がんには、生涯にわたって健康には影響せず無症状で、臨床的には発見できず、病理組織診断(死亡後の解剖(剖検)を含む)によってはじめて発見されるものがあります。これを潜在がんといいます。
がんの性質を表す表現の一つに、「分化度」があります。これは、腫瘍がその起源となった正常組織にどの程度似ているかを意味するもので、分化度が低いほど悪性度が高く、増殖しやすいがんです。
甲状腺がんは、分化度の特に高い分化がんである乳頭がん・ろ胞がん、低分化がん、未分化がん、及びその他に大別されます。このうち、甲状腺がんの多くを占める分化がんは、がん細胞が成熟しているため、増殖が遅く、なかには一生症状が現れないものがあります。このような甲状腺の分化がんは、甲状腺がん以外の原因で死亡した人への剖検において初めて潜在がんとして発見されることがあります。
がん登録を用いた解析では日本人が一生の間に甲状腺がんになる確率は、女性で0.78%、男性で0.23%1ですが、日本人や日系ハワイ人を対象とした5つの剖検研究2-6では男性で10.5% ~27.1%、女性で12.4% ~ 30.2% の高頻度で潜在がんが見つかっています。腫瘍サイズは、広島・長崎の剖検2で発見された525例や、仙台やホノルルなどの剖検3で発見された139症例の潜在がんの約95%が1cm 未満でした。
このことからも、甲状腺がんでは生涯にわたり症状のあらわれない潜在がんが多いことがわかります。
1. Kamo et al., “Lifetime and Age-Conditional Probabilities of Developing or Dying of Cancer in Japan” Jpan.J. Clin Oncol 38(8) 571-576, 2008.
2. Sampson et al., “Thyroid carcinoma in Hiroshima and Nagasaki. I. Prevalence of thyroid carcinoma at autopsy” JAMA 209:65-70, 1969.
3. Fukunaga FH, Yatani R., “Geographic pathology of occult thyroid carcinomas” Cancer 36:1095-1099, 1975.
4. S eta K, Takahashi S.,“ Thyroid carcinoma” Int Surg 61:541-4, 1976.
5. Yatani R, et al., “PREVALENCE OF CARCINOMA IN THYROID GLANDS REMOVED IN 1102 CONSECUTIVE AUTOPSY CASES” Mie Medical Journal XXX:273-7, 1981.
6. Y amamoto Y, et al.,“ Occult papillary carcinoma of the thyroid ~ A study of 408 autopsy cases~” Cancer 65:1173-9, 1990.
出典
本資料への収録日:2020年3月31日
改訂日:2023年3月31日