海洋生物多様性保全戦略


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第5章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の施策の展開

3.海域の特性を踏まえた対策の推進

(1)沿岸域

 人間活動と最も密接な関わりを持つ沿岸域は、従来から保全施策を講ずる主要な対象だった。今後もその重要性は変わることなく、より一層の施策の充実が必要であろう。複数の影響要因の関連性に配慮し、国、地方公共団体、企業、漁業者、住民、研究機関、学識経験者等の多様な関係者の連携を図ることが重要である。また、沿岸域は河川等を通じた陸域との関連が強く、特に河口域には汽水域が形成され特異な生態系が見られる。そのため、流域全体に視野を広げて、一体的な保全を行うことが重要である。

 我が国の沿岸域では、古来より採貝・採藻などの漁業活動を行ってきた歴史があり、現在でも漁業の営みは人間が海洋から豊かな自然の恵み(生態系サービス)を得る大切な生業である。安定した漁業生産には豊かな生態系がその漁業資源を持続的に生産できることが必要であり、このため、それぞれの地域の生態系の保全と生物資源の持続可能な利用を両立するための総合的な管理が重要である。また、海岸も含めた沿岸域・浅海域でのレクリエーション利用についても、適切な利用のためのルール作りなどが重要である。

 陸域とのつながりに関しては、防災上の観点からのみ行う河川に対する人工的な対策は、安全性を向上させる一方で、その方法によっては沿岸生態系への栄養塩類や土砂の供給が減少することで、干潟や砂浜を減少させる場合があるため、河川域における施策の下流域への配慮が重要である。藻場、干潟、サンゴ礁などの浅海域の湿地は、規模にかかわらず貝類や甲殻類の幼生、仔稚魚などが移動分散する際に重要な役割を果たしている場合があり、科学的知見を踏まえ、このような湿地間の相互のつながりの仕組みや関係性を認識し、残された藻場、干潟やサンゴ礁の保全、相互のつながりを補強する生物の住み場所の再生・修復・創造を図っていくことが必要である。また、化学物質による汚染状況などについての現状把握や開発された水域における生物生息・生育状況の確認を行うとともに、生態系を代表する生物の主要な化学物質に対する耐性の閾値の把握、過去に失われた生息・生育場としての機能を補うための再生・修復・創造の取組を行うことも重要である。

 漂流・漂着ごみについては、各種調査を通じ、被害が著しい地域の実態把握や全国的な状況の把握、発生原因の究明、地域の実情に応じた回収・処理方法や今後の対策の在り方等の検討を行ってきている。また、平成21 年7月に成立した「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(海岸漂着物処理推進法)」に基づき、各主体で連携して海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進しているところであり、今後も、これまでに得た知見等を活用しながら、関係主体と連携しつつ海岸漂着物等の円滑な処理とその効果的な発生抑制を図るために必要な対策を講じていく。

 閉鎖性海域は、一般的にその物理的な形状から外海との海水交換が悪いために汚染物質が溜まりやすく、かつ一旦汚染されると回復に長時間を要するという特性を有している。閉鎖性海域では、港湾、漁港、漁場・養殖場、工用水の取水、海水浴場等人間活動の利用が集中することが多く、また、特に太平洋側では、背後地に人口、産業等が集中している場合もある。これまで水質汚濁防止法や瀬戸内海環境保全特別措置法等に基づき、水質総量削減や富栄養化対策等が重点的に講じられてきた海域であり、現在、著しい汚濁は改善されている。しかしながら近年の海域の環境基準達成率は70~80%程度で横ばいの状況であり、海域によっては貧酸素水塊などが発生し、水利用や水生生物などの生息・生育に障害が生じるとともに、干潟・藻場の喪失により生物生息環境が悪化し、漁業資源を含む生態系の劣化が進んでいるところもある。そのため、自然生態系と調和しつつ人手を加えることにより高い生産性と生物多様性の保全が図られる里海の概念や地域 における円滑な物質循環の考え方も取り入れた汚濁負荷源の総合的な管理、水域の利用に関する調整が重要である。

(2)外洋域

 外洋域の船舶航行、廃棄物海洋投入処分、沖合漁業及び資源・エネルギー開発等の利用活動については、生物多様性の保全上重要な海域の保全を図ることを踏まえた上で、適切な管理と環境配慮が重要である。船舶等からの廃棄物の排出規制や漁業等は国際的な枠組で対応している部分が多く、関係諸国や国際機関との連携も重要となる。

 特に、陸域からの影響を強く受ける日本海及び東シナ海は、我が国にとって重要な漁業資源の供給の場である一方、各国からの海ごみ、汚濁等の負荷が集中しているため、近隣諸国との連携・協力が重要である。地域的協力の具体的な枠組としては、国連環境計画(UNEP)の「北西太平洋地域海行動計画」(NOWPAP)や国連開発計画(UNDP)の「東アジア海域環境管理パートナーシップ」(PEMSEA)等が挙げられる。このような協力の枠組は国境を越える海洋環境の保全及び持続可能な利用のための関係国の協調した取組を目指すものとして重要である。


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