

地域をつなぐハブとして
課題解決にも取り組む
地域新電力の現在地
京都府福知山市にあるたんたんエナジー株式会社は、気候変動対策の専門家や大学の研究者が出資して設立された電力会社です。社名は、京都府北部地域の「丹波(たんば)」「丹後(たんご)」に由来しています。
地域にある資源を活用した再生可能エネルギーを地域に供給するとともに、地域の特産品にスポットを当てる取り組みや子どもたちへのスポーツ支援など課題解決にも取り組んでいます。
同社代表取締役である木原浩貴さんに、脱炭素と地域課題の解決を同時に目指す、地域に密着した取り組みについて伺いました。
研究成果の社会実装を実現するため
地域新電力を設立
電力の地産地消を目指し、地方自治体の戦略的な参画・関与の下で小売電気事業を営み、得られる収益を活用して地域の課題解決に取り組む「地域新電力」。自治体が主導し、資本金の一部を出資して運営に深く関与するものや、自治体と民間企業が連携し共同で設立したものなど、成り立ちはさまざまです。
「たんたんエナジー株式会社」は、気候変動対策の専門家や大学の研究者が中心となって出資し、2018年12月に設立されました。
「私自身が気候変動問題について危機感を覚えたのは、高校生の時です。英語の授業で地球温暖化に関する文献を読んだことをきっかけに気候変動問題についてもっと深く学びたいと思い、大学・大学院でこの問題を専攻しました。再生可能エネルギーは地域の固有資源であり、地域の人が優先して使う権利があるという考えを学んだことが、現在の活動の基盤となっています」
2003年、京都府内の地球温暖化対策を推進する中核的支援組織として「京都府地球温暖化防止活動推進センター」が発足。木原さんはその立ち上げに関わり、後に事務局長に就任しました。
「研究者として海外へ視察に行くことも多く、特に再生可能エネルギーの先進国であるオーストリアをフィールドにした研究を行っていました。自治体が出資している自治体公社がエネルギー政策の実務を担い、地域で資源やお金を循環させることで気候変動対策に貢献している海外の取り組みを多く見聞きし、日本でも応用できないかと、研究者たちとたくさん議論を重ねました。
京都府でも将来のエネルギー施策として地域新電力の設立について具体的な検討をすべく、2018年に環境省の支援を受けて検討会を開催しました。検討会には、京都府や京都府中北部の自治体、京都府地球温暖化防止活動推進センターの専門家、龍谷大学が参加し、自治体のパートナーとなる地域エネルギー事業体の在り方を模索してきました。
このとき、京都府は新電力を取り巻いている状況は流動的とし『すぐには設立せず継続検討』と結論づけましたが、同年、検討会に参加した京都府地球温暖化防止活動推進センターの専門家と龍谷大学の研究者たちが個人で出資し、研究成果の社会実装を実現する場としてたんたんエナジーを立ち上げました」
民間企業や大学と協働し
市民参加型のスキームを構築
たんたんエナジーの活動の背景には、福知山市が2015年に策定した「福知山市再生可能エネルギー活用プラン」があります。このプランは、地球温暖化等の課題を抱えた背景の中、持続可能なクリーンエネルギーとして注目されている「再生可能エネルギー」 の導入を図ることを目的として策定されました。
持続可能なまちづくりを目指した再生可能エネルギー事業を推進させるためには、行政だけでなく民間企業や大学機関などと協働し包括的に取り組む必要がありました。
そこで2019年1月に、たんたんエナジーと福知山市、京都北都信用金庫、龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)、そして社会的投資をサポートするプラスソーシャルインベストメント株式会社の5者間で「地域貢献型再生可能エネルギー事業の推進に関する協定」を締結。地域貢献事業へのノウハウ、クラウドファンディングの構築などそれぞれの専門性を活かして、エネルギー事業を推進する体制が構築されました。
この協定をもとに、たんたんエナジーが100%出資する「たんたんエナジー発電合同会社」を設立し、2021年度から市民が出資するオンサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)※1を実施しています。
※1 発電事業者が需要施設の屋根等を借りて発電設備(今回は太陽光発電)を設置し、その施設で使用された分だけの料金を集金する方式。需要施設側は、初期投資ゼロで太陽光発電の電気を使うことができる。
「オンサイトPPA事業は、福知山市内の体育館や学校給食センターなど3カ所の公共施設の屋根を福知山市から無償で借り受けることから始めました。太陽光発電設備を設置して発電した電力を市に供給し、市から電気料金を受け取ることで、電気を地産地消できます。また、市にとっては、初期投資をせずに使用分の電気代を支払うだけで済むといったメリットがあります。
設置に必要な資金の多くは京都北都信用金庫から融資を受け、売上金から返済します。プラスソーシャルインベストメントはファンドを取り扱い、クラウドファンディングで市民に出資を募って設置資金の一部として運用し、出資者には分配金を還元しています。LORCは、研究成果をもとに事業スキームのノウハウをたんたんエナジーに提供してサポートしています」
5者の連携協定による事業スキーム。(画像提供:たんたんエナジー)
その結果、2026年1月現在、中学校や給食センターなど7カ所の公共施設に太陽光発電が設置され、蓄電池が6基とV2B(Vehicle to Building)※2システムは5基設置されています。
※2 電気自動車のバッテリーに充電した電気を利用して、建物に電力を供給できる技術。
2021年に太陽光発電と蓄電池を設置した三段池公園総合体育館(左)。福知山市武道館に設置されたV2Bシステム。災害・停電時には電気自動車から建物に給電できる(右)。(写真提供:たんたんエナジー)
投資家特典は地域の特産品
地域の魅力を伝える一助にも
市民参加型のオンサイトPPAに対して市民の関心は高く、初回は募集開始から約3週間で定員に達しました。
「太陽光発電に興味があっても、古い家やマンションなどに住んでいて太陽光発電の設置が難しいといった市民が、これなら自分も電気の地産地消に貢献できると参加してくださっています。自分が出資したファンドによって設置された太陽光パネルと蓄電池が、地域の小中学校など次世代の子どもたちのために使われることや、災害時の避難所となる体育館などの非常用電源として使われることに賛同いただいています」
オンサイトPPAを行うファンドに3口(1口1万円)以上出資した市民には、福知山城など市内の観光施設の入場券や特産品を投資家特典として選んでもらっているといいます。
「たとえば、福知山の特産品に三和ぶどうのジュースがあります。三和ぶどうは大粒で糖度が高く、古くから贈答品として有名でしたが、生産者の高齢化や後継者不足で存続の危機にありました。地域のぶどうを守りたいとの思いを引き継いだ若手生産者が開発したのが、完熟させたぶどうを絞ってそのまま瓶詰めしたぶどうジュースです。
ほかにも福知山の高校生が育てた市の花であるキキョウの根を使ったスキンケア商品などもあり、地域の魅力を伝える一助になっていると思います」
地域課題の解決に注力し
必要とされる会社へ
たんたんエナジーは、地域課題の解決にも力を入れて取り組んでいます。
「地域に根差した企業として、日々地域の人と関わっていると困りごとを聞く機会が多くあり、ちょっとした相談をきっかけに地域課題に気づくことができます。課題解決の取り組みのひとつが、子どもたちへのスポーツ支援です。
市内には9つの中学校がありますが、少子化が進み、サッカー部はそのうち2校しかありません。地域総合型クラブ『一般社団法人福知山ユナイテッド』は、部活動の支援やプロ選手を招致したイベントなどの活動を通して、団体競技をやりたくてもできない子どもたちにスポーツの機会を作っており、たんたんエナジーはオフィシャルパートナー企業として活動をサポートしています」
また、指導者の働く環境も支えています。2025年より福知山ユナイテッドの一部のスタッフを社員として雇用し始めました。
「部活動やクラブチームを指導する時間は放課後に偏りがちなので、指導がない時間帯に、たんたんエナジーに勤務する『複業』をしてもらっています。うまくいけば、地域の企業が部活動を支える人材をサポートするモデルケースになるのではと考えています。
地域の困りごとに一つひとつ向き合い、解決を積み重ねることで、たんたんエナジーが『地域に必要とされる会社』だと感じていただけているよう、これからも努力していきます」
福知山ユナイテッドが運営するサッカークラブ「FUFC」の子どもたち。学校にサッカー部がない子どもにも機会を与えたいという思いから設立された。たんたんエナジーはユニフォームを贈呈した。(写真提供:たんたんエナジー)
好循環を生み出す
変革者であり続けたい
たんたんエナジーは次世代を担う子どもたちへの環境教育も積極的に実施しており、2025年の夏休みには、学童保育の子どもたちに出張授業をしました。
「脱炭素や気候変動問題は、ただ情報を伝えるだけでは絶対に伝わりません。そこで重要なのは、実際に見て体感してもらうこと。化石燃料の使用をやめようと言っても子どもたちはピンとこないけれど、『実はこの学校の電気は再生可能エネルギーだよ』と言うと目の色が変わります。実際に見て体感し、自分たちにも環境を変えられる、という実感がセットでないと伝わらないと思っています」
最後に、たんたんエナジーはエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、木原さんに聞いてみました。
「エネルギー事業を通じて、地域のさまざまな人や組織をつなぐことで好循環を生み出すハブの役割を担いたいと思っています。今後、さらに地域に再生可能エネルギーの発電所を増やして規模を拡大するなど、たんたんエナジー自身も変革し続けることで、多くの人の変革を促す存在であるように、これからも活動していきたいと思います」
写真/蛭子真
原稿/脇本暁子