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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 千葉
バイオマスの地域循環

日時 平成22年10月23日(土)13:30~16:30
場所 さんぶの森交流センターあららぎ館(千葉県山武市)

里地里山の保全再生には、整備に合わせた資源循環、活用のしくみが必要になる。千葉県山武市では、杉の活用、有機農業の推進に加え、企業と連携した里山整備、学校や公共施設での木質ストーブ、ボイラーの導入、木質プラスチック工場の誘致など、地域内循環による里地里山保全の取組を続けている。里地里山の保全と資源循環のネットワークについて現地を見ながら検討を行った。

1 講演
テーマ:「バイオマスの地域循環について」
講演者:大場龍夫(株式会社森のエネルギー研究所代表)

「バイオマス」とは、「生き物の資源」のことで、たくさん「バイオマス」と呼べるものがある。日本は先進国でも森林に恵まれており、いわば『森林バイオマス王国』とも言える。ところが環境負荷を与える化石燃料を大量に使うようになって、十分な活用がされていない。
木を使うことでも二酸化炭素が出るのではないかという指摘がある。しかし木は育つ際に二酸化炭素を吸収しているので、木を活用することでは、二酸化炭素は増えも減りもしない。これを「カーボンニュートラル」と言い、この循環を続けていくことが重要である。

バイオマス

持続可能な社会の条件として、国の25%のエネルギーをバイオマスで賄っているスウェーデンのナチュラルステップ運動では次の4つの条件が掲げられている。
1.地下から掘り出した物質を自然界で増やし続けてはならない。
2.人工的に作り出した化学物質を自然界で増やし続けてはならない。
3.自然界の循環を支える基盤を破壊してはならない。
4.世界の人々の必要を満たすために、資源は公平かつ効率的に使用されなければならない。
森、水、農地、海の豊かさを維持していくために、特に森は自然循環の要の役割がある。森林は、放っておいては維持ができない。生き物も面倒をみる必要があるように、森も面倒をみる必要がある。日本の森林の約40%は人工林であり、手入れをすることが前提となる。手入れをすることで光が入り空間ができる。低木や下草ができ、立体的な生息環境で生き物がねぐらや食物を手に入れることができ、生物多様性を確保できる環境が整えられる。しかし今、木材が売れなくて面倒を見ることができなくなっている。
 森の面倒をみる際に、木を使うことが重要で、木を使いながら森を手入れし続けることが大切。こうしたことから木材のバイオマス利用は魅力的である。次の観点からも持続可能な社会で森が活躍することは間違いないと考えられる。
1.永久に使える。
2.力のあるエネルギーであり、貯めることもでき、利用しやすい。
3.公害になりにくい。
4.燃やした灰(木灰)も有効な資源になる。
5.様々な資源として使える。
利用の仕方としては伝統的な薪や炭の活用も見直されている。また、ペレット、チップボイラーのほか、発電や木質プラスチック等、様々な新たな利用の仕方も開発されている。
森林の恵みを最大限生かすバイオマスいっぱいの未来の暮らしをイメージしたとき、新たな生活や仕事のスタイルが提案できるのではないだろうか。

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2 事例報告

(1)「さんぶの森の活動」
報告者:小出浩平(NPO法人Return to Forest Life)

ワタミ株式会社は、外食産業を軸としながら介護や弁当等の宅配事業なども行っている。また山武を拠点としたワタミファーム(有機野菜に特化した農業事業)やワタミエコロジー(環境事業)等の環境関連事業も手掛けている。「美しい地球を美しいままに、子供たちに残していく」がキャッチコピーである。会社として社会に対して環境負荷を減らしていくことを約束しており、循環型社会を作っていくための独自の6次産業化に取り組んでいる。その一例として外食産業としては初の試みだが、生ごみを堆肥化して山武市に納入し、それを使って有機野菜を作るということを行っている。

1)ワタミの森の活動
ワタミの森の取り組みを山武市で行っている。木が使われなくて森が荒れるという状況に対してささやかな取り組みであるが、「焼け石に水」はワタミではむしろ良いことと思っている。焼け石に水を入れればジュっと音がする。こうしたインパクトが世の中を変えていく原動力ではないか。国内の森林再生と環境教育に取り組みながら主要事業の二酸化炭素排出量のオフセットを目指したい。現在は9haほどの広さであるが、森を紹介してもらえれば連携してやりたいと考えている。この活動の受け皿が「NPO法人Return to Forest Life」である。

さんぶの森の活動

2)NPO法人Return to Forest Lifeの活動
平成21年までは間伐を中心に行い、今年は間伐材を利用して地元の建材屋さんの協力で、ワタミの森活動で使用する更衣室などを作ったりしている。将来的には、お店や介護ホームの内装材などにも利用していきたい。カーボンオフセットについては、森林再生を支援するために高知県のオフセット・クレジット(J-VER)を利用した「カーボンオフセットカクテル」を販売している。また、ペレットストーブやボイラーの導入も計画しているところである。
「ワタミの売り上げが良くなれば、森も良くなる」と言われるように頑張りたい。

(2)「有機農業と地域循環」
報告者:富谷亜喜博(農事組合法人さんぶ野菜ネットワーク)

環境に負荷を与えない循環型の農業の取り組みを20年以上続けてきた。有機農業に取り組むきっかけは、一般的な農業が環境に負荷を与えるだけでなく、自分たち農業者も危険にさらされる心配を自覚したから。現在のように食の安全安心が叫ばれる以前のことで、外から言われたわけではなく、自分たちの自主的な取り組みとして始めた。
現在組合員数は51名。JAS有機認証を受けているのが45ha、特別栽培が45haで、登録面積は92ha。次の5つの基本合意事項に基づいて野菜の生産活動を行っている。
1.土壌消毒剤・除草剤を使用しない。
2.化学肥料を使わず、堆肥・緑肥作物による土づくりを重視する。
3.特定の品目に偏らない作付けをし、輪作体系を重視する。
4.取り組む耕地を明確に特定し、登録する。
5.「いのち」に直結した食べ物を提供することを常に認識し、消費者と顔の見える関係作りを目指す。
 消費者に生産の現場を知ってもらうための交流を続けている。今年は、消費者との稲作体験が21回目を迎えた。新たに、ニンジンジュースなど加工品の開発、生物多様性の意味もあり、在来種の保存の取り組みを始めている。在来種の育成と保存は大変難しいことを実感している。新規就農の受け入れもしている。
 バイオマスに関しては、さんぶ杉の炭を農業の土壌改良に使えないかと試している。また豚の飼料に炭を加え、肉質の改善や排せつ物の堆肥化などを試している。炭は微生物のすみかになるため、効果が期待されている。地域にあるものを有機農業で使っていきたい。

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3 見学会
地域のバイオマス循環の現場を見学した。バイオマス体験棟、ワタミファーム、ペレット・木質プラスチック工場を訪れ、周辺の里地里山環境の現況も確認した。
現場のそれぞれの担当者の話から、木質バイオマス利用の試みや有機農業の取り組みにおける環境負荷軽減・安全安心面の利点がある一方、安定的な販売ルートの確保やコスト面における経営リスクなどの課題点も考慮に入れる必要があるとの話があった。ワタミファームでは、生産した野菜を系列の店舗で提供しており、また、木質の割合が低くても木質プラスチックと呼んでいるところもみられるが、この木質プラスチック工場ではできる限り木質の割合を増やす努力を進めているという説明があった。
今後の里地里山資源の活用を地域で促進させる方向性について実際の現場で考えることができた。

バイオマス循環の現場

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4 まとめ
 今回の研修では、手入れが行き届かない地域の里地里山の保全再生手法として、企業の森林整備、有機農業と地域循環、バイオマスの燃料化、木質プラスチック等新たな活用による地域循環のしくみづくりを研修した。
また、午前中に訪れた森林整備の現場では、森林から流れ出す水の経路を確認して、下流側にあたる水田や水路との生態系のネットワークづくりを行うことで、林内とそれを取り巻く田んぼや水路の生物多様性の復元に寄与できることが指摘された。
 里地里山保全を継続するために、多様な主体の連携として、企業のCSR活動との連携や、整備後に発生するバイオマスの産業活用によって地域経済との結びつきをつくることが重要だと考えられる。

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