ページトップ
環境省自然環境・生物多様性里なび活動レポート > 研修会・シンポジウム報告

里なび

ここから本文

活動レポート

里なび研修会 in 石川
里山里海共生産業の創造に向けて

日時 2009年12月19日(土)
場所 能登町 春蘭の里

 環境省里地里山保全活用「里なび」研修会を、石川県能登町で行いました。会場の「春蘭の里」は、地場産の資源にこだわったグリーンツーリズムや農家民宿に取り組んでいる地域です。石川県では、「春蘭の里」をモデル地域の一つとして、里山里海の資源を活かしたビジネス(生業)の創出と「いしかわ型SATOYAMAモデル」の確立を目指し、支援事業を展開しています。
 研修では「春蘭の里」の事例、県の取組の報告をうけ、東京農業大学上原巌准教授より、講演をいただき、里山・里海の資源を多角的に活用する地域おこし、産業づくりについて学びました。

■事例報告1 里山を活かした春蘭の里の取組
春蘭の里代表 多田喜一郎

 高齢化が進む中で地域を元気にする「一億円の地場産業を作ろう」と、地域に多い春蘭をシンボルに、地元有志で活動を始めました。消費者に直接現地に来てもらうことが必要ということで、グリーンツーリズムも始めました。現在、年3000人来訪しています。受け入れ農家は24軒。今後も増やします。
 「春蘭の里」は元は二つの集落から始まりましたが、今では川下の集落にも広がりました。「春蘭の里」は、特定のエリアの呼称ではなく、考え方・コンセプトです。能登の山間の地で、地域ならではのものを活かすことにこだわり、心と心のふれあいを大切にする農家民宿とグリーンツーリズム。このようなコンセプトで宿泊と体験活動を受け入れる農家がいれば、「春蘭の里」の仲間になります。これは奥能登全体にまで広げていくことが可能です。
 能登は海と山があるので、農家民宿では、山間の地で海のものを出しても競争力がありません。海辺との違いを出すために、輪島塗りの食器と、この地域内でとれたものを使うことに徹底的にこだわりました。お客さんが求めるのはその土地ならではのもの。山では山でとれるものを出すことでお客さんに喜ばれます。春蘭の里では、地場産のお酒もつくっています。地域の米と水を持って行って、酒屋さんに協力してもらっています。料理も仲間で研究し、汁物には市販の出汁の素は使わない、味付けには砂糖をなるべく使わないなど、地のものの素材を味わってもらう工夫をしています。
 農家民宿の秘訣は、人と人との心のふれあいを大事にすること、黒瓦と白い壁の景観を大事にすること。この二つを守れば、第一次産業と観光が結びついて活性化することは可能だと考えています。農家民宿での受け入れは、宿の主人との交流を深めるため1戸1グループ限定にしています。子どもたちの受け入れでは、思い出づくりのために2泊3日は必要です。その間に宿の主人とも仲良しになります。子どもの感受性を高める点は農家民宿ならでは。
 子どもを受け入れているとお年寄りの笑顔が違います。子どもがくると地域に笑い声が絶えず、それだけで地域が明るく元気になります。地域の子どもが入ってくることで地域が変わると思います。
 農家民宿の他に、地域にある廃校となった小学校を、体験交流・宿泊施設「こぶし」として利用しています。教室を和室の宿泊室に改修し、各部屋に流し、バス・トイレが付いていて素泊まりですが安価で利用できます。自炊ができ、暖房も完備。このように整備したのは、将来、地域の独居老人にも入ってもらえるようにするためです。
 運営は「NPO法人こぶし」を作り、独自に行っています。1部屋17000円/月のオーナー制とし、10室全部、地域の人にオーナーになってもらい、そのお金で光熱費等を賄っています。その代わりお客さんが泊まったら、そのお金は全部オーナーに返しています。その意味で稼働率は100%。昨年は1700人が利用しました。
 春蘭の里の取組が最終的に目指すのは、行政に頼らないでやっていける地域をつくることです。地域にあるものを活かして地場産業を創りだし、宿泊施設の利益で地域の福祉を賄う。小さくても地域のことを自らやっていける地域づくりを目指しています。

■事例報告2 能登の山菜・野菜を活用したお菓子「能登やさい菓子」
花蝶庵代表 出村みよ子

 無農薬野菜や山菜を使ったお菓子づくりをしています。花蝶庵の商品「能登やさい菓子 能登優菜菓」は、平成16年度石川県観光物産観光賞、平成20年度石川県ブランド生産品認定の品です。
 農家に嫁ぎ無農薬の野菜作りをしているので、農産物に付加価値をつけて売り出したいと考え、土地の特徴的なお土産にしたいと能登空港開港を契機に始めました。
 保健所の許可がいるため台所が2つある姉の家で、姉夫婦と3人でスタートしました。素材となる野菜は姉と私でつくっています。山菜は2人で採りに行きます。添加物は一切使っていません。東京から大量に注文があったとき不眠不休で作りましたが、大量生産は無理だと思いました。今は旅館のお茶菓子等として使ってもらっています。
 今後の展望としては、作りたてのものを皆で食べて団欒できる場所を作りたいです。奥能登は海と山とがあるのが特徴なので、海の幸・山の幸を合体した土産品を作りたい。独自性の強い商品なのでこつこつ続けていきたいと思います。消費者のニーズを聞く方法がよく分からないので、そこを教えてもらい、消費者の声を商品に活かしていきたいと思います。

■事例報告3 里山の利用・保全に向けた石川県の取組
石川県環境部 次長 坂野宏行

 県は、住民が里山里海の利用・保全に意欲的に取り組んでいる地域の中から、平成21年7月に「先駆的里山保全地区」を選定し、利用・保全に向けた仕組みづくりなどの活動を、地元市町とともに支援しています。春蘭の里も指定地の一つ。また七尾市の能登島長崎町では多様な生き物が生息できる環境整備とブランド化等に取り組んでいます。能登では里山と里海の両方を生かした地域活性化を推進していきたいと考えています。そのため、住民主体での里山里海づくりと、その仕組みづくりを支援している。モデルとなる取組については、「いしかわ型SATOYAMAモデル」として、県内各地に普及し、COP10などでも発信していきたいと考えています。
 また、里山里海に暮らす地域住民、普段から里山里海の利用・保全に関わりながら暮らしている地域の人々の生活を支え、里山里海の自然と共生する産業を「里山里海共生産業」と名付け、掘り起こしに向けたプロジェクトを行っています。この春蘭の里の取組のような農家民宿も、一つの「里山里海共生産業」と捉えています。他に農産物の直売、里山の樹木の商品化、お茶のセット販売、木炭生産販売などがあります。このプロジェクトの推進には、金沢大学をはじめとする各大学の先生方からもアドバイスをいただいています。他にも、県では里山里海の利用・保全に向けた各種調査、モデル事業の推進、普及啓発事業などを行っています。

ページトップへ

■講演 森林療法と里山里海の活性化
東京農業大学准教授 上原巌

 森林療法とは、身近な森林に出かけ、その中で過ごしたり作業を行うことにより自己治癒力を高め、心身の健康増進を図ることです。生活習慣病の予防、心の健康づくり、医療・福祉での利用が期待されています。森林療法の効用として、高血圧の改善や心肺機能の向上等、医療面での効用が認められていますが、まだ調査研究を行っている段階です。
 森林療法のタイプとしては「福祉、医療、心理型」「地域活性型」の二つがある。
 地域活性型の事例では、受入体制側に、医療に関わる人が少なく、自然観察会、観光、ツーリズムと同じようになっている事例もあります。

 関心のある方々の中に、「セラピー」「療法」に関わっている人が少ない、自然観察会、観光、ツーリズムと変わらない、イメージ・目的・姿勢が様々で微妙なズレがある、などの課題があります。受入側の同行者自身が、まず森林での健康づくりへの意識が高いことが必要です。
 森林療法を行うには、相手を受け入れる準備、態勢を整え相手を受容する態度、同行者ではなく相手が主人公になるようにすること、受入側が心理や医療の専門知識をきちんともって、森林と対象者との仲立ちをすること、そのようなプログラム構築と、適切な森林環境が整っていることが重要です。

 能登町の森林は、見慣れた風景の中にたくさんの可能性があります。この地域の森林は落葉広葉樹林が多く、適所には、杉やアテが植えられています。択抜施業を行う特徴があり、森林土壌も特徴的です。山田川は、地域の方には見慣れた風景ですが、この中にやまたのおろち伝説や、水の神・山の神の伝承があります。地域にあるケヤキは、民家の中で材として使われています。春蘭の里の散策で見つけたウメノキゴケは、大気汚染に弱く、空気のきれいなところにあるので大気汚染の指標とされており、この地域で自生しているものがこれだけ多いのは、空気がきれいだということです。地域内で見かけたナンテンやムクゲは薬効がある植物。民宿で食べた野菜も米も、炭も地域でとれたものです。

<森は心身を育む 里山放置林の活用による森林療法の可能性>
 森林には人の心身を健康に育む効果があります。長寿村の共通点として、山間部へき地、バリアフリーでない、高齢者が現役、コミュニケーションが活発、などがあります。また、人は森の中で育つということで、幼児教育を園舎でなく森の中で行う「森のようちえん」という取組があります。そこで育った子どもたちは、協調性、忍耐力、情緒の安定等が、他の子どもたちより優れているということが認められています。
 日本の里山に多くなってしまった放置林を活用して、森のようちえんとして活用することで、里山を活かし子どもたちを育むことができます。これも新たな取り組みとして可能性があります。

ページトップへ