ア 研究開発の総合的推進
第4期科学技術基本計画(計画年度:平成23~27年度)では、科学技術政策と科学技術の成果を新たな価値創造に結びつけるイノベーション政策とを一体化した科学技術イノベーション政策を全面に押し出し、従来の「分野別推進戦略」から国が取り組むべき政策課題をあらかじめ設定する「課題解決型推進戦略」に転換しています。環境・エネルギー分野でのイノベーションを目指すグリーン・イノベーションでは、エネルギーの安定確保、気候変動問題への対応を喫緊の課題としています。
グリーン・イノベーションでは、先ず目指すべき社会の姿を「自然と共存し持続可能な環境・エネルギー先進国」とし、次にその実現に必要な政策課題を、クリーンエネルギー供給の安定確保、分散エネルギーシステムの拡充、エネルギー利用の革新、社会インフラのグリーン化、と設定しています。さらに、例えば政策課題「社会インフラのグリーン化」の解決のために最優先で進めるべき重点的取組としては「地域特性に応じた自然共生型のまちづくり」を設定するという手順で、個別施策の提示の前に全体設計をしています。
また、平成22年からの5年間で取り組むべき環境研究・技術開発の重点課題や、その効果的な推進方策を示した「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」(平成22年6月中央環境審議会答申)については、実施状況をフォローアップし、その着実な推進を図りました。
イ 環境省関連試験研究機関における研究の推進
(ア)独立行政法人国立環境研究所
独立行政法人国立環境研究所では、環境大臣が定めた第3期中期目標(平成23~27年度)と第3期中期計画に基づき、環境研究の中核的研究機関として、また、政策貢献型の研究機関としての役割を果たすため、環境研究の柱となる8の研究分野([1]地球環境研究分野、[2]資源循環・廃棄物研究分野、[3]環境リスク研究分野、[4]地域環境研究分野、[5]生物・生態系環境研究分野、[6]環境健康研究分野、[7]社会環境システム研究分野、[8]環境計測研究分野)を設定し、それらを担う研究センターにおいて、基礎研究から課題対応型研究まで一体的に研究を推進しました。特に、課題対応型研究としては、緊急かつ重点的な研究課題や次世代の環境問題に先導的に取り組む研究課題として、10の研究プログラムを推進しています。さらに、長期的な取組が必要な環境研究の基盤整備として、地球環境モニタリングや、「子どもの健康と環境に関する全国調査」の総括的な管理・運営等を進めました。また、環境の保全に関する国内外の情報を収集、整理し、環境情報メディア「環境展望台」によってインターネット等を通じて広く提供しました。
東日本大震災からの復旧・復興に向けて、研究所の有する知見やネットワークを活用して研究面から貢献するとともに、環境中の放射性物質の動態解明や放射性物質に汚染された廃棄物等の効率的な処理処分等に関する研究を実施しました。
(イ)国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターでは、水俣病発生の地にある国の直轄研究機関としての使命を達成するため、外部委員による評価と水俣病や環境行政を取り巻く社会的状況の変化を踏まえ、平成22年8月に「中期計画2010」を策定し、[1]メチル水銀の健康影響に関する調査・研究、[2]メチル水銀の環境動態に関する調査・研究、[3]地域の福祉の向上に貢献する業務、[4]国際貢献に資する業務の4つの重点分野について研究及び業務を推進しました。
メチル水銀の健康影響に関し、脳磁計(MEG)を活用した臨床研究を地元医療機関との共同研究により実施しました。また、国内の研究機関等を対象とした公募による幅広い水銀研究を実施しました。さらに、水俣病発生地域の福祉の向上等に貢献するため、社会福祉協議会等と協力して、「介護予防等在宅支援のための地域社会構築推進事業」を進めるとともに、市街地に拠点を設け、地域再生・振興に関する調査・研究を開始しました。
国際貢献として、開発途上国に対して、水銀分析技術移転のために研究者の派遣を積極的に行いました。また、国外の研究者を受け入れて、メチル水銀のヒトへの健康に及ぼす影響に関する共同研究や水銀分析技術を中心とした研修を実施し、WHO研究協力センターとしての役割を果たしました。
併せて、これらの施策や研究内容について、国立水俣病総合研究センターホームページ(国立水俣病総合研究センター(別ウィンドウ))上で具体的かつ分かりやすい情報発信を実施しました。
ウ 各研究開発主体による研究の振興等
文部科学省において、先進環境材料分野、植物科学分野、環境情報分野、北極気候変動分野において大学等のネットワークを構築し、組織横断的な教育・研究活動や施設・設備の共同利用、産学連携プラットフォームの構築等を推進しました。大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトの推進や科学研究費助成事業による研究助成など、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を図るとともに、関連分野の研究者の育成を行いました。また、戦略的創造研究推進事業等により、環境に関する基礎研究の推進を図りました。
地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動を推進しました。これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するほか、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図ります。
環境省に一括計上した平成24年度の関係行政機関の試験研究機関の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費では、4府省9試験研究機関等において、長期継続的環境観測、各府省における行政施策への反映が期待できる研究について、合計15の試験研究課題を実施しました。
「環境研究総合推進費」では、個別領域にとどまらない研究開発が一層求められていることを踏まえ、「循環型社会形成推進科学研究費補助金」を「環境研究総合推進費」と統合し、より優良な提案を募ることを可能とすることにより、これらの研究開発を強化しました。重点施策としては、戦略プロジェクト「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」を開始しました。また、「東日本大震災からの復興に対する環境研究・技術開発からの貢献」を特別重点課題として、「沿岸生態系における放射性物質の拡散過程の解明」等の研究・技術開発を行いました。
また、地球温暖化の防止に関する研究の中で、各府省が中長期的視点から計画的かつ着実に関係研究機関において実施すべき研究を、「地球環境保全試験研究費」により効果的に進めました。
また、東日本大震災からの復興にあたり、放射性物質の環境中の動態解明、放射性物質汚染廃棄物・土壌等の処理・処分技術の評価・開発等、さらなる研究開発を推進するため、福島復興再生基本方針に基づいて、福島県が設置する「福島県環境創造センタ-(仮称)」の整備を支援しました。
警察庁では、よりきめ細かな信号制御を行い交通の円滑化を図るため、ムーブメント信号制御方式による信号制御高度化モデル事業の効果測定を実施しました。
総務省では、独立行政法人情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境観測技術として、人工衛星から地球の降水状態を観測するGPM搭載二周波降水レーダ、同じく人工衛星から地球の雲の状態を観測する雲レーダ、ライダーによる温室効果ガスの高精度観測技術、突発的局所災害の観測及び予測のために必要な次世代ドップラーレーダー技術、風速や大気汚染物質等の環境情報を都市規模で詳細に計測するセンシングネットワーク技術、天候等に左右されずに被災状況把握を可能とするレーダを使用した高精度地表面可視化技術の研究開発等を実施しました。さらに、情報通信ネットワーク設備の大容量化に伴って増大する電力需要を抑制するため、光の属性を極限まで利用するフォトニックネットワーク技術による低消費電力光ネットワークノード技術等、極限光ネットワークシステム技術の研究開発を実施しています。
農林水産省では、環境保全型農業等の農林水産関連施策を効果的に推進するための生物多様性指標とその評価手法の開発、国産バイオ燃料の利用促進を図るため、バイオエタノールの生産コストを大幅に削減する技術開発、農林水産分野における温室効果ガスの排出削減技術・吸収源機能向上技術の開発及び影響評価に基づく地球温暖化の進行に適応した生産安定技術の開発、環境保全型農業等の農林水産関連施策を効果的に推進するための生物多様性指標とその評価法の開発を引き続き推進しました。
また、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた被災地における営農の早期再開のため、関係府省が連携して、物理的手法や化学的手法による農地土壌の放射性物質除去技術や作物の種類に応じた農作物への放射性物質吸収抑制技術の開発を実施するとともに、その効果を実証し、成果が得られたものについて順次公表しました。また、開発された農地除染技術をさまざまな現地条件において工事実施レベルで実証し、その結果についてとりまとめ、「農地除染対策の技術書」等として平成24年8月に公表しました。さらに、東日本大震災により被災した木材加工流通施設等の復旧、木材製品等に係る放射性物質の調査・分析や効率的な放射性物質の除去・低減のための技術の検証・開発等を推進しました。
経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノづくり技術の開発を実施しました。また、バイオテクノロジーの適切な産業利用のための遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)の適切な施行や、海外の遺伝資源の円滑な利用を促進するため関係者との協議を行う等、事業環境の整備を実施しました。
循環型社会の構築に向け、「下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)」等において開発された、下水汚泥の有効利用に係る技術の普及を推進しました。
国土交通省では、地球温暖化対策にも配慮しつつ、地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策の実施に向けて、さまざまな対策の複合的な効果を評価できるシミュレーション技術の実用化や、地球温暖化対策に資するCO2の吸収量算定手法の開発等を実施しました。また、船舶からの大気汚染防止に関する国際規制強化の動向に対応するため、排出ガスに含まれるNOx等を大幅削減する環境にやさしい舶用エンジンの排出ガス後処理装置(SCR触媒)に係る認証方法技術の確立に向けた研究を行いました。
地球温暖化対策に関しては、新たな地球温暖化対策技術の開発・実用化・導入普及を進めるため、「地球温暖化対策技術開発・実証研究事業」において、環境対応自動車におけるリチウムイオン電池の長寿命化に関する技術開発など、全体で65件の技術開発・実証研究事業を実施しました。
先端的低炭素化技術開発事業では、抜本的な温室効果ガスの削減を実践するため、従来技術の延長線上にない新たな科学的・技術的知見に基づいた革新的技術の研究開発を、引き続き幅広く公募によりシーズを発掘し、競争的環境下で推進しました。
省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、クリーンコールテクノロジーの開発を実施するとともに、分離回収したCO2を地中(地下1,000m程度)へ貯留する二酸化炭素回収・貯留(CCS)に係わる技術開発を実施しました。
データセンタにおける消費電力の多くを占める空調システムの省エネルギー対策のための実証実験を実施し、その成果をITU(国際電気通信連合)に提案しました。提案した内容が盛り込まれた「グリーンデータセンターのベストプラクティス(L.1300)」が平成23年11月にITU-T勧告として採用されました。
先進的な環境技術の普及を図る「環境技術実証事業」では、閉鎖性海域における水環境改善技術分野、ヒートアイランド対策技術分野(建築物外皮による空調負荷低減等技術)など8分野で対象技術の環境保全効果などを実証しました。また、これまでに実証した技術について、成果を発表し、技術の普及を図るため、ホームページや学会での紹介を行いました。
地球環境保全等試験研究費、環境研究総合推進費に係る研究成果については、研究成果発表会・シンポジウム等を通じて公開し、関係行政機関、研究機関、民間企業、民間団体等へ成果の普及を図りました。また、環境研究総合推進費ホームページにおいて、研究成果及びその評価結果等を公開しています。
地球温暖化対策技術開発・実証研究事業についても、ホームページにおいて成果及びその評価結果等を公開しているほか、「地球温暖化対策技術開発成果発表会」を開催し、一般向けに広く情報提供を行いました。
大気における気候変動の観測について、気象庁は世界気象機関(WMO)の枠組みで地上及び高層の気象観測を継続的に実施するとともに、全球気候観測システム(GCOS)の地上及び高層の気候観測ネットワークの運用に貢献しています。さらに、世界の地上気候データの円滑な国際交換を推進するため、WMOの計画に沿って各国の気象局と連携し地上気候データの入電数向上、品質改善等のための業務を実施しています。
また、温室効果ガスなど大気環境の観測については、独立行政法人国立環境研究所及び気象庁が、温室効果ガスの測定を行っています。独立行政法人国立環境研究所では、沖縄県波照間島等で温室効果ガスの測定を行っているほか、航空機・船舶を利用した大気中及び海洋表層における温室効果ガスの測定や陸域生態系における二酸化炭素収支の測定を行っています。気象庁では、WMOにおける全球大気監視(GAW)計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測を東京都南鳥島等で行うとともに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測を実施しています。さらに大気混濁度の観測を実施しているほか、北西太平洋上空の温室効果ガスの航空機による定期観測を行っています。また、黄砂及び有害紫外線に関する情報を発表しています。
海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。第53次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球環境変動の解明を目的とする各種のプロジェクト研究観測等を実施しました。また、北極海域における大気・海洋観測の強化や環境予測システムの構築等を図る北極気候変動プロジェクトを推進しました。地球規模の変動に大きく関わっている海洋における観測について、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムを構築する「Argo計画」を推進しました。
GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計により、地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また、国内の影響・リスク評価研究や地球温暖化対策の基礎資料として、温暖化に伴う気候変化に関する予測情報を「地球温暖化予測情報」によって提供しており、情報の高度化のため、大気の運動をさらに精緻化させた詳細な気候変化の予測計算を実施しています。
衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の我が国の降雨レーダ(PR)や米国地球観測衛星(Aqua)搭載の我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)から取得された観測データを提供し、気候変動や水循環の解明等の研究に貢献しました。さらに、環境省、独立行政法人国立環境研究所及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構の共同プロジェクトである温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データの検証、解析を進め、全球の温室効果ガス濃度分布や月別・地域別の二酸化炭素の吸収・排出量の推定結果の一般提供を行いました。また、平成24年度から、より精緻な観測が可能な「いぶき」の後継機の開発に着手しました。
我が国における地球温暖化に係る観測を、統合的・効率的に実施するため、環境省と気象庁は共同で地球観測連携拠点(温暖化分野)の活動を推進しました。
地球環境変動予測研究については、世界最高水準の性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用して地球温暖化予測モデル開発等を推進するとともに、全球予測結果の高精細化や不確実性の低減等のための研究開発を推進しました。
さらに、観測・予測データの収集からそれらのデータの解析処理を行うための共通プラットフォームの整備・運用を実施するとともに、具体的な適応策の提示までを統一的・一体的に推進することにより、温暖化に伴う環境変化への適応策案に貢献する研究開発を推進しました。
また、「地球観測の推進戦略」を踏まえ、地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢整備のため、「地球環境保全試験研究費」において「地球観測モニタリング支援型」を平成18年度より創設し、平成24年度は、「センサーネットワーク化と自動解析化による陸域生態系の炭素循環変動把握の精緻化に関する研究」、「船舶観測による広域サンゴモニタリングに関する研究」、「アジア・オセアニア域における長寿命・短寿命気候影響物質の包括的長期観測」、「環境因子の変化に伴う疾病構造変化モニタリングと中長期環境モニタリングおよび暴露調査結果を用いた環境がヒトへ与える影響の解析を行う病院コホートを利用したデータマイニングシステムの研究」、「シベリアのタワー観測ネットワークによる温室効果ガス(CO2、CH4)の長期変動解析」課題を開始しました。
地方公共団体及び民間の環境測定分析機関における環境測定分析の精度の向上及び信頼性の確保を図るため、土壌(農用地土壌)試料(重金属類)、底質資料1(PCB)及び底質資料2(有機塩素化合物)を調査試料として、環境測定分析統一精度管理調査を実施しました。
バイオレメディエーション事業の健全な発展と利用の拡大を通じた環境保全を図るため、「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づき、事業者から提出された浄化事業計画につき、同指針に関する審査を行う業務を実施しました。
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