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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 新潟
トキの野生復帰から学ぶ 里地里山保全再生計画の策定

日時 2008年12月23日 (祝・火) 集合13:00 解散17:00
場所 トキ交流会館 (新潟県佐渡市)
活動団体 トキの野生復帰連絡協議会
共催 トキの野生復帰連絡協議会

佐渡島では、2000年からトキの野生復帰プロジェクトがスタートし、トキの保護増殖に加えて地域社会づくりが行われてきました。トキの個体数が100羽を超え、野生復帰ステーションにて順化訓練を受けた10羽のトキが、2008年9月25日試験放鳥されました。
放鳥後のトキは、当初予想していた小佐渡東部の範囲だけでなく、小佐渡全域から、一時は、国中平野へも訪れました。2008年12月現在、1羽が死亡、1羽が所在不明、1羽が佐渡島から新潟市等へ飛翔し、残りの7羽が佐渡島内で生息しています。
佐渡におけるトキの野生復帰の試みは、生物多様性の回復と循環と共生の地域社会づくりとして注目を集めています。
そこで、これまでの野生復帰と地域社会づくりを確認し、今後の集落単位での保全再生計画策定手法についての研修会を実施しました。

トキ交流会館での研修会
トキ交流会館での研修会

まず、「里地里山保全再生計画策定方法」について、「里地里山保全再生計画策定の手引き」をもとに、里地ネットワーク事務局長の竹田純一が手法の説明を行いました。
その上で、2000年から現在までに、佐渡島内では、野浦地区、久知河内地区、城腰地区などで、「手引き」における自然調査、社会調査手法としての里地里山たんけん隊(地元学)手法を活用し、地域計画を策定して実施していたことを紹介しました。
2000年から2001年にかけて、小佐渡東部の野浦地区では地区住民が参加し、行政関係者、農業関係者、トキの保全活動関係者らが加わって地元学手法による水のゆくえ調査、土地利用調査、生きもの調査、生活文化調査などを行い、年間を通じての自然、生活、文化などをまとめた「野浦大百科」を作成、あわせて、トキの野生復帰を視野に入れた活動計画を立案し、地区合意のもと、活動団体「明日の・のうら21」を設立しました。環境保全型農業による稲作、ビオトープづくり、トキの野生復帰をテーマとした演劇などの文化活動、普及啓発活動、大学生ボランティアやゼミ、体験交流などの受け入れを行っています。
さらに、トキの野生復帰連絡協議会が発足すると同時に地区活動団体として参加し、他の地区での調査や活動の協力にも力を入れています。この野浦地区の取り組みを例に、全体的なトキの野生復帰計画との整合性をはかりながら、それぞれの地区がそれぞれの計画で活動を自主的に行うことが、トキの野生復帰における地域社会づくりに欠かせないことを講義しました。
さらに、2002年に策定されたトキの野生復帰計画を改めて確認し、環境保全型農業、えさ場づくりや循環と共生に向けた地区の取り組み、多様な主体の参加などについて計画通りに進んでおり、そのことが予定通りの試験放鳥につながっています。一方、今後の課題として、都市や外部のボランティア、観光客などとの交流やエコツアー、あるいは、地域の産品を開発し、持続的な経済活動を起こすことなどが必要です。
また、当初想定していた範囲よりも広くトキが行動していることや、エサの採餌方法、ねぐらの活用などで新たな発見があるため、新たな保全再生計画策定が、すでに活動している地区、活動していない地区にかかわらず必要ではないかと提起しました。

トキの野生復帰連絡協議会の会長・高野毅さん、トキの野生復帰連絡協議会の参加団体で久知河内地区の「久知河内ホタルの会」菊池さん、「明日の・のうら21」臼杵さんが、それぞれの活動とトキの試験放鳥が行われたことに対する喜びと期待を話しました。

環境省佐渡自然保護官事務所の岩浅有記保護官は、トキのモニタリングの現状をとりまとめて報告し、課題を提示しました。トキは、当初から群れになることを想定していましたが、実際には各個体とも独自の行動を取り、しばらくは広い範囲で行動していました。その後、佐渡島内では主に2つのエリアにねぐらを構えるようになり、3羽は羽茂川周辺にそれぞれがねぐらを決めて生息、4羽(死亡した1羽を入れれば5羽)は加茂湖周辺に、やはりそれぞれがねぐらを決めて生息しています。
ばらばらなようですが、実際には各個体とも別の個体の存在は認識しており、今後群れをつくるのか、繁殖期に入るとどのように行動するのかを注目しています。
エサの採餌については、ドジョウ、バッタなどのほか、ミミズ、アマガエル、アカハライモリなどこれまであまり食べると思っていなかったものも食べているようです。小さな昆虫類も食べているようです。モニタリングは、トキの行動に影響を与えないよう距離を置いて行っています。
ねぐらやとまり木については、枯木も活用しており、現在の環境条件に合わせている状況が見てとれます。
採餌するえさ場としては、全面に水を張った田んぼよりも、田んぼに水が少し残っている場所、トキがくちばしで深さを確認しながら水辺に寄れる場所、ドジョウが集まっているなど効率的に採餌できる場所などを使用しています。

環境省自然保護官・岩浅よりトキの最新情報
環境省自然保護官・岩浅よりトキの最新情報
野生復帰連絡協議会・高野会長
野生復帰連絡協議会・高野会長

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ここまでのトキの行動やモニタリングによる発見などを受けて、ワークショップ「トキと共生する地域社会計画づくり」を行いました。
参加した地区ごとに別れ、地図上にこれまでの保全活動地点、内容、トキが訪れた場所、その特徴などを書き入れ、えさ場づくり、ビオトープなどの活動を振り返りました。その上で、今後の取り組みの方向性などを、地区住民以外の参加者とともに意見交換していきました。
トキが現在生息している地区では、できるだけ早い時期に、「里地里山保全再生計画策定の手引き」にある里地里山たんけん隊(地元学調査)を実施するとともに、トキとの共生についての普及啓発活動を行いたいといった意見が出ました。
また、すでに活動を続けている地域では、今後の課題となっているエコツアーやボランティアなどとの交流のしくみ作り、高齢化が進む地区での新たな保全再生の担い手となる外部からの参入者、移入者などの受け入れの仕組みづくり、産品開発、観光とトキの野生復帰や生活とのバランスやルール作りなどについての活発な意見交換を行いました。

計画づくりワークショップ
計画づくりワークショップ
これまでの活動をふりかえりながら
これまでの活動をふりかえりながら
トキ放鳥から見えてきたことをまとめる
トキ放鳥から見えてきたことをまとめる

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