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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 静岡
しずおか森林CSRフォーラム~生きものにぎわう森づくり~

日時: 平成22年11月8日(月) 13:15~16:30
場所: B・nest 静岡市産学交流センター(静岡県静岡市)

静岡県には、水源の森やフクロウをはじめとするさまざまな生物が生息する森があり、森と接する水辺や田畑を保全することで、生物多様性を保全することができる。森から水辺、田畑に目を向け、椎茸や山菜、果樹の育成に視野を広げると、さまざまな企業CSRの可能性が生まれると言える。今回の研修会では、生物多様性保全と地域再生の視点、地球温暖化対策の視点、社員や家族の癒し・心身のリフレッシュや定年後のライフスタイルの視点など、視野を広げて、里地里山をどう保全活用できるか、企業の参加者等と考えを深めた。

1 講演
テーマ:「フクロウの森づくりネットワーク」
講演者:長縄充之(グランドワーク西鬼怒理事)

平成17年からフクロウの保護活動を広げようと取り組み、これまでに全国で105の巣箱を設置している。1年に30羽前後が育っている。

1)フクロウと森の関係
 フクロウは人里近くの森の林縁部に営巣する。自分で巣を作ることができず大木などに空いた穴(樹洞)を使って子どもを育てる。しかし今はそういうところがあまりなくなっている。またフクロウは森の中段を飛ぶので、手入れがされなくなると飛べなくなって餌を捕れなくなってしまう。

2)フクロウの子育て
 かつては里地里山地域の鎮守の森ごとにひとつがいのフクロウがいたものである。一度に3、4個ほどの卵を産み、1か月ほどで巣立つ。メスが面倒を見て、オスがエサを運ぶ。雛は巣立つ前に一度地面に降りて他の木を登る性質があり、地面に降りた際に保護しようと勘違いし持ち去らないよう注意が必要である。雛の段階で他の動物に襲われることも多く繁殖率の悪い鳥である。近年では繁殖に利用できる樹洞を備えた大木の減少、手入れが行き届かないため狩りが困難な森の拡大、餌となる小動物の減少など、フクロウにとっては大変住みにくい環境となっている。

3)フクロウによる獣害駆除・軽減の効果
鳥は餌をとる時間が重複しないように住み分けている。フクロウは夜に狩りをするが、主な場所は人里近くの林を中心にそれに続く野原などである。獲物は主に畑を荒らす野ネズミやモグラであり、農家にとっては益鳥である。こうしたフクロウが生息できるよう管理された場所は、緩衝帯にもなりイノシシなどの獣が人里に出没することを防いでいた。

4)フクロウによる地域づくりの試み
 里地里山の益鳥としての位置づけから栃木県宇都宮市逆面町ではフクロウをはぐくむ里、フクロウ米の取り組みが始まっている。巣箱を設置することでフクロウの繁殖を促している。フクロウは水田周りの生態系の頂点にいる生き物であり、農作物に害を及ぼすネズミやモグラを退治してくれる。この特性を生かして町内の9割の水田で化学肥料や農薬を半分以下に抑えた米を作り販売して地域活性化を図ろうと思っている。米を入れるフクロウの陶器なども開発した。
 最近では企業も協力してくれたり、取り組みを利用してくれたりするところが多くなってきている。

フクロウを育む里 逆面

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2 事例報告

(1)「『しずおか未来の森サポーター』の取り組み」制度紹介
報告者:野地琢磨 (静岡県くらし・環境部環境局環境ふれあい課)

企業の森づくり活動において、森をいかに活用していくかをキーワードに進めている。これまで里地里山への企業の社会貢献をお願いするというスタンスであったが、今後は企業活動において里地里山・森の恵みをうまく活用するという考え方が大切ではないかと思っている。

1)「森づくり県民大作戦」
静岡県は富士山や南アルプスを抱え、スギ、ヒノキの人工林や海岸の松林が豊かである。材の供給と防災機能を持つこれらの森は、特に戦後植えたスギの80%が資源として成熟しようとしている。一方で手入れがされていない森林も増え、暗く下草が生えずに表土が流れ土砂災害の危険が高まっており、間伐材についても林内に放置されてしまう状況がある。良質な木材提供と生物多様性の保全に向けた活動の必要性が生じている。森林資源を次の世代に引き継ぐためには企業の力が必要で、育てる、使う、植えるという循環を学び伝えていくことが重要と考える。
「森づくり県民大作戦」では「未来につなげる森づくり」をテーマにして県民主導型の森づくり活動の拡充を進めている。森づくりの自主的な活動を行う団体も248団体を数えるようになっている。竹林の整備や海岸林の植樹作業などの活動が広がりを見せている。

2)「しずおか未来の森サポーター」
 県がコーディネーターとなって地域と企業の間を取り持っている。森林整備へのサポーター、森林環境教育プログラムへのサポーター、森づくりボランティア団体へのサポーター等のメニューがあり、活動実績に応じてサポーター企業に認定証を発行している。認定証には活動面積に応じて、二酸化炭素の吸収量も算定して渡しており、活動の証である「SMILEラベル」も発行している。
 現在サポーター協定企業は20社ほどあり、それぞれ海岸松林等の植林、間伐活動、子どもたちの森の体験活動、ツリーデッキなど森の施設整備活動などに取り組んでもらっている。その他に相談会、フォーラム、研修会やバスツアーでの森林活用術の学習会などを提供している。企業では、直接現場作業に関わる活動だけでなく、間伐に貢献する紙の利用を促進する「ふじのくに森の町内会」などの取り組みも広がりを見せようとしている。オフィスでできる森づくりとしてより多くの企業にかかわってもらいたい。

(2) 「『しずおか未来の森サポーター』の取り組み事例紹介」
報告者:松島俊彦 (NTN株式会社磐田製作所 安全・環境管理課)

NTN株式会社は企業として環境基本方針を作っている。環境にやさしい製品、ものづくり、環境管理体制の充実、そして自然環境保護への取り組みをうたっており、環境保全活動をCSR活動に位置付けて進めている。
 現在、NTNでは磐田で「しずおか未来の森づくりサポーター」活動に取り組んでいる他に、岡山で「企業の森づくり」、長野県でも駒ヶ根や箕輪で促進事業に取り組んでいる。最近桑名でも三重県と話し合って活動地を決め取り組みが始まった。
 磐田製作所では、事業所の16㎞北方の森で地元と平成15年から「緑の活動」を進めてきた。これをさらに拡大していこうとサポーター制度に調印し始まったのが現在の15haに及ぶ活動である。内容は、草刈り、散策道の階段づくり、池づくりといったもので、今後は観察デッキやホタルの増殖事業、野鳥観察のための森づくりなどにも取り組もうとしている。
 課題は、里山や動植物の知識や活動事務局の運営手法が必要だということ。また、地元の了解ということが大変重要で、特に活動地の地権者が多い時には同意を求める調整など地元の区長さんの協力を得るなど丁寧に進めることが大切。活動の結果等を報告したりワークショップ等で評価を受けながらやっていく方がよいと考えている。
 ボランティアの募集は社員に対して行われるが、休日にボランティアを行うのは難しく当初は大変苦労した。作業と同時に楽しいイベントをセットしたり、昼食等を準備したりするなどの配慮が必要である。
 企業側のメリットとして地元から評価を受けたり、外部への報告で企業評価が高まるなどの点があげられる。何度も表彰や感謝状を受けておりモチベーションを高めることにも役立っている。地域とともにこれからも地球環境にやさしい事業活動を行っていきたい。

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3 ディスカッション
パネラー:長縄充之、松島俊彦、増田章二(静岡県 暮らし環境部)
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

おもに森林における生物多様性の保全策について議論がされた。
増田氏からは、静岡県の環境の多様性について説明があり、最近の野鳥の増減について指摘があった。また森の整備の重要性を指摘しながらも、整備の方法によっては生き物が逆にいなくなってしまうこともあるため、多様な環境が残るような工夫も必要だという話があった。
長縄氏からはフクロウの保護に関連して森林そのものの整備を一緒に進めるとともに隣接する農耕地があることが重要で、こうした里地里山の民家周辺を特に維持管理していくことが大切であるという説明があった。
竹田氏からは、松島氏の事例報告を受けて、企業CSR活動の次の段階として専門家を交えることで生物多様性保全や持続可能な里地里山の維持保全をさらに進めていくことができるという指摘があった。
関連して松島氏からは、今後生物多様性の保全などを視野に入れホタルの増殖や野鳥のための森づくりをしていく予定であることが述べられた。また、企業でも心が病んでいる人がここ最近増えているのではという指摘を受けて、次のステップとしてはそういう社員への癒しや健康ということも視野に入れた活動を考えたいという話があった。

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4 まとめ
今回の研修会から、従来の市民による森づくりボランティアに加えて企業による森づくり活動が多様な展開を見せながら里地里山の維持保全、生物多様性保全に貢献する可能性が垣間見られた。里地里山の保全再生に企業CSRの活動が誘導できるような制度設計、コーディネート、そして技術指針等の提示が重要であることも改めて確認できた。
今後の里地里山保全再生活動においては、従来の市民ボランティア活動と共に企業のCSR活動が協働連携できるようなプラットフォームづくりやモデルプログラムを構想していく必要性があると考えられる。

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