[ 特集 ]

日本の自治体が
世界の脱炭素化に貢献!
広げよう国際協力の輪

日本では脱炭素化に取り組む自治体が全国で拡大し、
各地で多様なロールモデルが生まれています。
培った技術やノウハウを生かして、
海外の都市の脱炭素化をサポートするケースも増えています。
そうした国際協力の輪が世界に、そして自治体に
どんな可能性をもたらすのか、最新事例を見てみましょう。

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「脱炭素化」に挑む自治体が
急増中

気候変動問題の解決のため、2015年に合意されたパリ協定では「産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃未満に抑える努力をする」という目標が国際的に共有されました。この目標を達成するために、世界中の多くの国や地域が、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げています。そのための重要な課題のひとつが、都市の脱炭素化です。

現在、都市には世界人口の約半数が暮らし、世界のGDP(国内総生産)※の8割近くを生み出しています。一方で、世界の温室効果ガス排出量の7割は都市に由来するとされています。2050年には都市の人口が世界人口の7割に達するとの予測もあることからも、気候変動対策を成功させるには、どれだけ都市の脱炭素化を進められるかが鍵となるのです。

※一定期間内に国内で生産された財(モノ)・サービスの付加価値の合計額のこと。

世界の温室効果ガス排出量のうち都市が占める割合7割

世界では都市や地域の脱炭素化を目指す取り組みが進んでいます。日本では、ロールモデルとなる都市や自治体を全国に作り、ほかの地域にも広げていくためのさまざまな施策が行われ、成果を挙げています。そのひとつが、ゼロカーボンシティの推進です。ゼロカーボンシティとは、2050年までに温室効果ガスの多くを占める二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにすることを目指すと表明した自治体のことです。その数は2019年9月時点では4自治体でしたが、2025年6月末時点で1,182自治体にまで増加しています。

また、脱炭素先行地域づくりも全国で進んでいます。脱炭素先行地域とは、2050年を待つことなく2030年度までに、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロと地域課題解決を同時に実現する地域のことで、2025年5月までに88の提案が選定されています。全国の先行例・模範となって「脱炭素ドミノ」の起点となり、地域脱炭素の取り組みを広げていくことが強く期待されています。

全国に広がる脱炭素先行地域

日本地図と各地域ブロックごとの提案例数を示す図。葉のアイコンが1提案を表す。・北海道ブロック 7件・東北ブロック 12件・関東ブロック 16件・中部ブロック 12件・近畿ブロック 10件・中国ブロック 12件・四国ブロック 5件・九州・沖縄ブロック 14件
※2025年5月時点。共同で選定された市町村は1提案としてカウント。
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世界に貢献する自治体の
取り組み事例

脱炭素化に精力的に取り組む自治体の中には、独自に培ったノウハウや地域の特性を生かして、他国の都市や地域の脱炭素化に協力するケースも生まれています。脱炭素化に向けた計画づくりのサポートや、高い環境技術を持つ地元の企業と連携した技術協力及び人材育成など、協力の内容は多岐にわたります。

こうした取り組みは世界の脱炭素化に貢献するだけでなく、自治体にとっても国際的なネットワークの拡大や、地元企業の海外展開の促進のきっかけになることが期待されます。また、そうした世界へのつながりが、国内外からの訪問者数の増加や地元企業の売り上げ向上、ひいては地域経済の活性化をもたらす可能性も秘めています。具体的な事例を紹介します。

横浜市(×タイ・バンコク都)

神奈川県横浜市は国際貿易港である横浜港を基盤に、約377万人が暮らす首都圏の中核都市です。横浜市は政府から環境未来都市として選定されており、2010年にはエネルギー循環都市を実現するための「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を立ち上げるなど、いち早く環境への取り組みにも力を入れてきました。2022年には、みなとみらい21地区が脱炭素先行地域に選定され、再生可能エネルギーの利用促進や冷暖房に利用する熱の脱炭素化など、幅広い取り組みを行っています。

2013年にはタイ・バンコク都と、持続可能な都市発展に向けた技術協⼒の覚書を締結し、バンコク都の気候変動対策に係る技術協力を横浜市内企業と連携して取り組んできました。「バンコク都気候変動マスタープラン」や「バンコク都エネルギーアクションプラン」の策定などを支援したほか、2023年には横浜市主催の国際会議「アジア・スマートシティ会議」にて、両首長がアジアの都市の脱炭素化に向けた共同宣言を行いました。

また両都市の企業の力も活用しようと、ビジネスマッチングなどの交流機会を作り、これまで150社以上の日タイ企業が参画。既にバンコクの太陽光発電事業で両都市の企業が連携するといった例も生まれています。いま注目の取り組みのひとつは、次世代の再生可能エネルギー技術として期待を集めるペロブスカイト太陽電池※の実証事業。この技術の実用化を目指す横浜市の企業が、交流機会で知り合ったタイ企業と連携し、2024年から実施しています。

※「ペロブスカイト」と呼ばれる、ヨウ素が主原料の材料をフィルムなどに塗布・印刷して作る太陽電池。

横浜市とバンコク都の両首長が共同宣言を行った際の様子(2023年)。

北九州市(×インド・テランガナ州)

福岡県北九州市は、人口約90万人を有する九州の主要都市です。かつて日本有数の重工業都市でしたが、1990年代から環境に配慮した都市への転換を目指して変革を開始。1997年から廃棄物をほかの分野の原料として活用し、廃棄物を実質ゼロにすることを目指す「エコタウン事業」に認定され、リサイクルシステムの構築や産業廃棄物対策など、資源循環の先進的な取り組みを推進してきました。また、こうしたエコタウンでの循環ビジネスの取り組みも組み合わせて、2022年には脱炭素先行地域にも選定されています。

こうした知見をもとに、2023年にはインド全土で廃棄物処理事業を展開するラムキーグループと連携協定を締結。インドでの環境プロジェクトの実施や環境人材の育成、市内企業とインド企業の連携などを目標として取り組みを開始し、ラムキーグループは北九州市内に日本法人も設立しました。

さらに2025年6月には、ラムキーグループが拠点とするインド・テランガナ州とも友好協力協定を結びました。目標は、北九州市や市内の企業が培ってきた技術やノウハウを生かして、インドの脱炭素・循環型のエコタウンを作ること。今後は、廃棄物の再資源化や再生可能エネルギーの利用、省エネ設備の導入、市民啓発など、幅広い支援を行っていくとしています。

2023年に行われた北九州市とインド・ラムキーグループとの連携協定締結式。

浦添市(×パラオ・アイライ州)

沖縄県浦添市は、沖縄本島の人口約11万人の比較的小さな自治体ですが、分散型エネルギーシステムを導入するなど、脱炭素化に向けた独自の取り組みを進めています。また市内には沖縄電力など、エネルギー資源に制約がある島しょ地域ならではのエネルギー供給のノウハウや技術を持つ企業の拠点があるのも大きな特色です。沖縄電力は沖縄本島を含む38の有人離島に電力を安定供給しながら、離島における太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入に取り組んできました。

浦添市はこうした企業と連携して、2022年度から300以上の島々から成るパラオのアイライ州における脱炭素化の取り組みをサポートし始めました。既にモデルケースとして、リゾートホテルの施設への太陽光発電設備の導入計画が進行中です。さらに、水源の限られたパラオの飲み水を処理する主要な施設、アイライ浄水場での再生可能エネルギーの活用も検討しています。自家消費型の太陽光発電を取り入れると同時に、電気の周波数や電圧を自動調整して省エネ化を図ることによって、島しょ地域の課題であるディーゼル発電への依存を軽減することが狙いのひとつです。

今後は両者が有する人材、知見などを活用し地域環境保全に向けて取り組み、地域環境保全対策に有益な情報などを相互に提供、共有し、持続可能な地域づくりに貢献することを目指しています。

太陽光発電設備の導入が検討されているアイライ州の浄水場。
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自治体や企業の国際協力を後押しする仕組み

こうした自治体や企業による国際協力を後押しする仕組みのひとつとして、環境省が推進する「都市間連携事業」があります。日本の自治体と海外のパートナー都市が連携し、企業とも協働しながらパートナー都市の脱炭素化に向けた調査や制度づくりの支援、技術の普及、人材育成などを進めます。自治体や企業が国境を超えて連携することは、地球規模の脱炭素社会を築く上で有効であるという認識のもと、地域の脱炭素化に関するセミナーやワークショップの開催、ウェブサイトを通じた情報提供などを行っています。

都市間連携事業のコンセプト

環境省の契約で日本の自治体と海外のパートナー都市が連携し、脱炭素に向けた調査、制度づくりの支援、技術の普及、人材育成などを行う。それにより民間投資が活発になる、パートナー都市が自立して脱炭素家を進めるようになり、地域が発展する、他の地域にも脱炭素技術の活用が進む、などの効果が生まれ、脱炭素社会が実現していく。

2013年度に開始して以来、世界14カ国67都市・地域と、日本の25自治体が参画しています。また、都市間連携事業の活動から、排水処理設備や太陽光発電といった環境インフラを整備するプロジェクトが約30件実現するなど、着実に実績を積み上げています。

最後に

今では日本の多くの自治体が、積極的な取り組みを通じて脱炭素化社会を牽引するプレイヤーとなっています。自分や家族が暮らす自治体がゼロカーボンシティを表明しているか、脱炭素先行地域に選定されているか、ぜひ調べてみませんか? 自分たちの街や地元企業が都市間連携事業を通じて、海外の都市の脱炭素化に協力しているかもしれません。あるいは、自分が働いている企業の脱炭素化の取り組みや技術開発が、いずれ海外で新たなビジネスチャンスを生む可能性もあります。

気候変動問題を解決するには、世界が連携し、知識やノウハウを共有することが不可欠です。そのためには国だけでなく、自治体や企業、そして私たち一人ひとりが手を取り合う必要があります。まず私たちにできる第一歩は、現状を知ること。その上で、自分の暮らす地域の脱炭素化に一緒に取り組むことが、いずれ世界の状況を大きく変える力になるかもしれません。

原稿/嶌 陽子
イラスト/鴨井 猛

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