海洋生物多様性保全戦略


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第4章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の基本的視点

2.海洋の総合的管理

 海洋基本計画においては、海洋に関する施策についての基本的な方針のひとつに「海洋の総合的管理」が掲げられており、海洋の管理に当たって、総合的に検討する視点が不可欠であるとともに、国連海洋法条約をはじめとする海洋に関する国際ルールに基づく適切な権利の行使、義務の履行、国際協調に留意する必要がある事が明記されている。
また、生物多様性国家戦略では、生態系全体を統合的に管理しようとするエコシステムアプローチの考え方を踏まえ、科学的知見に基づいて、予防的かつ順応的な管理や利用が行なわれること、また、関係者が広く情報を共有し、社会的な選択として管理と利用の方向性を決めることの重要性が明記されている。
このように、海洋の生物多様性の保全と持続可能な利用にあたっても、総合的な視点が重要である。

(1)沿岸域における陸域とのつながりの重要性

 陸域と海は河川や地下水などの水系でつながっており、土砂の移動により沿岸域に干潟・砂浜などが形成されるほか、陸域から供給される栄養塩類は川や海の魚をはじめとする生物を育み、豊かな生態系を形成する。また、海の栄養塩類はサケなどの遡上によって川上の森林に運ばれるなど、陸域と海域は密接に関連している。オカガニやヤシガニ、ハゼ、アユ、スズキなど、沿岸域に生息する生物には、回遊性を持つもの、生活史に応じて住み場所を移動するものが多くおり、こうした生物の行き来の経路や、生息場をネットワークとして捉えることも重要である。また、ヤマトシジミのように淡水と海水が入り混じる河口域を生息場とする生物もいる。このため、広域的な視点を持ち、陸と海とのつながりを考慮しながら流域を一体のものとして捉える取組も含めた沿岸域の総合的管理を進める必要がある。さらに沿岸内湾域では、湾内の生物の生息・生育環境が海流によってつながっており、そのネットワークも沿岸域の管理を進める上で考慮しながら、適切な生息・生育場を保全・再生していくことも重要である。

 そして、生態系ネットワークに配慮し、海洋の生物多様性の保全を推進するに当たっては、対象となる海洋生物の個々の生活史、回遊性に配慮し、その特性に応じた体系的な取組を構築していくことが重要である。

 また、これらの生態系ネットワークを形成する水域の様々な関係者の情報の共有を図り、幅広い参加と連携を促進し、地域の特性に応じた体系的な保全等の取組を構築していくことも重要である。

(2)外洋域における広域な視点の重要性

 海洋の連続性、海流の存在、大気からの汚染物質の流入、海洋生物の広域にわたる移動等を踏まえると、海洋の生物多様性は国内の問題に止まらない。自国の管轄権内の海域の環境を良好に保つための責任を負うことは勿論であるが、広域な外洋域については、近隣諸国との連携も重要である。特に、日本海のように閉鎖性が高い海域において保全の対策を講じる場合には、関係国の協力が不可欠であり、国際的な協調の下に海洋の生物多様性保全策を進めることが重要である。また、オホーツク海や東シナ海の西部がそれぞれアムール川、揚子江などの大陸を流れる大河川から供給される栄養塩類により豊かな生態系を形成しているように、大陸の陸域とも強い関連があることも認識する必要がある。

 さらに、我が国は広大な北太平洋の西岸に南北に長く位置し、大洋を通じて多くの国々と関連しており、このような視点からも国際的な連携が重要である。例えば、国境を越えた長距離の移動・回遊を行う過程で、我が国の沿岸を利用するクジラなどの海棲哺乳類、渡り鳥、ウミガメ類、回遊性魚類などの動物については、国内のみならず、より広域的・国際的な視点から、関係各国が連携、協力してその生息場の保全策を講じることが重要である。漂流・漂着ごみ等による汚染防止についても、関係各国との協力が望まれる。
また、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国のうち、我が国は、魚介類を最も摂取している国のひとつであり、漁業資源の持続可能な利用と海域生態系の保全の推進にあたっては国際的に重要な役割を担っている。

 加えて、地球温暖化や化学物質の地球規模の拡散による海洋への悪影響が懸念されているが、このような問題に対処する場合にも、国際的な協調の下に対策を講じることが不可欠である。国際的な有害物質の存在、気候変動による海洋生態系の変化等に関する実態把握、その影響を軽減するための方策にかかる共同研究等も推進していく必要がある。
なお、国際的には、生物多様性と生態系サービスに関する科学と政策の連携強化を図るため、国連環境計画(UNEP)のもとで、「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットホーム(IPBES: Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)」設立の検討が進められ、2010年6月には、参加国によって設立についての基本的な合意がなされた。政策の立案に対して必要な科学的基盤を提供する効果的かつ効率的な枠組となるよう、IPBESの体制等の検討に積極的に関与し貢献するとともに、このような枠組を通じ、海洋の生物多様性と生態系サービスについても、政策決定プロセスにおける科学的知見の活用を促進することが重要である。


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