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課題名 |
Ｆ−１ 野生生物の生息適地から見た生物多様性の評価手法に関する研究 |
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課題代表者名 |
永田尚志（独立行政法人国立環境研究所生物多様性研究グループ個体群研究チーム） |
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研究期間 |
平成１５−１７年度 |
合計予算額 |
89,084千円（うち17年度 27,029千円） |
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研究体制 鳥類・昆虫類の生息適地モデルの開発に関する研究 （独立行政法人国立環境研究所、<研究協力機関>NPO法人バードリサーチ） �‐�動物の生息適地モデルの開発に関する研究 （大阪府立大学） 大型哺乳類の生息適地モデルの開発に関する研究 （北海道環境研究センター、<研究協力機関>(株)EnVision）
（独立行政法人国立環境研究所）
�（胴颪離魯咼織奪班床措蠡海�におけるハビタット適性指数モデルの現状分析と日本における課題検討に関する研究 （武蔵工業大学） ��欧州における生態系影響評価手法の比較研究 （みずほ情報総研(株)） ��ネットワークを用いた評価システムの研究 （独立行政法人国立環境研究所、みずほ情報総研(株)） |
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研究概要 １．序（研究背景等） 今日、地球上の野生生物種の絶滅はかつてない速度で進行しており、少なく見積もっても現存する種の25％が今後50年のうちに絶滅すると予測されている。世界の生物多様性を保全する目的で1992年にリオデジャネイロで生物多様性条約が採択され、1993年に日本も生物多様性条約に批准し加盟した。日本でも条約の規定に基づき、生物多様性の保全と持続的可能な利用を目的とする「生物多様性国家戦略」が1995年に策定され、重要な地域や種を特定しモニタリングし、生物多様性を保全することが環境行政の重点施策と位置づけられている。生物多様性の喪失の最も大きな原因は、自然環境の破壊による生息地の破壊であるが、環境改変に伴う生息場所の質の変化や生態系の多様性の変化を定量的に評価する手法は、まだ、確立されていない。自然と人間が共存する系での野生生物保全を策定するにあたって、地理的な広がりを考慮して種と生態系の多様性を評価する必要がある。その重要性は世界的にも認識されはじめたところで、我が国においても新・生物多様性国家戦略に基づき、環境影響評価法や自然再生推進法が施行され、科学的かつ客観的に環境改変や環境修復にともなう生態系や生物多様性の変化を評価し、自然再生の定量的な目標設定や成功基準を判定するしくみを確立する必要がある。日本において確立した定量的な生態系や生物多様性評価手法は、類似した気候や植生を持っているアジア諸国へも拡張することができると期待できる。 ２．研究目的 生物多様性の保全のためには国土や地域のデザインが重要であり、その基礎として生物の生息適地をできるだけ正確に把握する必要がある。生態系がよく保全されているかどうかは維持されている生物多様性の量、質、健全性によって測ることができる。生態系の評価には、質の高い分布データが整備されている必要があるが、ほとんどの動物でそのようなデータは存在しないのが現状である。動物分布に関しては、環境省の自然環境保全基礎調査、生物多様性調査動物分布報告書が最大の情報源となる。しかし、ボランティアによる調査は、調査努力量の濃淡が原因で生じる偏りも大きい。また、生息記録はあっても、確実に生息していないという記録は得られないという問題もある。開発によって生息場所が減少するとき、多くの場合、面積の減少だけで生物多様性の減少の説明がつくが、生息場所の消失がある閾値を越えると面積減少による予測よりも大きな影響が生じる。本研究課題では、まず、動植物の分布情報と植生図・士地利用図・地形などの周辺環境の情報から野生生物種が生息できる要因を抽出し、野生生物の生息確率を記述したモデルによって生息適地を推定することを目的とした。次に、野生生物の生息確率を記述したモデルを用いて、環境改変によって生息確率がどのように変化するかを明らかにし、その影響を定量的に予測することを試みた。環境改変の生物多様性への影響を定量的に評価することで、自然再生や保全施策がどの程度、生息確率の改善に役立つかを定量的に予測することを可能にし、野生生物保全のために最善のシナリオを提言することが可能となる。最終的には、生態系を代表する野生生物種の分類群（ほ乳類・鳥類・両生類・昆虫類等）ごとに、地理情報システムを用いて、複数種の生息地の好適性を表す生息確率関数式を作成し、代表種にとっての生息場所の重要性を評価すると同時に、それらの関数を組み合わせて生息適地の評価関数を開発し、その評価関数をもとにして生物多様性を定量的に評価する仕組みを提案することを目的としている。また、欧米先進国の生態系評価制度の比較研究を行ない、科学的に構築した生物多様性の評価手法をもとにして、生物多様性の保全するために最適な制度を提案することも目的とした。さらに、米国のハビタット評価手続きや欧州の生態系評価手法について調査し、そのメカニズムを把握し、日本の課題を抽出することによって、日本を含む東アジア諸国における定量的生態系評価手法の確立の一助とすることも目的とした。 ３．研究の内容・成果 (1) 野生生物種の生息適地評価関数の開発に関する研究 �Ｂ膩甚�乳類の生息適地モデルの開発に関する研究 Ｈ15年度は、野生動物の生息適地を、自然環境保全基礎調査の分布データをもとに、日本全国を2次メッシュの解像度で推定する手法を考案した（図１）。生態系がよく保全されているかどうかは維持されている生物多様性の量、質、健全性によって測ることが可能だが、質の高い分布データが整備されている必要がある。しかし、ほとんどの動物で質の高い分布データは存在しないのが現状である。そこで、保全地区の選択は、比較的情報量の多い種、または、植物、鳥、蝶、トンボ等、分布情報が十分に蓄積している分類群によってなされることが多い。生息適地を求めるための環境情報としては、植生被覆、地形、気候などが用いられる。このような環境情報は、しばしば国が提供する国士地理情報が、生物分布に関しては、環境省の自然環境保全基礎調査、生物多様性調査動物分布報告書が最大の情報源となる。このような記録であっても日本地図上に描き、大まかな分布の輪郭は知ることができるが、このようなボランティアによる調査は、調査努力量の濃淡が原因で生じる偏りも大きい。また、生息記録はあっても、非生息の記録は得られないという問題もある。また、記録は希少種に偏る傾向があり、個体数の記録も不均質である。このような弱点のいくつかを解消するために、Ｈl6年度以降は分布情報の質を評価する方法を考案し、質の高いデータだけを抽出することで、野生生物、とくに無脊椎動物群集に適用可能な生息適地評価手法を開発した。その結果、一分類群（ここではトンボ）の中に生息地選択に関するスペシャリストからジェネラリストまでの種によって変異があることがわかった。 正確な生物分布が推定可能になると、次にどこを保全すべきかという問題が生じる。ある地域に存在する全ての種を含む区画の組み合わせ、「全種表現組み合わせ」に基づき、注目する区画がどの程度重要かを示す，「置換不能度」という指数を用いて生息場所を評価する手法を研究した。置換不能度を計算するには、いかに効率よく全種表現組み合わせを見つけるかが問題となる。全種表現組み合わせを発見するために、希少種に注目して全種表現組み合わせを発見する希少種アルゴリズム、種を多く含む場所を選択的に取り込む種数アルゴリズム、両方をランダムに使う融合アルゴリズムの3つの方法をＨ15年度に考案した。Ｈ16年度は、開発した計算アルゴリズムの改良を行い、短時間でより広域の生息地を評価する手法を開発した。Ｈ17年度は、1種最低1か所の場所で組み合わせを構成するのではなく、実際の保全に必要となる1種最低2か所、3か所と複数か所で保護する組み合わせを考慮した手法を検討した。 （３）生物多様性の評価手続きに関する研究 �（胴颪離魯咼織奪班床措蠡海�におけるハビタット評価指数モデルの現状分析と日本における課題検討に関する研究 Ｈ15年度は米国のハビタット評価手続き（Habitat Evaluation Procedure: HEP）の基本的なメカニズムの把握、HEP誕生の社会的背景を明らかにした。平成16年度は、HEPを行う基礎となるハビタット適性指数（Habitat Suitability Index：HSI）モデルについて、米国のHSIモデルの現状分析を実施し、日米で公表されているHSIモデルを収集・分析し傾向を把握した。米国のHSIモデルについては、米国地質調査局（U.S. Geological Survey）のホームページ上に公開されている151個のHSIモデル（以下、USGS公開HSIモデルと称す）を対象とした。日本のHSIモデルについては、学術雑誌などに掲載されたモデルを対象とし、分析を行った。ＨＳＩモデル発表年については、時間差はあるものの、日米ともに環境関連法の制定時以降、急激にＨＳＩモデルが作成されていた。これまでに日本で構築されたＨＳＩモデルは統一性に欠け、ＨＳＩモデルの適用において必要な情報に不足するものがあることが明らかになった。今後ＨＥＰおよびＨＳＩモデル構築のマニュアルを整備していく必要であることが明らかになった。Ｈ17年度は、ケーススタディとしてアサリのＨＳＩモデルを構築し、さらに構築したＨＳＩモデルを用いてＨＥＰによる広島県尾道糸崎港人工干潟の評価を実施した。そして本ケーススタディを通じて、日本でのＨＳＩモデル構築およびＨＥＰ実施における課題を踏まえながら、ＨＥＰを用いた干潟造成などの自然再生事業の評価手法を提案した。 ��欧州における生態系影響評価手法の比較研究 欧州（主に英国）においてHEPに類似した生態系影響評価が運用されているかについて、背景となる法的な整備状況、生物・生息地などのデータ整備状況を調査した。欧州では、直接的に生息地保護を目的とする多くの法律が存在し、生態系を考慮したゾーニングが決まっているところが多かった。英国では、種の生息地と分布がデジタル化された情報として蓄積され、データベースが積極的に開示されていて利用可能であり、データ自体も常に更新されている。このため、机上レベルで定量的なアセスメントの事前調査が可能であった。一方、英国における種と生息地の調査に関して、一般市民のボランティア活動が大きな貢献をしていることが特徴として挙げられた。英国のアセスメント手法は、生物種のハビタットのみに着目して地域・土地を評価するのではなく、経済的利益も含めた都市計画的な観点で、総合的に土地を評価していることであった。英国における生息地評価は、国家植生分類（植物種ごとの植被率に基づき、植生分類を統計的に詳細に求める）と重要地域を選択するためにラトクリフ評価基準に代表されていた。ドイツでは、希少となったビオトープタイプのレッドデータの情報整備が進んでいる。欧州では、EUハビタット指令、野鳥指令に基づく保護地域、国レベル、州（地域）レベルの保護地域が明確に指定され、開発行為が厳しく規制されている。保護地域で開発行為を行う場合には、「no net loss」という考え方で実施されるため、最終的に決定される計画案の影響が最小限となっていた。 ��ネットワークを用いた評価システムの研究 生物多様性定量評価システムに対する意見を環境NPO等から収集し、実現可能な評価システムとしての機能を検討した。現在、約8割の自治体で地理情報システム（GIS）が、整備、導入されている状況にある。WebGIS用いて、地域住民に対して当該地域の自然環境や景観に関する情報を公開し、アセスメントの事前説明を行う手段として有効であり、事業者は住民からの意見を効率的に収集し、住民、事業者、行政、研究者間のパートナーシップ・合意形成が図るツールとして期待されている。生物多様性定量評価システムのWebGISを構築する際に、乱獲・盗掘を防ぐため、公開する位置情報を制限する必要性が複数の環境NGOから指摘された。また、WebGISで自由に利用できる地図データソースが少ない点がシステムの発展には障害となっている。Web-GISを用いた生物多様性定量評価システムのプロトタイプを設計して構築した。プロトタイプは、生息適地マップの閲覧機能、生息情報の入力機能を装備し、ユーザへの操作性の配慮とシステムの負荷の軽減に考慮してシステムを構築した。システム評価のために、東京西郊におけるトウキョウサンショウウオの分布情報について運用実験を行った。実際の生息分布をGIS上で表現すると共に、1kmメッシュ単位の分布予測を行い、実際の分布と比較して、システムの実効性を検討した。
４．考察 近年の生態学の研究成果から、個々の狭い範囲の生息場所を保護するのではなく、空間的広がりを考慮した地域ないし景観スケールで種と生態系を評価する必要が指摘されている。生物は生息に適した場所で増殖し他所への移出するが、しばしば環境の変化や確率的ゆらぎによってその場所では絶滅し、他所からの再移入によって個体群が回復するというメタ個体群としてのふるまいもみせる、３次メッシュ（1ｋｍメッシュ）のスケールで作成した関東地方の繁殖鳥類79種の生息適地モデルは、体重の軽い森林性鳥類(特に、10g以下の種)ではモデルの説明力が高いが、体重が重くなるにつれてモデルのあてはまりが悪くなる傾向が認められた。猛禽類では、1km(３次)メッシュ単位で作成したモデルより5km(サブ)メッシュスケールで構築したモデルのＡＵＣが、サギ類では10km(2次)メッシュスケールで構築したモデルのＡＵＣが大きく、適合度が上がるのに対して、小鳥類ではメッシュサイズが大きくなるにつれて説明力が低下した。このことは、対象種の行動圏スケールにあわせた生息予測モデルの構築が必要であると考えられた。第5回調査で構築したモデルと山岳地帯のデータが加わった第6回調査のモデルを比較したところ、適合度に大幅な向上が見られ、実用上問題のないモデルも29種から58種へと増加した。センサスメッシュ数とセンサス率の増加が生息適地推定モデルの精度に影響を与えていることが明らかになった。様々な空間スケールにおけるエゾシカの生息適地モデルを作成した結果、広域に情報が収集されている5kmメッシュの分布や豊富さの情報を用いたほうが、局所的に詳細なlkmメッシュの情報よりもよい精度のモデルが作成できた。今回の分析結果から、広域に分布する大型動物の生息適地モデルは、局所的に詳細なパッチの分布情報よりもランドスケープスケールをカバーする分布情報が必要であると考えられた。5kmメッシュのエゾシカを含む空間分布の解析から、北海道のエゾシカは環境の変化に伴う積雪の減少で積雪が制限要因とならなくなり、個体数増加に伴う個体群圧の影響で急速に分布を拡大したと推察された。東日本のニホンジカは積雪や標高（農用地や人為改変地）の制限を強く受けつつも、周辺地域へ拡大していたと考えられた。ニホンジカとエゾシカでは体サイズなどが異なることから積雪の影響も異なると考えられるが、開発など人為的な影響が大きい東日本の環境では、これらの外的要因がニホンジカの分布を制限していると考えられる。北海道、東日本共に個体数増加などによる内的要因が、現在のニホンジカ、エゾシカの分布に強く影響していると考えられた。第5回環境保全基礎調査では山口県や滋賀県の東部と北部でカスミサンショウウオの生息は確認されていなかった。開発した本種の生息適地モデルで分布が推測された山口県や滋賀県の東部と北部から、推測通りに分布が確認されたことはこのモデルの実用性を示していると考えられる。一方，カスミサンショウウオの分布が予測されている兵庫県北東部と愛知県北部では、これまで本種の生息が報告されていず，モデルで考慮されていない要因が存在するか，地史的な制約によって分布が限られているものと考えられる。カスミサンショウウオは、mtDNAのハプロタイプ解析から、瀬戸内グループ、和歌山グループ、淀川水系グループ、西中国グループの４つクレードに分けられ、４地域は個別に保護しなければならないことが示唆された。 ５．研究者略歴
６．成果発表状況 (1)査読付き論文 |
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