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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 北海道
里山を担う人づくり、地域づくり

日時 2009年12月21日(日)
場所 黒松内ぶなの森自然学校研修所

研修会の様子

 環境省里地里山保全活用「里なび」研修会を、北海道寿都郡黒松内町の黒松内ぶなの森自然学校研修所にて開催しました。黒松内ぶなの森自然学校は、酪農地帯の北海道黒松内町南作開の生涯学館(元作開小学校)を拠点に、地域とともにエコツーリズムを通した、地域との交流と教育(人材育成)を行っています。

 研修会では、里地ネットワークの竹田純一事務局長が主旨説明と「里地里山保全再生計画」の策定手法について解説しました。
 里地里山は、人間が農業など生産や営みのなかで自然を人為的に活用して生み出されたものです。そこに住む生物にとって、四季を通じて繰り返される人間の営みは「自然」な行為であり、生物の生命のサイクルの中にはまっています。人間も、生物の営みとともにあります。農業で微生物の力を借りてたい肥を作り、作物を育てています。里地里山の中で、人間の営みと生物多様性が調和し、維持され、循環しています。里地里山の保全とは、この調和を保つことです。

「里地里山保全再生計画策定の手引き」
里地里山保全団体等のNPO、行政、企業の方々は、保全再生の計画を立てる上で、どのような地域を保全するのか、その際の視点、地域の課題や活用の可能性を抽出するための調査等の手法、保全再生の試行方法、計画立案、実行、評価、計画の見直しのサイクルの方法などの視点で見てください。里地里山保全の上で、重要なのは、地域の中で全体を見通し、意見調整ができるコーディネーターの力量です。

事例発表1 概要
■「人づくりから始まる里地里山の再生~森に関わる産業づくり」
奈須憲一郎(NPO法人森の生活代表 北海道下川町)

奈須憲一郎氏

 北海道下川町は、環境モデル都市として、持続可能な循環型森林経営を柱に、地域の環境と生活を成り立たせています。林業を毎年50ヘクタールを切り、50ヘクタールを植えていくという60年サイクルを確立し、さらに自然保全ゾーンなどを設けています。
 一次産業である林業だけでなく、二次産業としての木材加工にも力を入れ、ゼロエミッションの考え方から、小径木、中径木の利用、木炭生産や樹皮などの活用、枝葉のエッセンスオイル抽出や木質バイオマス燃料の活用などを行って環境と経済を両立させてきました。同時に、FSC森林認証を取得し、環境への取り組みをPRしています。
 さらに、三次産業の面で、NPO法人森の生活が、森林認証の森での「癒し」や、森林からの精油を使ったマッサージなどにつなげています。
 環境と調和した少し先の社会のモデルを作ろうというテーマがあります。
 自然環境の保全には、子どもの頃からの体験が必要です。下川町では、3歳児から月1回森に行き、森で遊びます。小中高校で年1回は森で遊び、体験します。体系づけた森林環境教育を行っており、森林ツーリズムとして産業ともつながります。外から来る修学旅行生を高校生が指導するなどのしくみを現在導入しつつあり、地域で育つ子どもが、地域で働けるようにしていきたいと考えています。

事例発表2 概要
■「大沼ふるさとの森プロジェクト」
宮本英樹(NPO法人ねおす専務理事)
岩井尚人(岩井環境プランニングオフィス代表)
前川直之(JR北海道開発事業本部専任課長)

宮本英樹氏
岩井尚人氏
前川直之氏

 NPO法人ねおすは、環境保全、まちづくり、社会教育や子どもの健全育成などを柱に、北海道内でエコツーリズム、自然学校をはじめ、様々な活動を続けています。昨年度の里なび研修会では、北海道七飯町で、大沼地区周辺、苅澗川周辺をモデルとした里地里山保全再生計画策定手法の研修会を実施しました。
 今回の里なび研修会では、この1年間の取り組みや計画策定の状況などについて報告をいただきました。
(前川さん)現在、NPO法人ねおす、地元の自治体、学校、町内会をはじめとした様々なネットワークが形成されつつあり、「大沼ふるさとの森プロジェクト」の構想が生まれています。すでに、大沼ふるさとの森自然学校が設立され、様々なプログラムが実施されています。森の子育てサロン、森のようちえん、森林づくり塾、大沼ジュニアレンジャー、ファミリーキャンプなど、自然体験方のツーリズムにより、徐々に人が増え、口コミで参加者も増えています。
(宮本さん)下草管理のためにかつての農耕馬である道産子を4頭入れています。今後、天然林、人工林、農地など様々な土地の特徴を活かしながら再生計画をつくり、生物多様性や体験などの見本市的エリアにしていきたいと考えています。
(岩井さん)自然エネルギーの活用について検討、提案しています。まず、地域にある資源を確認する「あるもの探し」が必要です。温泉があると言うことは地熱があります。そのほか、馬糞、風倒木などもあり、薪ボイラーを導入して薪割り体験とセットにするなどの環境と調和した工夫が可能です。地域だけでなくJR社内にも未活用の資源があるかもしれません。

事例発表3 概要
■「苫東・なごみ森プロジェクト」
上田融(NPO法人ねおす いぶり自然学校)

上田融氏

 苫東・なごみ森プロジェクトは、平成19年に北海道苫小牧市で開催された第58回全国植樹祭を受けて生まれたプロジェクトです。もともと、苫東(苫小牧東部)地区は、大規模な工業地域化計画があり、その後、「自然と共生するアメニティに満ちあふれた複合都市形成」を目指した開発が行われてるエリアです。
 植樹祭の後、維持管理のために全国植樹祭記念の森づくり推進委員会が発足し、いぶり自然学校(NPO法人ねおす)が事務局を引き受けました。もともと里山的な活用がされていた地域であり、「森のコミュニティセンター」「森のゲートウエイ」として森と人との接点の場、親しむ場としての位置づけ、多様な人たちが参加できるよう「ユニバーサルの森づくり」、さらに、平地林なので障がいを持つ方や小さな子どもたちも入りやすいことから「バリアフリーからバリアバリュー」というコンセプトを導入、関係する人や地域がともに成立する「win-win」を加えて、「和みの森」基本構想を策定、それを、「苫東環境コモンズ」という地域の全体計画を考えている団体と連携して、大きなビジョン策定の一部に位置づけました。
 幼児によるどんぐり拾いからの森づくり、車いすユーザーによる森林整備のトライアルを行い、それらのプログラムをふまえて「苫東・和みの森運営協議会」を設立。このとき、関係主体である北海道、苫小牧市、(株)苫東、(社)北海道森と緑の会と、利用主体となる協議会の5主体で協定を結び、利用者が直接運営に携われるようなシステムにしました。まさに今立ち上がったところです。

 3つの事例発表に対し、里地里山の保全計画の立て方、多様な主体が参加できるしくみ作り、人材育成などについての意見交換が行われました。

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講演概要
■「里地里山再生に向けた人づくり、仕組みづくり」
高木春光(NPO法人ねおす理事長)

高木春光氏

 NPO法人ねおすの高木春光理事長より、事例報告をふまえて講演をいただきました。
 日本は人口構造が大きく変化しつつあり、2007年に1億3千万人いたのが、2055年には9000万人になるという予測となっています。人口が少なく、高齢化が進む、そのときを見すえた自然活動、まちづくりが必要であり、コミュニティー単位の小さなしくみをたくさんつくり、同時に大きな社会的なしくみづくりを考える必要があります。
 NPO法人ねおすは、常に「組織ではなくしくみ」と言い続けてきました。それは、地域の施設、人、地域の自然をどうつなぐか、ネットワークするか、そこに、新しいライフスタイルや学びをもたらすかということです。
 里地里山の保全と再生とは、社会関係性資本の基盤整備です。それは、人と人、セクターの違いを超えてつなげるという仕事です。自然体験活動だけであれば、人のいないところで完結しますが、里地里山には人がいます。自然体験、自然保護だけではなく、その地域の人による利活用も考えなければなりません。里の問題は人が抱える問題でもあります。人づくりには、達成感、成功の体験、楽しかったという体験が必要です。同時に、しくみが固定化、マンネリ化しては、人が動けなくなります。里地里山での活動とは、常にプロセスであり、常に未完であることを意識して取り組むことです。なにより、人の「情熱」がもっとも大切です。

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