環境省
VOLUME.74
2019年12月・2020年1月号

KEY PERSON INTERVIEW - ストレスマネジメントから考える温泉活用法

KEY PERSON - 早坂信哉 さん 東京都市大学人間科学部教授一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長

 温泉が健康に良いといわれるのはなぜでしょうか。まずはここから簡単にお話ししましょう。
 温泉にはさまざまな成分が溶けており、温泉につかっているとそれらは皮膚から吸収され、効果を発揮すると考えられています。含まれている成分はそれぞれの「泉質」によって異なります。一定の成分を含む療養向きの温泉は「療養泉」といって10種類に分類され、どの療養泉がどんな病状に適しているのかを示す「適応症」は環境省が決めているものです。
 温泉に入ることで得られる物理的効果には大きく3つあります。まずは「温熱作用」です。温泉で体を温めることによって体温が上昇して血行が良くなり、免疫効果を高め、新陳代謝を活発にして老廃物が排出されます。2つ目は「静水圧作用」。お湯の水圧によって全身がマッサージされた状態となり、血行を良くして足の疲れやむくみをとります。3つ目は水の中に入ると体重が軽く感じる「浮力作用」です。足腰や関節への負担から解放され、緊張をほぐします。
 さらに温泉は自然豊かな場所にあることが多く、海や山、川や森のある自然の中に身を置くことでリラックスでき、心の病気やストレス解消に効果があるとされています。こうした環境を含めた温泉がもたらす効用のことを「温泉の総合的生体調整作用」と呼び、数日以上温泉地に滞在すると、体調が回復しホルモン値や血圧などが正常化してくることが研究報告されています。温泉の素を家庭の浴槽で溶いて入浴しても温泉地に滞在したのと同じ効果を得ることができないのは、温泉地の環境も大きく影響しているからです。
 忙しい現代では温泉に長期滞在するのは難しいかもしれませんが、1泊2日でも観光地のはしごや豪勢な食事ばかりをプランニングするのでなく、体調を整えてストレスを解消するための「療養」を意識した過ごし方を考えてみましょう。心身を整える、癒やしを得るといったことを、まずは意識することが大切です。地域の食をゆっくり味わう、時間にゆとりを持って過ごす、パソコンやスマートフォンの電源を切る、自然や季節に関心を持つ、川のせせらぎに耳を傾ける…など、とにかく日常から離れた時間を作ること、逆にいえば温泉に日常の時間を持ちこまないことです。
 また前段で「適応症」に触れましたが、体調に応じて泉質(療養泉)を選ぶのもおすすめです。日本には約3,000もの温泉地があります。自分の体調に適した温泉地を探すのも、温泉に行く楽しみの1つではないでしょうか。
 最後に、温泉に入る前にはコップ1~2杯の水分補給を忘れずに。1回の入浴で平均800mL脱水します。また欲張らず、のぼせる前に出ること。のぼせは熱中症の一種です。泉質の強い温泉ではあがり湯(水道水などで温泉をざっと流す)をしましょう。

療養泉の主な適応症(浴用)

単純温泉 … 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態

塩化物泉 … きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

炭酸水素塩泉 … きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症

硫酸塩泉 … きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

二酸化炭素泉 … きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症

含鉄泉 … (療養泉の一般的適応症に準ずる)

酸性泉 … アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬(かんせん)、表皮化膿症、糖尿病

含よう素泉 … (療養泉の一般的適応症に準ずる)

硫黄泉 … アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬(かんせん)、慢性湿疹、表皮化膿症

放射能泉 … 痛風、関節リウマチ、強直性脊椎炎など

すべての泉質に共通する一般的適応症

筋肉・関節の慢性的痛み・こわばり、運動麻痺による筋肉のこわばり、胃腸機能の低下、糖尿病、軽症高血圧、軽い高コレステロール血症、軽い喘息・肺気腫、痔の痛み、冷え性、末梢循環障害、自律神経不安定症やストレスによる諸症状、病後回復期、疲労回復、健康増進

安心・安全な温泉の入浴法

KEYNOTE - FIRE 温泉地ではスマホの電源を切り非日常を楽しむ

早坂信哉(博士(医学)、温泉療法専門医)

東京都市大学人間科学部教授。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。著書に『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案 』(大和書房)など。環境省「自然等の地域資源を活かした温泉地の活性化に関する有識者会議」委員。

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