ナゴヤダルマガエル(地域と連携した新たな生息地造りと野生復帰)
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◆分  類:アカガエル科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧ⅠB類
◆実施場所: 広島市安佐動物公園、広島県世羅郡世羅町小谷、広島県福山市近畿中国四国農業研究センター、広島県三次市吉舎町知和、広島県三次市吉舎町海田原
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ナゴヤダルマガエル
◆基本情報:
 全長はオスが35〜62mmメスが37〜73mmのアカガエルの仲間で、愛知県〜広島県、四国の一部にかけて分布しています。トノサマガエルによく似ていますが、背中には背側線が2本あり、背中線はありません。体表には黒い斑紋が散在し、斑紋同士はつながらず、体色は緑色から茶色まで差があります。主に水田に依存したカエルで、年間を通じて水田近くで生活し、繁殖期には大きな声でギューギューと鳴きます。産卵は水田や止水域で行なわれ、メスは移動しながら少しずつ産卵します。
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 生息地の水田の宅地造成や生息環境の悪化により減少が著しく、現在では、いずれの生息地も狭く、それぞれが隔離されている状況です。広島県では1980年代に絶滅したと推測されていましたが、1991年に広島県三次市吉舎町安田地区で再発見され、その後1999年には広島県福山市神辺町道上地区、2007年には広島県三次市吉舎町海田原地区でも確認されました。
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◆事業内容:
 道上地区の生息地が2003年に開発されることになり、生息していたナゴヤダルマガエルを全て捕獲して安佐動物公園を含む5か所の施設に緊急保護しました。さらに海田原地区の生息地も荒廃が進み、生息域内の保全が困難な状態になり、一部を捕獲し安佐動物公園で保護しました。安佐動物公園では広島県のナゴヤダルマガエルを守るために、この2か所から個体を確保し、飼育下で繁殖させて、新たに創出された生息地に幼生(オタマジャクシ)の放流による野生復帰を続けています。
 2003年に確保した道上地区のナゴヤダルマガエルは2005年から繁殖に成功し、2008年に確保した海田原地区の個体は2010年から繁殖しています。
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①飼育していた個体の野生復帰
 道上地区由来の個体については新たに創出した生息地として、広島県世羅郡世羅町小谷地区と広島県福山市西深津町にある近畿中国四国農業研究センターの圃場内を選定し、安佐動物公園などで繁殖した幼生(オタマジャクシ)の野生復帰を2005年から始めました。その結果、世羅町小谷地区では2008年、近畿中国四国農業研究センターでも2012年に、生息地での繁殖を確認し、定着に向けて前進しています。
 海田原地区由来については2010年から三次市吉舎町知和地区、2012年には本来の生息地である海田原地区にも幼生の野生復帰を行なっています。
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ダルマガエル米 ②地域との協働による保全活動
 幼生(オタマジャクシ)の野生復帰後には、その後の生息状況を把握するために継続した調査を行なうことが必要です。また、野生復帰の対象地域の人々が主体となって、野生復帰地を守ることが重要です。4か所の野生復帰地では、地域の人々や職員の方々が熱心に保全活動をされています。
 特に小谷地区では地区の小学校や人々が一体となり、春の生息調査、放流による野生復帰、秋の生息調査などを安佐動物公園の職員と共に行なっています。
 ナゴヤダルマガエルの減少の大きな原因のひとつに通常7月に行なわれる水田の中干しがあり、水田の水が抜かれ幼生は干からびてしまいます。そこで、オタマジャクシからカエルの形に変態するまで中干しを遅らせたり、農薬を使わなかったりと、ナゴヤダルマガエルの生息に配慮した稲作が実施されています。このような稲作で作られた米を「ダルマガエル米」として販売しています。
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 こうした地域との協働による新たな生息地造りは、地域の人々が喜びを持って主体となり、保全に取り組んでいくことがもっとも重要で、私たち安佐動物公園も協力し、一緒に広島県のナゴヤダルマガエルが今後も生息していけたらと思っています。
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