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活動レポート

のこす・つなぐ・まもる
里地里山シンポジウム

日時 2008年2月22日(金) 13:30~17:00
場所 東京都世田谷区(東京農業大学世田谷キャンパス メディアホール)

 日本の自然環境や景観は、日本人が長い歴史の中で里地里山を活用し、その地域の地形や気候、生態系とうまく調和することで作り出され、持続的に維持されてきました。その結果、日本の里地里山には、その地域の自然環境にあった特有のの生物が生息し、生物多様性に満ちた空間となってきました。
 現在は、社会状況や経済状況の変化によって、里地里山と人間のつきあい方が変わり、その生物多様性は危機を迎えています。さらに、かつての美しい景観が損なわれ、里地里山が荒れることで自然災害や農業への鳥獣害などが発生するなどの問題も起きています。
 里地里山の保全や再生と維持管理は、そこに暮らす地域の人々の努力だけでは成り立ちません。日本の原風景として、生物多様性の場として、あるいは自然エネルギーや食料生産の場として、また、水源を涵養し、自然災害を防ぐためにも、都市などに暮らす多くのボランティアも参加した保全再生が必要になっています。
 そこで、里なびでは、里地里山の豊かさについて、多くの方に関心を持っていただき、ボランティアの参加や地域の合意形成、資源の利用など、里地里山を保全再生するための具体的な方法を考えるためのシンポジウムを開催しました。

 シンポジウムは、東京農業大学との共催で行いました。
 まず、主催者を代表して桜井郁三環境副大臣が挨拶し、世界の生物多様性が危機に瀕していること、生物多様性の保全の観点から里地里山をもう一度評価し、保全再生をすすめていく必要があること、今後、世界に対しても、日本の里地里山に代表される自然と共生する社会のあり方を提案していくこと、ボランティア活動への参加を期待していることなどをご紹介しました。

桜井環境副大臣
桜井環境副大臣

 次に、共催者を代表して東京農業大学・大澤貫寿学長が挨拶し、東京農業大学は農学、環境科学など、里地里山と深い関わりを持ち、自然との共生をはかりながら研究をすすめていること、里地里山のシンポジウムが学内で開催されることは意義深いことであると述べられました。

大澤学長
大澤学長

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 続いて、本シンポジウムの特別ゲストとして、オカリナ奏者の宗次郎さんが、オカリナの演奏を交えながら里地里山への思いを語りました。宗次郎さんは、自らオカリナを土から作っています。自然豊かな里山で暮らし、畑などで土をいじり、自然と対話しながら創作活動を続けています。壮大かつ雄大な海外の原始の自然の景観ではなく、日本の里地里山にありふれた身近な農業や山仕事、農村の日常、それからそこで育まれている自然環境を音楽として表現していて、そのことをシンポジウムでは伝えたかったと語られていました。参加者は、ぼくとつとした宗次郎さんの語り口調と、美しく透き通ったオカリナの音色に聞き入っていました。

 次に、4つの地域から、里地里山保全とボランティアの受け入れや都市との関わりについての活動報告が行われました。

 東京農業大学・宮林茂幸教授は、「川場村にふるさとをつくろう」と題して発表しました。宮林教授は里地里山についての基本的な解説を行いました。生活基盤としての農林業が崩壊し、過疎化や少子高齢化によって生活基盤や地域の伝統的な文化が解体しつつあり、それが遊休農地や放置された森林の増加につながり、自然環境の悪化にもつながっていることを説明し、森が水を蓄え、土砂の流出を止め、空気を浄化し、豊かな空間であり、大切なものであると強調されました。
世田谷区と群馬県川場村が昭和56年に「縁組」を行い、それ以来、都市と農村の子どもたちの相互交流や、川場村の自然環境を守るための協働での森づくりや棚田保全活動などを行っていることを報告しました。茅葺塾や森林(やま)づくり塾、農業塾など、健康村里山自然学校で行っている取り組みを行っていることや、今後の取り組みとして源流大学構想があり、大学、企業、行政、団体が連携し、住民や学校、企業などの体験、演習、研修などによる関わり方などが語られました。

 神奈川県秦野市の高橋生志雄環境産業部部長は、「表丹沢の里地里山をみんなで守る」と題して発表しました。高橋部長は、秦野市がかつては葉たばこ生産のために落ち葉などを活用し、里山を保全され、豊かな水源地であったこと、ところが、地下水源の化学物質による汚染が起こり、その後、市民、企業を含めた長年の取り組みによって水質の浄化を行い、きれいな水を取り戻したことが報告されました。平成16年からの環境省里地里山保全再生モデル事業によって秦野市では市内の里地里山地域でそれぞれの地域戦略をつくり、里地里山の整備、保全活動団体の支援、ボランティアの登録と研修などを行っていることが報告され、ボランティアを研修しながら受け入れていることや活動拠点があり宿泊などもできることから秦野に来て欲しいとアピールされました。

高橋部長
高橋部長

 新潟県佐渡市のトキの野生復帰連絡協議会への参加団体のひとつ「明日の・のうら21」の臼杵春三事務局長が「トキと人との共生をめざして」と題して発表しました。
 トキの野生復帰連絡協議会は、トキの野生復帰のために地域団体、保全活動団体、大学などが連携するための組織として平成15年に設立しています。トキの野生復帰に向けて、地域団体のひとつ野浦地区の「明日の・のうら21」では、平成12年から地域づくり(地元学調査)を行い、トキとの共生と伝統芸能による地域の活性化を行っています。かつてトキが野生にいたときの最後の生息地のひとつであった野浦地区では、こらから放鳥される「トキに選んでもらう」ためにビオトープづくりや環境保全型農業を行い、大学生をはじめとしたボランティアを毎年受け入れています。

 茨城県つくばみらい市の「古瀬の自然と歴史を守る会」の小菅新一事務局長は、東京都葛飾区と、自然や農業による交流を通じ、環境教育として里地里山の活動を都市と地元の子どもたちに体験してもらい、農村や自然の良さを知り、残していくための活動について報告しました。年間を通して、田植え、草取り、稲刈り、キャンプ、夏祭りなど、農村の様々な行事や作業を都市生活者や子どもたちが体験することで、里地里山の保全につなげています。現在では、グリーンツーリズムによる古民家宿泊、東京都立葛飾ろう学校や東京大学院生との交流、地元での農村文化の継承やつくばエクスプレス開業に合わせて、農村のPRとして、田んぼでのイネアート活動を行うなど、農村を都市住民にとって身近なものにするための活動を報告されました。

小菅事務局長
小菅事務局長

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 最後に、パネルディスカッションで、里地里山の魅力と保全再生活動やボランティア受け入れに向けた意見交換が行われました。東京農業大学の進士五十八教授がコーディネーターをつとめ、パネリストには、宗次郎さん、宮林教授、佐渡の臼杵さん、環境省里地里山保全再生専門官の青木龍太郎が登壇しました。
 進士教授は、宗次郎さんの著書の中の里地里山に関する詩を朗読しながら、そこに書かれた田園、柿の木の風景から、各パネリスト、あるいは会場の参加者からの話を引き出し、イメージではなく、具体的な里地里山の保全と持続的な利用のあり方について参加者に考えさせ、参加や行動を促していました。宮林教授は、「今、里山では外来種がとても多くなっています。持ち込んで、いらなくなって里山に放してしまったものです。それが10年後の生態系を壊します。今を見て、未来、せめて20年先を考えることが必要です」と語りました。佐渡の臼杵事務局長は、「地域の文化や祭り、歴史なども一緒に取り組んで地域の団結力をつくることで、自然を守る活動にもつながります。人と自然とどちらの取り組みも必要です」と語りました。環境省の青木専門官は、「人とのつながりが薄くなった里地里山を、もう一度人とつなげるために、都市の皆さんもボランティア活動に参加してください」と訴えました。
 宗次郎さんは、「大自然の背景音楽として私の曲が知られていますが、私は、その土地の庶民の暮らしが見えてくるような曲にしたいと思って作っています。里山、山里のような人が住んでいる自然、人が本来の営みをしてきた自然の方がもっとすばらしいと思います」と語りました。
 進士教授は、「里地里山は本来どこにでもある身近な自然でした。その普通が農林業とのつながりをなくし、荒れました。里地里山と農林業、人とのつながりを回復するために、ぜひ都市から里地里山に入って関わってください」と提言されていました。

左から、宗次郎さん、宮林教授、臼杵事務局長、青木専門官
左から、宗次郎さん、宮林教授、臼杵事務局長、青木専門官
コーディネーター 進士教授
コーディネーター 進士教授
会場の様子

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