ムカゴサイシン(播種による野生復帰手法検討モデル事業計画)
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ムカゴサイシン ◆分  類:ラン科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧ⅠB類
◆実施場所:高知県立牧野植物園(高知県高知市)、高知県南国市
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◆基本情報:
 ムカゴサイシンはラン科の多年生草本で、スギ人工林や常緑広葉樹林のなかでも、低木がほとんどない明るい林床や林道脇などの限られた環境に生育しています。花は5月から6月、1株に1個咲きますがほとんど開かず、1ヶ月程度で果実が完熟します。結実期の終わり頃から5角形の葉を1枚出し、12月初旬までには地上部が枯れ、地下の小さな球茎で越冬します。種子繁殖のほか、地下茎を伸ばして球茎で増殖します。植物体が小さく目立たないことから、確認されている自生地が少なく、植生の遷移や森林の伐採などにより絶滅するおそれがある植物です。
 ムカゴサイシンは長期間継続して栽培することが難しく、現状では生息域外保全が困難な種類で、自生地での個体群調査からは、野生の成熟個体の平均寿命は2年に満たないこともわかっています。このため、本種の保全のためには、生存と種子発芽に不可欠な共生菌やその関係を明らかにし、効果的な種子発芽と野外での定着方法の技術を開発することによって世代交代をはかることが、解決すべき優先的な課題となっています。
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◆事業内容:
 ムカゴサイシンは、種子からの発芽や成熟個体の生育に特定の菌類と共生(共生菌)が必要な植物として知られていて、この共生菌も同時に生育する環境でないと生き残ることができません。しかし、共生菌の研究は非常に難しく、どのような種類なのか?どのような生活史を送っているのか?そしてムカゴサイシンとどのような関係にあるのか?を解き明かすことが、取り組みの第一歩となります。
space ムカゴサイシン
①共生菌の特徴や種類
 菌類の研究には、純粋に1種類の菌の分離が必要で、これを専門的には単離と言います。今回発見された共生菌は活性時期が短く、単離には果実期の終わり(6月下旬)が適していることがわかりました。それ以外の時期では菌糸の塊が消化されている状態が観察されています。ムカゴサイシンの地上部が枯れる12月上旬には球茎に菌の感染が観察されておらず、ムカゴサイシンの休眠期には、この菌の所在はまだ不明です。
 発芽種子からはイボタケ科の菌類が、また成熟した個体からはこれまで知られていないアンズタケ目の近縁種を含む複数の種類の菌が確認されました。この結果は、個体の生育と種子の発芽に関与する菌は別である可能性が高いことを示しています。つまり、ムカゴサイシンの生育には、それらの菌類が共に生育している様な環境が必要だといえます。
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②種子発芽手法の検討
 種子発芽の実験は、35mmのスライドマウントに目の細かいナイロンメッシュを挟んで種子袋にして、地面から約3〜5cmの深さに埋設しました。しかし、平成20年、21年の実験では発芽率が低く、54枚中3枚のマウントで合計10個の発芽が確認されただけでした。
 しかし、過去の調査から、ムカゴサイシンの根茎は多くの場合、地面の上に積もったリター(落葉・落枝)の中にあることがわかっていました。そこで、共生菌は土壌中より土壌の表面〜リター層の中にいると推測し、スライドマウントを地面に平置きした上に落ち葉や枝などを被せました。また、種子を封入する資材も変更して、枠を35mmから60mmへ大型化、布をナイロンよりもやわらかい生分解性の布にしました。さらに、乾燥対策として超吸水性樹脂も使用しました。
 その結果、平成23年の実験(平成23年7月埋設、平成24年7月回収)では埋設した88枚中8枚のマウントで合計35個の発芽種子が確認され、前回よりも発芽段階がより進んだ発芽種子も得られました。
 平成24年7月からは生分解性の布をやや厚めのものに変更して実験を行っており、平成25年1月におこなった回収では12枚中2枚のマウントで5個の発芽が確認されています。今後も、このような形でムカゴサイシンの保全を目指し、研究レベルでの技術開発を実施していく予定です。
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ムカゴサイシン
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