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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 京都
企業・都市との連携で拓く 里山の保全活用と新しい仕事・生き方

日時 2010年1月28日(木) 13:00~17:30
場所 メルパルク京都(京都市)

研修会の様子

 京都市にて里なび研修会を開催しました。今回の研修では、都市的な生活の中に里山の資源を取り入れたり、新たな生き方の場としての里山など都市や企業と里地里山の連携のあり方について事例を元に研修を行いました。

■事例1
21世紀の生き方、暮らし方を求めて
~綾部発のコンセプト「半農半X」と「綾部里山交流大学」の観点から
半農半X研究所代表、NPO法人里山ねっと・あやべ情報発信担当 塩見直紀

塩見直紀氏

 縦軸に「農ある小さな暮らし」と「農のない大きな暮らし」、横軸に「嫌々仕事」と「天職」をおいて、自分の位置を「農ある小さな暮らし」で「天職」に近づくように取り組み、「半農半X(エックス=天職、生き甲斐)」という言葉を生み出しました。綾部から国内外に発信中のコンセプトです。
 今年は「生物多様性」が脚光を浴びますが、「使命多様性」という観点もあると思います。生物にはそれぞれに使命があります。鳥には鳥の、植物には植物の、人にはそれぞれの人の使命が果たせるようにすることが大事です。
 里山ねっと・あやべでは、「里山力×ソフト力×人財力」をコンセプトに、米づくり塾、森林ボランティア、農家民泊コーディネート、田舎暮らし相談、綾部里山交流大学などの事業を行い、綾部ファンづくり、交流や定住促進、情報発信を2000年から行っています。
 綾部里山交流大学は、廃校した学校を使い、交流デザイン学科の座学と専科、里山生活デザイン学科の実技講座を行っていますが、「あるもので、ないものをつくる」「大好きなまち・むらで社会的な仕事を創る」「すべての人が社会起業家になる時代に向けて」の3大テーマを立てています。綾部には、半農半Xの人たちがたくさんいるし、そうしたタイプの人材の移住も増えています。農家民泊をはじめたおばあさん、専業農家だけれど、冬には海外で写真を撮る方など働き方、時間なども様々。人口約3万7千の綾部市ですが、「21世紀の綾部像」として、人口の10%が、もの作り、こと起こしをできる人となり、地域資源を活かし、さまざまな交流デザインによって、価値を創出し、情報を発信し、持続可能で魅力的なまちへと変わればと望んでいます。そんなビジョンを持ち、感性豊かに楽しく地域資源を探し、世に活かしていきたいと思います。

■事例2
里山を暮らしの経済につなぐ 市民参加の里山保全
NPO法人里山倶楽部理事 寺川裕子

寺川裕子氏

 大阪府南河内郡河南町で「南河内水と緑の会」として1989年から活動を開始しました。田畑、人工林、竹林、果樹園、放棄地ありという典型的な都市近郊の里山です。1995年に里山倶楽部として新たに団体を設立。1989年頃は「里山」という言葉も聞かれなかった頃で、炭焼きをはじめると100人ぐらい集まりました。それくらい炭焼きが珍しかった頃です。NPO法人には2002年になりました。
 「好きなことして、そこそこ儲けて、いい里山つくる」がコンセプトです。
 任意団体設立1995年から「好きなことして」森づくり、文化伝承、環境教育、人材育成をはじめました。NPO法人化02年から「そこそこ儲けて」と、生産・販売、コミュニティビジネス、受託事業、協働事業などを本格的に取り組み、行政との協働もはじめました。
 これからが、次の段階「いい里山つくる」です。里山倶楽部自然農場、里山源流米の森・活性化機構(活性会)、森林整備士養成技能講習、森づくり台帳・森づくりマニュアル作成、造林補助事業の活用、仮)かなんの桜プロジェクトなどをスタートしています。
 里山倶楽部の特徴は、「自由に増殖する多細胞型組織」形態です。いくつもの企画があり、それぞれに自ら独立採算制で自主的に行います。事務局は立ち上げや運営の支援をしますが、事業収入と支出は個々の運営担当者が管理します。赤字が出ても責任は運営担当者です。さらに、事務局にはあらかじめ5%の共同運営費を組み込み、案内PRや申込み、支払い等の業務をします。そうやって里山から生産物を売ったり、ノウハウを売って継続させます。
 企業とも連携し、企業がCSRとして費用負担したり、自ら参加する、あるいは、子どもたちの参加を支援するなどの調整も行っています。企業も、行政も、具体的な提案をしなければ里山のことが見えてきません。そういう役割を里山倶楽部が果たしています。

■事例3
京都府木津川市 鹿背山元気プロジェクト
独立行政法人都市再生機構西日本支社
関西文化学術研究都市事業本部事業部事業調整課 山村達也

山場淳史氏

 都市再生機構は関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)のまちづくりを行っています。鹿背山はこの都市内にあり、3町が合併して誕生した木津川市の中心部で、JR木津駅からも近く、京都と大阪から30km圏内の都市に近い里山です。
 鹿背山は古くは万葉集でも詠まれているほどの古く、歴史のある土地で、すぐ近くには恭仁京というかつての日本の都もありました。鹿背山のある木津北地区は、社会経済状勢の変化などから当機構による開発事業は中止となりましたが、学識者を始めとする専門家も交えた委員会での提言や、地元からの里山復元の要望もあり、地元、周辺の新住民、森林ボランティアと連携して、里山再生活動、自然環境保全活動に取り組んでいます。
 ひとつは「鹿背山倶楽部」で、主に新住民のリタイア層が、荒廃した里山の再生、放置竹林伐採、ビオトープづくり、竹炭焼き、道づくりを行い、子どもたちの活動でも指導者などをしています。
 「鹿背山元気プロジェクト」は、地元住民中心で、アカマツ林再生、休憩スペース整備などを行います。地元の農家の方々も活動に参加しています。
 「里山オーナークラブ」は、里山愛好家が機構所有地での活動をしています。立木の伐採、自然材を利用したキノコ栽培、クラフトづくりなどです。
 このような里山再生活動などを行ってきたこともあってか、木津エリアにいたオオタカが、ここ2年は連続して、鹿背山に営巣するようになりました。
 今後は都市再生機構として、大学や地元などと連携し、里地里山保全の新たな実証フィールドとしての活用や耕作放棄地の活用、CSRの活用の場の提供など、様々な取り組みをまだまだ広げることが可能ではないかと考えています。例えば、里山改善によるCO2排出削減や竹の新たな価値の創出、カーボンオフセット化や、生活者の視点から、健康、食の安全、食育、スローフード、環境など、農をキーワードにした「農あるまちづくり」などの取り組みができると思います。

■事例4
府民ぐるみで京都の森林を守り育てる「京都モデルフォレスト運動」
公益社団法人京都モデルフォレスト協会事務局次長 栗山真幸

栗山真幸氏

 「モデルフォレスト」とは、92年、世界地球サミットが開催され、その際にカナダが提唱した持続可能な地域づくりの実践活動です。カナダでは森林整備、木材活用、森林生態系、野生樹、水質、生息魚類の調査などが活動の一環で、住民、ボランティア、NPO、NGO、企業、行政が連携して進めています。ある地域に住んでいる人は、そこにある森を共有しているというという考えに立ち、地域ぐるみで支えましょうという活動であり、ネットワークとパートナーシップがキーワードです。
 ステークホルダーが広がると所有者の高齢化、不在地主による荒廃、獣害、間伐材のエネルギー化、教育化、花粉発生の対応など、それぞれの立場での様々な課題が見えてきます。企業、行政、大学、ボランティア団体などが集まり、ネットワークを形成します。プロジェクトを立て、そのプロジェクトを実行するために、企業が資金、大学や専門家が調査、ボランティアが整備を実施するなどの仕組みをつくることになります。
 森林の公益的機能をお金に換えると大きな金額になりますが、公益的機能を発揮するには森林が健全であることが前提です。京都府内では放置された森林が増加しています。
 森林所有者だけにまかせるのは限界があるので、森林を守り循環利用をするために、2006年に協会を設立、活動を開始しました。
 協会では、フィールドの紹介、地元との調整、企業等の紹介、CO2吸収量算定による活動認証、森づくり活動のコーディネートなどを行っています。
 今後の、自立・循環・継続のためには、

  1. 企業等の参加による森づくり活動や木材利用の拡大
  2. 府民の主体的な森林づくり活動への参加促進
  3. ビジネスモデル等の検討

が必要です。

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■ディスカッション

 事例発表者と会場からの質問や意見をもとに、都市や企業の里地里山保全への関わりについて議論を行いました。
 キーワードとして、ワークシェアリング、多様な生き方、里山に触れることで、生き生きとした感性を生み出す、里山の保全活動そのものが、都市の住民や企業人にとってのリフレッシュにつながるなどが出てきています。

■講演
「企業活動における里地里山・山村の活用」
東京農業大学教授 宮林茂幸

宮林茂幸氏

 日本の8割近くが、森林や里地里山などに相当します。その里山で80代のおばあちゃん達が、グループで1億円稼いでいたりする例がありますが、後継者はいません。こうしてみると国土の肝心なところはすべてお年寄りにまかせていることになります。里山保全や森林保全のボランティアも高齢者が多くなっています。このようなことで日本の国土は守れるのだろうかと疑問です。100年前、日本は森林の5割を伐った歴史があります。そのときは各地でたくさん災害が起き、尊い人命が失われ、田畑が失われました。これを防ぐために国を挙げて植林活動を進め、「山を治めるためには、木を植えること、川を治めるためには植林すること」として治山治水事業を行いました。その結果、今日では、国土の約7割近くまで森林を回復してきました。ところが、その70%に及ぶ森林が木材価格の低迷により、管理ができずに荒廃しており、現在は木を切らないで放置し、荒らしています。そこで、次世代にみどり豊かな国土環境を残すためにも、全員で里山や森林に手を入れ、守っていく必要があるのです。
 そのためには、パートナーシップがキーワードです。行政や地域社会だけでなく、企業や都市あるいは学(大学や研究機関)が加わった総参加による森林づくり、すなわち国民総参加でやっていく参加型社会が大切です。日本の自給率は、食料がカロリーベースで39%。木材が22%ですが、本来は、わが国は食料も木材も高い数値での自給率確保が可能なのです。
 日本の上流域が生産域、下流域が都市で消費地とすると、相互が対等に協働で繋がり、お互いが責任を負い、本物をつくり、消費する関係を持続することが重要です。そこに、都市と山村、山村と企業、地域と企業が結ぶ21世紀型の新たな協働社会が創造できます。
 里山保全とは、裏山があって、生きものがいて、農業や生活、里の遊びなど、里山と人々の暮らしがあって植物循環や生物多様性を守っています。それが世界に誇れるものとして「SATOYAMAイニシアティブ」になる。里山は、森林以上に、都市の微気候の緩和や災害時の避難場所、そして教育文化などの機能がある。都市化が進んだ今、里山に入ろうにも、入り方が分からない、入らせ方が分からない、という状況が多いため、両者をサポートする中間セクターが必要です。そこでは、自ら活動するとともに、中間セクターになる人たちとその組織づくりが重要です。私も、世田谷区と川場村(群馬県)の縁組み連携に30年近く協力してきました。当初年3万の交流人口が79万人になり、農産物販売所(道の駅)などの施設が40億円の売り上げとなり、地域が元気になり、山の管理もはじめました。上流と中流および下流域が連携する流域経済圏という発想で、都市と里地里山がつながることが大切です。

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