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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 宮城
化女沼・蕪栗沼と周辺里地里山の一体的保全活用へ向けて

日時 2008年11月28日 (金)
場所 古川長岡地区公民館 (宮城県大崎市)
活動団体 NPO法人田んぼ

 宮城県大崎市にある化女沼は、ラムサール湿地として2008年10月に登録されました。ダム湖としては世界で初めての登録となります。2008年8月には、国の鳥獣保護区に指定されています。多数のガンカモ類の越冬地となっていることから、集団渡来地の保護区として、特別保護地区の水面部34haと保護区の外周部で計78haです。

 化女沼は、地域の人々の暮らしとともにあり、持続的な活用のもとで生きものの豊かな環境が保たれてきた場所でもあります。もともと、丘陵地と平坦地の境にある自然湖で、上流側の沢の水を集め、下流側の水田に水が利用されてきました。この平坦地水田地帯は、沼に飛来するガンカモ類の餌場として、沼と一体的に鳥類の生息を支えています。一方、上流側の丘陵地帯には、沢に削られた細い谷が無数に走り、沢水を利用した水田がつくられ、集落が形成されています。自然の地形になじんで暮らしをつくってきた集落の人々が、周りの里山を持続的に利活用することで、化女沼の水源が保たれてきました。またこの丘陵地一帯には、小さなため池がたくさんあります。里山と水辺が入り組んだ複雑多様な環境で、水田とため池、水路、化女沼により、鳥類だけでなく、魚類や両生類、昆虫、貴重な水生植物など、生物多様性が育まれています。

 蕪栗沼周辺は、「蕪栗沼・周辺水田」の名称でラムサール登録され、423haが田尻町~栗原市~登米市にまたがっています。蕪栗沼本体だけでなく、ガン類の採食場所として重要な周辺の水田を広大に含んでいるのが特徴です。
 先行して登録された蕪栗沼周辺では、地元の農家、NPO法人田んぼや、NPO法人蕪栗ぬまっこくらぶなどが、冬期湛水水田(ふゆみずたんぼ)や環境保全型農業の取り組みをすすめており、地域の生物多様性と農業や里地里山保全が一体となった活動になっています。

 今回、里なび研修を行う化女沼でも、その周辺の農業や生活と一体となった取り組みが検討されており、里地里山保全のための活動に向けた第一歩として、里なび研修会を実施することになりました。
 当日は、あいにくの荒天でしたが、地域の農家や環境保全団体自治体関係者、住民が多数参加しました。また、周辺の登米市からも、同じ課題を抱える自治体として市の職員や住民の参加もありました。このほかにも、東北地区から里地里山の保全に向けた調査、計画策定などについて知りたいという参加がありました。
 大崎市の市長も飛び入りで参加し、ラムサール登録は「渡り鳥に気に入られた化女沼」であるとして、農業や地域づくりの大切さを自治体としても取り組むと挨拶しました。
 研修会では、まず、NPO法人田んぼ理事長の岩渕成紀さんが、「蕪栗沼では、農家が環境保全に取り組み、その米がラムサール湿地を保全し、ハクチョウやカモを守っているとアピールして買ってもらっています。先のラムサール会議では、水田決議が採択され、ラムサール湿地のワイズユース(賢明なる活用)が議論されました。ぜひ、蕪栗沼、伊豆沼、化女沼のトライアングルが協力して活動しましょう」と、今後の方向性を提案しました。
 その後、「里地里山保全再生計画策定の手引き」(環境省作成)を利用して、里地里山の現状、保全再生計画立案までの調査の考え方、住民をはじめとする多様な主体の参画の方法、コーディネーターの役割、試行や計画についての説明を行い、今回のフィールドの地図に色を塗り、地域の特徴を書き込みながら、フィールドワーク準備を行いました。

調査用の地図を作成する
調査用の地図を作成する

 その後、雨の中、2カ所の地域社会調査班、2カ所の生きもの調査班に分かれて、フィールドワーク「里地里山たんけん隊」を実施、資源調査カードと地図のとりまとめを行いました。
 フィールド調査では、地元の神社の宮司さんや古くからの農家から地域の水使いや生活文化、農業や環境の変化などの話を聞きました。今での神社のしめ縄は、地元の農家が稲わらを手刈りして縄をなっていること、北向きの防風林は大切なものとして守っていること、古い農家には「木小屋」があってかつては燃料としての材を大切に保管していたこと、米どころとして育苗ハウスは短期間しか使わないため、そこをブドウ畑や家庭菜園としても活用していること、湧水や土水路などは大切に扱っていることなどが紹介されました。
 また、たい肥作りなどの伝統的な環境保全、循環型の農業技術を活用していることも明らかになっています。
 その一方で、今後のほ場整備などによっては、土水路がなくなる可能性なども心配ごととして出ていました。
 生きもの調査班は、雨の中の調査であったため、水路が増水しており、あまり生物を多く見つけることができませんでした。それでも、化女沼でブルーギルの幼魚が確認された一方、上流部では本来の魚類、ヌカエビなどが確認されたことから、化女沼の課題として外来魚対策が上げられました。

雨の中でのフィールドワーク研修
雨の中でのフィールドワーク研修
雨の中の水路調査
雨の中の水路調査
各自調査内容をカードに記載していく
各自調査内容をカードに記載していく
雨の中たくさんの調査カードが集まった
雨の中たくさんの調査カードが集まった
生き物班は実物を交えての説明
生き物班は実物を交えての説明

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 後半は、調査をふまえてのパネルディスカッションを実施しました。

円卓でパネルディスカッション
円卓でパネルディスカッション

 まず、昭和50年代から旧古川市や化女沼周辺の動植物調査を行っている野生植物研究所所長で化女沼保全活用検討委員会副委員長の高橋和吉さんが、過去25年ほどの生態系の変化を報告しました。かつて旧古川市で調査できた絶滅危惧種~要注目種までの植物は53種あり、そのうち45種は化女沼とその周辺に自生していました。それが、現在では約20種まで減少しています。そのほかの種についても、総じて種類が減っており、多様性が失われつつあります。昆虫類や魚類についても同様の傾向があり、水中については、外来魚(ブルーギル、ブラックバス)の問題があります。ラムサール登録されましたが、動植物の現状の調査とともに、保全に向けた取り組みが必要です、と報告しました。

NPO法人田んぼ理事長・岩渕さん
NPO法人田んぼ理事長・岩渕さん

 また、化女沼保全活用検討委員会委員長で化女沼観光協会会長の木村敏彦さんは、かつて、化女沼は沼エビ(ヌカエビ)、ジュンサイ、ハスの葉など、生活を支える生産の場であったこと。お盆にハスの葉をお供えとして使っていたことから、ハスの葉を集めて販売したり、数年に1度、渇水によって水量が大きく減ったときには、「沼掘り」という観光イベントを行い、手取りで1メートルのコイやウナギ、フナなどを獲っていたこと、生活と生産の場であったことを紹介しました。そして、化女沼がラムサール登録されたことで、これからどのようにしていくか大きな課題であるが、ラムサール会議では子どもラムサールがあるように、化女沼でも次世代にどのようにつないでいくかという視点で取り組みたいと語りました。

化女沼保全活用検討委員会委員長・木村さん
化女沼保全活用検討委員会委員長・木村さん

 岩渕さんからは、ごみ問題などで地元住民が苦労するのではなく、観光客もともに参加して意識を変えることでごみの投機を減らすなどの実践例も報告されました。
 参加者からは、周辺自治体との協力体制や農業者との連携などの提案も行われ、今後、蕪栗沼などでの活動団体や自治体との連携を図りながら、化女沼周辺でも、調査、保全活動の試行などを行うための組織作りを行っていくこととなりました。

パネリスト
パネリスト
伊藤・大崎市長も参加
伊藤・大崎市長も参加

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