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活動レポート

里なびミニシンポジウム&研修会 報告9
大学等との連携による里地里山保全

日時 2009年3月22日(土) 集合10:00 解散18:00
場所 高知県いの町(木の根ふれあいの森)

 「里なびミニシンポ&研修会第9回」は、高知県いの町で行いました。
 いの町では、森林整備や棚田の保全、地域づくりの活動を、地域の団体と大学や企業が連携して取り組んでいます。大学にとっては、学生の研究活動にとって必要なフィールドとしての役割を果たしており、ボランティア活動だけでない里地里山の活用のモデルがあります。
 里地里山における保全活動と人材育成のしくみ、そこから得られる具体的な成果についてミニシンポジウムと研修会を実施しました。

 ミニシンポでは、まず、里地ネットワークの竹田純一事務局長が、里地里山の保全には多様な主体の参画が欠かせないこと、ボランティアにも里地里山に対する様々な動機があること、里地里山における地域と大学との連携は、人材育成と研究活動という両面から注目が集まっていることを紹介し、多様な主体が地域と連携する際には、地域に住む人の主体を前提にして、取り組みを参加者が自ら生み出すような働きかけが重要なことなどを具体的な例を交えながら紹介しました。
 愛媛大学農学部の鶴見武道教授は、自ら棚田のある集落に移住して生活を行いながら、里地里山の保全活動に取り組んでおり、そこでの経験をふまえた大学での人材育成システムを紹介しました。鶴見教授は、里地里山のある集落では人口減少と高齢化により自治組織を保つことが難しくなっていること、そのため外部からの人の参画が欠かせないが、里地里山に求められる人材は、地域について謙虚に学び、地域の課題を自ら発見・分析し解決の方向性を示すことができる人であるとの認識を示し、愛媛大学で人材育成を行っています。鶴見教授は実践例として代表をつとめる「愛媛千年の森をつくる会」で、森づくり、炭焼き、自然の農業、子どもたちの自然体験教室等を行ってエネルギーや食料の自給を図っており、「自然の循環」「暮らしの循環」「人の循環」の成り立つ「未来循環型自給」を目指しています。

 研修会では、地域と連携して活動する大学の実践例と、里地里山における研究成果のふたつの目的で4つの大学研究グループに発表してもらいました。
 愛媛県農学部のグループ焼畑による山おこしの会と連携し、目標に「循環型農業の体験」「技術習得」「作物収穫」「地域との交流」をかかげ、山への火入れ、焼畑農業と森林再生、竹林再生、ヤギ牧場づくりなどの事例を紹介しました。
「焼畑地の利用循環」として、焼畑による収穫後に自然に植生が回復するのを待つのでなく植林して積極的に森づくりを行い、材を生産してから焼畑地に戻す積極的な里地里山保全方法の確立に取り組んでいます。
 高知大学農学部森林科学課のグループはNPO法人土佐の森・救援隊と連携し、森林整備と木工品づくりの取り組み事例を紹介しました。林業整備の活動をボランティアに楽しい要素を取り入れることが、林業の厳しさ、森林を次世代に継承し、木材を利用することの必要性を学び取る上で必要であると成果を報告し、今後、森林NPO法人の可能性についても模索していきたいとしています。
 高知大学植物生態学研究室では、わしの里元気村と連携し、棚田のある集落をフィールドに、植物に焦点をあて、集落全体の植生変化や、放棄田および復元水田の植生変化などの研究成果を報告しました。棚田の耕作放棄と植林の状況や、放棄田での土壌条件別の植生経年変化、学生自身が関わって放棄田を水田に復元した場所での植生変化などについての研究成果から、棚田のフィールドにおける生物多様性の維持には、水路、法面、石垣など周辺環境と一体的に保全管理が必要であることを紹介しています。
 高知大学人文学部は、地域活性化と地域計画づくりのワークショップ事例を報告しました。長者集落において、地域の宝探しを行うワークショップを、地域住民と学生が共同で行うことで、地域と外部者が共通のテーマに取り組むための準備ができること、また、同時に宝探しを行うことによって、地域の問題点や可能性が明らかになり、計画づくりが行えることなどの事例を名産品づくり、イベント等の取り組みを交えて紹介し、地域における外部主体の参加方法についての手法を報告しました。
 今後の課題としてNPO法人・土佐の森救援隊からは、里地里山の森林保全のためには小規模な自家伐採林業のしくみが必要であり、それを成り立たせるための支援のしくみが必要であることが挙げられました。その上で、解決の手法として地域通貨や林地における残材をバイオマス発電利用し、経済的循環に取り入れることなどの取り組みを紹介しました。
 このような様々な取り組み事例を組み合わせ、多様な主体と連携しながら里地里山保全を行っていくことが、同時に里地里山保全や循環型の社会づくりにつながる人材育成になります。最後に鶴見教授は、競争原理優先から、ひとりひとりの価値観を大切にする社会への転換がこのような取り組みから生まれてくるとまとめました。

ミニシンポジウム
ミニシンポジウム
愛媛大学農学部の鶴見教授
愛媛大学農学部の鶴見教授
大学生による発表
大学生による発表
大学生による発表2
大学生による発表2

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