小林純一郎氏画像1
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「交流を通じた感動」から
生まれる
地球と地域の
サステナビリティ

株式会社JTBは、2024年に環境省のエコ・ファースト制度※1の認定を受けるなど、サステナビリティへの取り組みでもツーリズム業界をリードしています。
同社のサステナビリティ担当部長の小林純一郎さんに、ツーリズム業界とサステナビリティのつながり、そして旅行を取り扱う会社ならではの環境への貢献についてお聞きしました。 ※1 業界を牽引して環境保全に取り組む企業を環境大臣が認定する制度。

ツーリズム業界にとって
サステナビリティは経営資源

旅行・観光の体験を事業の根幹とするツーリズム業界では、旅行先の地域の環境が事業の価値と強く結びついています。それだけに「サステナビリティ」という言葉は、特別な意味を持っているそうです。

「『サステナビリティ』という言葉を聞くと、一般に『水を大切に』『電気を消しましょう』といった資源の問題や、気候変動を思い浮かべることが多いと思います。それに対してツーリズム産業では、地域のコミュニティや文化、自然、遺産などを総称して『資源』と考えており、地域の魅力を発掘し、磨き上げることで地域に貢献していくことまでを含めて『サステナビリティへの貢献』と捉えています。

気候変動などの環境問題も事業リスクとして注目しています。たとえば台風や洪水、山火事の増加によって旅行先のインフラや交通機関が利用できなくなったり、そもそも観光資源自体が破壊されたりする危惧もあります。

JTBグループは『地球を舞台に人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する』という経営理念を掲げています。我々の事業は豊かな自然環境や多様な文化、地域の魅力といったものに深く関わっているので、環境問題も本業と関係のない社会課題ではなく、事業を持続させるための重要課題と認識しています」

環境問題という大きな課題に向けて
他業種や競合他社と共創

従来からサステナビリティとの関わりが強かったJTBですが、2021年にサステナビリティ担当執行役員の設置、2024年には環境省のエコ・ファースト制度の認定やサステナブルツーリズムの国際基準であるGSTC認証を取得するなど、近年より活発な取り組みを展開しています。その背景にはマーケットの急激な変化があるそうです。

「海外を中心にサステナビリティへの取り組みや認証、情報公開が強く問われ、学会や大規模な会議を運営する業務の入札に参加する際、参加条件に求められる場面が増えてきています。JTBも改めてサステナビリティやDEIB (ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・ビロンギング)※2といった非財務的な価値への取り組みを進めています。

※2 Diversity(多様性), Equity(公平性), Inclusion(包括性), Belonging(心理的安全性)の略称。

その一環として、日頃から取引でも関わりがある業界のトップランナーが数多く参画している、エコ・ファースト制度の認定を受けました。事業面でも、環境への取り組みが問われる場面が多いなかで、『エコ・ファーストの約束』※3を提示することで、取り組みへの評価につながっている実感があります」

※3 エコ・ファーストの認定時に環境大臣に対して約束する環境保全に関する取り組みのこと。

小林さんは、こうした活動から生まれる他の事業者とのつながりが環境問題の解決にとって重要だと言います。

「環境問題は自社だけで解決できる課題ではありません。エコ・ファースト制度の認定を受けた企業のコミュニティから、業界を横断して各企業の環境担当者が議論・交流する機会が生まれ、新しい共創へとつながることも期待しています。

ツーリズム業界のなかでも、JTBにとって日頃はライバル関係となる旅行会社と協力してサステナビリティの取り組みを行っています。たとえば宿泊事業者様向けにサステナビリティに関する認証について説明するセミナーを開催したり、ツーリズム業界のプロモーションイベントで旅行者向けに『公共交通機関や自転車、徒歩などの移動手段を使おう』など『サステナブルな旅行のヒント』について啓発活動を行ったりしました。

普段の事業活動では競い合う間柄ですが、サステナビリティに関しては同じ方向を向いているので、協力することでリソースと影響力を広げることができるはずです。これからも仲間を増やしていき、日本のサステナブルツーリズムの形を確立していきたいと考えています」

JTBと複数の旅行予約サイトが、東京ビッグサイトで行われた「ツーリズムEXPOジャパン2024」で旅行者に向け提唱した12項目の「サステナブルな旅行のヒント」。(画像提供:JTB)

JTBと複数の旅行予約サイトが、東京ビッグサイトで行われた「ツーリズムEXPOジャパン2024」で旅行者に向け提唱した12項目の「サステナブルな旅行のヒント」。(画像提供:JTB)

生徒に環境を教えることは、
社員にとっても環境を学ぶこと

JTBが展開している環境に貢献する事業活動のひとつに、2024年から日本航空株式会社(JAL)と共同で提供している学校・企業向けのサステナビリティ教育プログラムがあります。

「学校向けのプログラムでは、JALの国際線を利用して海外に修学旅行に行く学校を対象に、『旅マエ』『旅ナカ』『旅アト』の3つの段階でサステナビリティを学びます。

『旅マエ』ではJALとJTBの社員が講師として学校に伺い、講義やゲームを交えながらSAF※4やサステナビリティについて学びます。『旅ナカ』は修学旅行そのものを指しており、『旅マエ』で学んだ、SAFを利用した飛行機に搭乗することで二酸化炭素(CO2)の排出を削減し、学んだことを体験してもらうほか、旅先で見つけたホテルや観光スポットでのサステナビリティの取り組みをシートに記入して気づきを得るといった体験が可能です。修学旅行後には『旅アト』として、CO2削減量の証書を学校にお渡しした上で、アンケートを通じて生徒の皆さんに改めて環境との付き合い方を考えてもらう、一連のプログラムになっています。

※4 Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)の略。原料の生産・調達から製造、輸送、燃焼までのライフサイクルで、従来のジェット燃料比でCO2排出量を約60%~80%程度削減可能とされる。

受講した生徒からは『日常のなかでCO2排出を減らす行動を考えるようになった』といった感想をいただいています。また学校側からは、修学旅行を通じて実際にCO2削減を体験することで、座学で学んだ内容を生徒に強く印象づけることができるとメリットを感じていただいています」

サステナビリティ学習プログラムの概要。(画像提供:JTB)

サステナビリティ学習プログラムの概要。(画像提供:JTB)

教育プログラムの提供は生徒だけでなく、JTB社内のサステナビリティの普及にも貢献しているそうです。

「『旅マエ』で講義を担当する社員は、まず教えることで自分自身の理解が深まります。そして生徒からの質問を受けて『確かに、この対策のためにどんな仕組みを整える必要があるのだろう』と深く考える機会も生まれます。企業の環境問題への取り組みに普段から注目している生徒もいて、『こういう視点で物事を考えているんだ』と刺激を受けることもあるそうです。社員自身の環境への意識や、業務で取り扱う環境に配慮した商品への思いが高まり、他の社員にも波及していくような良い循環に結びついています。

社員のサステナビリティに対する興味を引き出すにあたって、自分自身の業務と結びつけることは効果的で、教育プログラムの講師を務めることもその一例です。その他の取り組みとして、社内で行われているサステナビリティの取り組みをまとめたポスターを作ってオフィス内に掲示しており、営業ツールとしても活用できる形にしています。オフィスで目にした際や、提案書に取り入れる際に『うちの会社ってこんなにいろんなことをやってるんだ』と改めて認識することができ、具体的な取り組みを調べる導線にもなっています」

サステナビリティの取り組みをまとめたポスターをエレベーターホールなどオフィス内の各所に掲示し、社員の意識を高めている。

サステナビリティの取り組みをまとめたポスターをエレベーターホールなどオフィス内の各所に掲示し、社員の意識を高めている。

「交流」を通じて、地域を愛し、
地球に感動する人を増やしていく

JTBの環境への取り組みの大きな特色は、観光地の地域課題への取り組みとも結びついていることです。香川県高松市の拠点「SICS(Setouchi Islands Concierge Service) サステナブルラウンジ」を中心にした地域の方々とのコラボレーションはその代表例です。

「SICS サステナブルラウンジは、地域の方々や教育の現場、そして行政が連携して2024年に設立した交流の場です。飲食店も併設しており、獲れる魚が変わったことで増加している未利用魚※5を活用し、食事の具材として提供しています」

※5 魚体のサイズが不ぞろいであったり、漁獲量が少なくロットがまとまらないなどの理由から、非食用に回されたり、低い価格でしか評価されない魚のこと。

SICS サステナブルラウンジ併設の飲食店「クセモノズ」。未利用魚を「クセモノ」に例えて、たこ焼きなどの具にするなどして提供している。(写真提供:JTB)

SICS サステナブルラウンジ併設の飲食店「クセモノズ」。未利用魚を「クセモノ」に例えて、たこ焼きなどの具にするなどして提供している。(写真提供:JTB)

「クセモノズ」ではアカエイやボラ、クロダイなどの未利用魚を積極的に活用している。(写真提供:JTB)

「クセモノズ」ではアカエイやボラ、クロダイなどの未利用魚を積極的に活用している。(写真提供:JTB)

「そもそもの背景として、気候変動によって瀬戸内のみならず日本、さらには世界のさまざまな地域で漁獲量が減ってきたり、獲れる魚の種類も変わってきたりしており、漁師の方の生活にも影響を及ぼすようになっています。

瀬戸内の文化を守るために、地域の魅力を伝える役割であるツーリズム産業として何か貢献できないかと考え、高松市の漁協と協力して取り組みを始めました」

高松市での取り組みからは、地域の方々と子どもたちの共創も生まれています。

「校外学習で地域の水産業が直面する課題を知った小学生のアイデアをもとに、未利用魚を使ったレトルトカレーを行政と小学校と共同開発しました。土産物店や物産展などで販売しています。自分たちの地域の課題に大人たちと一緒に向き合い、自分たちで考えた商品が正規の流通経路に乗って販売されていることは、子どもたちにとっても嬉しい経験になっています」

香川県の子どもたちと開発した、地域の食材や未利用魚、規格外の野菜を活用したレトルトカレー。(写真提供:JTB)

香川県の子どもたちと開発した、地域の食材や未利用魚、規格外の野菜を活用したレトルトカレー。(写真提供:JTB)

「残念ながら瀬戸内も、常に魚がたくさん獲れるという環境ではなくなってきています。その現状を地域の方々や企業、そして将来を担う子どもたちに知ってもらうきっかけを生み出していることを、一緒にこの事業に取り組んでいる行政や漁協の方々からは評価してもらっています」

未利用魚を活用したレトルトカレーを販売する子どもたちの様子。(写真提供:JTB)

未利用魚を活用したレトルトカレーを販売する子どもたちの様子。(写真提供:JTB)

最後に、JTBはエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、小林さんに聞いてみました。

「単に『環境規制を守る』という受動的な方向だけから考えると、極端に言えば『環境を守るために、旅行をやめればいいのではないか』という考えにも結びついてしまうかもしれません。

けれども我々は、事業ドメイン(領域)として位置づけている『交流創造』を通じて、積極的にサステナビリティに貢献しようとしています。その地域を良くしたいと思う人を増やし、地域、人、文化、生活を活性化させる。ひいては地球環境の保全や持続可能な社会の実現に向けても『交流を通じた感動』を生み出していくことが、我々JTBの役割だと考えています」

小林純一郎氏画像2
小林純一郎(こばやし じゅんいちろう)

株式会社JTB サステナビリティ担当部長。小売業界を経て、「大好きな旅の魅力を広めることに貢献したい」との思いから2005年にJTBに入社。個人・法人営業、総務・人事、株式会社JTBビジネストランスフォーム出向の後、2024年より現職。

【企業情報】

株式会社JTB
本社:東京都品川区東品川2-3-11 JTBビル
従業員:19,376名 ※グループ全体(2025年3月31日時点)
設立 :1912年3月12日(ジャパン・ツーリスト・ビューローとして)

写真/榊水麗
原稿/甲斐荘秀生

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