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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 新潟県南魚沼市
【農山村における学びと保全を促進する交流スタイルの構築】

日時 平成23年10月16日(土) 10:00~15:30
場所 上越国際スキー場グリーンプラザ上越(新潟県南魚沼市)

■概要
おいしいお米の産地として知られる南魚沼市。山あいの栃窪(とちくぼ)と清水(しみず)集落は、森と棚田で構成される懐かしい山里の光景が広がり、ホタルやトンボ、カエル、カタクリなど山里の「生態系」を構成する生き物たちが生息している。しかし過疎化で地域の自然を維持するための手入れが行き届かずこれらの生き物たちが激減しつつある。
本研修会では、山里と都市との交流や学びの輪を広げることで、「生態系」の面白さや不思議さを体験しながら、暮らしの知恵や技を見つけ、生業と生き物の元気を取り戻すための学習カリキュラムを生かした保全活動計画について検討した。

■講演
テーマ:「田んぼの生態系を蘇らせるには」
講演者:守山拓弥(社団法人地域環境資源センター)

田んぼの生態系を蘇らせるということは多様な側面を持つ大きなテーマだ。その基礎的な活動として生き物調査がある。行政や生き物の専門家、そして農家や市民団体まで取り組んでいる方が多いので、今回は技術的な面に着目しながら効果的な方法やいくつかの事例を紹介したい。

1)田んぼの生態系の特徴
田んぼも大きな区切りでは里山の一部である。里山には雑木林、集落、谷津田、ため池、水路など様々な環境がありそれぞれの環境の中に様々な生き物が棲息している。それらの生き物は昔からある環境を利用して営農を営んできたところに多いと言える。
例えば水辺環境では、谷津田のところは水をコントロールしやすいことから、古くから集落が形成され営農を行って暮らしてきた。元々湿地だったところが田んぼに置き換わった環境だ。また小さな扇状地なども比較的水をコントロールしやすく、昔の河道を利用して水を水田に引き込むなどしている。かつての信濃川下流などは年に何回か冠水することがあり、そこに魚類が産卵することで生き物が棲息している。
昔の環境を利用した営農方法は生き物も影響を受けにくい。古い技術による農業は環境をコントロールしきれないので、生き物が残されてきたと言える。里山から田んぼにかけてはカエルやサンショウウオなどが移動し、平地水田や扇状地の後背湿地などでは河川と田んぼの間を魚類が移動する。近代の圃場整備などでは生き物の移動経路が遮断される傾向があり、こうした移動経路の確保に配慮することが大切となっている。

2)生き物調べ方、注意点
最初に取り組む活動として多いのが生き物調べだ。国土交通省や農水省やJAなど大きな組織が行っている生き物調査がある一方で、集落でだれでもできる生き物調査もあり、基本的にはどんなことでもできる。体験を兼ねた魚捕りや施設管理を兼ねた沼干しをはじめ専門の方がいればバードウォッチングなど、取り組みやすく多くの人が関わることができ子どもから大人まで楽しめる。調査をきっかけにいろんな取り組みに発展するケースも見られる。
調査計画を立てる際に次の項目の設定に配慮する必要がある。目的、参加者、場所(生き物がいるということだけでなく、安全管理上も配慮して設定)、対象生物(必ずしも限定しなくてもよいが依頼する専門家の分野に応じてある程度の絞り込みが必要なこともある)、日時、1日のプログラム、調査体制(リーダーや専門家の参加等)、必要経費。
一般的なスケジュールでは半日ぐらいが多い。現場での注意事項は3点ぐらいに絞って伝えることが効果的。調査後に地域づくりにもつなげていきたいという意図があるならば、意見交換などのワークショップを用意するとよい。最も留意したいのは安全管理。保険に入るというのも一つの準備だ。集落近くの病院をはじめ関係の連絡先なども持参しておく必要がある。

3)田んぼの生き物を守る技術
里山と田んぼのつながりや水路と田んぼのつながりに着目することが基本。里山と田んぼのつながりという点では、例えば近年の圃場整備事業で、里山と水田の境にU字溝が設置されているのが多くみられるが、こうした場所にはどんどん生き物が落ちて死んでしまうという問題がある。対策としてはU字溝に蓋をかけて生き物の落下を防ぐというものがある。営農上も苗箱など農業資材を置けるなどメリットが得られる。その結果ニホンアカガエルが大幅に増加したなどの研究報告もある。
 水路と田んぼのつながりという点では、かつて水路と田んぼの水面の高さが同じだったものが、圃場整備によって段差ができることが課題。それまで水路と田んぼを行き来していた生き物がこれによって移動できなくなり、田んぼの周りにいる魚が産卵できなくなる等の悪影響が発生する。そこで、田んぼに魚が登れるための水田魚道が開発されている。大がかりなものから手作業で取り付けができる簡易なものまで売られている。特に低平湿地だと効果が見られる。その他水田水域での魚類相保全の技術として、水田内ビオトープ、保全池・ビオトープ、多孔質護岸、礎石付斜路、二段式水路、水路―河川間漁道などが挙げられる。

4)保全活動の事例
水田の生き物保全は田んぼを持っている人と協力していかないとできない。田んぼで活動をするということは私有地でやるということを意味するので、地元の理解と協力が必要不可欠だ。いくつかの優良事例を挙げてみたい。

ア)NPO法人グランドワーク西鬼怒の事例 圃場整備事業が入るにあたって環境配慮をしていこうということで、行政と連携して取り組んできた事例。行政が事務局となりながら大学や水産試験場がアドバイザーとなり、任意団体が現地で具体的な活動を行った。その団体が発展しNPO法人グランドワーク西鬼怒となった。生態系に配慮した圃場整備を行うことは、例えば土水路にするなどで維持管理作業が増大することを意味することがある。そうした維持管理を行政とNPO間で委託契約を結び、これをもとに地元だけでなくボランティアにも参加してもらい運営を行っていく仕組みづくりだとも言える。行政としては整備圃場の維持管理活動を、NPOとしては環境教育や自然再生をやっていきたいということでこれらが両輪となって田んぼの生き物調査を始めフクロウの営巣活動などが取り組まれている。

5)活動から見えてきたこと
さまざまな主体とのかかわりが大切だ。専門家の助けや地元の理解が欠かせないし、場合によっては都市住民というもの大切な要素で都市農村交流といった活動も大事だ。もちろん行政支援も必須である。
生物多様性の利活用を行うなど活動のメリットも必要だ。生き物を守りたいという気持ちだけではなく、活動することによる実際的なメリットがあることで長続きする。
また、取組のストーリー作りをすることで、対外的にも説明ができ、自分たちが進む方向も見据えることができる。対外的発信によって評価も高まれば参加者のモチベーションも上がる。その一方で美しいストーリーにとらわれすぎず現状をしっかり見つめながら、無理をしすぎないように配慮していくことで息の長い活動が実現できるのではないかと考えている。(参考:田んぼの生き物調査については社団法人地域環境資源センター農村環境部サイト参照 http://www.acres.or.jp/)

6)今後の展望
保全活動は、地元の農家の協力がないとなかなか続けられない。地域とのコミュニケーションを図り協力をとりつけながら取り組みを続けていくことが大切だと考えている。
鮫川村では、細長い田んぼが展開していることからサシバの生息に適した環境にあると思っている。しかし、放棄田が少なからず見受けられる。サシバの生息にとって重要なことは田んぼの営みを今まで通り継続すること。現在の地域の状況、生きものの生息状況を踏まえながら、地元住民間で話し合いながら取り組みを進めることで生きものが豊かな村づくりが実現するのではないかと期待している。

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■事例報告

(1)「里地里山のコミュニケーションデザイン」
報告者:高野孝子(特定非営利活動法人エコプラス代表理事)、笛木晶(栃窪区長・パノラマ農産社長)、阿部和義(清水地区活性化委員長)

自然と共に生きる叡智を、現代の教育に生かす道を探ることを視点に置き「大地とつながる」教育をめざしている。平成19年より手作業による米作りなど日本の伝統的自然農法を軸に人と自然のあり方を体験から学ぶプロジェクト「TAPPO南魚沼やまとくらしの学校」が開始されている。

1)TAPPOの概要
南魚沼市周辺では土地の言葉で田んぼのことを「たっぽ」という。これを事業名にした。NPO法人の他、集落、市、学校、外部の専門家と連携しながら活動している。事業のねらいは、今を生きる私たちが農山村の姿を捉えなおすということだ。栃窪、清水集落で取り組んでいるが、これをきっかけに広がることを期待している。
中山間地域は新潟県内でも重要なところだ。活動を行っていく中で今という時代だからこそ農山村は大事だと改めて感じ始めている。

2)栃窪集落における活動
住民約190名で65歳以上が38%。農家がほとんどで自然から物を取り出すという技術能力が高いことに驚かされる。この集落で生き物調べをずっとやっている。必ずしも珍しい生き物がいるというわけではないが、当たり前の生き物が当たり前にいるということに価値があると考えている。
農水省の農地・水・環境保全向上対策事業の補助を受けながらこのプロジェクトに取り組んでいる。基本としてこの地に暮らす人々の希望や誇りを考えることが重要だ。そこでまずは暮らしている場所をきちんと調べるということで始めた。
調査は地元の人を中心に外部の人も参加して行っている。いろんな生き物がいることが再発見され、地元の方にとっても驚きがあった。こうした感動を大事にしながら田んぼを通して、昔ながらの自然と人が調和して生きる知恵を体験的に学ぼうとしている。
昨年度田園自然再生コンクールでパートナーシップ賞を受賞した。住民が主体の取り組みだがそれ以外の人々と一緒にやっているということが評価された。

3)清水集落における活動
最も奥山に近いところにある里で日本百名山の1つ巻機山(まきはたやま)の山麓にある。人口は約60名、65歳以上は40%。今は水田で米作りがなされていない。一方で動物と植物の接点が多いところでここも自然から力を取り出す技術が素晴らしい。集落の案内看板を見るとわかるが、屋号で呼び合う文化がある。
住民を構成員として清水地区活性化委員会ができて、規模の大きくない集落の今後を検討し始めた。その中でもっと積極的に村以外の人々ともつながろうという意見が出て山里ワークショップというものが始まった。元々登山客が多かったが、そうしたお客さんとしてではなく、一緒に地域作りに関わりあう仲間として外部の人を受け入れるという取り組みだ。ナメコの菌打ち等の体験活動から始めた。標高が高いところで採れるナメコは特別おいしいという定評もある。外部の人と一緒に活動し話し合うということがポイント。外から来る人はいろんな考えや発想を運んできてくれるということもありそれが新たな地域づくりのアイディアにつながる。
 今、耕作放棄されたところを生き物が多い場所に再生させていくということに取り組んでいる。昨年水を入れてみたらいろんな生き物が戻り始めている。水が豊富なのでいくつかの池を作ることで生き物がもっと戻ってくのではないかという専門家の提案もある。また小さな棚田の存在そのものに文化遺産的な価値があるのではないかとも考えられ、様々な可能性があると思っている。
 年間を通じた整備を様々な人々と共に行うことに意味があると考えており、木道などの施設整備も手作りで行っている。生活に直接使う多様な生物を増やしたり、集落の人が自然と暮らしの案内人となり、生き物だけでなく漬物や食材をはじめ食文化なども含めた活用を行おうとしている。

4)都市-農村交流によって見えてきた農山村の教育力
 外部者と地元の方とが共に農作業、道具作り、郷土料理、除雪作業、年中行事や歴史などを学びながら行うという取り組みをしてきた。また、それら農山村での活動が持つ教育力についても分析を行ってきた。自然と調和しながら、互いに協力し合って生活してきた知恵や技術が新たな現代的な価値を持っていると考えるようになった。

5)災害の中で生かされた外部の人とのつながり
新潟県は今年7月の大雨で被害を受けたところ。南魚沼市でも田んぼに土砂が流れ込んだり崩れたりしたところがたくさんある。そういったところは稲が実っても機械が入らないので手刈りが必要となるが、そこにいろんな人々が手伝いに駆けつけてくれた。実働15日、延300人で田んぼ50枚の稲刈りを行ったがその半分以上は県外からの人。その多くが今までTappoの事業でかかわってくれた人々だった。観光客ではなく仲間としての意識で参加してくれたということが大きかったのだと思っている。

6)取り組みの現状とこれからの課題-地元の声から-

ア)地域全員で取り組む体制作りに向けた努力:清水地区
清水集落で活性化委員会ができたのは地区でナメコを作って少しでも活性化できればという単純な思いだった。活動の中で、昔はホタルやオニヤンマがたくさんいたなどの声があがり、生き物保全にも取り組むようになった。
活動場所の選定には課題がある。上流にため池があるが、途中に畑になっていて水を引くのに難があるということや、現場に至るまでの農地の畔をこわさないように配慮が必要など様々な条件がある。また、希少価値の高い動植物をどう守っていくかということも課題だ。保全看板の設置によって逆に存在をアピールすることになってしまうかもしれないし、過度に隠して行うのもどうかと思う、悩ましいところだ。また保全再生活動の結果、生き物によって戻ってくるものと戻ってこないものともいるのでこの辺も研究が必要だと思っている。
地域住民の中にはナメコづくりには関心があっても生き物保全には積極的でない人たちも少数だがいるので、そうした人たちにも配慮していきたい。昔のことを思い出しながら少しずつ全員で取り組めるような形をつくっていきたいと望んでいる。

イ)連携を活動の力にしていくこと:栃窪地区
外部者とともに田んぼづくりを初心に帰って取り組み始めた。活動では田んぼにはいろんな生き物がいてそのこと自体が希少価値のあるものになっているということに気づかされた。学校との連携、都市との連携を作っていくことが大切だ。そのためにも今後の方向性として環境教育ができる場所としての位置付けができればよいと考えており、化学肥料や農薬に頼らない農業を目指したいと考えている。

(2)「企業ボランティアと生物多様性保全」
報告者:櫛部健文(NECフィールディングCSR経営推進部長)

生物多様性と一口で言っても幅が広いので、どのように企業が取り組めるのか悩みながら活動している。当社は東証一部に上場しているがNECの子会社で、ICI機器の保守(スーパーコンピュータからネットワーク、パソコンまで)とソリューションを提供するサービス会社。日本全国で400拠点、海外にも事業展開をしている。こうした多くの拠点ネットワークと人が資産という会社の特性を生かした取り組みを行っている。

1)社会貢献活動の原点
CSRという概念が国内に持ち込まれる前から社会貢献活動には取り組んできた。しかし当時こうした活動を会社としてどういう位置付けで行うかというコンセプトらしきものはなかった。それぞれの地域で思いつくことをやってきたという側面が強い。その一方でIT技術を生かして活動実績を独自の集計システムで把握するということはしてきた。それを元に検討を重ね、今コンセプトらしきものが設定できるようになり、更なる取り組みの展開を図ろうとしている。

2)CSR活動と社会貢献活動-全方位にわたるCSR活動を目指して-
CSRマネジメントフレームとして5つ分野(ガバナンス・アカウンアビリティ、雇用、マーケット、環境、社会)を設定し一貫したコンセプトの下、全方位にわたる活動を目指している。中でも社会という分野では社会貢献活動や地域との共生、NPO/NGOとの連携、海外支援というキーワードに加え、生物多様性への取り組みを盛り込んでいる。

3)「FIELDING社会貢献倶楽部」の概要
社の特性を生かし活動の質的向上を図ろうと、平成20年3月、「FIELDING社会貢献倶楽部」を設立した。積極的な社員を構成員にして会費を納めながら活動もするというもの。自分が提案もしくは賛同した活動に会費と会社からの拠出金を当て活動ができるようになった。こうして社会貢献活動に対するスキームの強化やクラブ員メンバー(運営委員)の議論により一貫したコンセプトや展開方針等が生まれるようになってきた。
現在クラブ員は250名程度、15チームが全国あちこちで様々な活動をしている。近日中にはさらに3チームが設立される見込みだ。社会貢献とは何か、どんな事をどういう風にやればよいのかといったことを講座を開きながら学んできた結果だ。

4)新たな活動のキーワードと生物多様性
従来からの河川や海岸の清掃、各地の市民マラソンの支援、学校グランドの整備等も継続する一方、研修活動の中で、「生物多様性」という社会の課題を知り、全国の拠点をテレビ会議で結んで検討し学ぶようになった。
こうして例えば従来森林整備だけを続けてきたチームもそれだけでよいのか、というような議論も出くるようになった。

5)社会貢献倶楽部における生物多様性に関連する活動事例

ア)「フィールディンググローブ・メンテナンス」チームの取り組み
あきるの市の奥山のほうで植林後放棄された森を手入れし再生することに取り組んでいる。昆虫や小動物が生息できない荒れた森林を間伐や枝打ち、草刈り等で整備することで下草や低木が生えるようにしてきた。この成果を生物多様性に配慮しながら間伐を行い実生を促すことでさらに促進させようとしている。

イ)あきる野「竹取物語」チーム
あきる野市の里山での取り組み。足も踏み入れられないようなところを道に戻して間伐を進め、シイタケ作りなど楽しい取り組みも行っている。イノシシの害などの地域課題への取り組みから地元のハンターの方とも関係を持つことができ、しし鍋などのおいしい体験もすることができた。自分たちにとっても近隣の人たちと実感できるようにやることが重要だと感じている。
今後はさらに生物多様性のことも意識した調査活動も進めていこうと検討している。オオタカ、フクロウ、テン、トウキョウサンショウウオなど減ってきたものを増やしていきたいと学習を深めている。

ウ)「マイ箸」チーム
間伐材等で「マイ箸」を作って持ち歩くというもの。なかなか野外での活動は苦手だという人でもオフィスで気楽に楽しみながら参加できる。女性でも参加しやすいという声もあり、5回の活動で200名以上が参加した。現在は幼稚園や福祉施設等への「マイ箸」寄付も始めた。

オ)インドネシア「フィールディングの森」植林ツアー
東カリマンタン州では森林火災のために広大な土地が焼け野原になってしまった。地球温暖化防止と生物多様性保全のために熱帯雨林の再生保護を目指して植林活動を開始した。特にオランウータンがダメージを受けているということもあり、オランウータンをはじめとする森の生き物が住みやすくなる森作りを進めている。

6)倶楽部と会社の連携による新たな取り組み-産官学連携プロジェクトの発足-
倶楽部と会社、あきる野市、明星大学の連携で、里山再生を目的とした連携化活動協定を結んだ。新しい技術や知見を導入しながら地域活性化など経済まで含めた取り組みを目指している。

7)今後に向けて-企業の技術力を生かした活動展開-
今後は地域活性化と当社との共生に向けた活動案として、スマートグリッド等の導入を目指して間伐材燃料や豊富な渓流を活かした小規模発電で経済効果を出したり、センサー技術を導入し、生物定点観測を行う等、新たな分野についても試行しながら自分たちの本業の技術力を使った取り組みが展開できればと考えている。青年会議所や自治会など地域の主体とも連携しながら自走していける活動にしていきたい。

(3)「新潟県里地里山に関わる施策と活動計画」
報告者:土屋恒久(新潟県農地部農村環境課)

1)新潟県の農業の概要と農村環境
新潟県は面積が全国5位で耕地面積は3位。農家戸数は5位でコメの産出額は全国1位。
水田中心の営農が行われており、農村環境を考える上で特に水田が重要な地位を占める。

2)農村環境を考えるための3つの視点-生産環境・自然環境・生活環境-
農村環境の捉え方として、生産環境、自然環境、生活環境の3つがある。都市では住む場所、働く場所、休養場所の関連が希薄であり、これらを別個なものとして取り扱われることが多いが、里地里山である農村環境ではこれら3つの環境が一体となっている。このため、1つを変えれば他の何かも変わっていくという相関関係があることに配慮することが大切である。例えば減化学肥料、減農薬による営農といった生産環境を変えることで、自然環境や生活環境が影響を受けることとなる。同じことが最近起こった土砂災害などでもいえるものと考えられる。

3)災害と農村環境
 今年は長野県北部地震による地滑りや新潟福島豪雨災害による増水や崩落といった災害があった。国土全体で防災意識が高まっており、これからの農村環境を考えるうえで、災害を見据えた政策が必要である。従来的な災害対策のイメージとしては、ため池やダムなどで水を止めるということが行われてきた。これからは、より広域的に捉え、生産環境や自然環境の観点も含めて、防災に取り組んでいくことが重要と考えている。

4)棚田保全と防災の関係-災害と裏腹の関係にある棚田の機能-
 農水省では傾斜20分の1以上のものを棚田と呼んでいる。山津波や地滑りといった災害地形上に造成されたものが多いことからも分かるように、棚田にすることによって災害を防止する機能を持つ。棚田があることで地下水が安定した状態となる。しかし耕作放棄地になることで地下水が上下して災害が起こりやすいという研究報告がある。このため、災害防止のためにも営農を続けていくことが重要だと考える。

5)災害に強い水田の形と圃場整備の今後のあり方
従来、効率性重視ということで圃場整備をしてきたが、土を大がかりに盛るなどの大規模施工は、地滑りに弱いとの指摘がある。したがって、圃場整備以前の旧来の棚田の形に戻すことも重要ではないかという研究が始まっている。中でも水田を等高線に沿った形状にする研究が新潟大学で進められている。これは防災面だけでなく、つぶれ地をなくすなどの営農上の利点や作業効率の点からみて、どの形状が最適かという研究でもある。今後は四角い単一化した形状のものだけではなく、地域の地形に合わせた圃場整備が必要とされ、そのためにそれぞれの地域ごとに形を検討し、営農される方々に十分な説明を行っていくことが重要となる。

6)洪水防止に向けた活動-田んぼダムの取り組み-
「田んぼダム」とは水田に水をためて、河川等への洪水の流出を止めるという考え。ダム中心の整備に加えて、ソフト対策として田んぼを利用して防災機能を高めようというもので、洪水の流出ピークをずらすことで地域防災力を向上させようとしている。

7)施設整備と課題
佐渡市の事例では、ビオトープ、魚道、マス、スロープ水路設置などがある。もちろんこうした取り組みは生き物にとって効果はあるが、すべての場所でこのような整備ができるわけではない。また人工物であるということから景観面に問題がある場合もあり、整備に関して十分な議論が求められる。

8)多様な主体と協働した棚田保全の取り組み
企業と地元を県が調整し、棚田の保全活動等を支援する活動をはじめている。
具体的には、一般企業がCSR活動の一環として、容易に棚田保全活動に参加できるよう、活動場所の相談・斡旋を行うとともに、棚田保全活動が適切に実施できるよう、必要に応じて専門家の派遣等を行っている。活動結果はホームページ等へ掲載し、更なる活動の展開を図っている。保全活動以外にも都市住民と棚田地域との交流人口が増大し、地域が活性化されればと期待している。

9)農村における環境保全の今後の方向性
 新潟県農村環境課では生産環境、自然環境、生活環境の3要素を一体的に捉え、次の方針を掲げて、施策展開を図ってく考えである。
ア)棚田の保全など中山間地域の農業を守る取り組みを進める。
イ)集落道路や汚水処理の整備など生活基盤の充実を図る。
ウ)都市と農村の交流を促進するため、企業や学校との協働を進める。
エ)農村の環境保全など、地域の魅力を高める取り組みを進める。

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■現地散策と意見交換
テーマ:「栃窪集落にて取組状況視察(生き物調べ)・計画策定ワークショップ」
パネラー:守山拓弥、高野孝子、櫛部健文、土屋恒久、深澤和基(新潟県小出高校教諭)
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

1)現地散策
地元栃窪集落の子ども達と共に集落周辺の水辺における生き物調査の様子を見学した。
指導者は深澤和基氏で、春から秋にかけて行っている。イモリやカエルの他モツゴなどの止水性の生き物を発見することができた他、休耕田を利用したビオトープでは、ミズオオバコなどの水生植物が戻ってきた現場等を見ることができた。

2)車座トークによるディスカッション
 現地散策会を踏まえて栃窪集落をモデルとして山間地域にいる水辺の生き物を中心とした生息状況についての確認を行った。子どもたちとの観察会では、止水性の水辺の他、清水型の水辺におけるサンショウウオ等の観察もよくなされており調査地として適しているとの報告があった。
これらの報告を踏まえ、集落最上流部の水源内では里山と水田とのネットワークがよくできていることから生き物が結構いるが、急峻な地形のため、それより下流の水田域では生き物を保持できる場所がたくさんあるわけではないという実態が指摘され、どのように生き物をとどまれるようにできるかということを視点においた保全活動が提案された。一方で既に確保されている里山に隣接する開放水面の保持に主眼を置くことが大事であり、水辺を無理につなげすぎることによって逆に外来種等の侵入の問題が出てくるので、この点を配慮する必要があるとの指摘もあった。
また、水辺空間は調査しながら守るということが大事であり、長い時間地域を見てきた地元の方々と共に情報を集めながら保全していくことが効果であること、これまでの取り組みを基礎にしながら行動計画を立てていくことで、生息する生き物を地域資源として再認識しながら、地域の活性化にもつなげていける取り組み展開可能性についても議論が交わされた。

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■まとめ
南魚沼市の中山間地域をモデルにして、これまで社会教育的に進めてきたところ、自然環境特性を生かして取り組んできたところ、生息する生き物に着目したところなど、集落を基本においた活動状況を確認することができた。これまでの多様な取り組みを生物多様性と地域活性化の観点から、国民的評価も得られる活動へと展開させる行動計画の作成プロセスについて、参加者ととともに議論を深めることができた。

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