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環境省自然環境・生物多様性里なび活動レポート > 研修会・シンポジウム報告

里なび

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活動レポート

きもちゆたかな生き方を求めて
里地里山シンポジウム

日時 2008年3月4日(火) 13:30~17:00
場所 京都市左京区(京大会館)

 里地里山は、人が農業や林業、生活を通じて自然に働きかけて生まれた空間です。里地里山から薪などのエネルギーや建材などの素材、食料などを手に入れ、同時にたくさんの生きものが生息できる共生の場を守ってきました。しかし、今、人と里地里山の関わりが薄れ、活用されなくなったことで各地の里地里山が荒れています。
 一方、里地里山は、日本人の原風景をなし、心のゆたかさを育みます。今、教育や福祉、芸術、観光といった面からも再評価されており、さらには、21世紀の持続型社会づくりからも注目を集めています。
里なびでは、さまざまな視点から里地里山を検証し、これからの里地里山への参加と保全を考えるためのシンポジウムを開催しました。

 シンポジウムは、京都大学地球環境学堂との共催で行いました。
 まず、主催者を代表して環境省自然環境計画課の渡邊綱男課長が挨拶しました。挨拶では、平成19年11月に第3次生物多様性国家戦略が決定し、その中で里地里山の利用を通じた保全が重要だと強調していること、里地里山では「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」を作るために、現在にふさわしい形での保全と利用のあり方を再構築していくことが重要なこと、日本をはじめ世界の自然との共生の知恵を集め、提案していくこととしており、それを「SATOYAMAイニシアティブ」と名付けて世界に発信していくことなどを紹介しました。

渡邊綱男課長
渡邊綱男課長

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■講演 里地里山について語る「芸術の視点から」
北川フラム氏 (株)アートフロントギャラリー代表取締役会長・女子美術大学美術学部教授

 新潟県の「越後妻有(えちごつまり)」で1996年より「大地の芸術祭」を3年に1度開催しています。「大地の芸術祭」は、里山でそこに暮らす人が土と水と格闘してきた歴史を持つ地で、現代芸術の世界中のアーティストがそこを舞台に作品をつくり、2006年の第3回では30万人が平均1泊2日で世界中からこの地域を訪れました。今は、2009年に向けての準備がすすんでいます。この地域は、世界一の豪雪地帯で棚田が多く落葉広葉樹林もみごとです。最初に行ったのは、「素敵発見事業」で3つの写真を選びました。それは、今は夏だけ暮らす家を背景にした「おばあちゃんと里山の景観」、かつて半年雪の中で孤立する地域での「貯水池の水のくみ上げ口」そして、豪雪との戦いを「電柱に積もる雪落とし作業」で表した写真でした。この地域の生活そのものから地域活性化を行ったのです。
 200の集落に世界中のアーティストが作品を作り続けています。芸術という一人の人間の世界を棚田など他者の土地に据えよう、植えようとするときには、作品を作る側にもその土地を学習し、理解し、労働を媒介した「協働」を通して受け入れられ、作られます。
 学生や大人達がたくさん手伝ってくれます。最初は物見遊山だけれども最後は体験型の旅になります。大地の芸術祭に関わることで、都市では記号にすぎない人間が、地域の中で具体的な個人、自分自身の存在を確認できます。人と人との関わりができます。アートを通じて、越後妻有は様々なジャンルと世代と地域が出会う場所になりました。

北川フラム氏
北川フラム氏

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■講演 里地里山について語る「循環型社会の視点から」
内藤正明氏 滋賀県琵琶湖・環境科学研究センター長、京都大学名誉教授、NPO法人循環共生社会システム研究所代表理事

 今は、都市工業文明に頼っていますが、私たちが生き延びるには里地里山に頼るしかありません。化石燃料などのエネルギー資源は頭打ちで減るだけです。日本の農地面積は一人あたりとても限られています。低炭素、脱石油、脱温暖化の提案は、今後どのような新しい社会文化をつくるかということです。それが、里地里山です。
 現在、これまでの都市工業文明の延長上で様々な「超」技術によってこれらの問題を解決しようとしていますが、技術とは社会の中にあってはじめて意味があります。新しい社会のビジョンが必要です。持続可能な社会づくりとは、先端技術社会から自然共生型社会への移行です。
たとえば、最近では大学が地域に入って地域と一緒に活動する事例が増えています。里地里山のフィールドに1年生を送って、現場での体験をふまえて経済や物理の勉強をする。そうすることで学ぶ必然性が見えてきます。日本の農村には人が少なくなりましたが、都市にはニートなどの存在があります。都市と農村との交流活動が必要です。

内藤正明氏
内藤正明氏

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■講演 里地里山について語る「美しさ・景観の視点から」
森本幸裕氏 京都大学大学院農学研究科教授、京都大学地球環境学堂教授

 ここ数年、里地里山に注目が集まっています。国際的にも生物多様性が注目されています。2010年の生物多様性条約締結国会議が日本で開催すべく招致活動がされていますが、その「最終目標9」には、「先住民や地域社会の社会・文化的な多様性を維持する、伝統的知識、発明及び慣行の保護」が書かれています。「景観」「ランドスケープ」も「文化的景観」や「美しい国づくり」と言われるようになりました。ランドスケープの視点では、里の風景には、水域と陸域、人の営み、生き物、自然のプロセス、バイオリズムがあり、これが持続的な秩序を作ってきました。
 京都には美しい庭がたくさんあります。それぞれに土地の特性があり、山や川、陸域と水域の境界領域に異なった生態系が出会うエコトーンとなります。そこで、人が手を入れ、環境が景観を作りました。里山もまさしくエコトーンです。
里山の生物多様性とは、保護ではなく撹乱、収穫してきたことで活力と多様さを生み出してきたものです。そして、その自然環境のモザイク構造が多様性をはぐくみました。人間の伝統的な営みが美しい文化景観を作ったのです。京都の美しい庭と同様に、里山も今後は人が生き物の働きを含めた取り組みが必要です。

森本幸裕氏
森本幸裕氏

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 この3つの講演をふまえて、パネルディスカッションが開かれました。コーディネーターは、森本氏がつとめ、パネリストは森孝之氏(ライフスタイルコンサルタント、大垣女子短期大学名誉教授、(株)アイトワ代表取締役)、熊野英介氏(アミタ株式会社代表取締役社長)、佐藤友美子氏(サントリー次世代研究所部長)と、北川氏、内藤氏です。

 森孝之氏は、小倉山のふもとの北隣で、約3反の土地に200種1000本の木が茂る里山で暮らし、循環型の暮らしのモデルを構築しています。「ほんの50年ほど前までは豊かな自然のもとで助けあって生き、自然資本と人的資本を活用してきました。この50年間で、産業資本を大量生産し、一人でも生きて行けるように思わせて、実は一人では生きて行けないような社会を作りました。コンビニで何でも手に入るから一人でも生きていけるようですが、それがなくなったら実際は生きていけません。本当は、自然資源、人的資本、人間関係資本を利用し、共同体でなければ生きていけません」と語りました。

森孝之氏
森孝之氏

 熊野英介氏は、京丹後市で荒廃森林と経営が厳しい酪農の「マイナスとマイナスをかけあわせてプラスにする森林酪農」を提唱し、森林の施業を酪農として行い、下草をエサにした森林の牛乳を作って販売するしくみをつくりました。また、森林認証制度を導入し、生物多様性と地域資源の活用の両立をはかっています。
「私たちは工業によって飢餓や貧困を脱却しましたが、それによって心貧しい社会を作り、ノイローゼや鬱もつくってしまいました。人と自然、人と社会、人と人との関係性を形にすることが大切です。関係性を事業化し、価値をつくっています」「地域において、林業は林業だけ、酪農は酪農だけ、農業は農業だけとなっていますが、これを結びつけてコミュニティのあり方を多様に変えていくしくみが必要です」と語りました。

熊野英介氏
熊野英介氏

 佐藤友美子氏は、社会を考える際に「共立のデザイン」の概念が必要で、「それぞれの人が自分のできることで主体的に関わるしくみ、皆が同じことを考え、行動したり、誰かが無理をするのではないしくみが必要です」「イベントで終わらせず、活動を日常化し、単なる場所が“居場所”になるような信頼関係」として長崎市で市民が自らの町を見直し、観光客に近い日常の目線で市民ボランティアが案内をするしくみなどを紹介しました。

佐藤友美子氏
佐藤友美子氏

 北川フラム氏は、越後妻有に限らず、日本中いたるところで、「10人に2人ぐらいの人が、子どもが次に地域に来るのは自分が死んだときだと思っています。そういう地域で若い人が来て、何かやるとおもしろがってくれます。来た若い人たちもじいちゃん、ばあちゃんが元気だとうれしくなります。危機的な状況でも、まずは楽しくやることを探していこうと考えています」と語りました。

 内藤正明氏は、「地球環境や世界経済の危機で日本は変革の時期に来ています。社会が里地里山に戻ってきます。たとえば、熊野さんのアミタ(株)では、現状の厳しい中でも利益を出されています。もし追い風になったらもっと元気になるでしょう。この事例が示唆しています」と語りました。

 環境省の青木龍太郎は、「里地里山は、地域の人たちだけですべてを守ることはもはやできません。食料や燃料など経済的な価値の再構築とともに、人間の楽しみの場として芸術やツーリズムなどとしても活用をはかり、都市の人たちが参加しやすいようにしていく必要があります」と語りました。

青木龍太郎
青木龍太郎

 森本氏は、このパネルディスカッションを総括し、「日本が過渡期を迎える中、里地里山が芸術、文化、生態、生物多様性、地域社会、ライフスタイル、人の流動化、美しさ、景観などたくさんの視点で語られました。盛りだくさんの内容でしたが、気持ち豊かな生き方を求めて里地里山への関心が高まっていきつつあるということだと思います」とまとめました。

森本幸裕氏
森本幸裕氏
会場の様子

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