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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 山口
秋吉台草原の維持と持続可能な利用を考える

日時 2009年2月7日 (土) 集合9:30 解散16:00
場所 秋吉台科学博物館 (山口県美祢市)
活動団体 秋吉台草原ふれあいチーム
共催 秋吉台草原ふれあいチーム、秋吉台科学博物館
後援 美祢市教育委員会

 今回の里なび研修のテーマは「草原」です。草原は、かつて牛の放牧地や農業、畜産、生活における採草地として活用されてきました。現在、日本の里地里山の中でも、もっとも減少している環境です。
 西日本の草原はもともと牛の放牧地として形成された環境が多い中、今回の研修会で考える秋吉台の草原は、採草地として維持されてきました。牛の放牧も一部では行われましたが、基本的にカルスト台地にあるため放牧に向かず、定期的な草刈りと野焼きに伴い、持続的な資源利用のもとで農業が営まれてきました。現在でも、美しい景観、草原独特の草花が育つなど、生物多様性上の視点からも重要な機能を果たしています。
 温暖湿潤な森の国・日本において、草原は農業などで活用しなければ、維持・保全すること大変な労力を必要とし、保全が難しい状況です。
 秋吉台では、現在も山焼きを行っていますが、一部にはヤブ化しつつあり、今後、草原の復元とそれに関わる調査について、また、農業者・市民への情報提供と、草原を保全しながら利用する方法を一緒に考えるための研修を行いました。

秋吉台草原面積の推移
秋吉台草原面積の推移

 研修は、秋吉台草原ふれあいチームの代表で秋吉台エコ・ミュージアム館長の前田時博さんが、「草原の保全管理を全国的な情報としてまとめ、取り組みしていきたい」と挨拶、また、美祢市立秋吉台科学博物館館長の池田善文さんは、「今回の研修会を通じて、草原再生のヒントが得られればと思います」と挨拶しました。
 里地ネットワークの竹田純一が、里なび研修会の開催趣旨と、「里地里山保全再生計画作成の手引き」にもとづいた計画策定について紹介した後、草原の生物多様性と管理、現状についての報告が行われました。

研修会の様子
研修会の様子

 秋吉台草原ふれあいチームの副代表・荒木陽子さんからは、秋吉台の草原が過去100年で約4割程度まで減少していること、その原因として採草地としての活用が行われなくなり、野焼きのための火道をつくる際、労力の関係から徐々に火道が内側になっていくため、外周部から草地が減少していると分析しています。また、昭和40年代と現在の写真を比較し、以前は採草地として草丈を短く刈っていたため、明るい草原だったのが、採草のための草刈りをしなくなったことから草丈が高くなり、やや暗くなっていること、その結果として、草原の花の種類が減ったことが報告されました。
 そこで、秋吉台草原ふれあいチームでは、プロジェクトでの草刈りと花の種類の調査や作業の労力、草の活用などについて4カ所の地域で実験や調査、保全活動をはじめています。秋吉台の草のたい肥化やたい肥を使った野菜栽培などのほか、イベントとして草原でのオカリナ演奏会、俳句会などを開催しながら、ボランティアによる管理作業なども行っています。

荒木陽子さん
荒木陽子さん

 秋吉台草原ふれあいチームで農業利用班長の田原義寛さんは、かつて、草原の刈草を、たい肥や草マルチ、牛のエサ、敷き材として活用していたことを紹介し、プロジェクトでも、同様に改めて地域で産出される草を農業として活用することを提案します。特に、食の安全・安心に対して消費者の関心が高まっており、「秋吉台野草たい肥・野菜」としてブランド化を含めた取り組みを提起しています。現在は、たい肥を生産し、ほうれん草、梨の生産に役立てているほか、里芋栽培時のマルチとして刈草を使用、牛にも活用しはじめています。地域の産業観光バスツアーや、秋吉台で行われるイベントでの紹介、地場産物販売施設での食材利用や販売などを通じて秋吉台の草原管理(草刈り)をボランティアだけでなく「なりわい」の一部にしていくこと、それを通じて「地域の食を担う者の誇りと責任」を大切にしていきたいと語りました。

田原義寛さん
田原義寛さん

 秋吉台草原ふれあいチームのもうひとりの副代表・松井茂生さんは、秋吉台の草原には環境省のレッドデータブック記載49種、山口県のレッドデータブック83種の希少植物が存在しており、草原でも明るい乾燥した場所、石の影など様々な環境があり、その場所に適した希少植物があることを具体的な事例と写真を示しながら紹介しました。

松井茂生さん
松井茂生さん

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 これらを受けて、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センター研究員で、草原管理の専門家でもある高橋佳孝さんが「西日本における草原保全の意義と手法」をテーマに講演しました。  高橋さんは、かつての日本人の暮らしで、里地里山は田畑など食料を生産する場、山や雑木林のように木を育てる場、草原のように草資源をつかう場があり、それらがモザイク状の植生エリアを生み出し、生物多様性を保全してきたと話します。そして、島根県の三瓶山や石見銀山周辺、阿蘇の事例を紹介し、「草を利用する文化」があり、生産としての草原だけでなく、地域社会にも大きな意味を持っていたことを紹介します。草原は、牛などのエサ、敷き材、たい肥、屋根材、燃料などに使われていましたが、現在は、輸入飼料、輸入牧草、化学肥料、瓦屋根など代用品を使用し、草原から生み出されるものを使わなくなっています。その結果、草地や、それに付随する湿地などが減っていきました。現在の絶滅危惧種の多くが草地、湿地にあり、残された草原は生物のホットスポットとなっています。  草原の管理手法は、火入れ、採草、放牧であり、放置すれば、報告があったようにヤブ化したあと、二次林、森林へと遷移していきます。草原とは、人間が管理、活用して維持されてきた環境です。  高橋さんは、海外における草のバイオマス利用や、草原-生物-農業のつながりを前面に出したプロジェクトなどを紹介し、草原を現代の重要な生態系サービスとして捉え直し、保全していく価値を提案しました。

高橋佳孝さん
高橋佳孝さん

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 このあと、秋吉台草原ふれあいプロジェクトの活動地や実験地である、長者ヶ森付近から帰り水手前のドリーネ耕作地などを視察し、実際の保全管理状況について確認しました。

現地視察での解説
現地視察での解説
火道、ドリーネ耕作地などが一望
火道、ドリーネ耕作地などが一望

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 最後は、参加者全員で意見交換し、今後の保全活動のあり方について、地元団体での取り組みの紹介や今後の観光、教育などの連携といった意見が活発に寄せられました。

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