海洋生物多様性保全戦略


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第5章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の施策の展開

4.海洋保護区の充実とネットワーク化の推進

 海洋保護区は、海洋の生物多様性と生態系サービスを確保する上で重要な海域について予防的視点から何らかの規制や管理措置を講ずるもので、有効な保全施策のうちの一つであるといえる。
CBD-COP10で決定された戦略計画2011-2020(愛知目標)の目標1121では、沿岸・海洋域について、2020年までに少なくとも10%、保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全されることが示されている。当該目標を達成するためにも、前述の考え方に基づき重要度の高い海域を把握した上で、保護・管理の必要性と目的を勘案し、海洋保護区を適切に配置することが重要である。その際、十分な情報提供と協議によって様々な利害関係者の理解を深め、関係者連携のもと目的に応じた適切な制度及び主体により海洋保護区の設定及び管理がなされることが重要である。

 なお、国際的な目標を踏まえ、生物多様性保全上重要度の高い海域とそれらの海域の保護・管理の必要性を明らかにしつつ、必要に応じて我が国の数値目標の設定を検討することも重要である。

(1)設定の推進と管理の充実

 海域の生物及び生態系、あるいはそれに関連する生態系サービスを維持するための区域設定と規制・管理は、我が国では、それぞれの具体的な目的に応じこれまでも様々な施策が講じられており、まずこれらを海洋保護区の具体的な形態として把握し、生物多様性の観点からより適切に活用することが重要である。その際、IUCNの保護区管理カテゴリーに示されているように、対象とする海域の生態系や利用の状況等を踏まえ、それぞれの管理目的にあわせた保護区の制度を適切に活用することが重要である。また、対象区域を適切にゾーニングし、生物多様性の保全と持続可能な利用を効果的に図っていくことも有効である。

 陸側を含む沿岸・浅海域の砂浜・汽水域・藻場・干潟・サンゴ礁等の生態系は、多様な生物の産卵・成育の場、豊かな漁業資源の生産の場、水質の浄化、自然とのふれあいの場など様々な重要な機能を有しており、生物多様性の保全のため重要な地域であるが人為的圧力も高いため、海洋保護区による予防的な保全は特に有効である。

 現在、藻場、サンゴ礁の4~5割程度が国立・国定公園を主とした保護区に指定されているが、そのほとんどは規制の緩やかな「国立・国定公園の普通地域」となっている。また、干潟のうち保護区に指定されているものは1割程度にとどまる。このため、保護区の拡大を図るとともに、既存の保護区については区域内のゾーニングを見直し、必要に応じより規制の強い区域の設定を図る。このことを踏まえ、2009年に自然公園法及び自然環境保全法の改正を行い、それぞれ海域公園地区制度及び海域特別地区制度を創設したところであり、今後、重要な海域等を踏まえ、海域における国立・国定公園、自然環境保全地域等の指定・再配置や海域公園地区、海域特別地区等の積極的な指定に努める。特に、国立公園の海域公園地区については、2012年度末までに2009年の2,359haから約4,700haに倍増することを目標とする。

 また、漁業資源の持続可能な利用のための区域設定にあたっては、利用と保全の調和を図るため、対象種の生活史を踏まえきめ細かなゾーニングを行うことが重要である。その際、学識経験者による科学的な助言等とともに、地域で培われてきた海と人間との関わり方の知識、技術、体制を活用することが重要である。

 あわせて、海洋保護区を指定するだけでは問題の解決にはならず、その中でとられる措置の効果的な実施の確保が重要である。どの海洋保護区においても、順応的管理のための継続的なモニタリングとその検証を踏まえた政策の見直しは極めて重要であり、そのための体制を整備する必要がある。また、監視体制も点検し、適切なあり方を検討していくことが重要である。
また、効果的な管理のためには、関係行政機関や地域住民、漁業やレクリエーションなどでその地域を利用する者、その海域に影響を与える可能性のある陸上での活動を行う者等の様々な関係者の連携と協力も重要である。そうした連携の中で、自然再生や里海としての管理等の取組を推進していくことも有効である。

 様々な関係者の連携の下に生物多様性の保全と持続可能な利用を図っていくためには、管理方針や方法を共有するための管理計画が作成され、順応的管理を遂行及び監視するための地域関係者の連携体制や科学的な検討を公開で行う体制など、それぞれの地域にあわせた連携体制を整備することが望ましい。このことから、特に国立公園の海域公園地区では、関係者が連携するための協議会等の場の設定を推進する。

 さらに、海洋保護区の設定と管理とを充実させることとあわせて、生物多様性の観点から、これらの海洋保護区の効果を評価するための基準及び手法を検討することも順応的管理のために重要であり、研究を推進する必要がある。

(2)ネットワーク化の推進

 2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)では「代表的な海洋保護区ネットワークを2012年までに構築する」ことを含むヨハネスブルク行動計画が採択されたが、CBD-COP10で採択された「海洋及び沿岸の生物多様性」に関する決定では、その行動計画の達成に向けてはより一層の努力が必要であることが指摘されている。また、戦略計画2011-2020(愛知目標)の目標11でも、「生態学的に代表的な良く連結された保護地域システム」などによる沿岸及び海域の10%の保全が求められている。
IUCNでは、「海洋保護区ネットワーク」を「単独の保護区ではなし得ない生態学的目的をより効果的かつ総合的に達成するため、多様な空間スケールと保護レベルの海洋保護区を協調的かつ相乗的に連携させた個々の集合のこと」と説明している。また、CBD-COP9では、そのような代表的な海洋保護区ネットワークを構築するための科学的指針が付属書22として採択され、ネットワークに必要な特性及び構成要素として、生態学的及び生物学的に重要な地域、代表性、連結性、反復される生態学的特性、適切かつ存続可能なサイト、の5つが指摘されている。
我が国では、既に述べたとおり、海洋保護区の設定にあたっては、広域的な視点から、既存の制度を適切に活用し、目的や守るべき対象にあう海洋保護区を連携させて効果的に配置することを主体に、効果的な生態的ネットワークのシステム構築を考えるべきである。

 例えば、特定の海域において、様々な管理目的による保護区を組み合わせ、一つの管理計画若しくは十分に調和された複数の管理計画によってこれらの保護区を連携させることは、ネットワークの形態の一つといえる。知床世界自然遺産地域においては、その海域における海洋生態系の保全を担保するため国立公園の区域を拡大すると共に、海洋生態系の保全と持続的な漁業資源利用による安定的な漁業の営みとの両立を図るため、管理計画の中に地域の漁業者・漁業者団体による禁漁区の設定などの資源管理の取組を位置づけている。漁業権制度等によって管理主体が明確な我が国においては、このような漁業者等の自主的な取組が有効であり、生態学的又は生物学的な連続性などに関する科学的な知見を踏まえた生物多様性の保全の取組と連携して取り組まれることが大切である。

 さらに、より大きな空間スケールにおいても、適切な制度を活用した海洋保護区の効果的配置が重要であり、重要海域の抽出とともに、既存の保護区の分布状況を把握した上で、そのネットワークのあり方を検討し形成していく。例えば、渡り鳥については、その移動経路を踏まえて利用される複数の生息地が適切に保全されることが重要であり、保護区のネットワークの視点が必要である。また、これらの施策の展開とあわせて、生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性を保全し、生態系サービスを継続可能な形で利用する観点からの海洋保護区のあり方を継続的に検証し、必要な場合には、既存の制度の改正や新たな制度の設定も検討する。
一方、保護区のネットワークには、地域や国内の保護地域システムを支援するための、知見や経験、科学技術的協力、能力育成や協働などといった社会的な連携の側面があることが、2004年に策定された生物多様性条約の「保護地域作業計画(PoWPA: Program of Work on Protected Areas)23で指摘されている。このため、行政・民間を問わず、様々なレベルで保護区を管理するための連携体制が形成され、維持されることも重要である。

 国際的には、このような社会的な連携の観点から、国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI: International Coral Reef Initiative)や東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ、二国間渡り鳥条約・協定、ラムサール条約などの枠組も活用し、東アジア地域サンゴ礁保護区ネットワーク戦略に基づくサンゴ礁の保全、藻場や干潟などの湿地、渡り鳥の保全などの分野でリーダーシップを発揮する。


21戦略計画2011-2020(愛知目標)の目標11:2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観又は海洋景観に統合される。

22 UNEP/CBD/COP/DEC/IX/20 AnnexⅡ

23 UNEP/CBD/COP/DEC/ VII/28

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