ハリヨ(近縁種との遺伝子交雑問題に対応した慎重な野生復帰の取り組み)
space
◆分  類:トゲウオ科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧ⅠA類
◆実施場所:滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県草津市)、滋賀県米原市地蔵川
space
ハリヨ イトヨ ハリヨとイトヨの交雑個体
space
◆基本情報:
 全長5〜6cm程度のトゲウオの仲間で、滋賀県と岐阜県、三重県の一部に分布していました。寿命は約1年で、年間を通じて水温が15℃前後で安定した湧水池や、その周辺の流れの緩やかな河川に生息します。また、水草の生い茂ったところを好み、繁殖期にはオスが植物片などを集めてトンネル状の巣を作り繁殖することが知られています。もともと狭い範囲に分布していたのですが、その生息地は減少の一途をたどり、とくに1960年代以降ではそれが著しく、三重県では絶滅してしまいました。現在、生息が確認されているのは滋賀県産(近江ハリヨ)と岐阜県産(美濃ハリヨ)の2個体群のみとなります。
space
 淡水魚の多くは、水系ごとに遺伝的な系統が異なる場合が多いことが知られています。このため、滋賀県産(近江ハリヨ)の中でも、遺伝的な系統関係を明らかにする目的で、滋賀県内8カ所で採取されたサンプルの遺伝子解析をしたところ、滋賀県産ハリヨ(近江ハリヨ)には伊吹山系を中心とする「北近江繁殖群」と湖東平野北部域を中心とする「東近江繁殖群」の大きく2つの遺伝グループに分けられることが示唆されたことから、現状では、この2箇所のグループは交配させないことが望ましいと考えられます。また、「北近江繁殖群」の遺伝子を持つ個体が湖東平野北部域で確認されたり、その逆の場合もありました。聞き取り調査の結果からも判断して、民間レベルでのハリヨの不適切な移動による放流が行われていた可能性があることがわかりました。
space
 さらに、2008年に滋賀県米原市の地蔵川で、近縁種であるイトヨとの交雑による遺伝子交雑が広範囲に起こっていることが判明しました。ハリヨは純淡水性ですが、イトヨは海と河川を行き来する回遊魚の別亜種にあたります。これにより、同地域における純粋なハリヨは消失したと考えられましたが、近くの別の支流で遺伝子交雑の起きていない個体群の生息が確認されました。また、現在、琵琶湖博物館はじめとする複数の施設で、1992年に地蔵川で採集された個体を元にした個体群が飼育されています。
space
◆事業内容:
 すでに地蔵川では、川全体にハリヨとイトヨの遺伝子交雑が進んでいるため、ハリヨの保全の方法として、交雑個体を地蔵川から取り除き、その後に交雑していないハリヨを野生復帰させることを検討しています。また野生復帰させる方法には以下の2つの候補があります。
space
①飼育していた個体の野生復帰
 1992年から滋賀県立琵琶湖博物館などの施設では、交雑する前に捕獲した地蔵川のハリヨを飼育しています。しかし、施設で長い間飼育していたため、遺伝的多様性が減少していることが考えられますので遺伝子解析を行ったところ、野生個体に比べ遺伝的多様性が減少していることが明らかになりました。
space
②別の支流の個体を新たに増殖して野生復帰
 最近、別の支流で、交雑していない集団が発見されました。この支流に生息する個体数はとても少なく、そのまま移して放流する方法では多くの個体が必要になり、その確保による悪影響が心配されるので、これを小・中学校などで増やしてから野生復帰する方法も検討しています。
space
地元の公民館で開催された報告会 今後、これらの候補から選択して、最も適切な取り組みがおこなえるよう、専門家や行政関係者などが集まる「ハリヨ問題検討会」で検討を進めています。また、地元の小・中学校では交雑の問題を学習活動の一環で取り上げているほか、ハリヨ問題検討会のメンバーが研究成果を地元で発表し、地域の理解を深める活動を進めています。また、地蔵川最上流部に交雑個体の侵入を防ぐ構造物を設置したのち、最上流部の交雑個体を除去して、小・中学校で繁殖した個体を放流することを検討しています。なお、現地は観光地でもあることから、地元の自治体や保全団体などが協力して、地元住民への説明と協力のお願いするなど、慎重に野生復帰の取り組みを進めています。
space