責任ある観光~エコツーリズム

FEATURE [ 特集 ]

旅行者の行動が地域資源の保全、
地域活性化につながる!

責任ある観光
~エコツーリズム

環境問題への意識が高まり、
自然体験型の旅行や教育的要素の多い
旅行は身近なものとなっています。
このようななか、いま旅行者に
責任のある行動が求められています。
旅行を楽しむうえで、
私たちの意識や行動は
地域に
責任あるものとなっているでしょうか。
いま旅行者に何が求められているのか、
エコツーリズムの考え方に基づいて
一緒に考えていきましょう。

CONTENTS

  1. 1. エコツーリズムとは?
  2. 2. エコツーリズムにいま何が求められている?
  3. 3. 日本や世界の責任ある観光の事例紹介
  4. 4. 観光地を大切にする快適な旅をしよう!
  5. 5. まとめ
責任ある観光~エコツーリズム

1 エコツーリズムとは?

エコツーリズムとは、自然環境や歴史文化など、地域ぐるみで地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。それによって、地域の観光のオリジナリティが高まるだけでなく、地域の住民も自分たちの資源の価値を再認識し、地域社会そのものが活性化されていくことが期待されます。

持続的な地域振興・観光振興をめざすエコツーリズムが、資源を消費する旅行にならないよう、宿泊先や移動手段等においても、地域を保全する旅行を心がけることが大切です。環境への意識が高い旅行者は、エコツアーやエコロッジ(体験型宿泊施設)等、地域へ負荷をかけない旅行を選びつつあります。インバウンドを含む旅行者が増加するなか、こうした世界の動きに日本も対応していく必要があり、これからのツーリズムに必要な視点として、エコツーリズムがこれまで目指してきた「責任ある観光」の考えが重要になります。

2 エコツーリズムにいま
何が求められている?

では、持続可能なエコツーリズムのために、私たちはどんなことを意識して旅をすればいいのでしょうか?エコツーリズムの専門家である海津ゆりえ先生にお話を伺いました。

教えて! 海津先生

  • 海津ゆりえ
  • 教えてくれる人 海津ゆりえ先生

    文教大学国際学部教授。農学博士。立教大学理学部化学科卒業後、地域計画を志し、建築・地域計画事務所に勤務。1980年代末に「エコツーリズム」というキーワードに出会い、ライフワークにすると決める。1991年西表国立公園で環境庁(当時)が開始したエコツーリズム開発プロジェクトに携わり、以後各地のエコツーリズム支援にかかわる。日本エコツーリズム協会創設メンバーの一人。2007年文教大学へ。主要フィールドは西表島、奄美群島、八丈島、岩手県宮古市、磐梯朝日国立公園、ガラパゴス諸島など。主要著書は、『日本エコツアー・ガイドブック』(岩波書店)、『エコツーリズムを学ぶ人のために』(世界思想社)など。

現在、エコツーリズムは
どの地点にいる?

私がエコツーリズムに関わるようになったのは、1980年代後半。もう30年を超えます。観光が環境そのものに負荷をかけている国もあるなかで、日本はとても良い状態だと思います。2007年にエコツーリズム推進法が成立し2008年に施行されました。特に、環境省は様々な取り組みをされてきていて、エコツーリズムの推進と継続をほぼ一体的に進めているので、世間に定着してきたと思っています。最近ではオーバーツーリズムといった過度な自然利用が問題視されることも多いですが、エコツーリズムに真摯に取り組んできた歴史があるからこそ、人々の中に問題意識が働いているのだと感じています。エコツーリズムの解釈にはいろんな捉え方があるんです。お金を生み出す、環境教育を提供する、自然を守る、地域の雇用を作る、文化を守る、などそのすべてをお伝えし推し進めてきていますが、二次的に関わっている方々が「自然を利用する」という狭い捉え方をされることもあります。言葉が広がると同時にいろんな解釈が生まれていくのは当然のことなのですが、その理念には耳を傾けて欲しいですね。

環境先進国である
コスタリカが進めている
取り組みや見習うべき点は?

中米のコスタリカは世界の環境先進国。この国は環境と教育にものすごく予算を割いています。観光開発をするというよりもエコツーリズムそのものをコスタリカのブランドと捉えており、国として、旅行者に環境に配慮した取り組みを売り込んでいます。国立公園や自然地域に入るときに適用されるルールを旅行者にも求めますし、観光事業者にも環境基準の達成をラベルで表示させています。これは非常に発達した観光マーケティングかつ国の姿勢です。また、自然地域や国立公園を訪れる際にはガイドに案内してもらうことが当たり前になっています。ガイドが介在することによって旅行者は自然を楽しみながら、かつ圧迫感を与えずにルールを守るようになります。このように、ゆるぎのない姿勢をきちんと示すことも大事なことだと思います。

地域など受け入れる側
のスタンスはどうあるべき?

楽しむという観光の本質や経済面を考えると、旅行者にルールを押し付けることがはばかられる時もあるでしょう。日本には「お客様は神様です」という言い方もあります。旅行会社の方に「海外では旅行者にルールを守るようにきちんと伝えている」と話をしたときに、そんなことできるわけがないと叱られたことがありました。ルールを守ることが絶対、というより、守りながら観光を楽しむためのボーダーラインを伝えるコミュニケーションができればよいと思います。ガイドと一緒であれば、それを任せられるでしょう。自然を遠ざけるのではなく、より身近に触れる生の体験から、自然に対する興味も芽生えるので、今後はガイドの存在も大切になってくると思います。

逆に旅行者はどのような
気持ちで参加すべき?

土地にはその土地ならではの自然があり文化があります。旅を始める前に、何を大切にしているのか、どのような振る舞いをすべきかを知っておいたり、その土地のことはその土地の人に聞くスタンスでいると気持ちよく受け入れてもらえます。旅をするときの心得=ツーリストシップという言葉もありますが、「知りに行く」「学びに行く」といった姿勢でいると豊かな旅ができると思います。みなが“良き旅人”になるべきです。

エコツーリズムの魅力を
教えてください!

エコツアーに参加すると、身近にある道端の草も変わって見えてきます。誰も目を向けていないものに触れたことで、とても幸せな気分になると思います。自分が知らないことがこんなにも多いのかと圧倒されます。もちろん時には圧倒的な力が脅威となることはありますが。ぜひエコツアーに参加してください。居場所がないと思っている方が増えています。でも自然は人を差別せず、拒みません。すんなりと入っていけるはずですし、必ず素敵なものが見つかるでしょう。自然や、自然をとりまく生活文化に触れ、人間も自然の一部として関わることこそが自然を守ることにつながる、そんな素晴らしい体験をしていただきたいです。

3 日本や世界の責任ある
観光の事例紹介

観光客が地域の環境保全に関わることができるツアーづくり、体制づくりを行っている観光事例を紹介します。

日本や世界の責任ある観光の事例紹介

CASE STUDY #1

地域の保全活動、
日常的な活動に
参加できるファンづくり

串間エコツーリズム推進全体構想
(串間エコツーリズム推進協議会 宮崎県・串間市)

串間エコツーリズム推進全体構想

自然・歴史・文化・産業などの資源を活かした感動体験を通して、串間ファンを育てることで地域の活性化を目指しています。美しい景色を見るだけでない工夫を凝らしたエコツアーを実施。リアルな体験を通じて観光客が主体的に地域や地域の人々、生活、文化にかかわることが保全につながっています。

https://www.city.kushima.lg.jp/ecotourism/activity/genre/1/

南丹市美山
エコツーリズム推進全体構想
(一般社団法人 南丹市美山観光まちづくり協会 
京都府南丹市)

南丹市美山エコツーリズム推進全体構想

京都丹波高原国定公園エリアに指定されている美山町では、豊かな自然の中でアウトドア体験や、暮らし体験が可能。美山の豊かな自然に育まれた美味しい食材を楽しみながら、命の大切さ、食の大切さを学ぶことができます。

https://miyamanavi.com/activity/detail/farmtotable

森林活用保全サイクル確立と
自走型観光地経営基盤構築(一般社団法人 奥むさし飯能観光協会
 埼玉県・飯能市)

森林活用保全サイクル確立

飯能市では、従事者不足による森林の維持管理が困難となっていますが、参加者が通年にわたる植樹や伐採をとおして地域に親しめる取り組みを行っており、旅行者を環境保全や地域活性化につなげています。

令和4年度「サステナブルな
観光コンテンツ強化モデル」
https://www.youtube.com/watch?v=oy9OSA5iE8s

このように旅行者が自主的に地域の環境保全に取り組み、地域を愛しファンになってもらうことは地域のためになり、責任ある観光につながります。また、地域が旅行者に対して具体的な行動(または理由)を示したうえで責任ある観光(行動)を求めることも重要です。旅行者が、国や地域が認証する事業者・宿泊施設を選択することも保全につながります。

CASE STUDY #2

訪問客を迎え入れるため
の、
現地に暮らす人々の
考え方を提示

こころよく訪問客を迎えいれる
ために
「慶良間に住む私たちの
考え方」を提示!

沖縄県の慶良間地域では、旅行者が、祖先から子孫へと受け継いでいく慶良間の自然環境や文化・生活環境を乱すことのないよう、「訪問客を迎えいれる、慶良間に住む私たちの考え方」を提示しています。

慶良間地域エコツーリズムガイドライン
(平成20 年 7 月 渡嘉敷村・座間味村)
https://www.env.go.jp/nature/ecotourism/try-ecotourism/certification/kerama/kousou/images/document/guidline.pdf

白川村が主体的に観光を楽しむための
ヒントとマナー啓発に取り組む!

世界遺産集落である白川郷では、多くの人々が今も合掌造りの住居で生活を営んでいます。住民のプライバシーを考え、世界遺産をいつまでも美しく後世に伝えるため旅行者向けのマナーを漫画化し発信しています。

漫画で読む白川郷マナーガイド
(岐阜県白川村・白川郷村)
https://www.vill.shirakawa.lg.jp/2204.htm

旅行者向けに環境への配慮をまとめた
指針を発信!

ニュージーランド政府観光局では旅行者向けの環境への配慮「ティアキ・プロミス(TIAKI Promise」を発信。ティアキはマオリ語で、人と場所を守るという意味。現在から未来の世代まで、先住民を含む「我々」の住むニュージーランドを守るため旅行者に協力をもとめる内容です。

ティアキ・プロミス
TIAKI Promise(ニュージーランド政府観光局)
https://www.newzealand.com/jp/feature/tiaki-care-for-new-zealand/

観光地を大切にする快適な旅をしよう!

4 観光地を大切にする
快適な旅をしよう!

旅先で何をして楽しむかと同時に、何が地域の環境を損なうか、どのような旅行が地域に貢献できるのかを考え、選択しながら、地域や文化に敬意を持ち、それらに思いやりのある行動をすることが大切です。また、受け入れる側も美しい自然、豊かな文化を守るために、「地域が大切にしているもの」を旅行者に伝え、責任ある行動を呼びかけることも必要です。地域の自然と歴史、文化のために何ができるか、心に留めながら旅を楽しみましょう。

5 まとめ

  • エコツーリズムとは、自然環境や歴史文化など、地域ぐるみで地域固有の魅力を旅行者に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組み。
  • エコツーリズムの旅行は、資源を消費するような旅行にならないように、宿泊先や移動手段等においても、地域の保全につながるような旅行にしましょう。
  • インバウンドを含む旅行者が増加するなか、これからのツーリズムに必要な視点として、エコツーリズムが従前から目指してきた「責任ある観光~地域思いの観光」の考えが大切。
  • 地域の持続的な環境保全に取り組むツアー・事業者・地域をできるだけ選択するよう心がけることも大事。
  • 旅行者は地域や文化に敬意を持ち、それらに思いやりのある行動で旅を楽しみましょう。

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