環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組(生物多様性の主流化)

第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組(生物多様性の主流化)

1 普及広報と国民参画

(1)生物多様性の普及広報

 生物多様性の恵みを将来世代にわたって享受できる自然と共生する社会を実現していくためには、私たちの日常生活や社会経済活動の中に生物多様性への配慮を組み込んでいくことも必要です。

 生物多様性条約第10回締約国会議COP10)における日本からの提案を踏まえ、2010年12月の国連総会において、2011年から2020年までの10年間を、愛知目標の達成に貢献するため、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組む「国連生物多様性の10年」とする決議が採択されました。これを踏まえ、国内のあらゆる主体が、それぞれの立場で連携を図りつつ、生物多様性の保全と持続可能な利用の取組を促進し、愛知目標の達成に貢献するため、2011年(平成23年)9月に「地球生きもの委員会(国際生物多様性年国内委員会)」を改組して、「国連生物多様性の10年日本委員会」(委員長:社団法人日本経済団体連合会会長米倉弘昌氏)を設立しました。同年10月には国連生物多様性の10年日本委員会に参画している様々なセクターの代表が一堂に集い、第1回生物多様性全国ミーティングを愛知県名古屋市で開催し、各セクターの取組について発表・意見交換を行い連携を深めました。また、同年12月には国連生物多様性の10年国際キックオフ・イベントを石川県金沢市で開催しました。


写真2-2-1 国連生物多様性の10年国際キックオフ・イベント

 また、日本人女性アーティストのMISIAさんが国連から「COP10名誉大使」に任命されていることを受け、COP11までの活動の連携・協力を通じて、生物多様性に関する普及啓発を図りました。この他、環境総合展示会「エコプロダクツ2011」に出展し、生物多様性の重要性などについて普及啓発を行いました。


写真2-2-2 エコプロダクツ2011

 毎年5月22日は、国連が定めた「国際生物多様性の日」です。生物多様性条約事務局では、2008年(平成20年)から国際生物多様性の日の午前10時に、世界各地の青少年による学校の敷地等への植樹を呼びかけており、地球上を東から西へ植樹された樹木が波のように広がっていく様子を、「グリーンウェイブ」と呼んでいます。環境省、農林水産省及び国土交通省では、平成23年のこの活動を「グリーンウェイブ2011」として、この活動への参加を広く呼びかけ、公益社団法人国土緑化推進機構などの協力を得て、全国で約388団体、28,000人が参加しました。

 生物多様性の主流化を図る施策を推進するため、平成23年10月1日に環境省自然環境局自然環境計画課に生物多様性施策推進室が発足しました。生物多様性施策推進室では、事業者、国民、民間団体が行う生物多様性の確保に関する活動の促進に関すること、生物多様性の確保のための経済的措置に関すること、 遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する事務を行います。

(2)地方公共団体、企業、NGOなど多様な主体の参画と連携

 生物多様性基本法において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされています。平成24年3月末現在、17道県、16市町村等で策定されており、これ以外の多くの地方公共団体でも策定に向けた検討が進められています。


図2-2-1 生物多様性地域戦略策定状況(平成24年3月現在)

 生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を、自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、2011年10月に「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されました。現在、121自治体が参画しています(12月20日現在)。

 また、愛知目標4「ビジネス界を含めたあらゆる関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」を受け、経済社会における生物多様性の保全及び持続可能な利用の主流化のあり方について検討を行いました。さらに、企業をはじめとする幅広い分野の事業者が、生物多様性に配慮した事業活動を自主的に行う際の指針となる「生物多様性民間参画ガイドライン」について、各種セミナーやイベント等で普及広報を行いました。

 生物多様性の保全及び持続可能な利用等、生物多様性条約の実施に関する民間の参画を推進するため、経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画イニシアティブ」の取組に協力しました。また、各国における国別・地域別のビジネスと生物多様性イニシアティブの設立促進、事業者の参画促進のためのツール等を議論した「第1回生物多様性民間参画グローバルプラットフォーム会合」を経済界をはじめ、生物多様性条約事務局など関係機関と連携して開催しました。

 地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、平成22年度から「地域生物多様性保全活動支援事業」を開始し、平成23年度は全国31か所の取組の支援をしました。また、平成20年度から開始した「生物多様性保全推進支援事業」については、全国15か所の取組を支援をしました。

 平成23年10月に、「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(平成22年法律第72号。生物多様性地域連携促進法)」が施行されました。同法は、環境省、農林水産省、国土交通省の3省共管であり、地域の生物多様性を保全するため、市町村やNPO、地域住民、企業など多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進しようとするものです。基本方針の策定にあたっては、生物多様性保全活動の促進に関する検討会や、全国9か所での意見交換会を開催し、平成23年9月に基本方針の公示等を行いました。

 ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制優遇措置、普及啓発等を実施しました。

2 自然とのふれあい

(1)自然とのふれあい活動

 「みどりの月間」(4月15日~5月14日)、「自然に親しむ運動」(7月21日~8月20日)、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)等を通じて、自然観察会等自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、平成23年10月に「平成23年度自然公園ふれあい全国大会」を新宿御苑において開催しました。

 国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員の研修を実施し、利用者指導の充実を図りました。また、パークボランティアの養成や活動に対する支援を実施しました。

 自然体験プログラムの開発や子どもたちに自然保護官の業務を体験してもらうなど、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。

 国立公園のビジターセンターなど全国100か所において、自然体験プログラムなどの体験を通して生物多様性の大切さを学び、理解を深める「全国自然いきものめぐりスタンプラリー」を実施しました。

 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、学校等による体験・学習活動の場である「遊々の森」や、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」の設定・活用を推進しました。

 国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(2)エコツーリズム

 エコツーリズムによる地域活性化のための人材・プログラムづくりと施設整備を含む基盤づくりを一体的に実施しました。

 人材・プログラムづくりとして、地域の自然や生きものなどの生物多様性を保全しつつ、活用するエコツーリズムを推進するため、地域コーディネーターによるプログラムやルールづくり、ネットワークづくりなどに主体的に取り組む地域を支援しました。また、自然に関する知識や経験などを備え、その大切さや魅力を伝える人材の育成、協議会への技術的助言、エコツーリズムの実施状況に関する情報の収集、提供などを実施しました。

 また、基盤づくりとしては、国立公園のエコツーリズムに意欲的な地域において、エコツーリズムの基盤となる情報提供拠点、自然資源の保全利用に係る施設を集中的に整備しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供

ア 国立・国定公園などにおける取組

 国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を環境省の直轄事業とし、温室効果ガスの排出削減に資する施設やユニバーサルデザインを取り入れた施設による利用拠点整備、利用者が集中する地域での生態系への影響の軽減と適正かつ質の高い利用を促すための整備、関係省共同でシカ等による影響を受けた自然生態系を維持回復させるための施設整備等を重点的に進めました。国定公園等については、34都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。

 また、都道府県が実施する長距離自然歩道事業については、内閣府計上地域自主戦略交付金により22都府県に対して支援しました。長距離自然歩道の計画総延長は約26,000kmに及んでおり、平成22年には約7,960万人が長距離自然歩道を利用しました。

イ 森林における取組

 保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の普及を図りました。国有林野においては、自然休養林等のレクリエーションの森において、民間活力をいかしつつ利用者のニーズに対応した森林及び施設の整備等を行いました。また、国有林野を活用した森林環境教育の一層の推進を図るため、農山漁村における体験活動とも連携し、フィールドの整備及び学習・体験プログラムの作成を実施しました。

(4)都市と農山漁村の交流

 全国の小学校において農山漁村での宿泊体験活動の実施を目指す「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進し、子どもの豊かな心を育むとともに、自然の恩恵などを理解する機会の促進を図るため、新たに全国で22地域の受入モデル地域を指定しました。

 都市住民の農山漁村情報に接する機会の拡大、地域資源を活用した交流拠点の整備、都市と農村の多様な主体が参加した取組等を総合的に推進し、グリーン・ツーリズムの普及を進め、農山漁村地域の豊かな自然とのふれあい等を通じて自然環境に対する理解の増進を図りました。

(5)温泉の保護及び安全・適正利用

ア 温泉の保護及び安全・適正利用

 温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。平成22年度には、温泉掘削許可231件、増掘許可22件、動力装置許可225件、採取許可96件、濃度確認648件、浴用又は飲用許可2,128件が行われました。

 温泉法の適正な施行を図るため、温泉の保護対策や温泉成分の分析方法等に関する調査・検討を実施しました。

 また、平成24年3月、温泉資源の保護を図りながら再生可能エネルギーの導入が促進されるよう地熱発電の開発のための温泉の掘削等を対象とした温泉資源の保護に関するガイドラインを策定し、都道府県に周知しました。

イ 国民保養温泉地

 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成24年3月末現在、91か所が指定されています。

3 教育・学習

 第6章第7節1を参照。