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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 福井
湿地生態系の多面的な復元を目指して

日時: 平成22年11月27日(土) 9:00~17:00
場所: 安居公民館(福井県福井市)

福井市未更(みさら)毛(げ)川上流地区には、里地里山の景観と生態系が残されている。しかし、山あいの集落では高齢化が進み、水田耕作の担い手が減少し、ため池には外来種が増加し始めている。
今回の研修会では、この未更毛川上流地区をモデルにして、里地里山の魅力を活かす活用方法や地域外のボランティアとの協働のあり方について、現場を歩き、専門家とともに考えた。

1 講演
テーマ:「越前市の希少生物保全の取り組み」
講演者:長谷川巌(環境省希少野生動植物種保存推進員)

アベサンショウオやコウノトリなどの生き物は里地里山にとってシンボルとなる。地域再生には「お宝」が必要で、生き物にそれを求めるのは比較的容易だと考えられる。

1)アベサンショウウオについて
 トキやコウノトリと同じレベルの希少種であり、勝手に調査や採取ができない。京都方面にも生息していたが、調査の結果、越前市西部を中心に残っていることが分かった。越前市西部には他にも様々な希少種が生息し、福井県重要里地里山30に選定されている。

2)「人とメダカの元気な里地づくりビジョン」
希少種を保全し地域の活性化も考えていきたいと「人とメダカの元気な里地づくりビジョン」が作られた。農家と希少種が共に生きていける環境を作っていくことを目的として、地元を中心にしながら、指導員や専門家が加わり、さらに企業も賛助して活動が展開されている。企業CSRの先駆けだったともいえる。
何をどのように行えるのかを参加者に誘導するため次の5つの方針が設定されている。
1.希少な野生生物が生息する里山・生態系・希少種の保全〔基盤の整備〕
2.小中学生と住民の環境学習と自然体験活動〔活動の原動〕
3.保全指導員・達人の発掘・育成〔人材の育成〕
4.地域外の人との交流と協働・情報発信〔地域の活性化〕
5.希少な野生生物を付加価値とした商品や仕事づくり〔保全活動継続の糧〕
取り組みの中でよそからの目線が参考になることや、自然だけでなく食や住まい方など文化的な側面へも目を向けることの重要性が認識できた。

3)環境教育の重要性
子どもの環境教育を地域の保全再生の第一歩として最初に取り組んでいる。自然の中で体験学習をする子は自分で調べることができ、思いやりもある賢い子になるといわれている。また子どもが取り組むことでその背後にいる両親にも関心を持ってもらうということも大事だ。
ビオトープを作ってサンショウウオの産卵場所を造成し、経年変化をモニタリングしている。保全活動は一度整備したら終わりではなく、継続的なメンテナンスが必要。
メダカやサンショウウオをテーマに交流を行ったり、メディアに取り上げられることで、地元のモチベーションがあがり関心が高まった。地元の人脈や連携ができてくると調査や保全活動も早く進んでいく。

4)地域活性化へつなげるために
 ビオトープを作るなどの取り組みを、おじいちゃん、おばあちゃんまで含め集落ぐるみで行ったことで、地域の雰囲気が良くなっていった。次世代が立ち上がって産卵地やビオトープ作りに取り組み始めたところも出てきている。結果としてアベサンショウウオの産卵確認地が増えることとなった。
 しかし、地域の現実問題として過疎化高齢化の問題がある。だから活動が地域産業の活性化と結び付いていく必要がある。課題は多いが、生き物をブランドにして作物を売っていこうと「コウノトリを呼び戻す米」を取り組み始めている。メディアとの連携や、協議会ができるなど徐々に里地里山の保全活用に向けたネットワークが広がろうとしている。

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2 事例報告

(1)「勝山市の希少生物保全の取り組み」
報告者:平山亜希子(福井県自然保護センター)
代理:京田芳人(福井県自然保護センター所長)、坂本均(福井県自然保護センター)

福井県は約94%が里地里山である。県内で絶滅した生き物は24種類でそのうち15種類は里地の水辺の生き物であった。このことから面積は広いが質的には芳しくない状況であるということが分かる。

1)福井県重要里地里山30と里地里山保全活用推進事業
 「福井県重要里地里山30」は県内で絶滅危惧種が多いなどの条件を設けて設定したものである。地元から要望があれば追加して選定していきたいと考えている。「里地里山保全活用推進事業」は生態系の保全や地元主体の保全活動の推進を目的としている。保護センターの職員だけでは地域を回っての対策が不可能であり、地元の方々の協力が重要だ。地元学を実施し、調査と保全活動を積み重ねながら、保全と活用のための計画を策定していく。事業実施後は、地元主体で保全活動が展開できるよう保全協定を締結し、人的サポートと予算的サポートを行うような誘導をしている。

2)勝山市北谷地区の事例-希少種の保全再生と地域活性化-
 県内で唯一ミチノクフクジュソウが残っているところである。ミチノクフクジュソウは人が草刈りなど手をかけて管理することで日が差し込むような場所に生息する。年々個体数が減少していることから原因を取り除く必要が出ている。原因は、盗掘もあるが、管理放棄地が増えて十分に光が入っていないことがある。過疎化や暮らしの様式がこの20年で大きく変化したことが根本的な原因としてある。
 保全活動として、まず分布を把握し作業場所を選定したうえで、管理作業を再開して環境再生を図った。地元の方、小学校の子どもたちにも手伝ってもらった。いかに作業頻度や作業量を減らせるか試験調査しながら試みている。協力者を増やすためセンターが行う作業に福井大学や福井県立大学にも呼び掛け学生にも手伝ってもらっている。
 重要なことは、ミチノクフクジュソウを生かしてきた暮らし方を伝承すること。地元学の手法を取り入れながら、地域資源の調査と保全作業を行い、みんなで話し合い、計画を作っている。すでに行われている町づくりの取り組みに生き物の視点を加えることをお勧めしている。
活動の結果、ミチノクフクジュソウ以外にも多くの地域資源があることが確認された。これらを活かして人を招きたいと、エコツアーが実施された。古民家など、地域資源の再生と活用はできることは何でもやるという機運になりつつある。
里地里山の生態系と人の暮らしの両立を目指した活動は、生き物も含めて地域を見つめなおす自治会の増加を促している。継続のためには課題も多いが、学びながら楽しみながら行うことが大切である。

(2)「地域と地域外ボランティアが協力した三方五湖の保全・再生」
報告者:大下恭弘(ハスプロジェクト推進協議会会長)

三方五湖は淡水、汽水、海水という多様な環境で構成され、周囲には水田や梅林が広がっている。

1)ハスプロジェクト推進協議会の設立
我が国におけるハスの自然分布は琵琶湖と三方五湖のみであり、危機的な状況であることから「ハスプロジェクト推進協議会」ができた。外部と地元の住民の有志で作られており、自然と人、人と人のネットワークの再生を目指し、平成16年から活動を始めている。正会員は70名で、役員も含め半分は町外である。地元と外部者によって活動が展開している。他にメーリングリスト会員といった取り組みに賛同される方々が登録している。

2)湖と里のネットワーク再生ビジョン
活動組織として自然環境再生部会、環境教育活動部会、地域研究部会の3つがあり、次の3ビジョンが掲げられている、1.生活の中で受け継がれてきた湖のめぐみの見直し、2.多様な野生生物が生息する自然環境の保全と再生、3.人と自然のにぎわう地域づくりに取り組んでいる。

3)活動の展開-調査と保全活動から生き物の視点を入れた暮らしづくりへ-
 川での魚類調査では、ブラックバスやブルーギルなど外来魚ばかりが見つかる現状に驚いている。また、ヨシ原となった放棄田を10aほど復田し、魚が泳げるような農薬を使わない田んぼづくりに取り組み始めた。収穫は少ないものの、田んぼにカエルやフナなどの生き物やイヌタヌキモやミズオオバコなどの希少な植物が戻ってきた。手を入れることで、自然が再生することが実感でき、子どもたちもたくさん参加し体験を楽しんでいる。
 三方五湖の恵みを食べる体験やレシピ作り、食文化祭、アンケート調査なども行った。かつての地域の恵みが減り、利用もされていない。アンケートから湖の魚の食経験は年齢が低くなるほど少ないことが分かった。食べ方を知らないことや汚い、臭いなどの先入観が問題だと考えられる。イベント等ではおいしいなどとの感想も聞かれる。
 子どもたちに地域の良さを知ってもらう目的で、おじいちゃん、おばあちゃんに地域の生活を振り返って子どもたちに伝える取り組みをしている。子どもたちには地域の生き物を描いてもらい、それを風呂敷にして販売し協力金の収入源としている。
 他の地域の方々とともに生き物の視点を入れつつ、地域の活性化と暮らしが作れたらと願っている。

(3)「福井市未更下川流域の自然について」
報告者:梅村信哉(福井市自然史博物館)

1)地域の特徴
未更下川流域は福井県重要里地里山30に選定されている。レッドデータブックにある41種が生息しており、湿地にはハッチョウトンボが生息している。

2)ハッチョウトンボの保全について
 日本で最小のトンボで、成虫は5月中旬から8月頃までみられる。本州から九州まで分布しており、局所的に生息している。水辺から離れず成長し、日当たりがよく遊水地のある小さな湿地に生息する。水域の近くの草のあるところに移動して成長することから、周囲の草丈が低いことやその間の開放水面が必要である。こういう環境は遷移し喪失しやすいので、ハッチョウトンボが生息しにくい環境になりやすい。
 未更下川流域は土壌の肥沃度が低いこともあり草丈の高い草本が成長しにくいと言われる。こうしたことも起因してハッチョウトンボが高密度で存在しており、これをどう守るかが課題である。

3)水田やため池の昆虫
ため池と水田のネットワークやえさ場の雑木林が必要と考えられるが、まだ調査が必要。問題は、ウシガエル、アメリカザリガニ、ブルーギル、ブラックバス等の外来種である。

4)外来種対策の必要性
 外来種の駆除は順番が重要。生態系的に弱い種から駆除をしていかないと下位のものが増える。ウシガエルとアメリカザリガニでは、アメリカザリガニを食べるウシガエルを先に駆除してはならない。

5)昆虫からの恵み
 里地里山の昆虫を育んできたのは、昔ながらの人の農林業の営みによって形成された生息場所だ。農薬などの農法の変化なども昆虫の減少の原因となっている。
 昆虫は人に恵みも与えてくれる。イナゴは食用になり、ヘビトンボは孫太郎虫とも呼ばれ子どもの疳の虫に効くといわれる。昆虫を祀る風習もあり、昆虫からの恵みも視点に入れていくことが大切だと思う。

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3 現地調査・地元学・報告会
 現地調査では参加者が7班に分かれて、山、集落内、周辺の農地やため池などを地元の案内人とともに見て回り、撮影した写真やメモ書きを整理して発表し、里地里山の現状と課題について報告を行った。
周囲の里地里山環境の維持が経済的・人的理由から困難な中にあって、シイタケ栽培での雑木の利用や竹材を用いたイノシシ除けなど、地元住民それぞれの工夫が見られた。
ため池に関しては、深いものから浅いものまで深さに応じて生息する生き物が異なることが予想され、それを調べることでより保全対策のトーンがはっきりするのではないかといった意見が出た。関連して、外来種対策について、外来種が入っているため池とそうではないため池が接続して拡散してしまうことを防ぐ必要があることが話し合われた。具体的な検討の手法としては、外来種の生息する場所(ため池)を地図に落とし込み、別の地図にその他の希少種等の生き物がいる場所を落とし込んだ上で、この両者が繋がらないように全体的な検討を行っていく必要があるとの意見が出された。また、ホタルやハッチョウトンボだけでなく、その他のいろんな生き物にも目を向けていきたいとの意見が出された。外来種の影響を排除しながら、地域の希少種等の生き物を保全する環境の維持を図るためにはさらに詳細な調査研究が必要であるとの指摘もなされた。
また暮らしの視点では、囲炉裏を使っていたり、1年以上も持つ保存食を作っていることなどが分かり、生活文化の厚みも認められた。生物多様性の保全と暮らしのつながりを視点に持つ必要性を共有できた。里地里山の暮らしを体験できる観光や教育資源とすることができるのではといった意見が出された。

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4 まとめ
 湿地生態系の保全に関して、外来種対策を含めた細かい配慮や注意が必要なこと、特定の希少種だけに偏ることなく様々な生き物に関しても目を向けた保全対策が大事であるということを共有することができた。
また、里地里山の暮らしと生き物の生息環境が密接な関係にあり、地域活性化という点でも生き物の視点を導入することで商品などの経済的な効果を生み出す可能性があることを確認した。
 今回の研修会では、都道府県が主導となり、希少生物や生物多様性、里地里山における重点エリアなどを指定し、地域ごとの計画を立案、策定することが有効な方策の一つとして考えられることが分かった。さらに地域ごとの計画策定にあたっては、地域住民、第一次産業等との連携をはかり、持続的管理と利用の視点を取り入れることが重要であると考えられる。

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