発電所の運転状況等は図6-9-2のとおりです。
原子力施設の安全を確保するために、電気事業法(昭和39年法律第170号)に基づき、18施設(実用発電用原子炉全17施設、研究開発段階炉[建設中]全1施設)で定期検査を実施しており、また、原子炉等規制法に基づき、5施設(加工施設2施設、研究開発段階炉[廃止措置中]1施設、再処理施設1施設、廃棄物管理施設1施設)で施設定期検査を実施しました。また、同法に基づき、保安規定の遵守状況を確認する検査(保安検査)を、62施設について行いました(加工施設全6施設、試験研究用原子炉全6施設、試験研究用原子炉[廃止措置中]全8施設、実用発電用原子炉全17施設、実用発電用原子炉[廃止措置中]全2施設、研究開発段階炉[建設中]全1施設、研究開発段階炉[廃止措置中]全1施設、再処理施設全2施設、廃棄物管理施設全2施設、廃棄物埋設施設全2施設、核燃料物質使用施設全15施設)。
また、原子炉等規制法に基づき報告のあった事故・故障等は7件(実用発電用原子炉4件、試験研究炉及び使用施設3件)でした。
東京電力福島第一原子力発電所事故の経験と教訓を踏まえた新たな原子力災害対策を構築するため、平成24年9月19日の原子力規制委員会の設置に合わせ、原子力基本法(昭和30年法律第186号)、原子力災害対策特別措置法等の関連法令が改正され、政府の新たな原子力災害対策の枠組みが構築されました(図6-9-3)。
原子力災害対策に係る施策は、政府全体が一体的に取り組み、これを推進することが必要です。このため、政府全体の原子力防災対策を推進するための機関として、内閣に「原子力防災会議」が設置され、原子力規制委員会委員長が会議の副議長に位置づけられました。また、大量の放射性物質の放出等、原子力緊急事態が発生した場合に設置される「原子力災害対策本部」においては、原子力規制委員会委員長がその副本部長に位置づけられ、原子力施設の安全に係る技術的・専門的事項の判断については、原子力規制委員会が一義的に担当することとなりました。
また、このような新たな原子力災害対策の体制整備に伴い、平成24年9月6日、我が国の防災に関する方針をまとめた防災基本計画の原子力災害対策編が改正されました。さらに、原子力災害発生時の対応について、原子力規制委員会を含めた関係省庁の具体的な活動要領を定めるため、10月19日に開催された第1回原子力防災会議において、原子力災害対策マニュアルが了承されました。同マニュアルにおいては、政府としての具体的な要員配置や対応手順等が定められ、原子力規制委員会は、総理大臣官邸(以下「官邸」という。)に設置される原子力災害対策本部の事務局の中枢となり、情報収集・情報発信、事業者の事故収束活動の監督、避難等の周辺住民に対する防護措置に係る専門的判断等を行うこととされました。
原子力災害対策特別措置法では、原子力規制委員会は、事業者、国、地方自治体等による原子力災害対策の円滑な実施を確保するため、原子力災害対策指針を定めることとされています。このため、原子力規制委員会において、発足後速やかに同指針の議論を開始し、平成24年10月31日に同指針を策定しました。
その後も、緊急時における防護措置の判断基準やそれに応じた防護措置、スクリーニングや安定ヨウ素剤の予防服用等の被ばく医療等について、内容の充実を図るべく、原子力規制委員会委員、外部有識者、原子力規制庁職員等から成る検討チームを設け、検討を行いました。それを受けて、原子力規制委員会において、平成25年1月30日には、原子力災害対策指針の改定原案を取りまとめ、パブリックコメントを行った上で、2月27日、同指針を改定しました。同指針を踏まえた、関係地方公共団体における地域防災計画の策定の支援を進め、また、防災資機材やオフサイトセンターの整備支援に必要な予算措置を計上して、地域における原子力災害対策の体制整備を図りました。
平成24年9月19日の平成24年度第1回原子力規制委員会において、警戒事象(原子力発電所立地市町村における震度5弱以上の地震の発生や立地都道府県における大津波警報の発令等)が発生した際の原子力規制委員会の対応について定めた、「原子力規制委員会初動対応マニュアル」を決定しました。また、緊急時における情報連絡を円滑かつ確実なものとするため、国、地方公共団体、事業者における各拠点が接続されたテレビ会議システム、衛星回線を活用した通信システムなどを整備しました。
平成24年10月25日に宮城県沖で地震が発生(石巻市で震度5弱を観測)した際には、上記マニュアルに沿って原子力規制委員会委員長以下、委員及び原子力規制庁幹部がERC(原子力規制庁緊急時対応センター)に参集し、原子力規制委員会原子力事故警戒本部を設置して緊急時対応を行いました。また、10月5日には、原子力規制委員会委員が、自衛隊及び警察の協力を得て、日本原燃株式会社・六ヶ所再処理施設への現地参加訓練を行ったほか、11月には原子力規制委員会委員及び原子力規制庁幹部等を対象とした参集訓練を実施しました。また、12月には課長級以下の原子力規制庁職員を対象とした通信機器の習熟訓練及び官邸の危機管理センターとの情報伝達訓練を実施しました。
また、事故の際に適切に環境モニタリングが実施できるよう、放射線モニタリング対策官事務所にモニタリングカーを配備するとともに、平成24年10月19日、原子力緊急事態における原子力規制委員会の応急対策に関して技術的事項の検討に関する支援を行う緊急事態応急対策委員を任命しました。
原子力規制委員会の発足に伴い、放射線モニタリングについては、同委員会がその司令塔機能を担うこととなりました。放射線モニタリング結果について、1週間ごとに解析し、1ヶ月ごとに解析結果をとりまとめ、評価・公表しました。
核物質防護(核セキュリティ)に関しては、平成24年9月19日から平成25年3月31日までに、45件の核物質防護規定の変更の認可を行ったほか、41件の核物質防護規定の遵守状況についての検査、29件の特定核燃料物質の運搬に関する取決めの締結に関する確認証の交付を行いました。また、平成25年3月4日、「核セキュリティに関する検討会」を立ち上げ、幅広い視点から、当面の諸課題に対応することとしました。
原子力規制委員会及び検討チーム等の会議の議事、議事録及び資料の原則公開、委員3人以上が参加する規制に関わる打合せの概要、被規制者との面談の概要等の原則公開、行政文書の積極的公開、報道機関に対する幅広く積極的な記者会見(定例は原子力規制委員会委員長/週1回、原子力規制庁報道官/週2回)等を行い、意思決定過程の透明性の確保に努めました。また、意思決定に関与する者の中立性を確保するため、原子力規制委員会委員の在任期間中の行動規範や外部有識者の選定に当たっての要件等を定めました。
また、実効ある規制事務を遂行するためには職員の資質向上を図ることが重要であり、原子力安全規制に関する専門研修等に加え、職員の使命感の向上を図るための研修、原子力工学の知識の維持・向上のための研修等を実施しました。
国際社会からの信頼確保や連携・協力も重要課題であり、平成24年10月に、原子力規制委員会委員が米国、英国及びフランスの原子力規制機関及びIAEAを訪問し、新設された原子力規制委員会の概要及び原子力規制の取組状況等について説明するとともに、今後の連携・協力のあり方等について意見交換を行いました。また、24年12月に日本政府とIAEAが共催した「原子力安全に関する福島閣僚会議」において、原子力規制委員会委員長が基調講演を行うとともに、同会議の開催期間中に、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、ロシア、韓国、ベトナム及びベラルーシの原子力規制機関とそれぞれ会談を行い、米国及びフランスとの間で原子力安全の協力に関する従来の二国間取極を引き続き有効なものとするための覚書に調印しました。また、米国、英国及びフランスの原子力規制機関のトップとしての豊富な経験をはじめ、国際的な幅広い活動歴を有する3名の有識者を国際アドバイザーに委嘱し、12月14日、東京において原子力安全に関する意見交換を行いました。
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