キバナスゲユリ(遺伝解析による保全単位の設定と栽培におけるウイルス病対策)
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◆分  類:ユリ科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧IA類
◆実施場所:一般財団法人 沖縄美ら島財団(沖縄県本部町)、沖縄県恩納村・那覇市・南城市・渡名喜村・久米島町
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キバナスゲユリ ◆基本情報:
 キバナスゲユリは落葉性の多年草で、長崎県、沖縄県(沖縄島、久米島、渡名喜島)に分布し、日本産ユリ属の仲間で花のもっとも小さな種です。花が赤橙色のノヒメユリの変種であり、花が黄色であることから別名で黄花野姫百合(キバナノヒメユリ)とも呼ばれます。花期は7〜9月、果期は10〜12月です。主に日当りのよい草原、畔・土手などの草地に生育しています。もともと自生地が限られている上、開発や土地の改変や墓地や公園などでの過度な草刈り、観賞価値があるため園芸用の採集などにより減少しています。また植物群落の移り変わり(=植生遷移の進行)により減少している地域もあります。
 2008年〜2013年の調査で生育が確認されているのは沖縄県では離島を含め5つの自生地があり、それぞれの集団で個体数や自生地の安定性が異なります。離島では生育環境が比較的安定していますが、開発等の突発的な絶滅リスクを回避するため、保険としての生息域外保全取り組みが必要です。一方で、沖縄本島は特に植生遷移が進行している集団では自生地での持続的な自然繁殖を促すことや、他の草の刈り取りによって植生遷移の進行を抑制する必要があります。すでに那覇市の自生地では、地元保護活動家が同市の協力を得て保全活動を実施しているところです。
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◆事業内容:
 キバナスゲユリの自生地では、開発や植生遷移による生育地の消失が危ぶまれており、沖縄県内の5集団から保険として、すでに生息域外に個体を確保しています。また、将来的な野生復帰の可能性も想定して、栽培下で健全な個体を維持することを検討しています。種子を播く方法による野生復帰が有効と考えられますが、これには以下のように科学的知見を集積や技術開発をする必要があります。
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生息域外での増殖・栽培 ①遺伝子解析による保全単位の設定
 5集団の遺伝子解析を行った結果、地域ごとに様々な遺伝子をもつことが分かりました。このように集団ごとに遺伝子が異なる場合、保全活動を行う際に遺伝的多様性を維持するように適切な「保全単位」を設定して、集団間での個体の移動や交雑は避ける必要があります。また、極めて個体数の少ない集団については、個体群に影響の少ないように種子を確保して圃場で増殖して野生復帰させる方法も検討しています。
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②栽培におけるウイルス病対策
 ユリ科の植物は一般にウイルス病にかかりやすいため、栽培株のウイルス検定を行いました。その結果、ウイルス病対策として管理ハウスの分散、ウイルスを媒介するアブラムシ類などを薬剤散布によって防除や駆除、などを必要に応じて行うことで極力ウイルス病を抑えられることが判明しました。逆に、2012年に複数回の台風襲来の影響で管理ハウスの損壊したケースでは、栽培株の外部接触があったり、長期間管理が出来なかったことにより45個体中24個体もの感染が確認されました。
 栽培下でウイルス病になった場合は、他の株への感染を防ぐために個体処分する方法がありますが、一方でウイルス病の中には親株から種子へ伝染(垂直感染)しないもの多く、このような場合には感染した株を隔離栽培し、健全な株への感染を防ぎつつ種子を得ることで、次代はウイルスフリーの個体として利用可能であることが期待されます。
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③開花特性と花粉媒介昆虫の確認と生育環境の把握
 キバナスゲユリの開花を施設内で観察した結果、開花期間は約3日間であり、花が開き始めてから3時間で成熟のピークを向かえることが判明しました。花粉媒介昆虫(ポリネーター)としては、オキナワツヤハナバチ(コシブトハナバチ科)を確認することができました。野生復帰する生育環境の候補のひとつとしては、このハチが巣をつくり生息するチガヤやススキが広がる明るい原野や草地を、優先的に選定することが考えられます。
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 今後は、野生復帰を想定した様々な条件を整備する必要があり、生息域外個体の遺伝的多様性の劣化に関する知見の集積、ウイルス病の感染防止、ウイルス病の感染個体からの種子確保(ウイルスフリー個体)に関する知見の集積、他のポリネーターや生息環境の把握を行うなど、その取組を多角的に進めているところです。
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